闘気と異変
今日はカザエルに連れられ、レインはログハウスから遠く離れた場所に来ている。
おとばしる水飛沫に流れ落ちる水の轟音が遠くからでも聞こえてくる。
神秘的かつ壮大なエネルギーを感じる大きい滝だ。
そして、その滝の水を受け止める大きな池ある。
水底が肉眼で見れるほど綺麗だ。
「爺さん…。何ここ…」
「何って見てわからんのか?滝じゃよ…」
「だから、なんで滝に来たのか聞いてんの!」
「こうやって、温度の低い場所に身をさらす方が感じやすいからのぅ。自分の【氣】がな」
「氣?」
「レイン。それがお前が昨日感じていたものの正体じゃ…。氣とは魔力ではない自分自身の力の事を言うのじゃ…」
(うん。わからん……。)
「えっと…。魔力との違いは何?」
「それは身体の内側から出てくるものが【氣】。外から吸収するものが【魔力】だ。」
「なるほど…」
「ワシの攻撃にはこの力を加えている。まずは自分の中にある氣を認識するところから始め、それを操り攻撃に転換する。」
老人は滝の下を指を差す。
「あそこに立て。」
滝の下は流れ出る膨大な水量によりけたたましい轟音が鳴り響いてる。
(……え?あそこに行くの?あの水、結構威力があるよ)
「爺さん。氣を感じやすくするために温度の低いところに身をさらすということはわかった。でも、わざわざあの滝の下に座る意味は?」
これはレインにとって当然だった。
「あの滝。水量と高低差の落下によって、落ちる水の威力が凄まじいことになっておるな」
髭を弄りながらカザエルは言う。
「あれに耐える事により体幹を鍛えれるということだ。」
「でも、氣というやつを感じるための修行だよね。体幹を鍛えるなら、筋トレでもいいじゃん。あの威力じゃ耐えることに必死で氣というやつを感じられないじゃない?」
カザエルはほんの少し沈黙して、大きい声でレインに言い放つ。
「甘ったれるな!!さっさとやらんか!!!」
(えええぇぇぇ……。)
「ワシはこれでやってきた!!師匠のワシがやったんじゃ…お前もこれで…やれ!!」
(横暴すぎる…。)
渋々レインは池の中に入り、滝の下に近づく。
「ああ、それと…魔力は使うなよ。氣は魔力とは別ものじゃ…。最初のうちは魔力を使うと氣が感じられなくなってしまう。」
(この水量を肉体強化せずに受け止めろってか?)
ありえない……。
ひとまず、滝の下に手を入れる。
(この水、鞭みたいだよ…。手に当たる音がそれと同じだ…。)
手に膨大な質量がのしかかるのを感じる。
そして、次に身体を入れ、最後に頭をゆっくりと入れた。
(あばばばばばばばばば!!!)
水の水量が容赦なくレインを押し潰そうとする。
手と身体を入れるところまではまぁ…良かった。
だが頭を入れた瞬間、急激に圧力が強くなった気がした。
(あ、頭がぁぁぁぁ!!)
レインの必死の形相は、水に隠れてカザエルには見えない。
「レインよ!!水と一体になるのじゃ!!」
(あのジジイは一体何を言ってるんだ?)
こちらは自分の体勢を維持するので精一杯だと言うのに。
体勢が崩れかれたので、また座り直す。
(ん?少し楽になったな…)
「レインよ!!水と一体になるのじゃ!!」
(さっき聞いたよ!何なんだよそれ!…ん?ちょっと待て…。こういうことか?)
