【第97話 働くゾーン団】
監禁部屋はかなり豪華な客間だった。マーガレットを案内したのは地球人の女性、レベッカだ。
「マーガレット、今日からここがアナタの部屋よ。あまり困らせないでくれるとありがたいわ。それから、これ。ブレスレットを付けさせて貰うわね!」
そう言って、レベッカが細いミスリル製のブレスレットをマーガレットに装着した。
「これは付けた人しか外せません。ようするに私以外、外せないの。だから、無駄なことしないでね」
ブレスレットを見て、マーガレットが尋ねた。
「これは魔道具ですか?」
「うん。よくわかったわね。これはリジェネリング。これを付けてると即死出来なくなるの。だから死のうと思うだけ無駄よ。無駄に苦しむだけだわ」
リジェネリングを擦りながら、マーガレットは質問を続けた。
「アナタは地球人なのですか?」
「そう。このZONで働いてるの。一階と二階のオフィスのほとんどが地球人よ。異世界の人は三階で働いてるわ」
「ここは本物の企業なんですか?」
「当たり前よ! ちゃんとした貿易会社よ! あと、傘下には日本にもあると思うけど曽根屋ってうどん屋チェーン店もあるけど知ってる?」
「は、はい。曽根屋なら北海道にもいくつかありました……」
「ね? ちゃんとした企業でしょ?」
マーガレットの知るゾーン団とはイメージがかけ離れていて、困惑してしまった。
「アナタ、彼らがゾーン団だと言うことは理解してるのよね?」
「当然でしょ? 奥尻や江差のことはネットで書かれてることくらいなら知ってるわよ」
「それなのに、ここで働いてるんですか?」
レベッカは少しだけ俯いて答えた。
「アメリカの大企業なんてゾーン団と変わらないのよ。どの大企業も脛に傷があるの。アメリカでクリーンな大企業なんてあるわけないじゃない! そもそも戦争で飯を食ってる国なのよ? 帝国のお姫様にはわからないでしょうけどね」
たまたま平和ボケした日本に嫁いだマーガレットには、にわかにレベッカの言うことが信じられなかった。
「アメリカってそんな国なのね……なるほど。だからゾーン団は江差から消えたのね……」
「そうかもね。私でも社長と同じ立場ならアメリカに移住するもの」
「社長? 社長ってさっきのトンプソンって人?」
「そうよ。だから、私は社長秘書って事になるわね」
◆
マーガレットから見たトンプソンという人物は、ゾーン団の一員には到底見えなかった。もしかしたら地球人ではないかと疑ってしまうほどだった。しかし、カリーナの攻撃を受けてもビクともしないところも見ていたので、間違いなく異世界人であることは実証されていた。
そんな中、監禁部屋に若い女性が入ってきた。
「レベッカさん、お飲み物でもお持ちしましょうか?」
「ありがとう。モナ。マーガレットはコーヒーで良い? 紅茶もあるけど?」
「はい。コーヒーで構いません」
「モナ。コーヒーを二つ。あと、軽食も運んでおいてね」
モナが笑顔で部屋から出て行った。
「今の方も地球人ですか?」
「そうよ。この会社には地球人の方が多いからね。なにか欲しいものがあれば私かモナに頼むと良いわ。モナも秘書室の人間だから」
荒くれ者のゾーン団が、よもや女性秘書を近くに置いておくなど有り得ないとマーガレットは思っていた。女と見れば襲う。それがゾーンの男たちだ。リリベットを攫う時も襲おうとしていた。それがゾーンの男たちなのだ。秩序を嫌い、欲しいものは奪う。そんなゾーン団が企業を運営しているのだ。マーガレットでなくても、異世界人なら誰でも驚くはずだった。
目の前のレベッカも、先程のモナもかなりの美女だった。そんな美女を前に普通に仕事をしていたトンプソンという人物に、マーガレットも強く興味を引かれてしまっていた。
(今の彼なら和平も有り得るかも知れない……。でも、彼の序列はカリーナよりも低いと言っていた……。あのカリーナでは和平は不可能だわ……)
しばらくすると、モナがコーヒーとドーナツを運んできた。マーガレットはレベッカと世間話をしながら、ティータイムを優雅に過ごしていた。
◆
社長室では、念願のマーガレットを手に入れたことでトンプソンがほくそ笑んでいた。カリーナの無礼などは全て帳消しに出来るほど上機嫌になっていた。
そんなトンプソンは、地球人の部下を連れてランチをとるために外出することにした。
「デビット! ランチを付き合え!」
デビットとは、トンプソンの右腕の男でベテランの交渉人だった。トンプソンは戦士タイプなので口が上手くない。そんなトンプソンを補佐しているのがデビットだった。二人は年齢も近く、プライベートでも付き合うほどの仲だった。
同じゾーン団からは地球人と親しくしていることを危惧する声も多かったが、トンプソンは完全能力主義で、能力のある人物は人種を問わず出世させていた。
トンプソンとデビットはよく行くダイナーへ来ていた。いつものランチセットを頼んで、食事中に今後のマーガレットの事を話し合っていた。
「ボス、例の実験を明日、港で出来るように手配しました!」
「早いな。早速、取り掛かるのか。明日は俺も立ち会おう。これが上手く行けば、ZONの経営権はお前に100%譲るつもりだ」
◆
トンプソンが話し終えた瞬間、ダイナーの窓から見覚えのある男の顔が見えた。
(勇者だ……。やはり、追ってきたか……。ピンポイントで西海岸に来たと言うことは、マローかゼロスが生きていたのか……。カリーナのヤツ。キッチリトドメをさしてこなかったのか!)
「デビット! 窓の外に勇者がいる。見るなよ! そのまま聞け。勇者には俺の顔はバレてないはずだ。勇者は衛星写真でしか俺らの顔を見ていない。デビットは今から外にいる勇者を尾行してアジトと仲間のことを調べろ。俺は今から勇者の前をわざと歩いてくる。顔がバレてないかを確かめておきたい」
そう言って、トンプソンは堂々と勇者の前を歩いてみた。しかし、ワタルはトンプソンと出会ったことがないので、全く気付かずにスルーしてしまった。
(やはり、バレてない!)
トンプソンは店内にいるデビットに目で尾行の合図を送ってから、そのまま会社へと歩いて帰って行った。
◆
デビットも堂々と勇者の尾行をして、彼らが滞在しているホテルを突き止め、勇者の仲間の写真を撮ってから会社へ帰還した。
「ボス! わかりました!」
デビットは滞在しているホテルを告げると、スマホで撮影してきた画像を見せた。
「ちょうど、勇者チームが夕飯を全員で食べてたんで撮りやすかったですよ! まずは、こいつは俺でも知ってるのが、詩音ですね。勇者と同じA-Classです。かなりの有名人です。それから、一番目立ってるのが頭の上にカエルを乗せてる男。それから、変な老人、あとは女のガキ二人。これが勇者の仲間でした。ちゃんとフロントで泊まってる人数も確認したんで、他にはいないはずです」
それを聞いたトンプソンは笑みがこぼれた。
「フッフッフ……そうか、本当に木べらの戦士は引退したのだな! マローの報告通りだ! 木べらの戦士がいないのなら、俺一人でも勇者チームには勝てる! よし! 明日の実験も予定通りで良いぞ。仮に勇者チームに見つかっても速攻で勇者チームを皆殺しだ! フッフッフ……」
トンプソンはしばらく笑いが止まらなかった。
(第98話へ続く)




