表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
97/256

【第96話 ZON株式会社】

 マーガレットを乗せた原子力潜水艦は、シアトルのキトサップ半島沖に到着した。潜水艦の上陸船でマーガレットを連れ帰ってきたカリーナは、すぐに拠点のある倉庫群の一角、『ZON株式会社』と書かれた看板の掛かる朽ちかけたボロボロの古い倉庫にマーガレットを連れて入っていった。


 中に入ると、外観からは想像もつかないほど最新のオフィスのような内装が広がっていた。半個室のパーソナルスペースでパソコンを見つめながら熱心に仕事をする者たち。ここだけを見れば、ごくごく普通の会社にしか見えなかった。


「ここがゾーン団のアジトなのですか?」


 あまりにも盗賊団のアジトらしくない光景に、思わずマーガレットがカリーナへ尋ねた。


「うるさいよ! 皆仕事してんのが見えないのかい!? 静かにしな! 余計なことを詮索しないでさっさと来なよ! アンタは地下だよ!」


 カリーナがオフィスエリアを抜けて建物の奥のエレベーターに入り、地下三階のボタンを押した。


 地下三階に着くと、そこも普通の会社のような作りだった。唯一、一階と違うのは、フロア中央にスーパーコンピュータが鎮座していることだった。


 一番奥の個室では、大柄な男がパソコンで仕事をしていた。


「トンプソン! 連れてきたよ!」


 カリーナが個室に入りドアを閉めると、マーガレットの手錠を外した。


「これで良いんだろ? 帝国の娘なんて即刻処刑すれば良いのにさ!」


 トンプソンは一旦、仕事の手を止めてじっくりとマーガレットの顔を見た。


「うむ。間違いない。帝国の娘だ」


「当たり前だろ!? 私が間違うわけないだろ?」




 ◆




 トンプソンはカリーナが一人で戻ったことを不審に思い、尋ねた。


「他の団員はどうした?」


「死んだ。タシロだけ最後まで残ってたけど、私以外は全滅だね! 本当にあれでも親衛隊なのかね〜。女を取り合っての仲間割れ! もう最悪!」


 トンプソンが明らかに怒りの色を浮かべた。トンプソンの秘書をしていた地球人アラサーの女性、レベッカが、その威圧感にガタガタと震え出していた。


 そんな威圧を感じたカリーナも、トンプソンの怒りに合わせるように話した。


「トンプソンもやっぱり腹立つよね! だから、モテない男ってタチ悪い! 女と見れば、いつも取り合ってさ。バカみたい!」


「カリーナ、少し尋ねるが、マローの作戦に女を抱いてる余裕など無かったはずだが? どの段階でそんな事になった。俺から見てもマローの立てた作戦は完璧だったはずだが……」


 カリーナはケラケラと笑って答えた。


「あぁ、あの作戦? そんなのはマーガレットを見つけた時点で親衛隊は勝手に動くに決まってるでしょ? マローとゼロスなんてマーガレットと勇者の誘導までが仕事だもん。マーガレットを拉致するのは私ら親衛隊の仕事さ! マーガレットの護衛の女がちょっとだけ可愛かったから仕方ないよね。可愛いと言っても私よりは若干下だけどね」


 トンプソンは深くため息をついて呟いた。


「馬鹿どもが……」


 かなり小声で漏らしたつもりだったが、カリーナにはしっかりと聞こえてしまった。


「ん? もしかして、私にバカとか言った? 西海岸の統括はトンプソンだけどさ、ゾーン団の序列では私の方が上なんですけど!!!」


 カリーナはトンプソンのデスクを叩き壊した。




 ◆




 秘書のレベッカが既に涙目になっていたので、トンプソンが指示を出した。


「レベッカ、総務部へ行って新しいデスクを用意してくれ。しばらくこの部屋には戻ってくるな」


 レベッカはそそくさと部屋を出ていった。


「さて、俺は統括としてカリーナを罰しなくてはならん。カリーナ。お前は次の異世界班と共に異世界へ帰れ! 二度と地球に現れるな! 貴様のようなバカが生きていけるほど地球は甘くない! 異世界へ帰って兄貴に伝えろ! 自分が愚か過ぎて出戻りになりましたと!」


