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殺し屋レインのお仕事  作者: ナマケモノ
1章 無法都市編

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エルザの決意


無法都市に流れついて、2ヶ月が経った。


レインは15歳になった。

クロード家が健在だった時も家族に誕生日を祝われたことなく、寝室にプレゼントが置いてある程度だった。


レインは一応貴族だったので、社交会に出席するときもあった。

その時にも度々誕生日にパーティーを開いた話や家族と旅行に行った話などを聞くと羨ましくて仕方がなかった。


本当のところはプレゼントなどではなく、ただ一緒にいてほしかっただけなのかもしれないと今さらながらレインは思う。



だが、さすがに15歳にもなるとこんな気持ちにも慣れてくる。



「レイン君。お休み~」

そう言うとオルストンとクライは2階に上がっていった。

結局、オルストンとは一緒に住むことになった。

レインが住んでいるこの建物は3階建てだ。

レインの生活範囲は1階だけなので、宿に困っていたオルストンに頼まれて泊めることにした。


オルストンには魔法を教わることが多くなったので、一緒に住んでいた方が何かと便利だと考えたからだ。



「おやすみ~」

レインは氷の花を作成しながら、それに答えた。



今レイン外の作っている造花。

これは意外にも売れているようだ。



花は植物であり、すぐに枯れてしまうことが多いようで枯れることのないレインの造花は貴族階級の人間達に愛用されてるようだ。



花としてではなく、氷の結晶で花を覆っていることから、美しさも十分。アクセサリーの類いでも使えるとのことだ。



造花1本分の価格の値上げ交渉を配達をしてもらっているディランに依頼したところ成功したようだ。

1本が200銀貨が400銀貨にまでなった。



そこまでは良かったが、ディランが納品する度にレインが払わされている手数料も値上げさせられた。さらに納品数の増量も勝手に決めてきたのだ。



そのことは手紙で知った。

次にディランにあった時に締め上げてやろうとレインは思った。



それ故に1日のうちの数時間は造花を作ることに費やすことになった。




トレントの仕事は高収入もしくは危険度の高いもの以外はオルストンかクライに丸投げしている。


オルストンも研究第一のため、その時はレインが依頼を受けるふりをしてクライに投げることが多い。


クライが大変優秀なおかげでレインは盗賊団討伐以降、一度も依頼をやっていなかった。



「気付けばここも随分と慣れたものだな…」

レインはそう呟いた。


『そうだな。初めて会った時に比べると随分とマシな顔色になったな。』

月光丸はなんてことないレインの言葉に答えた。


「そうか?王都に住んでるときと比べると生活環境は悪くなってると思うけどね…。」


『暗殺の仕事をしてたのはこっちでも向こうでも変わらない。だからお前はこういった生活が性に合ってるんだろう』


「こういった生活?」

不思議そうな顔をしながらレインは聞く。


『ああ…。何かに縛られることがない生活をだ…。』


「確かにな。」


『人間というのは非力だ。だが知能が高く、群れでで活動することに秀でた生物だ。』

『だが、この群れを作る上で絶対に必要なのは秩序だ。しかしそれが人間を縛る鎖にもなる。』


『そしてその鎖はルールや法律といった外面的なものだけでなく、人間の内面、精神をも縛る。』


「精神……か……。」

レインは少し腑に落ちなかった。



『【貴族】【平民】【暗殺者】【騎士】こう言った肩書きも鎖だ。聞いたことはないか?』

『貴族らしくしろ。』

『騎士ならこうすべき。』

『穢らわしい暗殺者の分際で』

『平民のくせに……とかな。本来秩序を維持するだけの役割にすぎないのに人間は勝手にそれに縛られるんだ。……勝手にだ。』



「!!」



『身分というのも変な制度だ。例えば王族の元で生まれたというだけで、その人間は王になる。』

『その人間が知能に優れていなくても武勇に優れていなくともそいつが国のトップになるんだ。』



『他の動物や魔物からしたら考えられないことだ。無能をまつりあげるなど種族全体の損失だ。』



「それは言えてるな……?……なんでだろうね?」


『そう言うお前もこれに縛られていた人間だ。仮にお前がこの国で一番強いならお前が王になればいいじゃないかって私は思うがな…。』



「さすがにそれはないな。仮に強かったとしてもそんなことはしないよ。お前は俺に国盗りでもさせるつもりか?」



『いや?そんなつもりはない。私がお前に憑依するとお前が感じる感情や感覚も共有されることになる。』


『私が言いたいのは他人が決めた役割で自分の意思に反するつまらんことはするなってことだ。』



「わかってるよ!そのために僕はここにいるんだ。」


『なら、良い。それよりもいつもやつよこせ』



いつものとはレインの血液のことだ。


月光丸がレインに憑依するための下準備。魔力交換に必要なのが、レインの血液だ。



レインは自分の血を月光丸に与えて、月光丸はレインが寝ている間に魔力を与えているようだ。


そして互いの魔力を肉体に馴染ませていく。



すでに1ヶ月間は続けている。



そのせいなのか、肉体的にも変化が出てきた。


背が大きくなった。目に見てわかるほどの成長速度だ。レインは成長期だが、さすがにここまで急激に伸びると月光丸の魔力を体に入れたことによる反応なのかと思えてくる。


