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殺し屋レインのお仕事  作者: ナマケモノ
1章 無法都市編

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18/49

レインの回想 (恋愛初心者レイスの奮闘)

前話の続きは次話から始まります。


2年前、レイスは屋敷にある書斎に父親から呼び出しを受けていた。父親から呼び出されるということは新しい任務が決まったのだろうか。少し憂鬱な気持ちになるが悟られないように表情を作る。


ドアを叩いて中に入る。

「失礼します」


「来たか。レイス」

レイスが前を向くと椅子に座りながら、父親であるシリウスが待っていた。


シリウスは薄い赤色の髪に赤い瞳が特徴的だ。肌が少しだけ白く、荘厳な雰囲気をもつ男性だ。


「新しい任務が来ましたか?父上。」

大体ここに1人で呼び出される時は決まってその話になるためそう問いかけた。


「いや?今日は違う。レイス。前回行った社交パーティーどうだった?同年代で仲良くなった人間はできたか…」


それを聞いてレイスは顔を歪ませる。

「いいえ」


「…上手く行かなかったのか?」

少し目を細めてシリウスは行った。


「父上。僕の事を暗殺者だからと言って差別的な目で見てくるような人間達と友好関係なんて気づけると思いますか?」

レイスは瞳を少し暗くしてそう言った。


「別に責めているわけではない。確認をしたかっただけだ。」

続けてシリウスは言った。


「レイス。お前の婚約が決まった。」


「へ?」

レイスはキョトンした顔をした。

「あの、聞いてないんですけど…」


「ああ…今言ったからな。私と向こうの両親で決めた」

(えぇぇ…。急すぎる)


「あ、あの婚約者を選ぶならギールお兄様が先では?」

長男ライアンは婚約者が決まっている。だから順番的にギールが婚約する番と考えての発言だった。


「あいつは好きにさせる。ライアンと違い、当主になるわけではないからな。」


「なら、何故僕は決められたのですか?」

「お前には優秀な伴侶を見つけて必ず子を成してもらいたい。何故お前にだけそれを求めるのかは時期が来れば話そうと思っている。」

「今はその時ではない」


「は、はぁ…。」

(嫌な感じの人でなければいいけど…)


「お前の相手に選んだのはメアリー=プロトン嬢だ。」


「メアリー=プロトン…。」


レイスはこの名前には聞き覚えがあった。

プロトン子爵家はクロード子爵家と同様に暗殺者から成り上がった家系だ。クロードとは負けず劣らずの暗殺者の名門一族だ。


「ちょうどお前と同じ12歳だ。上に兄がいるが、その兄と比べてもかなり優秀だそうだ。お前を除けば、同世代で最も戦闘力に秀でた暗殺者だろう。」


「私も直接話した。そしてお前に相応しいと判断したから、レイスとの婚約を打診したんだ。」


(いや、これ……僕に拒否権ないじゃん。でもそれはいつものことか…。)



「可愛い?」

レイスはそうシリウスに問いかけた。

「可愛いぞ」

シリウスは即答で返した。

「そこは父さんの審美眼を信じなさい」


(まぁ…なら悲観しすぎるのもよくないか…。)


「他に質問はあるか?」

「入籍はいつ頃ですか?」


「そうだな…。お前にもライアンやギールと同様にブルガリア王立学園に通わせる予定だ。」


「メアリー嬢も通うだろうから、お互いに卒業後に結婚してくれればいい。」



「……わかりました。」

レイス心のなかで溜め息をついた。



「明日メアリー嬢がここに来るから、心の準備をしておくように…。話は以上だ。」



「……大変なことになったな……」

シリウスの書斎を出てレイスはそう思った。



◆



翌日、プロトン子爵とメアリーがクロード屋敷にやって来ていた。


シリウスとプロトン子爵が握手を交わし、レイスとメアリーはお互いに向き会って自己紹介をしあった。


「レ、レイスと言います。よろしくお願いします…」

緊張しながらも挨拶をレイスはした。


「メアリーです。よろしくお願いいたします。」


メアリーは黒髪のポニーテールをした幼いながら妙な凛々しさがある女の子だった。


(か、可愛い…)

