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殺し屋レインのお仕事  作者: ナマケモノ
2章 トライザント 修行編

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老剣士


レインがトライザントに到着してから、3日目。



エルザが王都から帰ってきたので、今日は彼女の鍛練に付き合うことにした。


今はトライザント中央付近の広場で模擬戦をしている。


武器は使っていないが、実践に近い形式を取っている。

エルザはレインに向かって拳の突きと蹴りを放つとそれをレインは避けて、カウンターで手の平でエルザの腹を撃つ。


鈍い呻き声を上げるが、体勢を立て直した。


小振りの早い拳をレインに向かって放つ。それをレインはそれを手で受ける。

その反撃として、右の手の平でエルザを撃とうとするが、それを察してカウンターでレインの顔面に拳をふる。

しかし、そこにレインの顔はなく、エルザは重心を崩して転倒していた。




「はぁ…はぁ…」


「正直、遠距離の武器を使っているとは思えないほど筋がいいです。」


「それはどうも…。でもこうやって貴方のそばで這いつくばってるんだから、まだまだよね…。」


「でも、エルザの改善点は見えたよね。」


「改善点?」


「近接格闘では技術もかなり重要だけどそれよりも重要なのは、力とスピードなんだよ。」


「でも、女性の私では筋力で男性には勝てないし…」


「エルザは王国騎士の男女比ってどのくらいか知ってる?」


 「わからない。でも女性も多かったよね」


「そう。本来、魔力なしの肉体だけの戦闘なら男性の方が有利だ。でも王国では女性の騎士団長や聖騎士もいる。」

「それは何故かと言うと魔法の技量というのもあるけど、そう言う人達って魔力で肉体をしっかりと強化できてるからだと思うんだよ。」


「思う」という表現になってしまうのは、実際に戦ったことがないからだ。

 

「な、なるほど…」


「そしてここで重要なのは2つ。1つは空気中の魔力を体内にしっかり溜め込むのと。」

「もう1つは魔力をいかに緻密に操って、肉体を強化できるかが重要なんだ。」


「それでどうすればいいの?」

どうやら、エルザは回りくどい話は苦手なようだ。

レインはそう思った。


「なので、魔力を正確に操る訓練をしようか。」

 



そして、魔力操作の訓練をじっと見守った。


エルザは手を輪っかにして、そこから魔力に滞留させ、身体の隅々にこの魔力を流す。


これは一般的に行われる魔法の訓練の1つだ。

しかし……


(………あまり上手く言っていないな)


レインはエルザのことを見ながらそう思った。

魔力が体内を巡る過程で分裂しているのだ。

これはある一定以上の魔力が身体に蓄積して体内を巡ると身体の防衛本能で自動的に魔力の吸収を拒絶してしまうのだ。



現在の魔法知識では人間は生まれつき、魔力量が決まっているというのが定説だ。

これは正しい。


自分との違いは身体の魔力吸収量と蓄積容量だろう。


だが、それで諦めることはない!


レインの血操術は、血流に魔力をのせて筋細胞を強化させることができる。


これが子供でありながら、レインが大人の戦士以上の力をもつことができた理由だ。

 


「エルザ。自分でやってみてどう思う?」


「私これは得意なの。問題なく魔力を循環できていると思うのだけれど。どうかしら…」


(確かに循環はできているが…)


「自分の魔力が身体に流れ込む過程で分散してるのは気づいてる?」


「え?」

エルザはポカンとした顔をした。


「つまり、身体が無意識に魔力の吸収を拒否してるんだよ。だから、取り込んだ魔力を一部生かせず体外に放出させてるんだ。」

「これは生まれつきみたいなところがあるから、仕方ないけどね」



「なら、私は今以上に肉体を強化することはできない…ってこと?」

エルザの声のトーンが下がる。



「大丈夫。策はあるよ」


エルザが顔を上げるとレインは話し出す。

「僕の血操術は肉体を内側から強化することができる。だから、僕の血をエルザの身体に流し込んで強化させようと思うんだけど、どうだろうか?」


「ちょっと!!本気で言ってんの?」

信じられないようなもの見るような目をしてでエルザはそう言った。


「当たり前じゃん!冗談では言わないよ!」



「それ本当に大丈夫なの!!」

そんなに嫌なのだろうかとレインはそう思った。


「大丈夫だよ!それに母君にもしたでしょう?」


エルザは自分の母に血液を入れている様子を思い出した。その母は元気に生きている。

「ま、まぁ…。それなら安全性はあるか…。」


「まぁ…。あの時よりも血の量も暴露時間も長くはなると思うけどね…」


エルザは心底嫌そうな顔をした。

そこまで嫌がられるとちょっと傷つく。


「ま…まぁ、頼んだのは私だしね…。わかった!やる。」


(ふぅ…。何とか納得してくれた。)

