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【第83話 侵略!そして侵略!】

 ワタルが別荘に帰ると、マーガレットとチックルが腹を空かせて待っていた。


「ねえねえ! ワタル! アジ釣れた? 私とマーガレットはちゃんとコアラに会えたんだよ! 凄く可愛かった! コアラのマーチのイラストよりも可愛かった!」


「そうだろ? コアラは実物の方が可愛いんだよ。日本ではパンダの次くらいに人気あるんじゃないかな。今から寿司を作るから晩御飯は少しだけ待っててね。マーガレットはご飯を炊いてくれる?」


 マーガレットがコメをといでいる間、チックルはパソコンの前に陣取って全身でキーボードを叩きながら明日以降の予定を確認していた。そんな中、リリベットがシイラを捌き始めたワタルとグレンに報告を入れた。


「本日、セキセイインコからの情報により、生存者がいるということが判明しました!」


 グレンとワタルが同時に顔を上げた。


「「は?」」


 グレンはリリベットの頭がおかしくなったのかと不安げに聞き返した。


「ん? 今、セキセイインコと聴こえたが、気のせいだよな?」


「はい! セキセイインコです! 小鳥の! その子が妖精さんに教えてくれたそうで、夫人が通訳してくれました!」


 その話を聞いてワタルだけは何となく話が見えてきた。


「なるほどね。グレンさん、フェアリー族は鳥と会話できるみたいなんですよ。俺も何度もインコと話してるフェアリー族を見たことがありますから」


「それにしてもインコの言うことで、アテになるのか……。まあ、生存者がいるかもしれないなら現地に行かなきゃならないな。場所はわかってるのか?」


「それが……ブラックマウンテンなんですよ……。インコや妖精さんじゃなければ行くだけでも大変で、我々だけで行っていいものかどうか……」


 グレンとリリベットが悩んでいる理由がどうしても飲み込めないワタルが尋ねた。


「そんなに高い山なんですか?」


 グレンが少しだけ困惑した顔で答えた。


「いや、標高は400メートルそこそこだよ。ブラックマウンテンってのはその名の通り真っ黒な山でな。人が消える山とも言われるくらい死亡率の高い場所なんだ」


「え? 400メートルで? そんな山で遭難できるんですか?」


「遭難なのか神隠しなのかさえ、わかってないのさ。オーストラリア大陸がまだ有人島だった頃から人類未開の地で、それは今も変わらない。登山用の道なんてものはないのさ」


「そんな所に生存者が……。でも、確かにそんなところだからこそ隠れていても不思議じゃないですね! グレンさん! 俺は救助しに行ってみたいです!」




 ◆




 グレンとリリベットがまだ悩んでいるそのとき、パソコンの前でキーボードと格闘していたチックルがハァハァと息を切らしながらワタルの元へ飛んできた。


「疲れた〜! 長文のメールを打ってたから疲れたよ〜。ワタル! ブラックマウンテンの事はもう手配したから大丈夫! さっきネットでカーコとキーコに頼んでおいたから! 明後日にはオーストラリア大陸まで飛んでくれるってさ! カーコのヘリコプターでブラックマウンテンに行こう! 生存者の村には割と人数がいるってインコ達が言ってたから、カーコがチヌークで来てくれるってさ!」


