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【第69話 英雄】

 ダラス将軍がA-Classハンターワタルの手で処刑された。このニュースは世界を震撼させた。


 日本政府はワタルへの即日の国民栄誉賞授与を発表したが、それは些細なニュースで終わった。何故なら、ワタル本人から異世界の帝国の姫との婚姻が発表されたからだ。世界中がワタルの婚姻を祝福した。一躍、上ノ国町はワタルとマーガレットフィーバーに湧いた。



 ◆



 話は少し戻る。


 ダラス将軍が福島県ではなく東京湾に来ることは、随分前からワタルを始めとするハンター達が知っていた。ダラス将軍の軍勢がのんびりと赤道を越えていた頃に、トカゲ軍に入隊していた人間兵を軒並み捉えていたからだ。LKCと自衛隊とハンターが全力でトカゲ軍の日本駐在軍を捉えていた。彼らは国家反逆罪として重い処分が下されることになっている。人間牧場や殺人を犯したものは問答無用で死刑になる予定だ。やむを得ずにトカゲ軍に入隊した者も多かったのだが、餌にされてもトカゲ軍に入らなかった人の無念を鑑みると情状酌量の余地はないと司法が判断した。


 来翔達も苦い顔をしたまま人間兵を捉えていった。そんな暗いニュースはマスコミも報道しなかった。ワタルの婚姻だけが派手にフューチャーされて、世界は解放された歓びに溢れていた。



 ◆



 ダラス将軍との戦いの後、来翔はワタルに中々会えなくなっていた。隣町に住んでいるにも関わらず、ワタルは時の人になってしまいめっきり顔を合わすことも無くなった。たまにチックルが一人で来翔宅に遊びに来るので、ワタルの近況を知ることが出来ていた。


「今日もまた取材で夜まで帰ってこないんだよ〜。だから今夜はここに泊まるからね!」


「ピヨピヨ!」


「レフトが良いよだってさ」


「ありがとう! レフト! 今度は函館の市電のチョロQをワタルに買ってきてもらうからね!」


「ピピッピ?」


「そんなのあるの!?ってビックリしてるよ?」


「あるよ! 限定販売だけどね! ワタルなら買えるでしょ!」


「ピヨピヨ!」


「そうだよね、レフト。チョロQがもう少し大きかったら私たちも乗れるのにね! レフトが電車のチョロQなら大きいかもって楽しみにしてるみたいだよ」


「え〜、それはないよ。チョロQは土台が全部同じだもん」


「ピヨヨ〜」


「そっか〜」


 その会話を聞いていた来翔が口を挟んだ。


「僕がネーラ達が乗れる大きさのゼンマイじかけの車を作ってみるかい?」


「え? 来翔が? そんな事出来るの?」


「まあね。ゼンマイじかけのからくりは元々、木工職人の極め技みたいなものなんだよ。何百年前から続いてる日本の伝統工芸なんだ」


 来翔は三人のリクエスト通りのゼンマイカーを三台作り上げた。アクセルとブレーキ、ハンドルも付いていて、ちゃんと止まる曲がるが出来た。三人は毎日、家の中でレースをして楽しんでいた。


 やがて、ネーラとチックルに当然のように『操縦』のスキルが派生していた。それを聞いて来翔は消えたゾーン団のことを思い出していた。


(やはり、異世界人はこちらでの経験がそのままスキルになってしまう。これは本格的に異世界人との交流を世界が考えないといけないな……)


 そんな来翔の心配を誰も気にすることなく、世界は目まぐるしく変動していた。



 ◆



 まずは米露中同盟の解消だ。中国が滅んだ今、三国同盟の意味がない。ニュージーランドの人間牧場にいる中国人が返還を求めたが、ニュージーランド政府は連れてこられた中国人に永住権を配布することを決めたため、そのままニュージーランド移住を選ぶ人も多かった。インドとイランはトカゲ軍の後ろ盾を失った今、パキスタンに面白いように領土を奪われていた。助けようとする国はなく、世界からは時期に消滅すると見られていた。