「ありがとう。じゃあ、両腕を出して…」


そう言って、エルザは両腕を出した。


その手をレインはぎゅっと握りしめた。


以前までは身体的に未熟だったレインだが。今は成長してエルザの身長より少しだけ高い。


手を握ってお互いの目を見つめ合う。気持ちが高ぶり、心音がうるさくなるのをレインは感じる。

とても気分が良かった。


でもそれ故に残念だった。この雰囲気を自分で壊すことになるのだから...。


爪で自分の手に切り傷を入れる。


「ごめん。エルザ痛いけど我慢してね」


「え?」

レインは自らの血でエルザの手の平を突き刺した。


「ゔゔぅぅぅ!!」

エルザが小さく悲鳴を上げる。


レインは自分の血を送り込み痛覚の緩和をおこなう。


「エルザ。痛みはどう?」


「ち、ちょっと落ち着いたわ…。」

息を切らしながらそう答えた。


「ごめんよ。今回は血の量がかなりいるから…。母君の時のような接種方法じゃ足りたくて…」


「かまわないけど…。こういうことは早めに言っておいて!!」


「ごめん…。」

怒られてしまった。


「エルザ。僕の血が流れ込んでいるのはわかる?」


「え…ええ。」


「そこに含まれる魔力もわかる?」


「うん。」


「これが今後エルザの魔力が流れる場所だからしっかり覚えておいて…。」


「わかった。これいつまで続くの?」


「今から強化していくから、それが完了でき次第…かな?」


「わ、わかった…」


結局、30分も時間がかかってしまった。




◆



「身体の方は大丈夫?」


「大丈夫よ。それに魔力がこれまでにないほど、高まってるのを感じる。」

自分の身体を確かめながら、エルザはそう言った。



「それは良かったよ。ひとまず、その身体に慣れるところから始めようか。」



そして2人でもう一度模擬戦を行うことにした。


エルザの攻撃は先程までよりも早く、鋭くなっていた。

「うっ!」

声をあげたのはレインだ。攻撃をいなし続けていたが、エルザのローキックをまともにくらい、重心がぐらついた。



それ見てエルザは間髪入れずにレインに拳を叩きつけようとした。

レインは頭を下げてそれを何とかかわし、片手を地面に着けて、エルザの脇腹を本気で蹴りつけた。


呻き声を上げて、エルザは吹っ飛んだ。


(あ……ヤバい。)

そう思ってレインは駆け寄った。


倒れこんだエルザだったが、よろめきながら立ち上がった。


「ごめん。加減できなかった…。でも、そうせざるを得ないほど追い詰められたよ。」



「これまでは手加減してたってことね…。まぁそんな気はしてたけど。」

ジト目でエルザはレインを見た。


「でも、確かに強くなってる!」

エルザは自分の拳をみてそう言う。


「少なくとも、今ならオロチの屋敷で戦っていた相手には勝てると思うよ。」


「そう…」



「!!!!」

エルザがそう言うと、レインは背後を振り返った。


「……?どうしたのレイン?」

その方向をエルザも見ると少し目を細めた。


「誰かくる…。でもこれ知らない気配ね」


微かに聞こえていた足音が徐々に大きくなる。


茂みの奥から姿を見せたのは精悍な顔つきをした老人だった。腰には木剣を携えている。



「お前さんら…ここで何をしておる?」

老人がそう問いかけてきた。


「そんな爺さんこそ。何してんだ?」

そうレインは問い返した。


「ワシは日課の散歩をしておったのだ。」

(いや…嘘つけよ!!)


「爺さん…。ここは散歩をするようなところじゃないよ。この山は国の法で立入禁止になっているんだ。今からでも遅くないから降りた方がいい」


「それはお前さんらもだろう?」

(まぁ…確かに?)


