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【第73話 To NEXT】

 異世界でビリーの元で働き出した戸田には、ビリーから言われて日本人関係の仕事が割り振られていた。



 旧コナ国には日本大使館に必要な世界樹製の貯水槽をエルフの里から運搬するという輸送団の護衛クエストが、巡り巡って回ってきていた。



「戸田。ウチのレンカと二人でエルフ国まで行ってこい。レンカはうちでは序列は上位の賞金稼ぎだからな。お前がレンカの荷物運びだ」



「はい!任せてください!これは俺は冒険者としてもWで仕事を受けていいんすよね?」



「当たり前だ。レンカも冒険者としてクエストを受けてる。ただ、輸送中は賞金首の盗賊なんかも出るからな。そういった奴らが出た時にプロの賞金稼ぎがいると、犯人の引渡しもすんなり行くんだよ。冒険者だけだと誰が賞金を貰うのかで揉めるんだ。賞金稼ぎがいる場合は賞金は賞金稼ぎの物になるのがコチラの世界の法律だし、賞金首になるような奴らは冒険者程度では勝てん。戸田も賞金首相手にまともに戦うなよ。あくまでもレンカの後方支援だけで良い。もしも、レンカがやばい時も助けようとするんじゃねぇぞ。レンカがダメな時は輸送団も全滅する時だからな」



「まるでアチラでのC-Classハンターの仕事のまんまっすよ!俺はまさにアチラではそんな仕事をしてたっす!ちゃんと己の力量を過信してないっす!」



「なるほどな。そういった面では戸田は来翔よりも優秀な後方支援かもな!来翔はむしろ最前線に立っちまうような奴だったからな! ガハハ!」



「ハハハ! 来翔さんは別格のC'という唯一のC-Classでしたからね。俺らC-Classの憧れの存在ですよ!俺らの中では来翔さんこそハンターの中では最強なんじゃないかと思われてるんすよ」



「ガハハ! そんな事は俺様でもわかってるよ!俺も奴とはしばらく組んで旅したからな。オークを一撃でぶっ倒せる人族なんて俺様以外で見たことがねぇ。あれでまだレベル1ってんだから、恐ろしすぎるぜ」



「そんな来翔さんなのに日本政府は簡単にクビにしちゃいましたからね……本当に何もわかっちゃいない……」



 ビリーがニヤリと笑った。



「戸田、それは違うぞ。来翔はたとえ仕事としてじゃなくても人の為に戦っちまう男だぜ。奴にとってハンターかそうでないのかは、たいした差ではないんだよ。それに本人は失業した事をネガティブに考えてねぇんだろ?」



「はい! 平和になって良かったと言って食堂で働いてるっす!」



「ふん! 奴にとっては、それでいいのさ」




 ◆




 こうしてレンカと戸田は冒険者と賞金稼ぎとして輸送団に同行した。目的地はエルフの里。大使館用の世界樹の貯水槽を引き取りにいくのが今回のクエストだ。日本側の外務省、旧コナ国駐在の渡辺が戸田に声をかけてきた。



「戸田くんは元Cなんだよね? って事は戦えないんだよね?」



 渡辺はスリングショットを持っている戸田を見て不安そうな顔をしていた。



「まあ、俺は援護射撃しか出来ないっすね。でも渡辺さんならご存知でしょ? 当時の江差が激戦区だった事を。俺はその江差地区のCですよ。他地域のCよりは安心できるでしょ? それにレンカ姐さんはうちの賞金稼ぎ団の中では相当強いらしいっす。見た目が既に怖いっすもんね!」



 戸田はレンカの足元を見た。猛禽類のような鋭い爪をした鷹の足をしていて、背中には真っ白な美しい翼が見えていた。



「あの人はセイレーン族って言うんだっけ? 獣人なの?」



「レンカさんは獣人じゃなくて魔族っす! 獣人は魔法を使えないけど、魔族は戦闘も出来て魔法も使えるハイブリッドっす! 人族も獣人族もトカゲ人類も魔族の前では勝てません。あと、心臓を貫かれても死なない種族もいるらしいっすよ」



 渡辺は改めて異世界の恐ろしさを痛感した。つい最近まで地球はたった七人のトカゲ人類に滅亡されかけたばかりだ。そんなトカゲ人類よりもさらに遥かに強い種族がいるのかと思い知らされた。



