オルストン
レインは報酬を受けとるついでにディナーを食べにトレントに到着した。
ドアの開く音に気づきザックがこちらを見た。
カウンター席には騎士の格好をした男が2人いた。
「よう!レイン!ん?」
何かに気づいたようにザックがレインを見た。
「何だ?髪色変わってるじゃねぇか!色気づいてんな!おい!」
「そんなんじゃないよ。連れがいてね奥のテーブル席行ける?」
「お、おお。」
そうザックは返事をしてレインの後ろにいる2人を見た。1人は白色の髪をした少年。どこか遠いところを見るような表情で店内を見渡している。もう1人は金色の髪をした美男子だ。何が嬉しいのかニコニコしながら入ってきた。
カウンターを通り過ぎるときに、2人の男がこちらを見たが特に気にすることなくテーブルについた。
「マスター。メニューってある?」
そう聞かれたので、レインに渡した。
「友達か?」
気になって、ザックが尋ねた。
「まぁ…。友達…かな?」
歯切れが悪くレインは答えた。
「もっと堂々と言ってくれてもいいんだけどね」
オルストンがそう答えた。
「そうか…。また決まったら言ってくれ」
そう言うと、ザックはカウンターに戻った。
ザックはレイン達が注文した品を調理しながら、レインの方を見た。
そこで何か結界のようなものが発動されたような気がした。
「なぁ…あの黒髪のガキあれが例のやつか?」
そう騎士風の若い男が小さな声でザックに問いかけた。
「ああ」
「何かあいつからヤバい雰囲気をバリバリ感じるな。他の男2人もかなり魔力が高いようだな。あの2人も知ってるのか?」
「いや、残りの2人は知らない。」
「そうか…。てか話し声が聞こえねぇな」
「結界だろう?」
「さっき白髪のガキが張った。」
もう1人の壮年の男性が言った。
「何か内緒話ですかね。」
「まぁ、そうだろうな…ここは世間では訳ありの人間ばかりが集まる場所だからな」
そうザックが言って、料理を持っていった。
◆
「レイン君。彼は悪魔だね?」
レインは頭を抱えた。
(まぁ…。わかるか…)
「オルストン。君の悪魔召喚の論文とても良かったよ。試しに使ったら、彼が来てくれたんだ。」
レインがそう言うと、オルストンはクライに顔を近づけた。
「私が召喚した悪魔よりかなり高位の存在のようだね。召喚者によって出てくる悪魔の種類もレベルも違うってことかな?」
「多分そうだろうな」
レインはそう答えた。
「はじめまして。私はオルストンという。よろしく」
そうクライにオルストンは握手を求めた。
「レイン様に召喚された月光丸様の下僕。クライだ。よろしく。」
「!!!」
オルストンは少し驚き、月光丸をみる。
「月光丸様はこのクライよりもさらに高位な悪魔ということですな!!やはり貴方があの方、もしくはあの方に近しい存在なのか!!!」
『月光丸。彼のこと知ってる?』
月光丸からの返答がないので、レインから聞いてみる。
『知らん。人間なんて星の数ほどいるんだ。覚えてるわけないだろう?』
「…まぁそうだろうな…」
レインはそううなずいた。
「どうしたんだい?」
「いや?何でもない。お前のいうあの方っていうのはどんな悪魔なんだ?」
レインはもっともなことをオルストンに問いかけた。
「ちょっと、話が長くなるけどいいかい?」
そう言って、オルストンはゆっくりと話始めた。
「僕は子供の頃は奴隷だったんだよ。」
「所有者は酷いやつでね。朝から晩まで働かされて、暴行を受けたことも数えられないほどあった。」
「逃げることもできなくて、いつしか生きる意味を見いだせなくなっていた。死のうと思ったのも1度や2度ではなかった。でも……そんな時にあの方が降臨なされた。」
「赤き髪に黒い角、そして身の丈ほどの黒い翼。そして女性的でとても美しかった。私たちを暴行していた貴族達があの方が作り出す黒い炎で消し炭になる姿は爽快だった。もう十年以上前の話だけど、今でも目に焼き付いているんだ。」
「あの方のことを知りたくて、そして会いたくて魔法の勉強を必死にやった。悪魔についてもずっと調べてきた。」
「魔法の勉強を必死にやったおかげで魔術学院に入り、王立魔法研究所にも入れたが、それがきっかけで追われることになってしまった」
