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【第72話 遠き春よ】

 クリスマスイブの夜。


 ネーラとレフトの枕元には、ネーラが希望したエレファントノーズフィッシュという謎の熱帯魚の入った水槽と、レフトが希望した全自動インコシャワーがそっと置かれていた。


 翌朝。二人はサンタクロースへ感謝を捧げて、さっそく動き出した。ネーラは水槽のレイアウトを始めて、レフトの全自動インコシャワーには水を入れてあげた。レフトは狂ったように水浴びを楽しんでいた。



 ◆



 もはや恒例となった半額ケーキを買いに来翔がコンビニへ行って帰ると、キジ肉を手にした田吾作が尋ねてきた。


「ちゃんとLEONの穴蔵さ、奴のプレゼントを置いておいたべや! 春起きたらビックリたまげるんでねーか? あと、これはリスタオールにオラからプレゼントだべさ。ほら、丸井さんの商品券!」


 丸井今井の十万円分の商品券を、ニッコリと笑ってリスタオールが受け取った。


「あら、こんなにたくさん頂いていいのかしら……。丸井今井さんですと函館まで行かなければなりませんわね」


「な〜んも! オラが車で連れてくっの! 函館までドライブするべや!」


 リスタオールと田吾作が幸せそうに微笑んでいた。


 それを面白くなさそうにカスミが眺めて呟いた。


「田吾作、リスタオールは六百歳だぞ? こんなクソババアのどこがいいんだ?」


 ネーラとレフトが笑い転げていた。


「田吾作のハーレム展開キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」


「ピヨピヨピヨー!」


 そこへ戸田もやってきた。


「来翔さん、クリスマスはパチンコも出ないから来ちゃいましたよ!」と言って缶ビールを一箱来翔に手渡した。


「ハハハ、道南は大晦日は深夜営業するんだよね? そのための回収をクリスマスにやってるのかな?」


「それが、最近はその大晦日も出ないっす!」


 そこへ鈴子もラッキーピエロのチャイニーズチキンをたんまりと持ってきた。


「メリークリスマスです! 来翔さん! 本当に来ちゃいましたけど大丈夫ですか? なんか年代がバラバラすぎてとっちらかってますけど……」


「確かにそうだね。上は六百歳から下は……三歳のインコだもんね」


「ピヨピヨ!」


 田吾作や戸田や鈴子には姿の見えないネーラがレフトの言葉を通訳した。


「レフトは人間で言うと三十歳だから、一番年下なのはその女の子だってさ」


 ネーラの言葉は田吾作や戸田や鈴子には聞こえていないので、来翔とリスタオールとカスミだけが笑ってしまった。


「そうか。ごめんね、レフト。レフトはもう大人なんだね」


 全自動インコシャワーでズブ濡れのレフトが胸を張って答えた。


「ピヨピヨ!」


「レベルだって来翔よりも上だって! レフトは今レベル十五だよ!」


「そうか、サイモンさんの胡麻でレベルアップしたんだよな」


 ズブ濡れのレフトがドヤ顔をしていた。


 メンツが揃ったところで皆でカスミと来翔が作ったご馳走を食べて過ごした。



 ◆



 皆が楽しそうに語り合っている姿を見て、ネーラがようやく納得できたようだった。


「これが来翔の言ってた平和なんだね。こんな日が続くなら、来翔がハンターを首になって良かったのかな?」


「うん。そうだね。失業は悪いことじゃない。次へ成長するチャンスでもある。僕はハンターになる前は、ずっと木工所で働くもんだと思い込んでたんだよ。でも木工所も首になって、江差に来てハンターになった。ハンターになったことで、あの頃の僕よりも成長できたんだよ。ネーラやレフトのように、僕も人としてレベルアップしたんだよ」


「うん。来翔は胡麻なんてなくても成長したんだね!」


 来翔家のクリスマスパーティーは、幸せに包まれていた。



 ◆



 年が明けて、季節は流れた。


 LEONが冬眠から目を覚まして、クリスマスイブのプレゼントを抱えてカスミ宅へ飛び込んできた。


「何故、サンタクロースは私の穴蔵を知っていたのか……。誰にも教えていないのに……」


「ありゃま! サンタさんは良い子のいる所なら何処でも現れるんだよ! そんなの世界の常識だよ!」


「しかも、私のサイズの胴長靴(ウェーダー)を……。いつの間に採寸を? 冬眠中に採寸されたのか? 採寸してすぐに仕立てたのか? 謎だ! 冬眠中でなければ正体を暴いてやるのだが……」