 カーコとキーコにフェアリーの姿は見えないが、メールでの会話は可能だ。それを利用して、チックルが全身を使ってキーボードを押してメールを作成していたのだった。


「え? こんなところにわざわざカーコが来てくれるのかい? めっちゃボッタクられそうだなぁ……」


 平和になったことでカーコとキーコは輸送ヘリを使ったヘリコプター輸送会社を設立していた。オーストラリアと聞いてカーコはノリノリでチックルの依頼を引き受けていた。


 一方、北海道八雲町ではカーコとキーコがメールを読んで大はしゃぎしていた。


「お姉ちゃん! 私も行くっす! オーストラリア! 一人での操縦はキツいよね? 交代でノンストップで飛ぶっすよ!」


「そだね! 二人で交代して飛ぼう! 空中給油も手配しておこう! ワタルさんってお金持ってるから、じゃぶじゃぶ予算を使っちゃおうよ!」


 カーコとキーコはウキウキで海外旅行の準備を始めた。


 そして翌々日の夜、二人はケアンズのワタルの別荘へと着陸した。


「ワタルさん! お久しぶりですね! ダラス戦以来かな?」


「カーコ! 本当にここまでチヌークで来られたの? 嘘だろ……」


 ワタルとグレンは庭のヘリポートに停まったチヌークを見上げて感心した。妹のキーコが解説してくれた。


「実は空中給油してきたんで、燃料代はかなり高いっすよ! 今のワタルさんなら楽勝で払えるっすよね? ボーナスも弾んでくれると嬉しいっす!」


 無着陸と聞いてグレンとリリベットが驚愕した。


「マジか! こんな女の子が北海道からケアンズまでノンストップで!? ハンターってのは皆レベルが高すぎるぜ!」


「チヌークが来てくれると、生存者が100人いても乗せられますね! 勇者様の妖精さんは優秀ですね!」


 ワタルとマーガレットにしか見えないが、チックルがドヤ顔でワタルの肩の上でふんぞり返っていた。姿は見えないものの、そんなチックルが容易に想像できたのでグレンもリリベットも思わず笑った。釣られてカーコもキーコも笑った。




 ◆




 翌朝。全員を乗せてチヌークはブラックマウンテンへと飛び立った。


 ところが、上空から生存者の村を探してみても村らしきものは見当たらなかった。山全体が草木に覆われていて、ヘリからの捜索は不可能だったのだ。


 そこでチックルが再びセキセイインコたちに会いに行き、インコの案内で村へと向かうことになった。チヌークは荒野の大木の前に降ろし、チックルとインコたちの帰りを待った。


 二時間後、チックルが飛んで戻ってきた。


「大変! 大変! ワタル! 大変なんだよ!」


「ん? 何が大変なの?」


「村は見つけたけど、生存者じゃなかった! ずっと昔からそこで暮らしてた人だった! あと、言葉が今まで聞いたことのない言葉を話してた! 日本語でも英語でもないよ?」


「言葉がわからないのに、チックルはどうやって会話してきたの? っていうか、彼らにはチックルが見えてるの?」


「あ! そういえば! 村のみんな、私のこと見えてた! あれ? どうして見えてたんだろ? 地球人なのに魔素を持ってるのかな?」


 ワタルとチックルの会話をマーガレットがグレンとリリベット、カーコとキーコへ通訳している。それを聞いてグレンがワタルに声をかけた。


「勇者様! もしかしてその人達はアボリジニじゃねぇか? いわゆる先住民だ。アボリジニなら妖精さんが見えても不思議じゃねえよ。アボリジニは残留思念を読み取れると言われてるんだ。それに、アボリジニってのは700もの種族がいて、700もの言語を使いこなしてたという話もある。妖精さんを見ても驚かなかったのも、納得できるぜ」


「アボリジニですか……。先住民なら救助の必要もないのかな。このまま帰りましょうか?」


 グレンは一応、衛星電話で本部に問い合わせていた。


「勇者様、チヌークで村の上空まで連れてってくれませんか? 私とリリベットで対話を試みてみます。差し入れでも持ってくりゃあ良かったぜ」


 チヌークはチックルの案内で村の上空まで飛んでホバリングし、ウインチでグレンとリリベットが降下した。しかしすぐに無線が入った。


「申し訳ないですが、妖精さんとマーガレット様か勇者様にも降りていただけますか? 言葉でのコミュニケーションが取れませんでした!」


 ワタルとマーガレットも現場へ降りた。チックルも当然、ヘリから飛び出して村へと向かった。




 ◆




 村に降り立つと、原始的な生活を営むアボリジニが50世帯ほど暮らしていた。


 チックルが歌いながら問いかけた。


「♪インガルナ・ヌンガ・ワラナ・ヨ〜♪」


 するとアボリジニたちが歌って答えた。


「♪カルタ・パニ・ムルガ・ビラ〜♪」


「この人達は200年前からここで暮らしてるんだってさ! 都市部への引越しはしたくないんだって」


「は? 200年?」


 ワタルが驚いていると、通訳を続けていたマーガレットが突然、声を上げた。


「あ!!! あわわわ………。大変です! ワタル! 私にもスキルが派生しました! 『翻訳』ですって!」


 異世界人は地球での経験がそのままスキルに派生することがある。マーガレットも異世界人だ。ずっとチックルの言葉をグレンやリリベットへ通訳し続けてきた積み重ねが、ついに『翻訳』スキルとして実を結んだのだった。


