月光丸の権能
ここはどこだ?
当たり一面が白い霧のようなもので覆われており、手足の感覚がなく、動くことができない。
『この姿で会うのは初めてだな。』
そう僕に声をかけたのは、白色の髪に赤い2本の角を生やした女だ。
(胸が…デカイ…。いやお尻もか…)
未知との遭遇とその女性の魅力にに僕は興奮していた。
「この姿…?」
「ああ………」
しばし2人の間に沈黙が流れる。
「ああ!!月光丸か!!!」
『気づくのが遅いわ!!』
いや、そんなことを言われてもわからない。
角であることから悪魔だと考えて、白い姿から白猫の月光丸が脳内に出てきた。
「お前…そんな姿なのか…。めっちゃ美人じゃん。」
『元はこの姿ではないがな…。今の宿主に引っ張られる形でこの姿になった。この白い髪も白い肌も赤い瞳も全部同じだろう』
「確かに…」
『それにこの姿の方が良いと思ってな。女好きなお前の好みにも合わせてみた。』
「ありがとうございます!って、僕って女好きってわけではないと思うけど…」
『そう思ってるのはお前ぐらいだ。良いじゃないか!恥ずかしがるような事ではない。』
「釈然としない。」
『それよりもお前がやられるなんて珍しいな』
「そうだな…。父上が帰って来なくなってからは一度も負けたことはなかったんだけどね…」
「どうやら、僕は自惚れていたようだ…」
これは実際に反省するべきなのかもしれない。
『記憶を見たが、あれは私の目から見ても類を見ないくらい強かった。だが、お前は私の宿主になるんだ。次は負けるなよ』
「わかっているよ。それで?こうやって僕を呼んだのには理由があるんじゃないのか?」
『ああ。そろそろ魔力を通じて私の権能がお前に少しずつだが、流れ始めるだろう。』
「そうか…。でもお前の権能って何なんだ?」
『そうだな…。そろそろ頃合いかもしれん。』
そう言って、月光丸は語り始めた。
『私がもつ力は記憶と精神を読むことができると言ったが、正確には違う。あれは副産物だ。』
「ほう…。」
『私の権能は肉体操作だ。自分の肉体、そして相手の肉体を自由に変化させることができる。』
「その権能で何故、記憶とか心とかを読むことができるんだ?」
『それは肉体を変化させられるということは細胞レベルで自分と相手の肉体を事細かに分析できるからだ。だから、脳領域から生じる心や記憶を読み取ることもできる。』
『そして……。それをねじ曲げることもできる。』
「………恐ろしいな。まさに悪魔の能力だ。」
『まぁ、ここまでできるようになるには憑依が完了してからも時間がかかるだろうがな…。だから最初は自分の肉体を変化させられる程度だ』
「…………なんかピンとこないな」
『一番分かりやすいのは肉体の再生能力だ。これはもうそろそろ肉体の変化として現れるだろう。』
「それは凄いね。」
『憑依した初期なら、自分の皮膚を硬度の高い金属に変えたり、柔らかい粘土にしたりできる。』
『あとは変身…姿を変えることもできるし、性転換も可能だ。』
「セイ……テンカン?」
『性別を変えることができるってこと…』
「それは……。自分で作った胸を自分で揉めてしまうってことか!!」
これは素晴らしい!!僕は女性の胸を揉んだことがない。その感覚を知れるだけで!!…この能力には価値がある。
『…………そういことだ。』
目を細めて月光丸はそう言った。
「なんか呆れてない?」
『呆れてない。やる気になってもらえるなら何よりだ。それに良いことばかりでもない…』
「……というと?」
『ここまでの力を使えるんだ勿論代償もある。』
「ん?お前そんなこと言ってたか?」
『いや…言ってない。』
「…………………」
『お前の感じる感覚は私も共有するんだ。そこまで酷いものではないから安心しろ。』
「そ……そうか。ならばその代償も教えてよ」
『わかった。説明する…。私の魔力がお前の身体に完全に馴染むと出始めるんだが……。お前は…っと時間だ…。』
「はあああああ!おい!ふざんけな!!良いところで!!!」
