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殺し屋レインのお仕事  作者: ナマケモノ
1章 無法都市編

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悪魔王


(ああ……。気持ち悪い…。でも昨日の負けた分は取り返さないと…)



レインはザックからの依頼でヘンブ男爵家の屋敷に白昼堂々潜入していた。


ヘンブ男爵は公金を不正に横領している疑いがあり、その証拠となる帳簿と金の流れがわかる書類を回収してこいというのが今回の依頼だ。


そしてこの依頼には約束事が2つあった。


1つ目は、盗難を悟られないこと


2つ目は騒ぎを大きくしすぎないために屋敷内の人間を殺さないこと



この屋敷は狭いが護衛が3人いる。だが、3人とも魔力が使えないようだ。だから屋敷全体に幻覚の結界を張り、自分を不可視化して潜入した。


今は全員で昼ご飯を食べている。その隙に目的のものを回収し、バッグに入れる。


(よし!!)


この国の男爵はそこまで収入的に恵まれていない。にもかかわらず、豪華な家具、豪華な料理。それだけでも、横領の件は黒だなと思えてくる。



そしてレインは綺麗にコレクションされている酒蔵に目がいってしまう。


レインはごく自然な動作で酒に手を伸ばす。


しかし、自分の理性が仕事をして反対側の腕で抑えつける。


(落ち着け!!昨日あんな醜態を晒したばかりだぞ!!)

そう自分に言い聞かせる。

深呼吸しながら、酒から手を離す。


用が済んだためレインが帰ろうとすると、ベッドの下に本が多数重なっているのが見えた。


レインは好奇心からその本を取って見た。そこには下着姿で胸とお尻の大きい女性の絵が書いてあった。これは画集だ。


「…………」


「奥さんも子供もいるのにけしからん!!」

そんなことを思いつつ、本を捲る手は止まらなかった。


そして自分を不可視したにもかかわらず、レインは辺りをキョロキョロと見渡した。

「いっ、1冊だけならバレないよね?」

そう言いながら、重なっている本全てに目を通し、一番のお気に入りを選び、鞄の中に入れた。


そして、何事もなかったかのように屋敷を後にした。




◆



レインはトレントで報酬を受け取り、自分が住む家に帰ってきていた。


荷物を置き、一息ついていると月光丸が寄ってきた。


「お~!!よしよしよし!!」

そう言って、月光丸をレインは撫で回す。


レインは月光丸の表情を見れば、ある程度何が言いたいのか徐々にわかって来ていた。


そして、撫でられている月光丸はどんな表情をしているかというと、無表情でじっとレインを見つめていた。


(……そんなことはいいから、さっさと飯を寄越せ……って言いたげな目だ。)


ただ、これはあくまでレインの主観である。


今日は無法都市から出ていたため、帰りに買っていた生魚を月光丸に与える。


月光丸は魚の骨を噛み砕くを音をさせながら、生魚をたいらげる。


月光丸を飼い始めてからは、レインの中で少しずつ寂しさが和らいでいってるを感じる。


(ありがとう……)