レイスは緊張して既に顔が赤くなっていた。



4人でテーブルを囲み、談笑しながら食事をしたが、レイスはこの時全く会話の内容が耳に入って来なかった。


ほとんど父親同士が話しており、メアリーとレイスはじっと黙っていた。度々メアリーと目が合うが、その顔に表情はなく、何を考えているのか読み取ることはできなかった。


2時間程度で顔合わせが終了した。レイスにとってこの時間はとても長く感じられた。



次回はレイスがプロトン子爵家に訪問することになった。





翌日の昼頃、レイスはライアンと一緒に稽古をしていた。

ギールはまだ王立学園に通っているため、不在だ。


「ライアン兄。」


「ん?どうしたレイス?」

ライアンは灰色の髪をタオルで拭きながら答える。


「ライアン兄はミーシャさんとは普段どんな会話してるの?」

レイスはメアリーと2人きりになった時に話すことに困ってしまうと思っていた。初対面の人との会話。つまりはトークデッキを作らなければと思っていた。



「そうだな…。改めて言われると難しいが、今日会ったこととか、最近ハマっているものとかかな?」


「な、なるほど...。」


「そういえばレイス。親父から聞いたぞ。婚約おめでとう」

そう言ってライアンはレイスに笑いかけた。


「ありがとう。でも、どうすればいいかわからないんだ。女の子どころか友達とも外で遊んだことないのに…」

レイスはそう弱音を溢した。


ライアンはそれを聞いて持論を展開した。

「女の子とデートするときはまずは相手を知ることだ、これは暗殺でも同じだろう?」


レインはそれに対して頷いた。

「ターゲット。つまり相手方の女性を知るということだね。」


「そうだ。あとはその情報を知ったうえで相手の喜ぶプレゼントを渡す。わからなければ、花とかが無難だ。」


「な、なるほど。ありがとうライアン兄。」


まずは情報収集だ。

ひとまず、次の目標が決まった。



◆



メアリーと初対面を果たした1ヶ月後、レインはプロトン子爵家を訪れていた。シリウスは今日は仕事のようで、レイスはたった1人で戦場に足を踏み入れようとしていた。


プロトン子爵家の屋敷を前に二の足を踏んでいると、玄関から30代~40代くらいの女性が出てきた。


「あなたがレイン君?」

「は、はい!そうです。」

「中に入っていらっしゃい?」

そう言って、女性はレイスを案内した。どうやらこの女性はメアリーの母親のようだ。今日は父親と兄はいないようで、メアリーと2人だけだそうだ。


(だが、今日のために色々と調べてトークデッキ準備してきたんだ。いける…はず)


姿を見るとレイスは手を振って挨拶する。


「こんにちは。今日もいい天気ですね」


「……そうですね」

メアリーはそう返した。


「…………そうですよね…」

(くっ……。)

レイスは自分が情けなくなった。


「えとえと、メアリーさんは普段どんなことされてるんですか?」


「それは?どんな仕事をしてるのか?という意味でしょうか?」

メアリーの無表情の顔が少し崩れて困惑した。


「い、いえ!仕事以外の話です」


「そうですね……。私はこのような仕事ですので、ずっと訓練に明け暮れています。だから……あまり普通のことはできていないんです。」

空気が暗くなる。


「ごめんなさい。仕事以外の場所でこんな話を…。」


「かまいません。私も貴方もこの仕事から逃れることができないのですから…」


「…………」

レイスは口をきゅっと閉める。

(本当にダメだな……。)


「レイス様。私達は同じような境遇で育っています。故に世間話なんてしようと思っても、中々上手くいかないものです。」


「なので、少し手合わせしませんか?」

「え?」

(な、何か怒らせてしまっただろうか…)


「言葉ではなく、肉体で語り合おうと申しているのです。クロード家の神童と呼ばれている貴方の実力を見せてください。」


(……どういうことだ?僕には断る理由はないけど、これは愛想を尽かされてしまったのかもしれない。)


レイスは溜め息をついてこたえる。

「わかりました。お受けいたします。」



◆



プラトン子爵家の前には訓練用の大きな庭がある。そこで2人向き合い木剣をもつ。

殺伐とした緊張感が流れる。


ふー。っと深呼吸メアリーが深呼吸をする。

「では行きます!!」


そう言ってメアリーはレイスに直進し、剣を突く。速度はかなり早い。それをレイスは紙一重でかわす。


(は、速い!!)


しかし、そう思ったのも束の間。連続でレイスに向かって、剣での攻撃を繰り返す。


それをレイスはかわし続ける。

メアリーの表情は先ほどから変わっていない。息切れをする様子がないため、こちらから仕掛けることにした。


メアリーから少し距離をとり、仕切り直す。

だが、メアリーは攻撃の手を止めたない。


メアリーは、レイスに向かって風魔法を繰り出す。

見えないことはないので、避け続ける。


だが、一瞬の隙にメアリーは間合いをつめ、レイスの身体を突き刺した。

だが、その姿は霧のように消えた。


次の瞬間には首もとに衝撃をうけ、メアリーは倒れ込んだ。

倒れたメアリーに向かって木剣を向けた。


「くっ…」

メアリーは悔しそうな表情をして奥歯を噛み締める。

「ありがとうございました。」

そう言って、レイスは立ち去ろうとする。


「まだよ!!」

すぐに立ち上がりメアリーはレイスを見る。


「もう1回…。」

表情は変わっていないが、その目にはうっすらと涙を溜めていた。


(負けず嫌いな人のようだ…)

「わかりました。」

そう言って、レイスはメアリーに向き直る。


「次は本気で…行くから。」

そう言って、メアリーは魔法を放つ。風魔法だろうが、だが先ほどとは明らかに違う。

(攻撃が見えない…)


レインは横に飛んで回避する。しかし、足に傷を負ってしまった。

そして、その足が動かなくなる。

(痺れ毒…。これがプロトン子爵家に伝わる秘伝の技、【不可視毒風(ヴェノムブラスト)】)