「ありゃま! 何を物騒な事を言ってるのさ! サンタさんは起きてる悪い子のところには来やしないよ! クリスマスの夜は黙って寝な!」


 LEONはしばらくウェーダーを眺めてから、そっと抱えて自分の部屋へと持っていった。



 ◆



 こうして、いつものように江差は春を迎えた。


 春ということは、C-Classハンターの契約が終了する季節になった。


 来翔は生活魔法のおかげでラッキーピエロでは週五回勤務となっていたため、そのままラッキーピエロで働きながら再就職をゆっくり考えることになった。


 同じ江差管内の戸田は、やはり異世界で冒険者か賞金稼ぎをすると言って、LEONにビリーを紹介してもらうために異世界へと旅立っていった。



 ◆



「LEONさん、本当に今、俺の言葉は異世界語になってますか?」


「もちろんだ。なぜかはわからないが、ゲートを通過すると誰でも異世界語になる。逆に日本語を話せなくなっているから試してみろ」


 戸田がすぐに日本語でLEONに話しかけた。


「こんにちは!」


「今のは完璧な異世界語だったぞ」


「マジっすか! 自分の中では日本語で喋ったつもりなんですけどね……」


「まずはビリーの家の前にギルドへ行って、モノリスでお前の能力を見てもらおう。そもそも、お前が戦えない奴なら紹介しても意味が無い。戸田のメイン武器はなんだ」


「俺はC-Classなんで銃しか持てませんでしたが、主に援護射撃でUZIとか使ってましたよ」


「そうか。コチラの世界には銃は無い。弾も買えないぞ。他に使えそうな物は無いか?」


 戸田は腰のポーチからスリングショットを取り出してLEONに見せた。


「これも銃と同等の威力はありますよ! 銃よりも飛距離も速度も負けますが、音がしない事と弾はその辺の石ころでも行けるんで、割と持ってるハンターも多いっす!」


「コチラの世界ならスリングショットの方をメイン武器にした方が良さそうだ」


「ウッス! 異世界ではコッチをメインにするっす!」


 二人は南区の冒険者ギルドへやって来た。戸田が冒険者登録をしてモノリスに手をかざした。



───────────────────

戸田(28歳) Lv.1        

職業:バランスブレーカー     

スキル:一撃離脱         

犯罪歴:無し           

────────────────────



 次にビリーの屋敷へやって来た。


「LEONか、今日は来翔は来てねぇのか。その坊ちゃんは誰だ?」


「コイツのモノリスだ」


 LEONが戸田のモノリスをビリーに手渡した。


「バランスブレーカーだと? 使えそうか?」


「今はまだダメだ。ろくに戦闘経験もない。ただ、コチラで冒険者か賞金稼ぎになりたいそうだ」


「まあ、今後は日本人とも付き合っていかなきゃならんからな。身内に一人くらい日本人を置いておきたいと思ってたところだ。ウチで雇っても良いぜ。まずは荷物運びからのスタートだけどな」


「ビリーさん、俺はそれで構わないっす! アチラ側でもそんな役目をしてたんで。援護射撃なら任せてください!」


「ただし、使えないと判断したらそこで終わりだ。死ぬよりマシだろ?」


「もちろんっす! 贔屓目なしで判断してほしいっす! 俺はほとんど戦闘経験もないんで自分がどこまでやれるのかを知らないっす。だから、たとえビリーさんに落第点を押されても素直に受け止めます!」


「気に入ったぜ。その覚悟があるならやってみな」


 こうして戸田は、しばらくの間ビリーの配下となって荷物運びをすることが決まった。



 ◆



 江差のラッキーピエロ。


 窓の外には、ようやく雪が解け始めた道路が見えていた。来翔はオムライスを一皿仕上げてトレーに乗せてカウンターへと出した。


(春か……)


 失業した春だった。でも、悪くなかった。木工所を首になって、見知らぬ北の町に来て、ハンターになって、異世界へも行った。ネーラとレフトと出会って、カスミさんに世話になって、LEONと田吾作のかくれんぼを見て、ワタルが白馬に乗るのを見送った。


 あの頃の広島の自分には想像もできない春だった。


「来翔さん、次のオーダー入りました!」


 鈴子の声が来翔を引き戻した。


「はーい!」


 来翔はエプロンを直して、また厨房へと向かった。


 C-Class達の春は世知辛い季節となっていた。でも来翔にとっては、なんだか悪くない春だった。



   



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