王都観光
王都は無法都市とは違い洗練された建物が多い。郊外や王宮から離れた下町は木造による建物が多いが、王宮を含む教会や貴族の屋敷などは石造りでできている。
王都は王宮が街の中心があり、そこから周囲を囲うように街が存在し、さらにそれを囲うように巨大な城塞が存在する。
その外にクロードの屋敷などがある。郊外の街や村が存在だ。
王都の街は洗練されているが、レインはあまり好きではなかった。それは街の外にある巨大な城塞が理由だ。
見通しが悪く、柵に囲われて飼われる動物のような気分になるからだ。
商人一家に連れられてレインは王都に来ていた。
着いたのは日を跨いだ深夜のことだった。
夜が遅いこともあり、レインはリデルの屋敷のソファーで眠らせてもらっていた。
そして毎日のことになるが、確かな痛覚により目を覚ます。
バシュッと何かに引っ掛かれる。
「ギャアワッッ!!」
レインは勢い良く起き上がる。目を擦って辺りを見渡すと月光丸とアリスがこちらを見ている。
腕の止血をして、ゆっくりと床につく。
アリスが傍にいるからなのか、今日は力加減がしっかりとされていた。
「おはようございます。」
「おはよう。レイン」
そう言ってアリスはゆっくりとイスに座る。
「レイン君。朝ごはん食べてって。」
そうセリカが言って、ご飯を運んできていただいた。
(本当にありがたい…)
普段の生活において何もせずに勝手にご飯が運ばれてくることなんてない。
これが普通の生活を送る人の日常の光景なのか…。
クロードの屋敷に住んでいた時も自分のものは自分で作るのが我が家のルールだった。
そんな恵まれた環境に少しだが、羨ましさを感じた。
朝ごはんを食べ終わると、リデルが経営する商会にアリスに連れられてきた。
リデルの商会は朝なのに混み合っていた。
置いてある商品も生活雑貨や服、装飾品などだ。
そこでアリスに服装を選んでもらうことになった。
やはり汚れた黒いローブでは、昼の王都を歩くのは変な意味で目立ってしまう。それはレインも自覚していた。
「レイン。これなんてどう?」
そう言って、黒いズボンと明るい青色のシャツを渡してくれた。
「お洒落だと思うけどこんな派手な色シャツ、僕に似合う?」
「当たり前じゃん!似合ってる。それに多分そこまで派手ではないと思うわ」
レインは明るい色の服をあまり着ない。
何故なレインは自分自身が目立ってしまうことを嫌う。
理由は簡単だ。経験上、社交会などで注目を浴びることになっても録な事にならないとわかっているからだ。
アリスはレインに顔を近づいて、じっと見ている。
レインは咄嗟に目を反らしてしまった。
「髪も治してあげる。こっちに来て?」
「ああ。わかった…。アリスは髪を上手に切れるの?」
少し失礼な言い方になったが、レインはどうしても
聞いておかなければならなかった。
1度自分で髪を切ったことがあるが…。その時は酷い完成度になったからだ。
「任せて…。」
そう言って、レインは鏡の前に座った。
馴れた手つきで、サクサクと髪を切ってくれる。
「髪は染める?」
「ん?髪を染めるって、色を付けるかってこと?」
「そうそう。」
「へぇ~。興味はあるけど、仕事上明るくし過ぎるのは良くないんだ」
「なら、部分的にしてみる?」
「部分的に?ああ、なるほど……」
レインはイメージが湧いたのか納得した。
「じゃあ、初めてだからお願いするよ」
「わかった。」
(これで昔の姿を知っている人間に出くわしても、誤魔化せるかもしれない)
レインはそんな風に考えてのことだった。
完成したヘアスタイルを確認するとかなりの出来だった。全体的に纏められていて、前髪は部分的に赤色に染まっている。元のヘアスタイルのイメージを崩し過ぎるのことなく、良いアクセントになっている。
「……アリスは凄いね。とても良いよ」
「えへへ。ありがとう。それほどでもあるけどね」
そう言って、アリスは笑ってくれた。
『月光丸。どう?似合う?』
すると月光丸は素っ気なく答えた。
『どちらでもいい。私から見れば前とそんな大差ない』
(……悪魔から見たら、そんなものか…。)
そして、道具を片付け終わったアリスにレインは問いかけた。
「お金はいくら?」
レインはそう問いかけた。
「ああ、いいよ。私が勝手にやっただけだし、それにこれは御礼のつもりでやってるから…」
「そ、そう?なら……」
御礼だけしようと思って、レインは魔法で氷の薔薇を造ってアリスに渡した。