「安心して…。解毒薬はちゃんとあるわ…。」

そう言って勝利を確信し、近づいてくる。


「お気遣いありがとうございますっ!」

そう言って、足の切り口から血液を大量に放出する。


「!!」

レインの足から出た血は触手のような姿に変形する。


その触手は分裂し、メアリーを襲う。何本かは回避できたが、結局捕まってしまった。

拘束したメアリーにまた木剣を向ける。


「降ろして。」

「わ、わかりました。」


そう言って、レイスはメアリーはおろす。


「もう1回…。」

「もうそろそろ夜が遅くなるので、お暇しても?」


「わかった。これが最後。」

「わかりました。」


そしてまた2人で木剣を打ち合った。

今日、レイスはメアリーに負けることはなかった。




◆




メアリーと初めて会ってから1年がたった。

あれから、2人は会うたびに剣を交えていた。


レイスもメアリーも多忙ではあったため、頻繁に会うことはできないでいたが、できる限り時間を合わせて会うようにしていた。


そして、今日も剣を交えていた。これは恋人やカップルが2人で会ってするような事なのか…とレイスは思っていたが、当初に比べれば距離感は縮んでいるような気はしていた。


だが、今日はいつもと違うことをメアリーは言った。


「レイス。明日か3日後の昼って空いてる?」

「明日なら空いているけど、どうしたの?」


レイスがそう言うと2枚のチケットを目の前に出した。劇場の観覧チケットだ。


「父が商人からコネでもらったそうなの。一緒に行かない?」


「これは演劇?」

「そうよ。レイスは見たことある?」


レイスは暗殺に関すること以外は全て禁止されている。こういった類いのものも同様だ。


「ないね。メアリーは?」


メアリーは首をふる。

「私もないわ…。」


(せっかく誘ってくれたんだ。行こう。それにこれなら父上も反対はできないだろう)


「わかった。じゃあ、行こうか。」

レイスは快く了承した。


「ありがとう。明日は10時頃に街の城門の前に集合でいい?」


「わかった!」


そう言って、レイスはプロトン子爵家を後にした。








次の日、レイスは少し早めに城門前に待っていた。

シリウスの許可も得られ、少しお洒落に着飾っていた。


少し待つとメアリーがやってきた。

白いシャツに赤いミニスカートを履いている。

いつもと違う服装に新鮮さを覚えてレイスは言った。


「と、とても似合っているね。その服装」


「ありがとう。レイスも素敵よ」

メアリーは表情のない顔で淡々と答えた。



劇はブルガリア王に仕えていた初代剣聖の物語だ。貧しい家庭で生まれた少年が戦に出て、武勲をたて出世していく物語だ。

役者の迫真の演技とストーリーによってレイスは没入していった。

特に戦闘シーンの演技はかなり洗練されている。現実の戦闘においては甘いところが多いが客への魅せ方を心得ている。そんな演技だった。



あっという間に劇が終わり。レイスは余韻に浸ってしまっていた。


そんなレイスの正面に立って、メアリーは言った。


「楽しんでもらえたようね。」

「ああ。良いものを見れたありがとう。」



メアリーも表情は変わらないが、声の感じからして楽しめたのだろう。



その後は、2人で劇のことを話ながら帰路に着いた。


レイスはメアリーを屋敷まで送ると街の露店で密かに買っていたものを手渡した。輪型のバンスクリップだ。

メアリーが使っているヘアゴムが傷んでいるような気がしたからだ。


「これは今日の御礼。ありがとうメアリー。」

そう言って、メアリーにバンスクリップを手渡した。

「ありがとう。レイス」

そう言って、メアリーは直ぐに着けてくれた。


だが、まだ終わりではない。レイスはいつか来るであろう時に備え準備してきたものがある。



レイスは魔法で水を生成し、花の形に変形させ、それを凍らせた。

さらに花の部分を赤くし、茎の部分を色付けしてから、メアリーに膝をついて差し出した。


「溶けない氷で作りました。」


「永遠の愛を貴方に捧げます」

これは演劇の舞台で初代剣聖が婚約者に向かって告げたプロポーズの言葉だ。花を渡すところまで全て再現した。

このシーンを見たときからレイスはこうやって渡そうと心に決めていた。


「!!!」

レイスはメアリーの表情を見て驚いた。


「あ、ありがとう…。これからもよろしくね。レイス…」


「…………」

そしてレイスは何も言えなくなった。



しばらく沈黙が続き、レイスはようやく言葉を発した。


「これからもよろしく。今日は楽しかったよ」


そう言って、レイスは屋敷を跡にした。




◆



帰りの道中ずっと頭の中から離れなかった。


メアリーが花をもらったときに見せたあの笑顔が。


顔が紅潮し、目を潤ませて優しく微笑むあの顔がレイスの心に深く刻まれた。


(次はいつ会えるかな……)

そんな充実感を確かに感じながら。屋敷に帰宅した。


しかし、その後2人が会うこともうなかった。



………………



あれはもしかしたら初恋だったのかもしれない。

レインになった今も時々思い出す。


だが、いくら思い返してもあの笑顔を取り戻すことはできない。


クロード子爵家もそしてレイス=クロードという名前も……


もう存在しないのだから。








当作品を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。

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