感謝の念を月光丸に抱き、頭を撫でる。



月光丸を撫で終わると、ブラックマーケットでオルストンから購入した論文に目を通し始めた。


この王国では聖教の影響で悪魔に関する書物や記録は全て焼却されている。

そんな中よくここまで沢山のことを調べられたものだ。レインは心の中で素直に称賛した。


この論文を見るだけで、どれだけ熱量をかけて研究を行っていたのかがわかる。


ただレインは悪魔を見たことがない。月光丸に憑いた悪魔の魔力は見ることができるが、悪魔の姿は見られていない。


故に懐疑的だった。

だから、本当にいるのかどうかも怪しいと思っていた。



しかし、レインは考える。

オルストンは月光丸を見たときに『あの方』の雰囲気によく似ている…と。


オルストンはその存在に対して相当執着しているように感じられた。


レインは悪魔憑きは病気の一種である可能性も考えていた。だがあの様子を見て、悪魔は本当に存在いるのかもしれないとそう思うようになった。





この論文によると全ての悪魔は『悪魔王ディアマンテ』から生み出されたということらしい。


このディアマンテにはいくつかの通り名がある。

【悪魔王】、【悪魔の始祖】、そして【魔王】。


ディアマンテは魔王という通り名が一番よく知られている。



太古の昔、この大陸は異大陸から来た魔族との戦いに明け暮れていた。魔族というのは魔力が豊富で高い知能を持った異形の生命体をひとまとめに魔族と呼ぶ。


だが、これは王国のみの話だ。

帝国を含む他の国々ではその中でも人を襲わない種族を【亜人】、人を襲う種族を【魔族】とよんでいる。


王国の外に行くと人間と亜人が共存しているのは珍しくない。



そしてこの魔族達はこの大陸の半分を支配していたこともあった。


この魔族達を取り纏めていた頭領が魔王という存在だ。


この魔王ディアマンテ率いる軍勢を相手に人類は絶滅の一途を辿ると思われていた。ある存在が現れるまでは……


その存在によって魔王は滅ぼされることになった。



それが【勇者】だ。

その勇者とその仲間達により魔王ディアマンテ討たれたのだ。



話をオルストンの論文に戻す。


そのディアマンテ配下の生き残りが、今存在してる悪魔達だそうだ。

だがその悪魔達も人類の善戦により、魔王軍全盛期に比べると遥かに数が減っているらしい。



だが、一番危険な悪魔達はまだ討伐されていないそうだ…


ディアマンテは滅ぼされる寸前に自分という存在を8つに分けた。

そのうち1つである。ディアマンテの本体は討伐されてしまったが、討伐された時に散っていったかつてディアマンテだった悪魔達は今だ行方がわかっていない。


その悪魔達の名称は論文に記載されていなかった。



これがオルストンが調べ込んで得た前知識だそうだ。ここまでだけでもレインは知らないことだらけではあった。




ここから、オルストンが研究していた内容についての話に入ってくる。


専門用語が多くて、理解しきれない部分は多かったが…。


どうやらオルストンは悪魔召喚を試みていたようだ。


悪魔と同じ精神体である精霊も召喚できるため、悪魔も可能ではないかというのが、オルストンの考えだ。


だが、それは当たっていた。

この論文では魔力の弱い個体であったが、召喚に成功したとのことだった。



素晴らしい研究だが…確かにこれは世に出せない。

レインはそう思った。



(でも面白そうだ…)

レインはこの悪魔召喚が気になり、実験としてやってみることにした。


魔法陣を書こうとしたが、書けるものがなかったため、レインは自分の血で魔法陣を書く。どっちみち、自分の血を魔法陣に含ませる過程がある。


これなら一石二鳥だ。そんな感じで軽く考えていた。



悪魔を呼び出したいと思った理由は使役したいと考えたからだ。




ちなみに精霊は使役できるらしい。ならば精霊でいいのではと考えそうなものだが、レインはできなかった。


かつてレインは精霊召喚をした過去がある。だが、レインは精霊を出現させることができなかった。


兄であるライアンとギールは呼び出せていたため、かなりショックを受けたのを覚えている。



魔法陣を描き、精一杯の魔力を思いっきり込める。


すると魔法陣が黒く染まり、黒い液体が1ヵ所に集まり、姿を形成していく。


(キタアアアアッ!!)


黒い液体が出ると月光丸はレインの肩に乗ってその姿が完全になるのを待つ。



そして、その黒い液体が徐々に開けていく。

姿は人間とほとんど変わらないが、その存在感、不気味さからそれが人間でないことはすぐにわかる。


容姿は男よりだ。髪は白色。少年のような見た目をしている。

顔には黒い2本の先が目から涙のように垂れている。

刺青のようなだ。


レインは論文のように召喚を成功させることができたが、論文と違う点がある。

あえて少年というが、この少年かなりの魔力量だ。


悪魔の強さの基準はレインにはわからないが、少なくともオルストンが召喚したものよりは遥かにつよいだろう。


だがそれも束の間、その少年は魔力を漲らせ、殺気をレインにぶつける。


(なるほど…。戦って屈服させる必要があるのか……)


レインはそう思ったが、よくよく見るとその少年の目はレインを見ているようで見ていない。


レインは肩に乗る。月光丸を見る。月光丸は怯えた様子を見せずにその悪魔を見つめている。


だが、その睨み合いはすぐに終わった。


月光丸は体に潜ませている禍々しい魔力を少年に対して威嚇するように放った。



室内の空気が一気に重くなるのを感じた。

この魔力は少年の放つ魔力量を遥かに超えていた。


『う…うう。』

その魔力を受けた瞬間、少年は少し声を上げ、顔が恐怖に歪んだ。


少年がゆっくり膝をつくのを見て、月光丸が歩みよる。

月光丸が前に来ると、少年はゆっくり頭を垂れた。



(え……?何これ?)


溜め息をついて、レインは言った。

「月光丸……。せっかく僕が召喚したのに…」

そうレインが言うと、少年はレインを睨み付けた。


しかし、それを見て月光丸は少年の頬を爪で切りつけた。


それにより少年は地面にうずくまる。


それをみて、月光丸は魔力を発する。

(ん?テレパシー?)

レインはそう思った。

(月光丸(こいつ)もしかして魔法使える?)


少年は顔を上げ、レインにも頭を下げた。

それに満足したような顔をして、月光丸はレインの肩にのる。


だがその月光丸の脇を持ちあげ、正面に持ってくる。


「月光丸。お前魔法が使えるのか?」

「にゃ~。」

月光丸がそう答える。


(うん。わかんない…。まぁいいや…。)


レインは思考を放棄した。




当作品を読んでいただきありがとうございます。

拙い文章ではございますが、楽しんでいただければ幸いです。

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