「なにこれ~綺麗!」
アリスは喜んだ顔で氷の薔薇を受け取ってくれた。
「本物の花じゃないけどね。この氷は溶けないから、綺麗だと思ってくれたなら飾ってくれると嬉しいよ。」
この氷の薔薇は溶かさないためにある細工をしている。薔薇の内部にある赤い色素。これはレインの血である。この血は空気中の魔力を吸収し、温度操作の魔法がかけられている。
この温度操作により内部に冷気が集約し、人が触れる外部は常温に保たれている。
それにより永続的に花の存在を保つことが出来る。
かつて婚約者のメアリーに渡した花と同じものだ。
「嬉しいありがとう!!」
歓喜に満ちた表情を見て、レインもにっこりと笑った。
早速その花を花瓶に入れて、商会の窓際に飾ってくれた。
◆
その後はアリスとレインは一緒に王都をまわった。
アリスはかなり買い物が好きなのようで、本やぬいぐるみ、衣類などをどんどん買い込んでいった。
レインのために王都の案内する呈だったが、いつも間にかレインはアリスの荷物持ちと化していた。
今、レインの両腕には多数の買い物袋がぶら下がっている。
(無料で服も貰えたし、髪も整えて貰ったし、このくらいの仕事はするか。)
そう言って、レインは割りきることにした。
そんなことを考えて店を出るとアリスは同年代の友達に囲まれながら、談笑していた。
アリスはこの辺ではとても人気ものようだった。
そしてレインは気づいてしまった。レインにやっていた過剰なスキンシップ。それをその同年代の友達にもやっていることを。
今、アリスの周りには3人の少年と2人の少女がいる。
(こうして客観的に見てみると、実にわかりやすい。)
レインはそう思った。
周りを囲んでいる少年3人はずっと目線がアリスに釘付けになっている。他にも少女が2人もいるのにだ。
そして心なしか顔も赤く、表情もにやけている。
『お前と同じでな。』
月光丸がまた思考を読んで話しかけてきた。
『くっ!!』
レインは否定できなかった。
『お前勘違いしとっただろう?アリス嬢が自分に気があるんじゃないかと……。』
(……確かに勘違いしていた)
『…………表情で精神状態はわからないっていったのはこういうことか?』
『それは半分合っているな。アリス嬢は実際のところあの3人とお前には好意的な感情を持っている。』
『でも、恋愛対象だとは誰も思われていないだろうな…』
『…………』
『アリスはなんであんなスキンシップが自然とできてしまうんだ?』
『それは生まれついの性格もあるだろうが、裕福な家庭環境で育てられた故に人への警戒心が薄いのかもな。』
『遺伝と家庭環境か……。それはそうかもね』
『なんなら、お前が守ってやればいいだろう?アタックすれば見込みはあるかもしれんぞ…。』
『適当なこと言って……』
呆れたように月光丸に呟いた。
『まぁ、気が向いたらアタックしてみよ。私はお前が抱く異性への情欲の感情が大好きなんだ。』
『…』
そんなことを話しているとアリスが近づいてきた。
「待たせてごめんね!」
「いいよ!そんなに待ってもいなかったしね」
向こから男3人が恨めしそうにレインを見ていたが、これをスルーして一緒に買い物を続けた。
◆
午後からはアリスが演劇を観たいらしくて劇場に行くことになった。
月光丸は入れないようなので、アリスの家に預けることにした。
レインも演劇は1度しか見ていないため、とても楽しみだった。
「レインも好きなの?演劇。」
「うん。まぁ僕は1回しか見たことがないけどね…。何でこの舞台を見たいと思ったの?」
「私の好きな女優さんが出るの。美人だし、演技力も凄くてね。いつかあんな風になれたらいいなって思ってるの。」
「アリスは女優さんになりたいの?」
「うん!」
「女優のことはわからないけど、その情熱があればなれるよ!少なくとも顔が可愛いから後はそれ以外だね」
「………ありがと」
(ヤバい…。可愛いとか言ってしまった…。キモいとか思われていたらどうしよう……。)
「あ、もう始まるよ…。」
話を切り替えるようにレインは言った。
今回の演劇内容は【勇者伝説】というタイトルで勇者が魔王を倒すまでのストーリーを描いた作品だ。
少年が仲間を集め、冒険に出るところからストーリーが始まる。
そこから魔王軍に襲われた街や村を救い、魔王軍を追い詰めていく。勇者の名が知れ渡ってからは魔王軍幹部の四天王との戦いが始まる。
四天王はその名前の通り4人いる。
不死王、暗黒妖精、竜王、吸血鬼王の4人だ。
