レッドドラゴン掃討戦①
悪魔召喚を行った翌日。朝から家にエルザがやってきていた。悪魔の少年はエルザの気配を感じて上の階に隠れてくれたため、発見されずにすんだ。
大きな任務があるらしく、助力を求めてわざわざ来てくれたようだ。殺しの仕事だという。しかも大量に人を殺すような依頼だ。
基本的にレインは自分がやりたいと思える仕事でないと受けないようにしたいと思っている。
しかし、1人で生きることは過酷だ。それに月光丸という養う存在がいると、金はどうしてもいる。
男爵家の書類漁りも本当はあんまり乗り気ではなかった。だが、受けざる得なかった。一昨日、カジノで負けてしまったからだ。
ただ今回は別意味でやらざるをえなかった。悪魔の少年に肉体を与えないといけないからだ。
悪魔の少年は明後日には存在を保てなくなる。肉体の取得を急ぐレインからすれば、好都合な話であった。
「レイン君。朝早くに来てごめんね~」
エルザが手を合わせてそう言った。
「だ、大丈夫ですよ。」
目を擦りながら、そう言った。
「それなら良いんだけど、かなり眠そうだよ?」
「月光丸が来てからは無理やり起こされているんで、気にしないでください。」
エルザは月光丸を連れていないことが気になった。
「今日、月光丸ちゃんは?」
「今日の朝はお留守番です。任務の内容次第では夜連れていく可能性もありますけどね。」
「危なくない?」
オロチの討伐の際は、月光丸を置いてきていた。
エルザからすれば当然の疑問だったのだろう。
「問題ありません。月光丸はかなり知能の高い猫です。戦闘以外で助けてもらえると思うので」
「まぁ…レイン君が良いならかまわないけど、今回はレイン君1人での任務だから…。月光丸ちゃんを守れないわよ?」
「大丈夫です。敵の前には出しませんから」
(まぁ…。今日の月光丸には護衛がいるしな)
あの悪魔の少年のことだ。彼が肉体に宿る時に暴走してしまう可能性があるため、レインは側で見ていなければならない。そうなると、月光丸が1人になる。仲間外れはかわいそうなので、連れて行くことにした。
(それにしても、1人なのは好都合だ。エルザさんは感がかなり鋭い。一緒に同行してしまえば、悪魔の少年に気付いてしまう可能性がある。)
レインはこの件を隠しておきたかったのだ。
そう思い、レインは昨日の月光丸との会話を思い出す。
……………………
『レイン。わかってはいると思うが、コイツの事は気取られるなよ?』
コイツとは悪魔の少年のことだ。
『わかっているよ。』
レインは月光丸の存在がバレてしまった失態をすっかり忘れ、軽くそう返した。
『お前は仕事の時以外は少し警戒心が足りん。追われている立場というのに』
『そうかな~』
『2日前酔いつぶれてここまで運ばれておったのはどこのどいつだ?』
『くっ!!』
(コイツ。痛いところを突いてくるな。)
『それにお前以外のところから情報が漏れることもある。』
(僕以外のところ?)
そう思ったときに月光丸は続けて言った。
『あの女。エルザと言ったか?あやつはお前の正体に気づいておるぞ!』
『はぁ?嘘だろ?』
レインは驚愕した。
(僕が何かやらかしてしまったのか?)
『まぁ、仕方なかろう。あやつはかなり感が鋭い。気をつけよ。』
『いや、気をつけろって僕はもうバレてるじゃん…』
月光丸はそれを聞いて、レインの足をパシッと叩いて言った。
『お前自身の正体は手遅れじゃが……。こやつは違うだろ?』
『確かに……』
(さて、どうするか…)
そんなことを考えると月光丸は言った。
『だが、あやつはお前のことを口外するつもりは無さそうだぞ。それにお前の事情も把握しとったわ。それよりもこやつの肉体の事をしっかり考えよ。』
レインは月光丸に言う。
『そんなことってお前…。』
『相手の精神を読みきるこの私がいうのだ。大丈夫だ。』
おそらく月光丸から見て、エルザがレインのことを口外することは極めて低いと考えているのだろう。
『わかった。お前の言を信じる』
『それでいい』
それに問い詰めたりすることはできないだろうとレインは思っていた。せっかく作った人間関係を壊したくなかったし、エルザはかなりレインに気を許しているようにも見えたからだ。
◆
エルザと共にトレントに入ると、ザックが歓迎してくれた。
本当はお酒を飲みたかったレインだが、我慢して紅茶を頼んだ。
それからザックが切り出した。
「レイン。お前、オロチの掃討戦の時にレッドドラゴンのリーダーを倒しただろう?」
「……?オロチのリーダーではなくて?」
(……そんな人いたか?)
