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【第79話 サンダーボルト作戦】

 帝国に懐かしい顔が現れた。



 頭にガマガエルを乗せた雨森だった。来翔の泊まっていた宿へ電報を受け取りやってきたのだ。



「良かった! 雨森さんはやはりガーヤにおられたんですね!」



「まさか、またこうして来翔さんにお会いできるとは思ってませんでしたよ! それにしても、よくオイラがガーヤにいるとわかりましたね!」



「実はガーヤだけじゃなくて、南の島のトーンと首都と一応、エルフの国にも電報を送ったんですよ。数打ちゃ当たるって事で」



「なるほど! さすが来翔さん! 知恵の回るお人だ! それで電報に書いてあったオイラへの頼みとは?」



「須佐ノ国の巻物職人を紹介してください!」



「おや? 戦闘ですかい? 来翔さんが巻物に頼るほどの強敵ですかい?」



「いえ、平和的な事で巻物が必要でして……」



 来翔は巻物の使い道を雨森に語り出した。それを聞いた雨森とデメタは思わず笑ってしまった。



「そいつはたまげましたぜ! なんて馬鹿げた事に巻物を使いになるんですか! でも、そこが来翔さんの面白れぇとこだ! やっぱり世界樹で木刀を作るような人には、我々では考えつかねぇ発想が出来るんでござんすなぁ〜」



「ゲコゲコ!」




 ◆




 数日後、来翔と雨森はシュルルルの森へ行き、フェアリーの国へ行くために再び小さな洞穴にシュルルルルーー!と吸い込まれて、フェアリーの空の大地へと降り立った。



 久しぶりの来翔を見てフェアリー達が一斉に飛びついてきた。



「来翔だ!ネーラだ!デメタだ!」



「来翔だ!お菓子ちょうだい!」



「来翔だ!ご馳走作ってー!」



 来翔は手荷物からお菓子を取り出してフェアリー達に配りながら尋ねた。



「皆、元気そうだね。クノンはいるかい?」



 すぐにクノンも来翔に飛び込んできた。



「来翔ー! 凄く久しぶりー! 私にもお菓子ー!」



「はいはい。クノン、今から東の果ての須佐ノ国まで飛んでくれないかい?」



「良いよ! お菓子くれたから!」



 こうして空の大地はネーラの並航スキルで東の果てを目指して動き出した。レフトが先行して飛んでいる。数日かけて、ようやく極東の国・須佐ノ国の上空へとやってきた。もちろん、メモルの隠蔽で空の大地は須佐ノ国の人々には全く見えていない。




 ◆




 人知れず須佐ノ国の首都へ降り立った来翔と雨森は、雨森の行きつけの術師がいる巻物屋へ歩いていた。須佐ノ国の街中は時代劇に出てくるような和風な街並みで、来翔は時代村を観光している気分になっていた。



「凄いですよ! 雨森さん。ここは僕の故郷の景色にそっくりです! と言っても二百年前の景色ですけどね」



「そうですかい。オイラも来翔さんの作る木刀や重箱を見て、近しいセンスの持ち主だとは思ってやしたぜ」



「ところで、雨森さんが使ってるガマの術の御札は一般的な物なんですか? あれってかなりのチートだと思うんですが……」



「あぁ、あれはオイラの特注品でさぁ。デメタ用のオリジナルでこれから向かう巻物屋の若手が書いてる御札です。オイラはただデメタから採れる油の量を増やしたいと注文したら、あんな風にデメタをデカくする御札を作っちまいやがったんです。デメタもあの御札が気に入っちまって、それ以降はずっとその術師に頼んで書いてもらってるんでさぁ」



「へぇ〜。油をたくさん採るためにデメタ自体をデカくするなんて、突飛な発想だよ!これから僕がお願いする巻物に通じるものがあるかも知れない」



二人はとある巻物屋へやってきた。店の丁稚が愛想良く雨森を出迎えた。



「毎度様! 本日もいつもの生活札ですか?」



「今日はオイラのガマの術の札を十枚と、コチラの旦那の注文を聞いて欲しくて来たんだよ。術師の弥生さんを呼んでもらえるかい?」



丁稚は作業場から術師の弥生という墨汁で所々汚れた作務衣を着た若い女の子を連れてきてくれた。



「雨森さん! デメタ! お久しぶりです! ガマの術の追加なんですって! ありがとうございます! ガマの術の御札を作るのは結構、楽しいんですよ! すぐにお作りしますので、ほんの少しだけ待ってて下さいね!」



「おっと! 弥生さん。ガマの術の札は後で良いんで、まずはコチラの来翔さんの注文を聞いてくだせぇ」



弥生がようやく来翔の存在に気づいた。さらにネーラの姿も見えていて、興味津々に来翔に尋ねた。



「あら? そちらの方は妖精さんを従えてるんですね! 徳の高いお侍様なのですか?」



「え? 弥生さんはネーラが見えてるの?」



「はい! 私は術師なんで魔力は強いので。今回の注文はコチラの妖精さんをデメタみたいに大きくするような御札ですか?」



「いえ、ネーラの巨大化はもう間に合ってます……インコも既に巨大化してるので遠慮します。僕が頼みたいのは雷の術の注文なんです」



「は? 雷の術でしたら定番品が売り場にたくさん並んでますよ? 雷は御札ではなく巻物になるので少々高いですが、術師なら誰でも書ける初歩的な巻物です」



来翔は今回の来訪の目的を静かに語り始めた。



「えぇ、雷の術については知ってます。数分間、広範囲に雷を落とすものと、狙った対象に大きな雷を何発も落とすものがありますよね? 僕が欲しいのはそんな戦闘系の雷ではなく、軽い雷で構わないのです。なんなら雷一発だけで良いんです」