レインは上からくる水の圧力に抵抗することなく、地面にそのまま伝える。いや…受け流すといった方が適切だろう。
「そうじゃ…」
(お、おお。これでいいのか…)
「目を瞑り、臓物の当たりに意識を集中させよ!」
カザエルから新たな指示がくる。
指示通りに意識を集中させる。
少しすると、身体の中にある熱いものを感じた。血液とは違う何かだ。
「熱い力の源泉を感じるはずじゃ!!それを身体中に巡らせい!感じぬ場合は、もっと深く集中するんじゃ!!」
カザエルの指示がまたきたので、熱い力の源泉といわれるもの確かな感覚を感じたので、ゆっくりとそれを巡らせ続けた。
そうすると、誰かが入ってきた。
カザエルはレインの首を触る。
「ふむ…。上出来だ。もう良いぞ!!」
そう言って、カザエルは滝から出る。
レインはそれに続き、滝の外に出る。
早朝に始めたはずが、もう昼過ぎになっている。
「今身体に流れていた力が氣じゃ…。これを攻撃に転用する。これを一般的に闘気と呼ぶ。」
なるほど…。大体わかった。
この闘気はおそらく魔力よりも重い。
だから、これで幻覚の結界を破れたのだろう。
だが、魔力のように自由自在に変化させたり、操ることが難しいのだろう。
レインは闘気を観てそう思った。
だから闘気で魔法を使えないのだ。
「ではここでもう一度、それを流すことができるかを確認せよ」
そしてもう一度再現して見せた。
「その感覚を忘れるな。そして、それを攻撃の際に放出することで剣撃の出力が上がる」
「わかった。」
(見えてきたな。)
「明日から3日間、他国からの使節団が来る。その護衛があるゆえ、ここには来れない。この闘気を操って素振りや模擬戦などの修練に励め。」
そう言って、また背を向けて帰っていった。
(あの爺さんは俺と会った時、自分には時間がないと言っていた…。そして千里眼の透過能力で身体を診たところ、病を患っている。)
「あんな病の爺さんを働かせるなんて王国は鬼畜だよな…。それかそうせざるを得ないのかな?御家を守るためには……」
(そこまでして守りたいのかな…。家を捨て、自分の命の方を迷わずに選択した俺にはわからないことだ…)
そう思いながら、カザエルを見送った。
◆
朝起きて窓を開けると小鳥の囁きと穏やかな風が私の顔を吹き抜ける。
お酒を飲んだ次の日はやはり気分がいい。
ここは娯楽こそないが、私はそれなりにここの生活を気に入っている。俗世のしがらみから解放されたような気持ちに自然となる。
ログハウスのある気配でわかるが、レインは朝からカザエルと一緒に修行に出かけたようだ。
今日はあのバトルジャンキーなジジイに付き合わなくていいから、実に良い日だ。
今日は私が朝食をつくることになっているので、キッチンのある一階に降りる。
「オッ…オエエエエエエエエ…」
全く最悪な気分だ…。
この声はオルストンだろう。
オルストンはレインが知り合ったという元王立魔法研究所の職員だ。甘いマスクと丁寧な言葉遣いは育ちの良さが出ている。
一見、好青年に見えるコイツのこと…実は苦手だ。
ストレスを溜めるほどでもないが…。レインがいないとき、たまに不快感が顔に出る時がある。
コイツは変人の癖に妙なところで几帳面なのだ。
私に対して、やれ「部屋を散らかすな」とかやれ「汚れた服で家に上がるな」とか姑みたいなことを言ってくるのだ。
それに魔法の教え方も理屈っぽすぎるからわかりにくい。教えてもらっている分際で言えたことではないが、レインが教えてくれる方が遥かにわかりやすい。
多分、コイツと私は性格の相性が悪いのだろう…
トイレで嘔吐しているオルストンを見て、話しかける。
「ちょっと…。朝から何よ!!騒々しい」
本当に良い気分が台無しだから、勘弁してほしい。
「だ…誰のせいだと思ってるんだ。誰の…」
オルストンは昨日酒を飲み過ぎて、今このような状態になっているのだろう。
「私のせいって言いたいの!?」
「当たり前だ。君が無理やり飲ませてきたんだろう?」
「人のせいにしないで!結局飲んだのは自分でしょ?自分の行動にはちゃんと責任を持って!!」
苦虫を噛み潰したような顔でオルストンは見つめてくる。
「この……。だから人間の女は嫌いなんだ。」
コイツはどんな恋愛経験をしてきたのだろうか…。
「そんなこと言うのはあなたぐらいよ…」
本当に変愛だな…。
「とにかく!君は自分の酒癖の悪さを自覚した方がいい!!」
そうオルストンは私に言い放った。
「なによ!そんなこと言うのはあなたぐらいでしょ!!レインにはそんなこと言わないし!!なんなら付き合ってくれるのよ!?」
コイツ…本当に心外だ。
「レイン君は優しいから何も言わないだけさ!!
「それよりも君の影響でレイン君も将来、君みたいに酒を飲んで暴れるような大人になったらどうするんだ!」
「レインはもう立派な大人よ!自分で何でも考えて物事を判断できるの!レインを子供扱いするな」
「う…。オロロロロロッ。」
そう言って、オルストンがまた戻した。
「ハァハァ…。もうやめてくれ…。不毛だ。それに……体に触る」
オルストンは顔を下に向けたまま、動かない。
「わかったわ…。悪かったわね。」
ちょっと、二日酔いの人間を相手に言いすぎたかもしれない。そう思ったので謝罪した。
「ちゃ…ちゃんと掃除はしておくよ。」
申し訳なさそうオルストンは言った。
「お願いね。」
そう言って、近くの鏡で自分の顔をみる。
あれ?私の目ってこんな赤かったっけ?
「なんか目が赤いわ…何~?これ…」
「ハァ…ハァ…。山は花粉が多いからね…。それで充血したのでは?」
私の声が大きかったのか、嘔吐しながらも私の呟きに答えてくれた。
「いや…。充血みたいな感じではなくって…。瞳が赤くなってるのよ…」
「フッ…。瞳の色が変わったって言いたいのかい?君も昨日の酒が抜けないのではない……オロロロロロロ!」
言葉を最後まで言い終わる前にオルストンは再び嘔吐した。
「貴方に言われたくないわ…」
私は呆れながらそう言った。
まあ…。別に大丈夫でしよう…
そう思い、朝食を作るためにキッチンに向かった。
当作品を読んでいただき、ありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