「そう警戒するな。ちょっと、戦闘の気配を感じて近づいただけじゃよ。」

そう言って、老人は髭を触る。


(この爺さん、隙がないな…。)

老人を観察してレインはそう思った。


「どれ…。鍛練をしてるのなら少し相手になってやるぞ。王都では相手をしてくれるものがいなくなったからの…」



「それは僕に剣の稽古をつけてほしいってこと?」

レインは軽く挑発してみた。


「ハハハッ。若いのう…。ひとまず、一戦どうじゃ?」

老人の目が鋭く光る。


「爺さん。怪我するぞ?」

レインは近くにあった木を蹴りでへし折り。

そこから木剣を作った。


老人はゆったりと剣を構える。

「来い。小僧…」




◆



木々に囲まれた静寂な森の中でその区画だけ激しい打撃音が鳴り続ける。


レインと老人が木剣を打ち合う音だ。


(このジジィ…つえぇ!!)


その老人には隙がなく、最小の動きでレインの剣撃をかわし、無駄のない反撃をレインに浴びせる。


そして、何より一撃が重い。

レインが一撃もらった腕は赤く腫れている。


しかし、身体の血流を操作し、腕を強制的に動かす。


レインも剣の打ち合いわかったことがある。

技量、パワーは完全に向こうに分がある。

だが…


(スピードはこちらの方が圧倒的に速い!)


レインは動きを加速させ、老人に連撃を叩き込む。


だが、老人は攻撃を受けながらも重心を崩さず、レインの剣先を見て、できる限り回避する。


レインが剣を叩き込むうちに老人は動きを見切り始めた。

後ろに周りこんだレインにトドメの一撃とでも言うような強烈な力で剣を振り下ろした。


レインは何とか回避したが、木剣は折れてしまった。


「ハハハッ!これは聖剣技【龍撃(ドラゴンスラッシュ)】じゃ!!よくかわしたな小僧。」


(これは光属性。…いや、熱さを感じる火か…)


「どうした?もう終わりか?」


どうやら剣が折れた今は追撃することはしないようだ。

レインは先程、折った木からまた木剣を作る。


「魔法は使ってもいいのか?」

レインはこの勝負は剣のみで魔法は使ってはいけないものとばかり思っていた。


「かまわん…。わしも今似たようなのは使ったしのう…」


「ジジイ…。本気でやってやるよ!!」


「来い!小僧!!」

老人の目はさらに鋭くなり、レインを睨みつけた。


レインは幻術を展開し、老人に迫る。


戦闘スタイルから恐らくは騎士。

ここまで強い騎士には初めて会ったが、騎士は暗殺者(アサシン)と比べて防御力と攻撃力が高い。

だが、変則的な攻撃が得意ではなく、スピードも劣る。



老人の剣はレインの作る幻術に向かって放たれ、空をきる。

その隙に腹部に掌底撃ちを放つ。



(筋肉の鎧を纏う人間には内臓を潰す。)

幻術で撹乱して、徐々にゆっくりと消耗させて倒す作戦に切り替えた。



老人はレインの幻覚を突破することができず、徐々に動きが鈍くなる。


そして、老人は遂に膝をついた。

レインは留めをさそうとしたが、冷静になり飛び込むのをやめた。


老人の目がまだ負けを認めていなかったからだ。


老人はゆっくりと立ち上がり、腰を落とし手を鞘に置き、抜剣の姿勢をとった。


レインは嫌な予感がしたが、幻覚を展開したまま、老人に襲いかかった。


老人は剣を抜剣し、振り抜いた剣から強烈な魔力ではない何かがレインの幻覚の結界にぶつかる。


「【連撃剣】!!!」


そして、老人の放つ連撃がレインの幻覚の結界を破壊した。


(クソ……!!)


レインはそれを見て、距離をとった。


だが、老人が先程の抜剣の構えでレインの前にいた。


「【神撃(ゴッドスラッシュ)】!!!」


その攻撃はレインの木剣を粉砕し、腹部に直撃した。


「ぐえっっ!!」


レインはあまりの衝撃に後方に吹き飛ばされた。


レインの背中が木々が破壊しながら、最後大岩に激突した。



そこでレインの意識は暗闇に沈んだ。







当作品を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。

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