 ここからはマーガレットにも、チックルとアボリジニの歌の会話がそのまま理解できるようになった。


「どうやら、アボリジニには文字がないので、歌として歴史を紡いできたようです。チックルは『歌唱』スキルで彼らの歌の意味が分かるみたいです!」


 それを聞いたグレンとリリベットが唖然とした。


「200年前から……。そうか。イギリスの占領から逃げ切ったアボリジニもいたのか……」


 200年前のイギリス支配についてワタルもマーガレットも詳しくは知らないので、グレンとリリベットが気まずそうにしている理由がわからなかった。ただ明らかに二人は居心地が悪そうだった。


 救いは、200年前のことはアボリジニたちにとっても今はただの昔の歌でしかなく、恨みつらみの色はないことだった。


 グレンとリリベットはチックルとアボリジニたちの歌を黙って聞くしかなかった。ワタルも北海道在住の身として、200年前に何があったかがぼんやりと想像できたので、二人には何も聞かなかった。ただマーガレットだけが、歌の意味を全て理解しながら、200年前の地球人の歴史を静かに学んでいた。




 ◆




 やがて歌が終わると、アボリジニたちは一同をダチョウ牧場へと案内した。


 マーガレットが全員に向けて翻訳する。


「彼らはダチョウと香辛料や塩を交換してほしいそうです。あと、トカゲ軍を倒したお礼にワタルには、この卵を贈呈するそうですよ」


 マーガレットがアボリジニからエメラルドグリーンの大きな卵を受け取り、ワタルへ手渡した。


「これは何の卵? ダチョウの卵?」


「それが……私の翻訳スキルには『神』としか訳せなくて……」


「神の卵? まさか……ね?」


「ええ、本物の神様だとは思えないけど、トカゲ軍を滅ぼした戦士にふさわしい贈り物だそうよ」


 緑の卵を抱えてワタルが困っていると、チックルが『決断』のスキルをワタルに唱えた。途端に迷いが消えて、ワタルはすんなりと卵を受け取っていた。


「また、チックルのスキルだね?」


「エヘヘ、だってなんの卵か気になるんだもん! 私がちゃんと面倒見るから貰っちゃおうよ! 本当に神様が出てくるかもしれないじゃん!」


「うん。ここで断ると失礼になるかもしれないからね。ありがたく貰っていこう。日本に帰ったら電気毛布を買いに行こうか!」


 チックルは大喜びで卵をコンコンと叩いた。


「必ず私が孵化させるからね! 待っててよ! 神様!」




 ◆




 マーガレットの翻訳スキルのおかげで交渉は滞りなく進み、ダチョウと香辛料と塩の取引の約束を交わして、この日は一旦帰ることになった。


 ダチョウは先払いということで、マーガレットは仕方なくダチョウに縄を付けてワタルへ手渡した。


「ワタル、ダチョウなんて連れ帰ってもどうしましょうか?」


「う〜ん。ダチョウって美味いらしいよ?」


「え? この子を食べるんですか!?」


「まさか、ペットとして飼うつもり? こんな巨大な鳥は無理だよ! とりあえず、チヌークに乗せてもらえるかをカーコと交渉しないとね……」


 ダチョウを連れたワタルを見てカーコは愕然としたが、料金は言い値で良いとワタルが言うと急に商売人の顔になって乗せてくれた。


 初めて大空を飛んで、鳥であるにもかかわらずダチョウは震え上がっていた。そのダチョウをチックルが必死に励ましていた。


 200年間、文明に触れることなく逃げ続けてきたアボリジニたちにとっても、この日は新たな歴史を紡ぐための歌を作る一日となった。




 (第84話へ続く)



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