【第78話 お前はもうGARO】
翌朝。三人は函館市内のマルハンへとやってきた。
ビリーとミーネルはパチンコ北斗の拳に座った。
「うお! なんだこの胸に七つの傷の優男は! 弱すぎるぜ! リーチの度に負けやがる! コイツ本当に当てる気あんのか!?」
「まあ、勝つ時は閉店まで勝ち続ける男なので許してあげてください……」
するとすぐにビリーの台が当たった。
「やっと勝ったぜ! ここからは右に打てば良いのか?」
「そうです。右打ちしてください。あとはケンシロウが負けなければ連チャンします!」
「ミーネル! まずはお前の魔法でこの七つの傷を治してやれ! 万全の身体で戦わせにゃならん!」
「はい! ボス!」
ミーネルはケンシロウの七つの傷に向かって魔法をかけ始めた。
「ダ、ダメです! ボス! この男も昨日のマリンちゃん同様に魔法を受け付けません!」
来翔はそんな健気なミーネルの肩を叩いて首を振った。
「大丈夫。ケンシロウを信じてあげてください」
ミーネルとビリーは液晶の中のケンシロウをひたすら応援し続けた。その甲斐があってか、ビリーの足元にはどんどんドル箱が積み上がっていき、ついに十五箱になっていた。
「ボス! もう箱の置き場がありません!」
「ガハハ! この七つの傷の男が負けないのだから仕方ないだろ! さっきから負けても女の子が叫ぶと立ち上がる。この優男は幼女が好きなのかも知れんな!」
ビリーの連チャンが終わらないのでミーネルは北斗の拳を離れて牙狼に移った。画面を見た瞬間、ミーネルの目が見開いた。
「こ、これは魔界ですか? 日本にも魔界はあるのですか?」
「残念ながらありません。日本人の空想の世界です」
「で、でも、これは魔界そのものですよ? 私たちの魔界にも黄金の騎士は存在しますし……」
「この男の人が黄金の騎士になると熱いですよ!」
役物発動でミーネルの台が激アツに発展した。ようやくミーネルにも大当たりが来て、順調に連チャンを刻み始めた。
「お前はもうGARO(牙狼)!」
「ピヨピヨ!」
ネーラとレフトが鳥籠の中から合いの手を入れていた。
◆
キリの良いところで二人のマルハンデビューは終わった。
ビリーは換金所で八万円を手にして、ミーネルは四万円を手にしていた。
二人は熱心にスロットコーナーも見て回っていたが、スロットはまだ早いと言われてあっさりと断念していた。
帰りの道中では二人からの質問が続いていた。
「スロットはコインを直接入れてたよな? あれこそギャンブルじゃねぇか!」
「実はあのコインも店が用意したメダルになります。そのメダルはお店以外での使い道がないので、スロットもギャンブルではないのです」
「なるほど。玉をメダルに変えただけってことかい。でも、俺たちにスロットをやらせなかった理由はなんだ?」
「スロットは打ち方があるんですよ。それを覚えるのが割と大変で、スロットが好きな人はその没入感が好きなんです。そして、ビリーさんが始めるパチンコ屋には是非ともスロットに力を入れてほしいです。スロットには四号機という伝説の台がありました。今では国内では打てません。でも、スロットファンは全員が四号機を打ちたいのです。そんな四号機を揃えるだけで、ビリーさんには円が大量に入ってきます。その稼いだ円でさらに台を買えば、どんどん店も増やせます。今日行ったマルハンは一年で百億円を稼ぎます。ゾーン団の賞金が百億Qでしたよね?なかなか、パチンコ屋も夢のある仕事でしょ?」
ゾーン団最高額の賞金首と同額稼げるパチンコ屋というビジネスを前に、二人は今日初めて覚えた日本語の「激アツ」という言葉を何度も繰り返していた。
◆
数日後。来翔は首都の総督の前に立っていた。
「久しぶりですね、総督さん。今日は総督さんにとっても良い話を持ってきましたよ!」
「世界樹の重箱よりも良い話なのか?」
「はい。旧コナ国に賭場を作りたいんです!」
「ん? 聞き違いか? 今、賭場と聞こえたが?」
「いえ、間違いではありませんよ。賭場です。合法的な賭場。パチンコ屋です!」
来翔は三店方式について詳しく総督に解説した。話を聞いているうちに総督の顔が次第に険しくなっていった。
「そ、それは……倫理的には完全にアウトだが……」
総督はしばらく黙って腕を組んだ。
「……超法治国家である帝国としては、三店方式を取り締まることはできんな。我が帝国法では労働の自由を保証している。パチンコ屋の周囲に古物商をするなとは言えない。すなわち、パチンコはギャンブルに在らず!」
「という事は、帝国はパチンコについては許容するということですね?」
「うむ。実際、帝国には三店方式を取り締まる法律は無いからな……」
総督は苦い顔をしながらも、うなずいた。
「それよりも、帝国にとって良い話とはなんだ? パチンコ屋を旧コナ国で開業したくらいでは我が帝国にメリットは無いぞ?」
「いえ。帝国というか、コチラの世界全体にメリットがありますよ。円です! 今は日本と帝国のやり取りは、日本からは調味料を、そちらからは銅でやり取りしてますよね? 実はこれ、かなりこちら側が損をしてるんです。それが、円を手に入れることで、正規の値段で日本から調味料を買うことができるのです!」
「なぜ、パチンコ屋ができると円が入ってくるのだ?」
「日本からパチンコを打つために人が大量に来るからです! 個人個人が懐に二十万円くらい持ってきます。そして、その二十万円を使い果たして帰って行くのです。ビリーさんのパチンコ屋の規模は二千人規模の店を予定しています。二千人×二十万円が毎日、この世界に入ってくるわけです!」
総督はしばらく無言で計算していた。やがて来翔に向かって苦笑いを浮かべた。
「良し! ビリーには首都にも何店舗か出店しても良いと伝えよ。帝国として何か手伝えることはあるか?」
「はい! あります。実は三店方式の件よりも、本当の本題は今から話す内容になります。とりあえず先に言っておくと、今のままではパチンコ屋はまだまだ開業が難しいです! 開業するには、国家レベルで一つの問題を解決する必要があるのです! その為には、僕はこれから須佐ノ国へ飛ばなくてはなりません!」
「なんだと? 今のままでは開業できないだと? しかも須佐ノ国へ飛ぶと言うのか!?」
「はい! 須佐ノ国で条件を満たしてくれる職人を探してきます! その職人が見つからなければ、このパチンコの件は全て白紙です!」
「わかった。行くが良い! 来翔。須佐ノ国へ!」
来翔は総督官邸を颯爽と後にした。
三店方式の許可と帝国での出店の約束を取り付けて、来翔はさらなる問題点に向けて動き出した。
(案外、異世界でパチンコ屋を始めるのも苦労するなぁ……)
そう思いながら来翔は帝国の宿屋に向かって歩いていた。西風が向かい風で吹いていた。