「レイン君が最後に戦った男よ」
思い出せずにいる。レインにエルザが言った。
「ああ、あの野蛮な人か…。確かにそこそこ強かったね」
「レッドドラゴンのリーダーといえば、力によって1から勢力を作ったと言われてる武闘派の元騎士だ。それをそこそこ…か。」
ザックはあきれるようにレインに言った。
「今回の作戦は同時多発的に行うレッドドラゴンの掃討作戦だ。今レッドドラゴンはリーダーを失い、内部は荒れている。リーダーの力によってまとめられていた組織だ。」
「そのリーダーがいなくなれば、その座を巡り幹部たちは次に誰がリーダーになるかを力で決めるのは当然のことだ。」
「そこをつき、レッドドラゴンを壊滅させる。それがクライアントの依頼だ。」
「俺とエルザはクライアントが率いる軍と共に本拠地を襲撃する。」
(…マスターも戦うのか…。まぁ、この人もそこそこ強いから依頼がかかったのか?)
レインはザックと会った時の事を思い出す。その時に見たザックの攻撃はかなり速かった。
恐らくレッドドラゴンのリーダー、グランと同等レベルの腕前は持っているだろうと判断した。
「それで僕は何を?」
「お前に依頼したいのはレッドドラゴンの盗賊部隊の討伐だ。いわゆる人身売買を行うために商隊などを襲撃して人をさらう実働部隊だ。」
ザックは地図を取り出し説明を行う。
「ここから東側にある山間部の街道に出没する盗賊団だ。護衛をつけた商人や貴族も被害に会っている。」
もちろんだが、護衛には傭兵や元騎士団出身者など戦闘に長けたものがついてる。にも関わらず被害が出ているということは相手は実践に長けた連中だということなのだろう。
「王国の騎士団も派遣されたが、討伐することは出来なかった。」
「へぇ…王国騎士団でも太刀打ちできなかったんだね…」
レインは少し驚いたような顔で呟いた。
「いや、あいつらは用心深くてな。勝てない相手だとすぐに逃げてしまうんだ。だからアジトの場所すら判明していない。」
「お前は索敵を行い、見つけ次第殲滅しろ。ないと思うが、成功が難しそうならアジトの場所を発見するだけでいい。本拠地を潰した後、俺達で潰す。」
「了解した。」
それを聞いてザックは頷いた。
「何か質問とかは…ないか?」
「じゃあ…1つだけ」
レインはダメ元で聞いてみる。
「この案件のクライアントの事を教えて?」
ザックは訝しげな顔でレインを見る。
「これは規則でな。依頼主の事は教えられない何か問題あるか?」
「いや?ただそれなら依頼主にも僕の情報は伏せてもらえない?」
「ん?どうしてだ?」
ザックはレインの目を見てそう言った。
「僕には僕の事情があるんだよ。」
(恐らくこのクライアントはエルザさんの言っていた貴族のクライアントだ。)
レインはザック、エルザ、ディランのことは信用している。だがレインの正体を知ったクライアントはレインをどうするかわからないからだ。
(それに…僕の前に姿を見せて、対話をしない限り信用はできない)
「了解した。クライアントに聞かれてもお前に関する情報は一切出さないと約束する」
「ありがとう。約束だからね」
レインが無機質な眼でザックを見る。
「当たり前だ。俺もお前の信用は得ておきたいからな…」
◆
作戦開始される夜だ。盗賊達の本拠地の割り出しを計算し、日が沈み始める夕刻頃に悪魔の少年と月光丸を連れて家出た。
盗賊達が出る街道までは10キロ程度。
レインは足元に細長い楕円形の水玉を作り出し、その上に悪魔の少年、月光丸を乗せて移動を開始する。
レインは飛行魔法が使えない。
ある程度の魔法なら見ただけで模倣できたりするレインだが、飛行魔法は難易度が高く独学での習得を断念した。
レインが街道に到着すると辺りはすっかり暗くなっており、一寸先はほとんど何も見えない暗闇だ。
道路も舗装されておらず、街灯もないことからあまり整備が行き届いていない事がわかる。
だが、レインにとっては好都合だ。比較的暗殺者は暗闇に馴れている。仮に眼が見えなくなったとしても、音と魔力反応である程度物や人の位置が把握できる。
レインは眼を閉じて千里眼を発動した。
長い街道の奥まで視界を拡張させた。
これは死体…?
血まみれになった無数の兵士亡骸がそこかしこに転がっており、その横には扉が開かれた状態の馬車があった。馬車はごく一般的に商人が使用するような質素なものだった。
死体の残存魔力と血の乾き具合からみて死んだのは今日だろう。
鎧姿の人間しか倒れていないから多分馬車に乗っていた人間は連れて行かれたと考えられる。
『これから拠点を特定して襲撃するけど、多分人が捕らわれている。この人達は助けようと思うからそのつもりでお願い。』
レインはその悪魔の少年に言った。
『承知いたしました。』
『あと千里眼で確認したんだけど、街道にはここ以外一切人影がない。だから、本拠地は山中にある。これから探すよ』
そう言ってレインは東にある山に向かって千里眼を発動する。
上空から山一体を見渡し、漏れがないように探っていく。すると山の南方にある岩場から微かに明かりが出ていることに気づいた。
その辺りを入念に調べると、漏れている光は洞窟の中から発せられており、岩場全体を透過させ、内部を見る。
「…見つけた」
そう呟いたレインの顔はニヤリと笑っていた。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




