無法都市の浄化
今日、あんな夢を見たせいだろうか…
エルザの言葉に少し期待をしてしまった。
どんな夢かと言うと、複数の女性達が下着姿で僕の身体に絡みついてくるのだ。
身体の奥が暑くなるような夢だ。複数の妃をもつ帝国の皇帝はこんな気分なんだろうな。
ただ、残念ながら顔は見ることはできず、自分から触ることができなかった。
これでは満足することができず、フラストレーションが貯まる。
これが月光丸が言ってたプレゼントなのだろうが、本当にやめてほしい。
僕の夢の話はさておき、弟子か~
「僕もあんまり人に教えられるほど成熟してはいないと思うんだけど?」
これは僕にとっては当然の返答だった。
「そんなことないわ。だって貴方はライアンやジークより強いでしょう?」
「どうかな?魔法を使わない体術だけの勝負なら勝率4割ってところだよ」
これは本当のことだ。魔法を使えなければ、2人に勝ち越すことはできなかった。
「魔法を使ったらどうだったの?」
「兄上達と模擬戦をするときは魔法を禁じられていたんだよ。父上からね」
「そうなんだ。でも私の目からみたら確実に彼らの実力を上回っているわ」
エルザが僕の眼をじっと見てくる。
これは退いてくれそうにはないか。
「さっきも言ったように僕は人に教えられるような立場ではない。ただある程度の提案や助言はできると思うからそれでどう?」
「まあ、それでいいわ。よろしくね」
「それよりもあの2人はなに?」
「あの2人も訳ありなんだよ。僕と同じでね」
そして僕は今日までの事について話し始めた。
2人のことに関しては話してもこの問題もないと判断した。
すでに僕の出自と悪魔憑きの月光丸の事を知られていいる。今さらだ。
今思えば、本当に聖教に対して喧嘩を売っているようなメンツだ。
エルザもかなり動揺したようだが、飲み込んでくれた。
でも僕は何で聖教に狙われてるんだ?
ここまで何となく流されてきたが、よくわからない
屋敷で仕留めた暗殺者は人間じゃないって言っていたけど、僕って人間だよな。
月光丸は何か知ってるのかな?
そう思い、皆がいるところに戻った。
◆
レインとエルザが部屋に戻ると月光丸が言った。
『レイン。その女に話したのか?』
月光丸が魔法を使ったからだろう。エルザが驚きを隠すことができなかった。
おそらく全員に聞こえるように念を送ったのだろう。
「うん。信用できると思ったからな」
それを聞いて、月光丸の眼光がエルザを射抜いた。
『お前がそう判断したならそれでいい。』
そう言って、月光丸は昼飯を再び食べ始める。
「レイン君。ディランって人が訪ねて来てたよ?」
そうオルストンは言った。
「え?今いるの?」
「いや?帰って行ったよ。要件だけ言われてね。それで今後この辺りちょっと騒がしくなるかも知れないよ。」
(ちっ…。あの件の事を問い詰めてやろうと思ったのに)
レインはディランに勝手に納品量を増やされた事を根に持っていた。
オルストン、クライ、エルザはある程度お互いを紹介し会ってから本題を切り出した。
「トレントはしばらく休業するらしい。」
「え?本当に?」
トレントの依頼はレインの貴重な収入源である。
盗賊団の宝物を売りさばいた金があるためしばらくは大丈夫だが、これがずっと続くとなると話は変わってくる。
「本当だよ。【獅童会】と【ナイトメア】、【エプトリカ傭兵団】が手を組んでトレントを潰そうとしているらしい」
「え?でもそんなこと聞いてないわよ?」
エルザは昨日公爵と面談している。しかしそんな話は聞いていない。
「昨日ザックが決めたみたいだよ。どうも襲撃にあったらしい。幸い無事だったらしいけどね。店の辺りは今、獅童会の構成員がうろうろしてるらしい…」
「理由がわからないな。トレントってそこまで無法都市では大きい組織ではないよね?何で無法都市の徒党と組んでまで潰そうなんて考えるんだろうね?」
レインの疑問は当然だった。
「もしかしたら、公爵と通じているのがバレたのかもね。」
それに答えたのはエルザだ。
「公爵は……うっ!!」
そう言ってエルザが頭を抑える。
「大丈夫ですか!!」
そう言って、レインは声をあげる。
「大丈夫。多分誓約の魔法が働いたのかも……」
エルザはクラウゼル公爵家を抜ける際に内部情報を話すことができない誓約を受けている。
『娘。言わなくていい。頭で思い浮かべてみろ。自分で思考するようにな』
月光丸はそうエルザに言った。
「え、ええ……。」
そして、エルザは月光丸の言う通りにした。
『クラウゼル公爵は、無法都市の浄化の計画を密かに進めていたらしい。それが知られてしまったのか、もしくは読まれたのだろう』
「!!!」
それを聞いてエルザは顔を歪める。
「浄化って?」
そうレインが問いかけた。
「犯罪とかのない平常の町に戻すってことだろう。」
そうオルストンが教えてくれた。
「僕としては都合が悪いね。それに他の連中もそうなのだろう。」
オルストンからすればそうだろう。
公爵ほどの地位にいる貴族なら自分の軍をもっている。それとやり合うならこの3勢力が手を取る理由としては十分だ。
これに関してはレインも同意見だった。
国としては正しいことなのかもしれない。でもここを失うとレインが隠れる場所がなくなる。
「どうしますか?レイン様」
そうクライが問いかける。
「オルストンとエルザは何か意見とかある?」
レインは2人を見る。
「任せるよ」
「任せる」
レインの問いに2人はそう答えた。
(……えー。僕が決めるの?)