「は? 雷一発? そんなもの敵に当たらなかったらどうするんですか? 雷は狙いが定まらないから、たくさん落とす必要があるんですよ?」



「それは攻撃しようとするからですよね? 最初から避雷針に向けて雷を落とせば、ほぼ雷は避雷針に落ちるはずです。僕が欲しいのはそんな風に雷一発分を出せる、巻物ではなく御札なんです」



弥生は考え込みながら、テスト用の模造紙にスラスラと墨を走らせた。



「う〜ん、一発の雷なら確かに札でも行けなくはないかな? でも、避雷針に落とすだけの雷なんて何に使うんですか? 特注になるから一枚あたり一万五千Qはかかりますよ?」



「うん、一万五千Qなら問題ないです。とりあえず、こちらが試作用の軍資金ですので、色んな強さの単発式雷の術札を何枚か作って貰えませんか?」



来翔は弥生に開発費として百万Qを手渡した。



「それなら、明日にでもまた来てください。明日までに、色んな大きさの雷札を試してみます」




 ◆




翌朝。弥生に連れられて、裏山に用意された避雷針の前に三人が並んだ。弥生が完成した雷札を来翔に手渡した。



「強さを五段階で作りましたよ。★の数が多いほど雷が大きくなってます。★一でも人が麻痺したり火傷したりするレベルですので気をつけて下さいね」



来翔はまず★五から試した。



「雷の術!」



ピカッ! ゴロゴロ、ズガーーン!



避雷針に滝のような太い雷が落ちた。人が喰らえば即死レベルの力強さだ。



「うん、完璧だ! でもやはり★五では強すぎるかな?」



続いて★二を試した。



「雷の術!」



ピカッ! ゴロゴロ、ズガーン!



避雷針に雨の日の空に落ちてくるような細い雷が来た。



「これだ! これこそが雷だ! これがよく見る雷だ」



さらに★一も試した。



「雷の術!」



ピカッ! ゴロゴロ、ズガン!



避雷針にさらに細い雷が落ちた。



「たぶんこれが一番理想かな? 弥生さん、★一以下の雷は難しいですか?」



「★一以下だと避雷針まで届く前に空中で消滅してしまいます。★一でも雨の日などは空中で散ってしまうかも知れません」



「そうだね。それなら、★二と★一を大量にコナ国に納品できますか?」



「それは構いませんけど、何枚くらいお作りしましょうか?」



「初回は、ざっと千万Q分です」



金額を聞いて弥生が唖然とした。



「は? 千万!? そんなにたくさんの雷札をどうするんですか!? めっちゃ気になります! めっちゃ気になります!」



あまりにも気になりすぎて二度言ってしまっていた。



「う〜ん、異世界人には少しだけ難しい話になるんですが、雷はパチンコ屋を動かすための電力にします。電力というのはからくりじかけの装置を動かすための魔力みたいなものです。僕らの世界では★二の雷程度で街の電力の一週間分だと言われてるんですよ。だから、★一でも十分に電力は足りる。でも★一だと空中で散ると言うことなら★二も買っておかなくちゃならないんですよ」



弥生は電力という謎の言葉を半分も理解できなかったが、即決してしまった。



「来翔さん! その蓄電池ってのを私にも見せてください! 私が直接コナ国へ行って現地で札を書きますよ! 今はまだ何を言ってるのかわかりませんが、なんか術師にとってでかいビジネスチャンスのような気がします!」




 ◆




こうして、弥生という若手術師と共に旧コナ国へと帰ってきた。その頃、ビリーはかつての闘技場の近くにあった巨大倉庫を買い取り、パチンコ屋としての改装を進めていた。



その改装には江差の来翔の宿屋の電気工事を請け負ってくれた松崎電機の松崎も参加していて、ソーラー発電と蓄電池の設置工事を進めていた。



「松崎さん、こんな所までありがとうございます!」



「なんもさ、ウチは奥尻島の異世界大使館の電気工事も請け負ってるからね! 異世界人には慣れてっからさ! それよりも雷の方は大丈夫かい?」



「はい! 早速試したいんですが大丈夫ですか?」



「もちろん! ほら、アソコが充電用の避雷針だよ」



松崎の指さした方向には、テニスコートサイズの広場に高い鉄塔が建っていた。



「さすがです! 松崎さん、こちらが御札の製作者の弥生さんです。何か注文があれば彼女に教えてあげてください。コッチの世界の人には交流や直流の知識がないので教えてあげてください。とりあえず★一で避雷針に雷を落としてみますよ」



「雷の術!」



高い鉄塔に雷が落ちた。ズガン!



松崎は鉄塔と計器類を確認して、ニヤッと笑って呟いた。



「スゲェ……。百パーセントクリーンな発電の誕生だ! 雷って本当に莫大なエネルギー源だったんだな……うん! これならバック・トゥ・ザ・フューチャーの雷一発でタイムスリップってのも納得できる!」



松崎の顔を見て来翔も成功したとわかった。未だに成功なのか失敗なのかをわかっていない弥生と雨森に伝えた。



「お二人とも、成功です! 今の一発だけで、アソコで轟音を鳴らしてる発電機を超えました!」



来翔が指さした方では、パチンコ屋の改装工事で使われている建設現場用の発電機が数台、轟音を鳴らして稼働していた。



弥生と雨森は発電と蓄電の違いもわからないまま、ただ単純に試作の成功を喜んだ。



デメタだけが静かに「ゲコゲコ」と一鳴きした。



こうして、異世界初の電気による文明が、静かに動き出していた。




   




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