オルストンはまっすぐレインを見据える。
「でも後悔はしていない。あの時のような雰囲気を感じて、この月光丸さんに声をかけたんだ。突然で迷惑だったかもしれない。でも!!止まることはできない!!そうこれはきっと恋なんだよ!!!」
立ち上がって熱弁を振るうオルストンに少しレインは困惑した。
「恋……か。そもそも悪魔って性別がないんじゃなかっけ?」
「ふっ……。未熟だね。本当の恋心を前にしたら性別の壁なんて些細な問題なんだよ!!レイン君!!」
「な……なんか。深いね…。僕にはわからないけど…。」
レインは圧に気圧されて狼狽えながら返事をした。
「君にもいつかわかるときは来るさ!!レイン君!!」
「は、はぁ……。」
「つまり何が言いたいかというと……。そう!!知っているなら教えてほしいんだよ!!」
『月光丸。お前がその悪魔だったりするのか?』
レインはそう月光丸に聞いた。
『いや……私はそいつではない』
「そ、そうか……」
月光丸は全員にテレパシーを飛ばしたらしい。
それにオルストンは答えた。
『お前もこいつと同じように下僕になるなら、教えてやらんこともないぞ!』
クライを見ながら、オルストンに言った。
「なります!」
即答だった。
(いや、判断が早い!!良いのかオルストン!?)
そうレインは思ったが、黙った。
『良かろう。お前の言う悪魔はおそらく【憤怒のサタナエル】。悪魔といえど万物を焼く黒炎を生み出せるのはサタナエルだけだ。』
「サタナエル…?」
「魔王ディアマンテから生み出された悪魔の1柱ですよね?」
そう言ったのはクライだ。
「…………サタナエル様ですか!!」
オルストンの顔が紅潮している。
(人を大量に殺戮した悪魔か…。命知らずなことだ。)
「でも探し方とかわからないでしょう?」
レインはそう月光丸に問いかけた。
「まぁ実はそうでもない。奴が宿主を見つけていない場合、憤怒の感情が引き出される場所に好んでいくだろう…」
「なるほど!だからあの時も怒りが集まるあの場所にいらっしゃったのですね」
そうオルストンは呟いた。
「これからどうするんだ?オルストン?」
「そうだね。一応約束したから月光丸さんのお世話をしながら、僕なりにここで情報を集めて研究を続けることにするよ。」
「お金のことは……これから考える。何かいい仕事知らない?」
「オルストンは魔法で何かできるの?」
「悪魔を召喚して使役することができるよ!あとは魔法なら全属性ある程度使えるよ」
そしてちょうどいいタイミングでザックが料理を持ってきた。
「飲み物はいらないのか?」
ザックがそう言うと、
「ワインをもらえますか?」
レインは即座にそう言った。
「はぁ?お前は飲んだらダメだろう?」
「もう今更だよ。それに3日も飲んでないんだよ?」
「あ、僕も飲んでも良いですか?」
そうクライがレインに言った。
「うん!いいよ。オルストンも飲むかい?」
(……オルストン?)
ザックはその名前に聞き覚えがある。
「ならいただくよ。瓶でもらえますか?」
「あ、ああ……。」
「あ、マスター。このオルストンが仕事に困ってるみたいで何かいい感じの依頼を受けさせてあげられませんか?」
ザックが目を細めてオルストンを見る。
「始めまして。オルストン=ティンジャーと申します。元は王立魔法研究所で働いていました。」
オルストンは立ち上がり一礼する。
「お前、悪魔の研究して聖教に追われている奴か!」
「まぁ、恥ずかしながらそうですね…。聖教なんてものはミンチにして豚の餌にしてやりたいですが、それができないのは情けない限りです」
(狂信者…。相変わらず、言うことが過激だ…。)
レインはかつてクロード屋敷に襲撃した聖教の暗殺者を思い出す。
「かまわないぜ。今日は明日の昼かどっかに来てくれや。その時に話をしようか…」
「ありがとうございます。」
「オルストンには攻撃しなくていいの?」
レインはザックとの初対面を思い出して言った。
「お前俺を何だと思ってんだよ…。」
(ええぇぇ……。僕にはやってたでしょ!)
全く解せない。そう思いレインはワインを飲んだ。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