 カリーナは思わずトンプソンに殴りかかった。戦士タイプのトンプソンには、魔道士タイプのカリーナではダメージを与えられなかったので、カリーナは腰の銃を抜いてトンプソンを撃った。


 当然、銃でもダメージは与えられず、トンプソンは腕でガードして血が滲む程度で済んだ。


「クソッ! 肉ダルマが! 硬すぎんだろ! アンタ!」


 銃声を聞いて他のゾーン団の男たちが部屋に駆け込んできたので、トンプソンが若手のゾーン団に命じた。


「怪我する前に全員、退避しろ! このバカが暴れるとだれも止められん!」


 わざとカリーナを煽って罪を重ねさせようと試みたトンプソンだったが、その思惑をカリーナも見抜き、逆に冷静さを取り戻した。


「本当にトンプソンは憎たらしい! その手に乗るかよ! わかった! 謝るよ! 謝るから出戻りの件は無しにしなよ。私は地球の食い物じゃないともう生きてけないよ! 下着だって地球の下着じゃないともう嫌なんだよ……」




 ◆




 トンプソンはまた溜息をついて、反省しているカリーナへ尋ねた。


「お前はマローの鑑定スキルの有用性が分からなかったのか?」


「鑑定スキル? あんなもの戦闘で使えないゴミスキルだろ? 実際にマローなんて超弱かったからね。私の魔法で一撃で死んだんだよ?」


「だからお前は馬鹿だと言うのだ。戦闘で使えないスキルをゴミと決めつける。まさかとは思うが、今回のマーガレットの翻訳スキルについてもゴミスキルだと思ってないか?」


 カリーナは隣にいるマーガレットを見ながら答えた。


「は? コイツのスキルが? 翻訳なんてゴミ中のゴミだろ! 私らは数週間で地球の言葉を覚えたよ? スキルなんて無くても言葉は覚えられるだろ? それに、コイツの誘拐は処刑するためじゃないのか? 帝国の箱入り娘だぞ? 我らの敵じゃないか! まさかスキルを使わせるために攫ったとか言わないよな! おい!! そんな事したら兄貴も絶対に怒ると思うぞ!」


「ふ〜、やはりわかってなかったか……。まず、マローの鑑定から説明してやろう。マローの鑑定は見たものの価値がわかるのだ。マローから見た俺は100億Qの価値があるそうだ。これは賞金首の金額が100億Qだからじゃなく、単純にこの俺の価値が100億なのだ。この俺が100億で、オーストラリアで出会った勇者は魔法剣を携帯してなかったそうだ。そんな魔法剣無しの勇者の価値は4億だそうだ。ちなみにスキルを覚醒させる前のマーガレットの価値が2億。マーガレットがスキルを覚醒したあとの価値が2000億だったそうだ。こうして、対象人物を数値化出来るのは直接戦闘では使えないかも知れないが、初見で誰が1番厄介な敵なのかが瞬時にわかるかなりレアなスキルだったのだ。貴様のせいで、その鑑定スキルを持つ唯一の男を失ったのだぞ! そもそもマローがいなければマーガレットの価値に誰も気づかないまま、ゾーン団の誰かがマーガレットを殺害していた恐れもあるのだ。さらに言うと、ゼロスの幸運スキルが無ければ勇者夫婦の家に招かれる事も無かったのだ。幸運スキルも今後、出てこないスキルかも知れないのだぞ? 今回の作戦の失敗はカリーナじゃ無ければ処刑レベルの損失だ!」




 ◆




 マーガレットは自分の価値を初めて知り、ここへ連れてこられた理由が何となく見えてきていた。


 自分が帝国の箱入り娘としてゾーン団から狙われるのは当然だと思っていたし、その覚悟もあった。ゾーン団と帝国の確執は歴史の教科書にも載っている程、異世界では誰もが知っている事柄だった。


