悪魔の提案
「君は喋れたりするの?」
僕は召喚された悪魔の少年に問いかえた。
『はい。問題ありません』
(助かる…。でも、これはテレパシー?)
『ただ私は実体がなく、音で伝えることはできません。声帯がありませんから…』
意志疎通は可能なようだったから、レインはこの少年に対して聞けるだけの事をは聞いた。
彼は太古の昔から存在する悪魔だそうだ。
ここには召喚に応じて来てくれたらしい。
召喚により、一時的に僕は悪魔を使役できる状態になったようだ。
一時的である理由は肉体がないからだ。肉体がない場合、悪魔は2日程度しか存在を保つことが出来ないようだ。
召喚された際は月光丸の殺気に気圧されて臨戦態勢になった。だが、今は完全に服従した状態になったらしい。
月光丸の事についてはテレパシーで口封じをされたらしく、話すことは出来ないとのことだ。
これを聞いて月光丸を見る。
(月光丸は確実に魔法を使える上に意志疎通も可能だ…。なのに、月光丸は俺とコミュニケーションを図ろうとしたことは一度もない…)
残念ではあるが、仕方ない。
日中ずっと一緒にいるとはいえ、会ってまだ3日だ。
でも、一応試してみる。
『月光丸。僕とは話してくれないの?』
レインはそうテレパシーで月光丸に問いかけた。
すると、月光丸が魔力を使うのを感じた。
『……貴様がどうしてもというなら、話してやらんこともない……』
「…………!!!」
(おお!!素晴らしい!!!意志疎通ができるぞ)
『全く大袈裟なやつだ。まぁ、悪い気分ではない。飯の褒美だと思い、ありがたく享受しろ』
そう言いながら、月光丸は肉球をぷにぷにと押し付けてくる。
(偉そうだけど、可愛い……)
『ありがとね!月光丸。君は悪魔だと思うんだけど、何故食べ物を食べるんだ?悪魔が食べるのは人間の悪感情って聞いたことある気がするけれど…』
『それは今の私は猫だからだ。私が宿るこの肉体を維持するために飯は必要だからな』
『肉体が維持できなくなった場合、君達はまた精神体に戻るのかい?』
『そうだ。そして新しい宿主を探す。だが肉体がなくとも存在が消えることはないからな』
(……?存在は消えないのか?なら?)
『そこまでして、現世で存在を保とうとするのはどうしてだい?肉体がない方が食べ物にも困らないんじゃない?』
『それに悪魔に取り憑かれた人間は理性が失われ、悪魔から得たあり余った力で暴走するんだろ?それならお互いのために関わらない方が良いんじゃない?』
レインは疑問に思ったことをそのまま言った。
『この猫に取り憑いたことを怒っておるわけではなさそうだな……』
レインの言葉は月光丸に憑く悪魔を遠ざけたいかのような発言だった。
『純粋な好奇心だよ。僕が見つけた時にはもう君が憑いていたんだ。君とそしてまだ白猫の魂が残っているなら、両方とも僕のペットだよ。』
『この私をペットだと?高位の悪魔であるこの私が?』
月光丸は目を細めて言った。
『あれ?納得してくれていると思ったんだけど、違う?』
レインは疑問そうにそう言った。
『違うな。お前は私に対して面倒を見ると言っただけだ。それにペットになることを了承した覚えもないしな』
(え~。それはペット言うんじゃ?)
『ペットじゃない!』
(埒が明かない。ひとまず、話を本筋に戻そう)
『ああ、悪魔が肉体を持ってまで現世に顕現する理由だったか?』
(……ちょっと待て!さっきからおかしい!こいつ心を読めるのか?)
『読める!!心を落ち着かせろ。話が進まん。』
『……はい。』
レインは気になることが次々と出てきたが、ひとまず、話が進まないので、疑問を心の奥底に沈ませる。
『お前は何の目的もなく、何年も狭い部屋にいろと言われたらどう思う?』
『さすがにキツイね。滞在の年数によっては発狂するかもしれないね』
『その苦痛が肉体が得られていない私達の感覚に一番近いな。肉体を持っていない場合、悪魔の意識は自身の精神世界に閉じこもることになる。』
(なるほどね……)
『閉ざされた空間外に自由な世界が少しでも見えたらどうする?私ならその空間をこじ開け、自由を求める。』
『悪魔にだって感情はあるんだぞ。』
(確かにこれは……気持ちはわかる。)
『そうだ。この感覚はお前にもわかるはずだ。家という鎖に繋がれて思うように生きられなかったお前ならな……レイス=クロードよ。』
(!!!!)
