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【第76話 儲かりますか?】

 ワタルはLEONの漁船で最高の夏休みを過ごしていた。



 上ノ国町に滞在中は毎日LEONの船に乗り込んで漁の手伝いをして、魚にまみれていた。この日もヒラメが大量だったので、来翔の自宅でLEONと二人でヒラメの刺身を厨房で堪能していた。



 するとフロントのロビーからアインの声が響き渡った。



「業務連絡、業務連絡。異世界からの予約あり。異世界からの予約あり」



 ネーラとレフトはラッキーピエロへカスミとリスタオールに連れられて出かけていた。LEONが刺身を包丁で切る手を止めてロビーへ向かうと、ワタルも興味津々についていった。



「アイン、今は誰もいない。私が台帳に書く」



「あぁ、そうか。それならばLEONに任せよう。異世界の南区からの予約だ。例の戸田青年が帰省するから三泊するそうだ。素泊まりで窓のない三畳部屋でいいらしい」



「アリャマ! 一番安いプランだ」



「LEON。客のプライベートに首を突っ込む事は宿泊業を生業とする者がするものではない。戸田青年も異世界ではまだペーペーなのだ。それは、かつてトップの賞金稼ぎをしていたLEONならわかるだろ?」



「うむ。賞金稼ぎの下済み時代はラッキーピエロのアルバイトよりも稼げない」



「まったくその通りだ。三畳部屋で何が悪い」



その会話を聞いていたワタルが聞き慣れた名前に食いついた。



「その戸田って人は江差のC-Classの戸田さんかい?」



「アリャマ、何故それを?」



「何度か現場で会ってるからね。戸田さんは今は異世界にいるのかい?」



「うむ。賞金稼ぎを目指してビリーの下で修行中だ。戸田だけじゃない。首を切られたC-Classの何人かは異世界で冒険者になっている」



「へぇ〜。それは初めて聞いたよ!」



C-Classハンターが失業したことで、戸田以外にも異世界へ移住した者は少なくなかった。異世界に建設された大使館周辺には日本人特区が出来上がっていて、世界樹の貯水槽から魔素を除去された精製水の上水道が完備された街が生まれていた。




 ◆




数日後、戸田が宿屋・繁次郎へやってきた。



リスタオールが女将として出迎えた。



「あら、戸田様。本日もおこしいただきましてありがとうございます。いつもの三畳部屋でよろしいのですわね?」



「もちろんっす! どうせ寝るだけなんで何処でもいいんすよ! それじゃ早速、出かけます!」



「はい、かしこまりました。本日もパチンコですね?江差?函館?来翔さんからkeiワークスのキーを預かってますわ」



リスタオールが戸田にkeiワークスのキーを手渡した。



「今日は函館まで行ってきます! ベガスベガスに新台が入ったみたいなんで! 閉店まで打つんで帰りは深夜になるっす!」



「はい、行ってらっしゃいませ」



戸田は荷物だけ下ろすと、あっという間にkeiワークスに乗り込んで函館方面へと走り出した。



リスタオールは戸田が去っていくのを見送ってから、ひとりごとを呟いた。



「稼いだお金を全部パチンコに……。本当に来翔さんそっくりの悪い癖ですわね……」




 ◆




一方、ラッキーピエロでは鈴子がシフト表を見ながら首をかしげて来翔に尋ねていた。



「来翔さん、来月のシフトに来翔の名前がありませんよ?」



「うん。来月、しばらく異世界へ行くんだよ。交通網が発展してないから何日かかるかわからなくてね。店長にお願いして無期限で休みを貰ったんだ」



「えぇ〜! 来月から来翔さんが来ないんですか!? そんなぁ……」



鈴子がしばらく不満そうな顔をしてから、仕方なさそうに次のオーダーに向かっていった。




 ◆




深夜、来翔は宿屋のロビーでアインと話をしていた。パチンコを打ち終えた戸田が帰ってきた。



「お? 来翔さん! 車ありがとうございました! 明日も貸してくださいね!」



「うん、遠慮せず使って良いよ。実は江差にはレンタカー屋さんが無いだろ? 近々にうちでレンタカー業も始めるつもりなんだよ。異世界人ならすぐに操縦のスキルを獲得できるからね」