この四天王には勇者も苦戦を強いられることになる。
特に四天王の1人である吸血鬼王には重傷を負わされて1度は敗北することになる。
だがそれでも立ち向かい続け、何とか四天王全員の撃破に成功する。
苦境にさらされながらも、戦う姿は正に勇者といえる。
そして最後には魔王を倒し、大陸全土に平和をもたらした。
(壮大で心が熱くなるストーリーだ。感動した。)
レインは強くそう思った。
そしてこの勇者の仲間で魔王討伐に大きく貢献した【聖女】がのちに神聖ブルガリア王国の国教である聖教の御神体となったらしい。
そうなると、聖教とは人類の希望そのものだといえる。
レインからしたらこの上なく邪魔な存在ではあるが…。
だがそれはそれ、これはこれだ。
レインは今回の舞台にも大変満足していた。
「面白かったね。レイン」
「そうだね。とても面白かった。」
その後はお互いに感想を話ながら帰路についた。
月光丸を引きとり、泊めてくれた御礼をするとリデルが近づいてきた。
「レイン君。今日はアリスと遊んでくれてありがとね。」
「こちらこそありがとうございました。」
レインは素直に礼を言った。
「今日も泊まっていくといい。帰るのは明日だろう?」
リデルがそう言った。
「ですが、悪いのでは?」
「かまわないさ。それに君と話したいこともあったしね。」
そう言って、レインにテーブルに着くように促した。
アリスは疲れて寝てしまっており、今はリデルと家事をしているセリカしかこの場にはいない。
「今日、商会でこんなものを見つけたんだ。これレイン君が作ったんだよね?」
そう言って、リデルが取り出したのはアリスのプレゼントのために渡した氷の薔薇だ。
「ええ…。何か不味かったですか?」
レインは不安になりながら、そう尋ねた。
「いやいや。かまわないよ。これは水晶のような透明度と中にある薔薇の色彩がとても綺麗だ。このまま商会に飾らせてもらうよ。」
「でも、この花。いや造花かな…。もう少し多くの人に届けられればと思うんだよ。」
「…………?」
「この花。もっと作れるのであれば買い取らせてもらえないかな?」
「つまりリデルさんのお店に出したいということですか?」
「そうだね。ちなみに花びらの部分だけ造ることはできる?」
「可能です。」
「なら服とかの装飾品にもできるかもしれないね。」
(すごい…。アイデアがしポンポン出てくる……)
「花の種類は他にも用意出きるのかい?」
「花の種類自体は用意することは可能です。ただ、花の種類によっては時間がかかります。」
花の色が赤色ではない場合、色素を馴染ませるのに時間がかかるからだ。
「わかった。生産量はどのくらいになりそうだい?」
「これを造るのは僕1人です。さらに他の仕事と兼用で行うので、1日30本以上とかは難しいですね。」
「それくらい造れるなら十分だよ。それよりもこの商品の生産が安定したら、うちの商会の専属で働くことはできないかい?」
「理由は言えませんが、それは難しいです。」
(僕は死んだことになってはいても、聖教からしたら犯罪者と同じだ。さすがにそこまで迷惑はかけられない)
「そうか…。それは残念だね。」
リデルは残念そうな表情をした。
「今の君の本職は想像がつく。昨日みたいな事は2度とごめんなんだ。また護衛とかも引き受けてくれないかい?」
「かまいません。この花を持ってきた者に言って貰えれば、僕に伝わるようにしておきます。」
ディランは王都には商いでよく行くと言っていた。だから商品の運搬などを任せようかと思っている。
それにいないとは思うが、生産者や生産方法を探ってくるものがいたら面倒だ。それを誤魔化してもらおうと思ってのことだ。
「最後に1本当たりの価格だけど、このくらいでどうかな?」
(……。これは高いのか安いのかわからない。)
「かまいませんが、生産が多くなれば価格の交渉をさせてもらっていいですか?正直、これが高いのか安いのかわからないので…」
「了解した。じゃあ、契約成立だね」
そう言って、リデルと握手をかわす。
(なんか…。わからないことも多かったけど、大丈夫かな…)
レインは一抹の不安を抱えた。
当作品を読んでいだきありがとうございます。
第1章無法都市編はこのあたりで中盤かな~と考えております。
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よろしくお願いいたします。