『これは私の権能一端だが、相手の精神と記憶を読み解くことができる。』
『月光丸。お前天才かよ…。俺でも出来ないぞ。そんなこと…』
『フッフフフフ。もっと褒めよ』
そう言って月光丸はふんすと息を吐いた。
『無論。私も自分の存在をできるなら隠したい。だからお前の秘密を暴露することはないから、安心するがよい。』
レインはその言葉を受けて安心した。
『なぁレイス。いやレインよ。私と取引をしないか?』
月光丸は真っ直ぐレインを見つめて言った。
『月光丸が……。僕に取引かい?』
『疑うわけではないけど、そんか感じで来られるとペットして愛でていたような甘い態度は見せられないよ。』
レインを見つめる月光丸の目を見つめ返す。
『お前には2つの事を求める。ここから先、決しては私はお前に対して虚偽の言葉述べないことを誓う。』
『うん。続けて?』
レインは真剣な表情をして、続きを促す。
『うむ。私がお前に求めることは2つある。』
『1つ目は、こやつに肉体を恵んでやってくれ』
そう言って、悪魔の少年を肉球で差す。
『こやつは私に忠誠を誓いおった。故に今後も側仕えをさせたい。本来は私自身が用意してやりたいがこの体は非力だ。権能は使用できても戦闘力はほとんどない。だからお前にお願いしたい。』
『中々、イエスと言えないお願いだね。彼が顕現した後、僕の親しい人を殺す可能性だってあるんじゃない?』
レインは当然の指摘をする。
『ならば、顕現が完了した際はお前の血を大量に服用すること。これを契約の条件としようではないか。それならどうだ?』
『……ならいいよ。』
レインは少し迷ったが、了承することにした。
月光丸に飲ませた血は未だに効果を発揮し続けている。
現在レインは月光丸に対して、凶暴化しないように精神を制御している状態だ。
月光丸は精神魔法に長けた悪魔だ。この月光丸を制御できるなら、この少年も制御できると考えたからだ。
『そう言うと思うたわ。お前の血操術による精神支配はかなり強力だからな。』
(もっと褒めていいんだよ…。)
『図にのるな……』
(月光丸の真似しただけなのに怒られた……)
『2つ目はお前の体に私を憑依させよ。』
それを聞いて、レインの目が鋭くなる。
『…………随分と大胆なお願いをするんだね。僕を無差別に人を殺し回る化け物にでもしたいのかい?』
口調は柔らかいがレインの顔は笑っていなかった。
『お前にこれを願う理由とそして悪魔の憑依についての誤解を解いておきたい。』
『言ってみて…』
変わらぬ表情で続きを促した。
『まず、私が使っているこの体は後数年が限度だろう。』
『!!!』
『元々死にかけていた体だ。私の力でなんとか動けるように繋ぎ止めているが、終わりは見えている』
(やはりか…。)
レインは月光丸に触れた時にかなり衰弱していたのを知っている。どれだけ飯を与えてもほとんど改善はされていなかった。
『こやつの魂も必死に生きようとしておるが、それだけで情況は変わらん。私の権能を使用すれば改善できるが、そうすると改善する前にこやつの体が壊れる』
『…………』
悲惨な現実にレインは黙ることしかできなかった。
『そして、私がお前を求める理由だ。』
一呼吸おいて月光丸は話始める。
『お前には強靭な肉体と精神魔法を使える才。そして、魔法を使い続けられる魔法力がある。』
『私は数千年の時を生きてきたが、これ程良い器に巡り会えたは始めてだ。』
『そして、憑依することによりお前は私の権能を存分に使用できることができる。まだ全てを教えていないが、私を上手く使役できればお前は何段階も成長することができる。そして私はそれが可能だと思っている。』
『その前に憑依によって、理性を失い凶暴化するんじゃないの?』
当たり前のようにレインはそう返した。
『それは悪魔の魂と精神が被憑依者の魂と精神に馴染んでいないがゆえに暴走する。仮に私が今お前に憑依した場合も同じようになるだろう。』
『確実にお互いの精神と魂が喧嘩するからだ。』
『そして暴走した末に悪魔も人間も魂共々滅んでしまうことになる。宿主の魂の消滅は憑依した悪魔の魂をも消滅させることになる。』
『これが私を信用して良い理由の1つだ。お前の破滅は憑依者である私の破滅にもなるからだ。』
(なるほどな……)
『肉体が馴染まずに暴走することもあるが、それは問題ない。宿主が自主的に受け入れる場合は上手く馴染ませることができる。だから、悪魔は抵抗力の少ない死にかけや死体に憑依することが多い。馴染まないケースの多くは宿主が抵抗しているからだ。』
(なるほどな……。嘘は無さそうだ)
後で契約の魔法を使用する予定だが、話ぶりから嘘はないだろうとかんじていた)
『どうやって魂と精神を馴染ませるんだ?』
検討する上ではやはり具体的な方法は知って起きたかった。
『魔力交換が最適だな。一回ではだめだ。ある程度は時間が必要だと思え。』
言い終わった月光丸はレインの顔をじっと見ていた。
『私から言えることは以上だ。答えを聞かせてくれるか?』
レインは少し考えて言った。
『フェアじゃないな…。お前は俺の心と記憶を読むことができる。でも僕はそんなことができないからお前がどんな存在なのかもわからない。』
『つまり…。私という悪魔のことを知りたいということか?』
『ああ…そういうこと。』
『それは教えるとも、お前が私との契約を受けるならな。』
溜め息をついて月光丸に告げる。
『まぁ……。そういうことだね。僕達はまだお互いを完全に信用しきれていないということだ。』
『……』
それを聞いて月光丸は押し黙る。
『こういうのは信用が大事なんだよ……。多分ね。ザックもそう言っていた。』
レインは淡々と続ける。
『お前も俺の心と記憶を読めるが、僕という人間を味方にするにはまだ不安があるんだろう?だがそれは僕も同じだ。』
『なら……断ると?』
『いや?この場で決断を出すのはやめておくよ』
『……』
『決断するのは魔力交換をして、適応可能になってからでも遅くはないだろう?』
じっとレインを見つめていた月光丸は口を開く。
『よかろう。では明日から始める。こやつがくたばる前に決断せよ。』
そう言って、月光丸の禍々しい魔力は引いていった。
その後、悪魔の少年と本日の契約内容の誓約を行う魔法をかけた。
当作品を読んでいただきありがとうございます。
拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。