「そうっすね。江差にレンタカー屋があれば異世界人は助かるかも……」



「あと、来月、僕も異世界へ行くんだけど、ビリーさんに伝えておいて貰えるかい?」



「来翔さんが? 珍しいですね。リスタオールさんかネーラちゃんの帰省ですか?」



「いや、帰省ではないよ。行くのもたぶん僕とネーラだけかな」



「わかりました! ビリーさんにはきちんと伝えておくっす!」




 ◆




翌月某日。



来翔は久しぶりに異世界の地を踏んだ。



「この西風が懐かしいなぁ〜」



ネーラも久しぶりの異世界の風を感じながら来翔の胸ポケットから飛び出て飛んでいた。



昔は何もない草原だった場所が、乗り合いの馬車がズラリと並ぶ街道に変わっていた。来翔を見るなり、客引きが後を絶たない。



「日本人の旦那! 何処までだい? うちは南区まで三千五百Qでいいよ!」



「ウチの馬車にはサスペンションが入ってるから乗り心地が最高だよ!」



「ガイドはいりませんか? 一日一万五千Qで異世界を案内しますよ!」



来翔は全て苦笑いで断って、街道を徒歩で進んだ。



南区のビリー宅に到着してビリーと向かい合った。



「今日は戸田の小僧は荷物運びの仕事で地方に出てるぜ?」



「あぁ、それは良いんだ。今日はビリーさんと総督に話があってね」



ビリーが前のめりになった。



「来翔が改まってそんな事を言うってのは、何か深刻な事なんだろ?何でも言ってくれ。俺様にできる事なら何でもするぜ!」



「まずは総督とのアポ取りをお願いします。それから、ビリーさんには僕と日本に来てもらいたいんですよ。僕が説明するよりは実際に見てもらった方が早いので。ビリーさんは日本はまだ来たこと無かったですよね? 二、三日で構わないので、直近で来られる日取りはありますか?」



ビリーは秘書を呼んで日程を確かめた。



「俺なら明日でも構わないぜ? この秘書も一緒で構わないか?」



ビリーの横には魔族の美しい女性が立っていた。



「もちろん構いませんよ? その方は魔族ですか? 見た目が人族と同じですが、めっちゃ魔素を感じますよ」



「さすが来翔だな。コイツは魔族のミーネルだ。魔法が得意な女でな。俺や来翔は魔法が苦手だろ? なんかあった時のための魔道士を付けておきたい」



「ハハハ、さすが百戦錬磨のビリーさんですね。でも、今の日本は本当に安全ですよ! まあ、ミーネルさんも一度は日本を見ておくのも悪くないので、ぜひご一緒にどうぞ」



ミーネルが静かに一礼した。



「それでは、ボス。私はボスの旅支度をしてきます。来翔さん、首都の総督閣下へのアポ取りの書面も私から送っておきますので、早ければ二週間後には首都から返信があるはずです」



「うん。ありがとう、ミーネルさん。このお礼は明日の日本で返すからね!」



ミーネルは一礼して応接室から出ていった。




 ◆




翌朝。来翔とビリーとミーネルは馬車に揺られてゲートまでやってきた。



「さあ、向こうが日本の奥尻島です。行きましょうか?」



ビリーとミーネルは恐る恐るゲートを通過した。ここからはビリーとミーネルの言葉は異世界語になってしまうため、ネーラがミーネルの肩に乗って通訳をしてくれている。



ゲートを通過すると草原から急に岩場が広がる海になるので、二人とも困惑した。ミーネルが素早くビリーと来翔に浮揚の魔法をかけて宙に浮かせてくれた。



「あ、ありがとうございます! ミーネルさん。鍋釣岩から島までの渡し船もあるんですが、こっちの方が楽ちんですので、このまま島に降りましょう」



来翔の言葉をネーラが同時通訳してくれている。三人は島の陸地まで降りた。



「ここが奥尻島か。道路が固くて平らだな。あそこに見えるのが、噂のセイコーマートってやつだな。来翔、ちょっと寄っても良いか?」



「もちろん! フェリーの時間までまだあるので、セイコーマートで買い物でもして時間を潰しましょうか」



三人は島のセイコーマートゲート店へ入ってみた。ビリーとミーネルは店内で調理されたクロワッサンをイートインスペースで食べてみた。



「美味い……。圧倒的に美味すぎる……。これは異世界で流行るのがわかるぜ」



「本当に美味しいです! ボス! このメロンパンなんか気絶しそうになるくらい甘いですよ!」



ビリーもメロンパンを食べてみた。



「こ、これはなんだ! これは砂糖だけの甘さじゃねぇぞ?」



「お二人は甘いパンが好きですか? それなら、これも甘いですよ」



来翔があんぱんとクリームパンも手渡すと、二人は一気に食べ尽くしてしまった。



「二人とも食べ過ぎない方がいいですよ。これから江差の街に行って、僕の職場のラッキーピエロにも案内するつもりなので」



体重二百五十キロのビリーがガハハと笑って答えた。



「来翔、この俺様がこれっぽっちのパンで腹いっぱいになるはずが無いだろ? それに、ミーネルも魔族だ。俺様よりも食い意地が張っているから気にすんな! ガハハ!」



「ボス、このコーヒーというのだけは苦いのでお気をつけ下さい」



そう言いながらミーネルは紙コップのコーヒーの中に砂糖とミルクを大量に入れ始めていた。ビリーはどうやらコーヒーの苦味は好きなようで、ブラックのまま豪快に飲み干していた。



三人はフェリーの時刻まで、セイコーマートゲート店のイートインスペースでゆったりと過ごした。



奥尻島の街並みもゆっくりと復興が進んでいた。かつての自衛隊の基地しかなかった無機質な景色から、ようやく生活感のある街へと変わり始めていた。島の道を、来翔と一緒に歩く二百五十キロの大男と魔族の美女という組み合わせを、すれ違う自衛隊員たちは努めて平静を装いながら見送っていた。




  




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