「うーん。どうしようかな……。さすがに真っ向か
ら戦うことは避けたいよね。」
「北部に構成員が集中してるでしょ?それならここもバレるんじゃない?」
(まぁ…。そうだろうな…)
そうエルザの声に同意する。
「ちなみに彼らのアジトの位置とかわかる?」
これはエルザに問いかけた。
「【ナイトメア】と【エプトリカ傭兵団】の本拠地はわかるわ。」
「でも、【獅童会】はまだ特定できていない」
「打開できる策は事態はあります。ただ…少し時間がかかるのでひとまず全員で身を隠そうかと思う。」
レインには以前から考えていたことがある。ただ、それをする必要性もなかったし、できるかどうかもわからなかった。
(でも、あれができればこの状況を打開するのは比較的簡単になる。)
「どこに行くつもりなの?」
エルザの問いにレインが答えた。
「トライザント」
トライザントとはレインが盗賊団を討伐した洞窟のある山だ。
「そこで反撃に出る準備を十分に行う。」
「勝てるの?」
そうエルザが問いかける。
「僕の想像通りになれば、可能性は十分にある。」
そして、月光丸を見る。
「月光丸。俺の考えてることは実現可能だと思うか?」
『私の力が流入している今のお前なら可能だ。』
「何をしようてるんだい?レイン君。」
おそるおそるオルストンは聞いた。
『こいつがやろうとしているのは魔獣調教だ。』
「「!!!」」
『兵隊の数が足りないなら、捕ってこれば良いってことだな?』
「そういうことだ。これで補えれば交渉の席くらいには着けるだろう?」
「はぁ…。もういいわ。既に悪魔を2体引き連れてるんだから、もうどれだけ増えても変わらないわ」
エルザは溜め息をつきながら、そう言った。
「そいつらに僕が召喚した悪魔を憑依させようってことだね?」
意気揚々とオルストンが言った。
(いや……そこまでは考えてなかった。)
そうレインは思った。
『それは無理だな。』
月光丸は冷静にそう言った。
『それをした場合、魔獣は間違いなく暴走する。』
「でもレイン君の血でおされることができれば……」
「召喚した悪魔が私のように魔力操作が優れていて、理性的な存在ならそれも可能だろう。だがそんな悪魔はほとんどいない。」
『理性的な存在でなければ、レインは悪魔と魔獣の両方の精神を調伏させる必要がある。それはまだこいつにはできない。』
「わかったよ。それなら仕方ないね」
オルストンはそう言って諦めた。
「そういえば、ディランはどうするんだ?」
「ああ、彼は特にマークはされていないらしい。だから、普段通りに仕事するそうだ。」
「えっ…何で?」
「彼は闇商人だからね。3勢力のボスとは顔が利くようだからね。」
「なら、ディランには会うことができるんだな?」
造花の納品をどうしようか迷っていたのでホッとした。
「ああ、あともう1つ。彼から聞いていたんだった。最初のが衝撃的で忘れていたよ。」
「何だ?」
「レイン君のことを探している人間がいるらしい。だから、自分のところには来ない方が良いそうだ。張られているからって...」
「僕を?」
「正確には造花の造っている人間を探しているんだと…。黒髪、ポニーテールの女性らしい。」
(黒髪、ポニーテール……。まさかな……)
レインは思考を振り切る。
「ひとまず、会いに行かなければいいわけだね。」
そうなれば、花の納品は自分で行くしかない。
こればかりは仕方ないとレインは割りきるしかなかった。




