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【第70話 さよならハンター】

 ワタルの婚姻式典を終えて、しばらく経った。


 季節は秋になり、江差の山も真っ赤に染まっていた頃、来翔は奥尻の基地に来ていた。今回は来翔だけではなく、他のC-Classハンターもほぼ全員呼ばれていた。江差町、上ノ国町、乙部町、瀬棚町のC-Classハンター総勢百五十人が集まっていた。


 そんなC-Classハンターに向けてクロガネ幕僚長が深刻な顔で告げた。


「ゲート迎撃態勢を解除することになりました。それに合わせて道内のC-Classハンターの契約を本年度で終了致します。皆様、これまで誠にありがとうございました。尚、契約解除による功労金につきましては、随時、決定次第、振込を開始致します。功労金の査定につきましては防衛省と内閣府による厳正な判断の元、行われる予定です。再就職につきましては、三十歳未満のハンターにおかれましては自衛隊への入隊の斡旋を致しますので、希望者は随時、最寄りの基地まで申し出てくださいませ。皆様が携帯している銃火器につきましては、引き続き各自で管理をお願いいたします。処分にお困りの方は最寄りの基地か警察署に持ち込んでください。処分料金はかかりません。以上となります。江差港までの船の時間までしばらくお待ちください」


 それだけ告げるとクロガネ幕僚長は足早に会議室を出ていった。


 来翔はこうなることを事前に知っていたので驚きもしなかったが、周りのハンター達はザワついていた。


 江差町の若いハンター、戸田が焦って来翔に声をかけてきた。


「来翔さん! これって俺たちは用済みってことですか!? いきなり契約解除なんて有り得るんですか?」


「もちろん有り得ることだよ。僕らは個人事業主だからね。大元がいらないと言えば仕事は回ってこない。仕方ないんだよ。それに、契約解除なのに功労金が出るのは稀だよ? 移住組は家と土地を貰えたしね。それだけでも得してる訳だしさ」


「家と土地と言っても江差の過疎地ですよ!? こんなとこ無価値じゃないですか! 俺なんて家族もいないし、もう帰るとこも無いのに……」


「戸田君はハンター歴三年だよね? 三年続けてたなら貯金はあるだろ? 当面の間は貯金で生活できるよね?」


「実は……俺、いつ死ぬかわからない仕事なんで、毎月キッチリ使い切ってたんですよ。貯金なんてないんです……」


「あぁ、そうか。戸田君はパチンコが好きなんだっけ。C-Classの給料ならパチンコで毎月無くなるよね。でも今年度まで契約は残ってるから、春までの給料は残しておきなよ。半年分の給料があれば、再出発の費用には十分だろ?」


「まあ、そうなんですけどね……。来翔さんは異世界に行ってましたよね? アチラで冒険者になるという選択肢はどう思いますか? 俺でもアチラではやっていけそうですか?」


「う〜ん、ごめんね。僕はアチラでは冒険者にならなかったんだよ。だからアチラの冒険者がどれくらい稼げるのかわからないんだよね。詩音さんは冒険者登録をしたらしいけど、どれくらい稼げるのかを聞いたことがなかったよ」


「そうですか……今やその詩音さんに会うことも不可能ですしね……」


 戸田がガックリと肩を落としていると、来翔が思いついたように言った。


「あ!そうだ!うちに居候しているカメレオン族のLEONさんが賞金稼ぎなんだよ。まだ十四歳の若さで家を新築で建てられるほどの貯蓄があったよ!冒険者ではないけど賞金稼ぎなら、そのくらい稼げるみたいだね」


 途端に戸田の顔が笑顔になった。


「近いうちに来翔さんのお宅に伺っても良いですか? LEONさんに賞金稼ぎのことを色々とお聞きしたいです!」


「う〜ん、それなら早めにした方が良いよ。ほら、トカゲにとって冬眠は一大イベントなんだ。数日前から猟師の田吾作さんと笹山へ冬眠用の穴を探しに行ってるんだよ。早めに来ないとLEONさんは冬眠しちゃうからさ。今度、LEONさんが家にいる時に電話しようか?」


「いえ、笹山ですよね! 明日にでも直接、山に聞きに行きます!」


「そうだね、その方が早いかもね」


 こうして、C-Classハンターの今年度での廃業が決まった。



 ◆



 来翔は自宅に帰るとすぐに失業することをネーラとレフトとリスタオールとカスミに伝えた。するとネーラとレフトが子供のようにワンワン、ピーピーと泣き始めた。


「ネーラもレフトも泣かないでくれよ。平和になったから失業したんだよ? むしろ喜んでくれよ」


「違うよ! 来翔! だってさ! 来翔が一番頑張ったのに、なんで来翔が首になるのさ〜! うわ〜ん!」


「ピロピロロ〜ン……」


「レフトも世知辛いって泣いてるよ? うわ〜ん!」


「大丈夫! ハンターをクビになっても、すぐに働くからさ。皆を飢えさせたりしないから、泣かないでくれよ」


 カスミも心配そうに尋ねた。


「来翔さん、そうなると私のお役目も春までなのかい? 寂しくなるねぇ……」


「その事については、一旦保留でお願いします。結局、僕が札幌や函館で就職してしまうと、どうしてもカスミさんの力が必要になりますので」


「ありゃま、来翔さんは大きな街に働きに出るつもりなのかい?」


「僕の年齢的には大きな都市に行かないと仕事も見つかりませんからね……」


「そうだねぇ。江差には仕事なんてないもんねぇ」


 来翔が札幌や函館に出稼ぎに出ると聞いて、ネーラとレフトがさらに号泣した。


「なんで来翔が単身赴任しちゃうのさ〜! うわ〜ん! 私とレフトも着いてくよ! うわ〜ん!」


「大きな街に出ると単身者用の安アパートに住むことになるから、ネーラとレフトには狭くて自由に飛び回れないから危ないんだよ。ワンルームの部屋に窮屈な思いして暮らしたくないだろ?」


「うん……」


「ピヨ……」


 泣き声が少し小さくなった。


 そんな来翔に向かって、唯一ドヤ顔で勝ち誇ったような笑みを浮かべていたリスタオールが囁いた。


「ほらね? だから私が申したでしょ? 来翔さんとは孫の代までお付き合いになると。来翔さんの代では、私への借金を返せないことが確定しましたわね」


「ハハ、なるべく早めにはお返しします……」


「前にもおっしゃいましたけど、エルフは百年くらいは平気でお待ちできる種族ですので、ごゆるりと返済くださいませ」


 リスタオールはドヤ顔のまま微笑んでいた。六百歳のエルフが三十九歳の元ハンターに百年後の返済を促している。どう見ても余裕のある方が来翔ではなかった。



 ◆



 その頃、何も知らないLEONと田吾作は冬眠用の穴蔵を探して笹山を駆け回っていた。


「やんや! めんどくせぇな! 毎年毎年! なして去年の穴蔵じゃダメなのよ!」


「去年の穴蔵は少しだけ地面がデコボコしていた。今年は地面がフラットな方が良い」


「やんや! そんな都合の良い穴蔵があるわけねーべや!」


「雪が降るまでまだ時間はある。田吾作なら必ず良い穴蔵を見つけてくれると私は信じている」


「やんや、それを言われたら探すしかねーべや! こんにゃろ! ほら、さっさといぐど!」


「うむ、行こう!」


 秋の笹山に元気な老人と拘りの強いカメレオン族の男が、穴蔵探しに躍起になって駆け巡っていた。



  




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