もうひとつは肌が白くなっていった。レインの父、シリウスは色白の男性だった。

だからこれは遺伝的に備わっているもので、月光丸の魔力による反応ではないのかもしれない。



因果関係はわからないが、魔力交換を始めてから1ヶ月で体の成長速度が上がったのは事実だ。



『レイン。今日はお前の誕生日だったな』

月光丸は唐突にレインに言い出した。


「何だよ。急に…」


『この1ヶ月でお前は急激に憑依に耐えられる肉体に成長した。褒美をやろうと思ってな。』


「褒美?」


『ああ、極上のものだ。いい夢見ろよ』


(何を企んでる?まぁいいや……)


考えるのをやめてレインは一階にあるベッドで眠りについた。




◆



1ヶ月前


私はレイン君に母を治してもらった後、久しぶりに母と話せた喜びを隠せずにいた。


これまで話せずにいたことを全て話した。

母の言葉はまだおぼつかないところもあったが、意識、思考はハッキリしているようだ。


このまま過ごしていたかったが、そうもいかない。

今後の事をどうするのか考えないと……。


そんなことを考えていると母が私に言った。

「あなたはどうしたいの?」


「え?」


「だってあなたは私の事ばっかりで自分がしたいことをなにも話さないじゃない?これまで迷惑かけたお母さんが悪いんだけどさ。」


「私の面倒を見なくちゃいけないって考えは捨てなさい。私はこれ以上あなたに貴重な時間を失わせるのは耐えられないわ。」


「わ、わたしは……」

(正直、わからない……。自分が何がしたいのか…。正確に言うと考えたこともない。)


何も言えずにいる私を見ると母が言った。

「私は妹夫婦と母が住む実家に一度帰ろうかと思うわ。そこで普通に働くことにする。」


「大丈夫なの?」

まだ完治したばかりだ。さすがに…


「大丈夫よ。とんでもなく悲しい気持ちになってもご飯を食べないと生きていけないからね」


「一度私の実家にいらっしゃい?そこでゆっくり考えなさい。これからのこと……。」



レイモンド様に母が完治したことと今後の事をゆっくり考えることを告げ、休暇をいただいた。


レイモンド様は完治した経緯を知りたがっていたが、適当に濁しておいた。レイン君との約束だからね。



私はしばらく母の実家に滞在させてもらった。母の家族仲はかなりいいようで、表情が日を追う毎に良くなっていった。

私はそれをとても嬉しく感じた。もう母のことは心配いらないだろう。


それで問題は私がどうしたいかだ。

人を殺すことは正直好きというわけではない。でも人のため、国のためにやっいるという実感があった。

だが、この場でやめてしまうのも1つの道ではあると思う。


まだ21歳だ。結婚だってしたいし、子供だって欲しい。



結局のところ、どうにも決めきれずにいた。


でも1つやりたいと思っていることはある。


それは母を救ってくれた彼に少しでも恩返しがしたい。


彼は生きていることが知られれば、聖教はまた彼の命を狙うだろう。

彼は強いが、味方が少ない。


ザックもディランもレイン君の事を裏切るようなことはしないだろうが、彼が境地に陥った時に手を差し伸べる可能性はかなり低い。


責めることはできない。彼らは彼らなりに守りたいものがあるから…。



だから……私がやる。




境地に陥った彼の手を握るのは、他の誰でもなく、私でありたいから…。



これは間違いなく私のやりたい事。




◆



「それが君の答えたというわけだね?」


私は夜も暮れた公爵家の1室でレイモンド様と向き合う。


「はい。私は公爵家使用人を辞させていただきたく思います。」



しばしの沈黙のあと、レイモンドは答えた。


「わかった。今までご苦労だった。」

(本当に器の大きな人だ。)


「ただし、これにサインしてもらえるかな?」

そして執事のウォルターが紙を渡してきた。


「これは外部で我が公爵家の内部情報を話すことを禁ずる誓約書だ。」


(………レイン君は公爵の事を知りたがっていた。これにサインすると彼に話すことができなくなる。……仕方ない…か…。)


そう思い、私は書類にサインした。


「ちなみにこれからどうするつもりか聞いてもいいかい?」


「ひとまず、しばらくはこれまで通りザックからもらえる仕事を受けようと思います。」


レイモンドはにっこりと笑う。

「そうしてくれると助かる。ありがとう。」


「いえ、レイモンド様には恩義がありますから…。」


「なら、何故辞めるという決断をしたんだい?」

これは当然の疑問だろう。


「一度、フラットな状態で見たかったんですよ。この国を。それで身の振り方を決めようかと」


これは嘘ではない。


「わかった。君がまたここで働きたいと言っても私は歓迎するからね」


「本当にありがとうございます。」

そう言って、深々と頭を下げる。



「僕達の道がまた交わることを祈っているよ」


それを聞き、私は退出した。


退出した扉から少しだけ声が聞こえた。


「念のため後をつけますか?」

そう言ったのは執事のウォルターだ。


「必要ない。どうせ彼女には感づかれる。」

「承知いたしました。」


それを聞いて、安心してその場を去った。



◆



翌日の昼、彼の住む家を訪れた。


彼は朝弱く。起こすのも悪いかと思い、考えた末にこの時間帯がベストだと判断した。


家のエントランスに着いたところで1人の少年がやってきた。白い髪色でレイン君より背丈が小さい。


「おはようございます。レイン様のお客様でしょうか?」


「ええ…。」

(レイン…様?従者でも雇ったのだろうか?それとも拾い子かな?)