 今から900年前。異世界に法も秩序も無かった。ゾーン団の祖先は、今のコナ国がある地域で暮らしていた蛮族だった。当時の世界には蛮族しか生きていけなかった。その末裔がゾーン団、つまり旧コナ国の国民だ。


 法も秩序も嫌う民族であったコナ国民にとって、力こそが正義だった。首領は必ず一番強い者が就く。今のゾーン団も、力で序列が決まっている。


 親衛隊に参加できるのは序列十位以内の者だった。今回の騒動で二名の親衛隊を失った。それだけでもカリーナの罪は重い。だが、カリーナは序列三位。カリーナを罰することは、序列二十位のトンプソンには本来難しかった。


 それが旧コナ国のゾーン団の在り方だった。蛮族の中のエリート集団がゾーン団なのだ。


 彼らにとって法と秩序の帝国や聖教国は敵である。その娘を捉えたのに殺さずに利用するというのは、カリーナに限らず他のゾーン団からも異質に見えていた。


 それでも、トンプソンはマーガレットの力を欲していた。トンプソンではどうしても出来なかった事を、翻訳スキルならば必ず出来ると考えているのだ。


 この場に連れてこられて自分の価値を知ったマーガレットも、ようやくここにいる意味を理解し始めていた。




 ◆




 マーガレットの胸の中では、ワタルと父の顔が何度も浮かんでいた。ここで自分が使い潰されるくらいなら、


いっそ——死のう…。


そんな考えが頭の隅をよぎった。だが同時に、そんな考えこそが、この場所の力に飲まれることだとも感じていた。


 今の自分にできることは、ワタルと父に迷惑をかけないよう、隙を見せず、耐え忍ぶことだけだった。


 マーガレットはカリーナを煽るように語りかけた。


「本当に愚かな女ね。マローさんの作戦通りなら全員無事に帰ってこられたのにね! 変な欲を出したから部下を二人も見殺しにして、本当に頭が悪いのね。同じ魔道士タイプでもマローさんは本当に頭の良い方でしたわ!」


 カリーナはギロリとマーガレットを睨みつけ、殴ろうとして手を止めた。


「ふ〜。危ない! 危ない! その手には乗らないよ! アンタは今、私に殺させようとしたね? さすが帝国の箱入り娘! トンプソン! コイツ目を離したら自殺するよ! さっきの秘書を24時間体制で付けときな! あと、若手に近寄らせないで! こんな帝国の箱入り娘でも抱こうとするやつがいるかもしれない! 帝国の血なんてゾーン団に入れるわけに行かないからね!」


 一度、冷静になったカリーナは、もはや煽られてもかわすことが出来るようになっていた。そんなカリーナを見て、トンプソンは思った。


(煽り耐性が付いている。スキルが派生したのか……?)


 カリーナは深呼吸をすると、部屋から静かに出ていった。


「あとはトンプソンに任せるよ」




 ◆




 カリーナと入れ替わるように、レベッカが総務部の若い男とデスクを運んで戻ってきた。そんなレベッカにトンプソンが命じた。


「レベッカ。このマーガレット嬢をVIPルームで軟禁しろ。24時間体制でレベッカが監視しろ。それと、マーガレット嬢。ここからは逃げられない。地下三階からはエレベーターでしか上に上がれん! エレベーターは網膜認証でしか動かん。逃げられないから拘束もせん! このフロアなら自由に歩いても良いがレベッカから離れるなよ。お前ならゾーン団から恨まれてることはわかっているだろ? それから自殺しても無駄だ。うちには最高のヒーラーもいる! 即死しない限り必ず治してやる! 無駄だと思うが自殺する気なら今すぐに試してみろ! すぐに治してやるからな」


 その言葉を聞いて、マーガレットの中でわずかに残っていた最後の選択肢すら、静かに閉ざされた。大人しく、レベッカの案内でVIPルームへと向かうしかなかった。


 地球人のレベッカは異世界の歴史について無知で、目の前のマーガレットがどんな人物なのかも全くわからないまま、VIPルームへと案内していた。


 二人の足音だけが、廊下に静かに響き渡っていた。




 (第97話へ続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