 そんな世界の混乱の中、帝国の総督が日本へ来日する日が決まった。六月の某日、函館市の国際ホテルにて、日本の首相と帝国の総督が平和的な懇談を行うことになった。通訳が必要なので来翔宅に住み込んでいるリスタオールが両国の通訳として抜擢され、来翔家の居候全員で国際ホテルに宿泊できることが決まった。


 久しぶりに来翔もワタルに会える。その日を楽しみにしていた。



 ◆



 奥尻のゲートから一個小隊と共に総督とマーガレットがやって来た。クロガネ幕僚長が出迎えて、まずは総督の息子が祀られている慰霊碑、時空翔へと案内した。異世界風の供養を終えた総督とマーガレットは奥尻空港から政府専用機で函館空港へ飛び、リムジンに乗り換えて国際ホテルへ到着した。すぐに中川首相が出迎えて、平和会談が始まった。


 今回の会談で決まったことは、奥尻のゲートの管理は帝国が責任を持って行うこと、日本からも無闇にゲートを使用しないこと、ワタルとマーガレットの婚姻式典には日本のVIPとマスコミの同行も許可すること、今後は調味料などの貿易を定期的に行うこと、その他もろもろが決められていった。


 会談を終えた総督とマーガレットはワタルと来翔家の面々と共に、政府が用意したバスで函館山の頂上へやって来た。


 初めて見る夜景に総督もマーガレットも言葉を失った。リスタオールもチックルも呆然と夜景を見つめていた。ネーラとレフトは何度か来ているので、チックルに函館の地理を説明していた。


「ほら? あの辺がさっき行った赤レンガ倉庫群だよ!」


「ピヨピヨ!」


「こんな素敵な夜景は上ノ国には無いよ……。函館山って凄いんだね……」


「そうそう! 異世界にもこんな夜景は無かったよね〜。レフトが函館山は昼間でも綺麗だよ!だってさ」


「うん……。きっとそう! 明日の朝も三人で来ようよ!」


「OK! 来よう、来よう!」


 かつてこの山で起こった惨劇のことを、チックルは全く知らない。ただただ美しい夜景としての認識しかなかった。かつて来翔がトカゲ戦士との死闘を繰り広げたこの山が、今はただ夜景が綺麗な観光地に戻っていた。


来翔はそれを口にするような無粋なことはしなかった。ワタルだけがそれを理解して来翔と顔を見合わせて苦笑いをしていた。



 ◆



 時は流れて、同年の八月十五日。


 日本の終戦記念日に、ワタルとマーガレットの婚姻式典が異世界の首都で行われた。


終戦記念日をめでたい記念日として上書きする。それは日本政府からの提案で、ワタルも了承した。


日本からの参列者は奥尻基地の自衛隊員と首相と内閣府、日本のマスコミとワタル側の身内、来翔家の面々と詩音らが貴賓扱いで参列した。首都は勇者と総督の娘との婚姻に湧いていた。パレードには多くの国民が詰めかけて、盛大な式典となった。


ほとんどの人には見えていなかったが、フェアリー達も空の大地で駆けつけていた。


そのパレードを沿道から眺めながら、来翔は口数が少なかった。ワタルは白馬に乗っていた。横にはマーガレットがいた。沿道の歓声に笑顔で応えるワタルはもう個人のハンターではなく、世界の英雄だった。


函館山でともに苦笑いを交わしたあの釣り好きの上ノ国の若者が、今は白馬の上にいる。


(いつかまた、一緒に釣りが出来れば良いけどな……)


来翔はそう思いながら、静かにパレードを見送っていた。


奥尻基地の自衛隊員達も同じような顔をしていた。誰もそれを口にしなかった。


アチラの世界もコチラの世界も祝福ムードに包まれていた。その歓声の中で、寂しそうな顔をした人間が何人かいたことに気づく者など、誰もいなかった。



   



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