『仕方ないだろう?お前の身体と意識が目覚め始めたんだから…。それにそれが出るのはまだ先だ。』
「おい!!ちょ…待てよ!!!」
『今後は白猫の姿で私が出てくる頻度が少なくなる。その代わりここでこの姿で会うことが増えるだろう。』
「おい!せめて代償の説明を……あ。」
白い靄が晴れていき、白い光が目の前を覆う。
「あ!起きた!!レイン大丈夫?」
目を開けると、エルザが顔を覗き込んでそう言った。
「ああ。大丈夫。」
レインは自分の体を見ると外傷が1つもなかった。
老人が放った最後の一撃は光と闇属性以外の全ての属性を身に纏い、放ったものだった。
(衝撃で骨が何本か折れた気がしたけど…)
「治療してくれたのか…。ありがとう。」
「いや…。得に外傷はなかったよ?」
そう言ったのは、ご飯を盛付けしていたオルストンだった。
「え?」
「不思議よね。見つけたときは、骨が何本か折れてたのに、ここに運びこんだらいつの間にか治ってたのよ」
(………夢に出てきた。月光丸の権能だろうか)
周囲を見渡すと、月光丸が横に寝ていた。
月光丸を起こさないよう、机に移動する。
「レイン様。お疲れ様です。」
レインは横を見ると、クライがいた。
久々の対面である。
「クライ。久々だね…」
「奴らの尻尾を掴むのに少し手間取りまして…。」
「ありがとう。上出来だよ~。ご飯でも食べながら聞かせてくれるかい?」
そう言って、レインは机に座った。
◆
「現状では無法都市から打って出るつもりはないようです。ですが、公爵軍の攻撃に備えて、無法都市周辺に検問を設置しています。」
「武器の流入量はどう?」
そう言ったのはエルザだ。
「ディラン殿の話では大量に持ち込まれているようです。」
「えーと。つまり?」
レインはそれが何を意味するのかわからなかった。
「戦争する準備をしてるってことだよ。だから…現状攻め入るつもりはなくても、想定はしているってことかな?」
レインはようやく理解した。
「なるほどね。検問がしかれてるなら無法都市に入ることも難しそうだな…。」
(時間が経つ毎に難易度があがるのかな…)
「ここにずっと身を潜め続けるというのも1つの手だと思うよ?」
そう言ったのはオルストンだ。
「でも、それってどうなの?ずっとここにいってこと?本気?」
そう言ったのはエルザだ。
「本気だよ。だってここにいても身を隠せるし、安全とは言えないのかもしれないけど、無法都市よりはマシだと思う。」
「なら…。仮にここを騎士団が攻略したら、また逃げるの?」
「君が言ったようにそれは『仮』の話だ。それにこれは感情で判断していい話じゃないと僕は思うんだ。僕も…君も…この選択を間違えれば只ではすまないかもしれない…。」
「…………」
エルザはそれを聞いて、黙ってしまった。
クライは僕の方をじっと見て、黙っていた。
それにしてもエルザは変わった。レインは素直にそう思った。
以前までのエルザなら、オルストンに賛同すると思っていた。そもそも…。母についていって、裏世界から足を洗うこともできたはずだ。
そして、オルストンもそうだ。この変人が珍しくまともなことを言っている。これは自分だけではなく、僕とエルザの事を考えて言ってくれているのかもしれない。
無法都市の人間をできるだけ殺し、悪魔の供物にする…ってぐらい言いそうなものだけど…
(オルストンの言葉は正しい。だが……)
そして、レインはこれまで奥底に沈んでいた自分の思いを吐露した。
「オルストン…。そんな利口な考えができるお前が何で悪魔召喚に手を出したんだ?」
「…………それは」
オルストンは言葉を発したが、それを遮りレインが話す。
「僕はここまでずっと逃げ続けてきた。それで時々思うんだよね…。俺ってそんなに悪い事をしたかなって…」
レインは自分の1人称が変わったことに気づかない。
「よくよく考えてみると…何もしてないんだよ。人を殺していた事自体は悪いことなのかもしれない…。でもそれを言ったらほとんどの騎士団や暗殺者だってそうだ。それなのに…どうして俺だけ…ってな」