 そんな渡辺に戸田が笑顔で言った。



「ま、気楽に行きましょうよ! せっかくお互い異世界に来たんですもん! これから向かう先にいる可愛いエルフを楽しみましょう!」



「そ、そうだね。僕も中年異世界単身赴任をしてみた件を満喫してみるよ」



「お? なんかアニメでありそうなタイトル! じゃあ俺も、失業したら異世界で援護射撃してみた件!」



 戸田と渡辺は笑いながら道中を進んでいった。




 ◆




 一方、奥尻島では旧コナ国と同じように帝国の大使館や異世界側の冒険者ギルドの建設が進み、鍋釣岩周辺には異世界特区として新たな街が誕生していた。



 自衛隊が育てた簡単な異世界語を話せるセキセイインコがかなり役に立っていた。YESとNOを相手に伝えられるだけでもコミュニケーションが取れるからだ。一般市民がいない奥尻島は退屈すぎるので、自衛隊の輸送船が毎日、奥尻島〜江差港間の定期便を出すようになっていた。それに伴い、江差の街には異世界人が歩く姿が見られるようになっていた。



 そんな江差に住んでいるリスタオールは通訳の仕事が手に負えないほど舞い込んできていた。この日も来翔が働いているラッキーピエロのメニューの異世界語版の制作を請け負っていた。



「リスタオールさんがこの街にいてくれて本当に助かるよ!」



「私も思わぬ臨時収入は嬉しいですわ。そのうち私以外の異世界人も日本語を覚えてしまいますと仕事は激減するのでしょうから、今が稼ぎ時ですわね」



「そうだね。異世界の人はすぐに日本語を覚えちゃうからね。ネーラもLEONさんも二ヶ月後には日常会話ができるくらいにはなってたもんね」



「異世界語と日本語は文法が同じですの。単語さえ覚えてしまえばあとは簡単ですのよ。まあ、日本の人が異世界語を発音できないのは致命的ですけれどね」



「うん。今のところ異世界語を発音できるのはセキセイインコだけってことらしいよ。あのギョアギョアって鳴き声は人間には出せない声なんだよ」



 メニュー作りを手伝っていたカスミを見ながらリスタオールが続けた。



「でも、カスミも既にこうして異世界の文字を書けるのですから、日本の人も筆談ならすぐに出来るようになるのではなくて?」



 カスミが首を振った。



「ありゃま! リスタオールはまだ日本人の事をわかってないねぇ。私は手書き文化で育った世代なんだよ。年賀状も全部一枚一枚手書きしてた世代なのさ。だから漢字も旧ひらがなもカタカナも全部使い分けられる。でも、来翔さんくらいになると、もう漢字すら書けないんだよ。なんでも変換で文字を書いてる世代だからね。来翔さんよりも若い世代になると、もう漢字もひらがなも怪しいんだよ。予測変換になったからね。だから、こんな内職的な仕事は今後もリスタオールと私の独壇場がしばらくは続くと思っても良いのさ!」



「あら、そうでしたの。母国語なのに若くなれば若くなるほど書けなくなるなんて、何だかおかしいですわね」



 こんな会話をしながらリスタオールとカスミはラッキーピエロの異世界語のメニューやチラシをせっせと作っていた。



 それを見ていたレフトがドヤ顔で「φτος!」と喋っていた。



 来翔がリスタオールとカスミに声をかけた。



「リスタオールさん、カスミさん、この家を民泊登録しようと思うんだけど、どうかな?」



 二人が首をかしげたので、来翔が続けた。



「民泊ってのは、個人で始める民宿みたいなものなんだ。リスタオールさんが女将をやれば異世界人でも安心して泊まれるし、カスミさんと僕はリネンのプロだしね! ネーラの事が見えるお客さんにはネーラも接客できるし、レフトはある程度異世界語も話せるしね。元々この家は部屋もかなり余ってるし、庭の射撃場にコンテナハウスを並べても良いしね。奥尻島から渡ってきた異世界人も江差に泊まれば函館市まで観光もできるだろ?」



 リスタオールがドヤ顔を引っ込めて、真剣な顔で答えた。



「来翔さん、そのアイデア、悪くありませんわ。というか……相当良いですわよ?」



「ありゃま! やっと来翔さんらしい仕事が出てきたじゃないか!」




 ◆




 こうして来翔の功労金は自宅の民泊へのリフォーム費用へと投入されることが決まった。



 来翔自身も木工職人として自宅のリフォームに手を入れていった。庭の射撃場には真新しいコンテナハウスが並び、地元の電気工事士、松崎電機の松崎が来翔と図面を見ながら話し合っていた。



「来翔さん、この家は敷地面積が広いからソーラーパネルを置くべきだよ! 俺が全て手配しようか?」



「電気のことは松崎さんに丸投げしますよ。予算内であれば松崎さんの好きになさって下さい。僕はプロの仕事に口出ししない主義なんで」



松崎がニヤッと笑った。



「やっぱり来翔さんも職人だわ! わかってるねぇ〜。まあ、悪いようにはしないから心配しないで任せてよ! この予算なら蓄電まで可能だから、停電の時も営業できるようにしてやっからさ!」



「はい! 全て松崎さんにお任せします!」



 来翔の自宅は、江差で一番の異世界民宿へと生まれ変わろうとしていた。



 ようやく、本格的な夏が来る前に来翔の失業期間も終わろうとしていた。




   




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