「お名前を伺っても?」


「エルザといいます。」


レイン君とは1ヶ月会えていたかったから、その間に何かあったのだろうか?


「ありがとうございます。今は起きておられます。どうぞ…」



そう言って、白髪の少年は歩きだした。


少年の姿を観察する。分かりにくいが、かなり濃密な魔力を体に秘めている。強い……。


「あなたは?」

私はそう少年に問いかける。


「私はクライと申します。よろしくお願いします。」

礼儀正しく頭をさげる。



「貴方とレイン君はどういう関係なの?」

少しモヤモヤした気持ちを抱えながら問いかけた。


「恐れながら、それはレイン様から直接伺っていただいてもいいでしょうか?」

「私の口からはなんとも……」

「わかったわ…。」


彼は何者なのだろうか?ここまでの立ち居振舞いから子供だとは思えないくらいしっかりしている。


クライ君が扉を開けると最初に目に入ったのは、金色の髪にローブを纏った青年だ。横には大量の本と書物が置かれている。


そして、もう1人猫を肩に乗せた青年がいる。


ん?青年?


髪色は黒で一部、前髪に赤色が入っている。

レイン君の髪型だ。


「お久しぶりですね。エルザさん。」


その青年はそう言って、私に笑い掛けてくれた。


「え……?レイン君?なんか大きくなってない?」

背丈だけではない、顔も体も大人の男性に一回り成長していた。


「え?ああ……。ちょっと色々ありましてね。」

レイン君は頭の後ろを掻きながら言った。


色々……?


「1ヶ月も会えなかったから心配しましたよ。」


そんなことをその姿で言わないでほしい…。


「私も色々あってね…。」


「母君のことは落ち着いたのですね。良かったです。」


「あなたのおかげよ。ありがとう。」

そう言って、頭を下げた。


「不思議と何かスッキリされた顔してますね。」


「ええ……。少し聞いてくれる。」


「いいですよ。クライ、オルストン少し外す。」


そう言って、レイン君は立ち上がった。

金髪のローブを纏った少年はオルストンと言うらしい。


別室に来て、話を始める。

それよりもここはどういう場所なんだ。なんかドキドキする。


その部屋にはベッドとシャワールームがある。

なんだか奇妙な光景だ。



そこでこれまでの事を話した。

母が完治して働けるようになったことそしてレイモンド公爵の使用人を辞めたこと。そして魔法の誓約書を書いて、内部情報を話すことができなくなったこと。

そしてレイン君の力になりたいという事。



レイン君は嫌な顔せずに全部聞いてくれた。


「内部情報を話せなくなった事は気にしなくても大丈夫ですよ。知ろうと思えば他にも手段はありますから…。僕はただ、味方が欲しかっただけなんです。」


「そうなの?」

正直なところ意外だった。



「ええ…。まぁ…そんな大層なことではなくて、ただ寂しかっただけかも知れませんね」


そう言って、レイン君は薄く笑った。


それを見て少し切なくなって、レイン君を抱きしめた。そして頭を撫でる。


「あ、あの……。」


照れてる可愛い。


「ううん。何でもない」

そう言って、手を放した。


「お母さんと呼んでもいいですか?」


それを聞いた瞬間、額に思いっきり手刀を入れる。


「うぅぅぅ!!」

レイン君が額を抑える。


そこまで年上に見えるのだろうか?失礼しちゃう!!

でも、大きくなっても何か締まらない感じが彼らしい。


「私そこまで年上じゃないけどね!!」


「すみません。そんなつもりではなくて……」


「許してあげるわ。レイン」


「……」

少し沈黙があったが、ハッと我に返り彼が答える。


「ありがとうございます。エルザさん。」


「エルザ…で結構よ。何か呼びづらいでしょ?敬称呼びって……。」


レインは眼を見開いて私をみる。そして答える。


「確かに…。何であんな堅苦しい言い方しなくちゃならないんだろうね?」

ヘラヘラとしながら、彼はそう答える。


そんな顔も出来るんだ。


「あのね。レイン。貴方にお願いがあるの…」


「何?エ、エルザ…」



「私を貴方の弟子にしてほしいの。」

これが今回の目的。私は暗殺者としては非力だ。これでは彼の力になることはできない。

だから……。


「え?」

予報外のことだったのだろう。

私のお願いに彼は間抜けな声をあげた。





当作品を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。

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