「………………」
オルストンは黙っている。
「それで俺は思うんだよ。何で逃げなくては行けないんだって…。そして何でこんな思いをしなくちゃいけないんだってなあ!!」
感情的になったレインはオルストンに問いかける。
「オルストン。何で研究をしてるんだ?サタナエルに合うためじゃないのか?ここにずっといて、それができるのか?」
「無法都市は違法なものが多く集められるから、研究が捗るって言っていたじゃないか…」
「…………」
「研究に犠牲はつきものなんだろ?今、エルザに言った言葉はどうにもお前らしくないと思うぞ?」
「…………はぁ…。まぁ確かに僕らしくはなかったかもしれないね。でも…危険だよ。」
溜め息をついて、重い口を開いたオルストンはそう言った。
「ここに来る前に言っただろう?勝算はそれなりにある。逃げるのはそれが失敗してからでも遅くはないだろ?」
「大丈夫よ。オルストン。貴方は彼と一緒に仕事したことはないでしょう?」
そうエルザは問いかけた。
「ええ…。まぁ…」
確かにオルストンはレインと仕事をしたことがない。
だが、自分の召喚した悪魔より遥かに格上のクライを召喚できたから、自分よりは強いと思っている程度だった。
「彼がそう言うなら、十分成功する可能性はあるわ。」
「わかったよ。なら……。不幸にも戦闘になったとしたら……」
「死体を悪魔の供物として捧げようじゃないですか…」
(…………やっぱり言いやがった。)
「方針は変わりないようですね。」
そう言ったのはクライだ。
「あ…レイン君。あの件だけど…」
あの件とはクライをオルストンに憑依させる話だろう。
「レイン様のお許しがいただけるのであれば、コイツの身体に憑依しようと考えています。」
感情のこもらない声でクライはそう言った。
「そうか…。寂しくなるけど、それがお前のためだもんな…。」
哀愁を漂わせながら、レインはそう言った。
「寂しい…ですか。」
不思議そうな顔をしてクライはそう言った。
「うん。だってこうやって話せなくなるだろう?」
クライとは本当に短い間しか一緒にいなかったが、それでもいなくなってしまうのなら、レインとしては寂しくなる気持ちがあった。
そんなレインの前に来て、膝をついてクライはいった。
「大丈夫です。レイン様。このオルストンが貴方と近くにいる限り、私も貴方と共にいますから…」
「そうだな…。ごめん!湿っぽくなったわ!!」
レインは咄嗟にそう言った。
「そうそう。今日はこれもあるんだから、みんなで飲みましょう?」
そう言って、箱に入れられた大量の酒をレインに見せた。
「おお~。流石はエルザ!わかってるね~」
レインはそろそろ飲みたいと思っていた。
「でしょ~」
嬉しそうにエルザはそう言った。
「あ……でも」
エルザはそう言って、箱を下に下ろした。
「どうしたの?」
戸惑うエルザにレインは問いかけた。
「今日、貴方がやりあった爺さんいたじゃない?」
「うん。」
「明日の朝、ここに来るって…」
「え?」
(何で……?)
あのジジイは何なんだ?
「貴方に話があるそうよ」
「話?」
(何だろう。全く予想がつかない。)
「そう。また模擬戦を挑まれるかもしれないから、ほどほどにね」
「また?バトルジャンキーかよ。」
「そうよ。私もやられたんだから…」
そう言って、服の袖を捲って包帯を見せる。
「あのジジイは何なんだ?帝国との戦争でもあそこまでのやつはいなかったぞ?」
「うーん。私も心当たりはないわね」
そうエルザは言った。
「まぁ…。ちょうど良い!今度は血操術も使って何としてでも勝つ!!」
覚悟を決めて、レインは立ち上がった。
「今日はもう寝るよ…。明日の再戦に備えてな。」
(大丈夫だ。勝機はある。)
そして、レインは眠りについた。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




