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【第64話 魔法武器の威を借る子供】

 ゲートの前に雨森とバニーガールが立っていた。


 人がここを通過すると爆撃されると雨森は知っている。小さなカエルなら大丈夫だろうということで、デメタ一人で渡ることになった。


「デメタ、勇者様を連れてきておくんなさいよ!」


「ゲコゲコ!」


 デメタはゲートをピョコンと通過した。案の定、デメタのサイズでは自動迎撃システムは作動せず、デメタは三月の冷たい海の中へと飛び込んだ。


 冷たさに気を失いかけながらも、デメタは必死に泳ぎ続けた。勇者は江差の隣町の上ノ国に住んでいると本人から聞いたことがある。奥尻島ではなく、対岸の江差を目指した。


 江差の浜へ辿り着くと、目の前は異世界だった。硬く真っ平らな道を、四輪の不気味なカラクリ馬車が信じられない速度で走っている。デメタはどっちに上ノ国があるのかわからず、地元のカエルに聞こうと山の中へと進んでいった。


 ところが三月の江差の山の中にはカエルはいなかった。オタマジャクシしかいない。困り果てていると、どこからともなく声がした。


「あら? アナタはデメタなの?」


 振り返ると、詩音と謎の老人が立っていた。


 デメタは詩音を見つけるなり「ゲコゲコ!」と必死に訴えかけた。勇者が必要なのだということだけは伝わった。詩音はすぐにクロガネへ問い合わせた。


「今、異世界のカエルが焦った感じで来てるんだけど、ゲートで何かあった?」


「いえ、特に変化はありません」


 それでもデメタの必死な訴えを見て、詩音は決断した。隣の老人に告げる。


「田吾作さん、ちょっとゲートを見てきます」


「わかった。詩音もだいぶかくれんぼが上手くなったからな。行ってこい」


 詩音はデメタを連れて奥尻基地へとやって来た。


「クロガネさん、これがデメタです。アチラのカエルです。この子が何か訴えかけているので、様子を見に行ってきます」


「わかった。後追いでワタルさんにも行ってもらいます。例の南区のビリー宅で待ち合わせという事にしましょう」


 詩音は単独でゲートを通過した。デメタが詩音を誘導して雨森の潜伏先へと連れていった。



 ◆



「あら? バニーガールまでいるじゃない。どうしたの、雨森さん?」


「へい、実はデメタには勇者様を連れてこいって言ったんですがねぇ。南の島にコモドドラゴン族とワニ族が攻めて来やした。その中には魔法武器を使う人族もいやす」


「まだコモドドラゴン族とワニ族がいたってこと?」


「へい、コモドドラゴン族は一人でしたが、ワニ族に至っては軍隊で生き残ってやした。オイラが島を出る頃には首都は完全に奴らの手に落ちてやした。情けねぇ話ですが、オイラが救えたのはこのバニーガールのお姉さんだけで。まだ他にも大勢の一般人が島に残されてます」


「まずは一般人の避難を優先しなくちゃね。雨森さんは船の手配は出来る?」


「ガーヤの漁師町には須佐ノ国の輸送船も軍艦も滞在してるんで、彼らに頼めば一般人の避難をやってくれるとは思いやす。変な話、須佐ノ国の男どもは好戦的な男しかおりませんのでね。負けっぱなしでは頭にきてるはずですんで、ワニから一般人を救えとお願いすりゃ二つ返事で引き受けてくれるはずです。バニーガールのお姉さんには一般人の説得をお願いしたい」


 バニーガールが決意を固めた顔で答えた。


「もちろんです! 私が皆さんを説得します!」


 詩音がバニーガールのうさ耳をグニグニと触りながら言った。


「さすが私が見込んだうさ耳ね!」


「耳を触らないでください……」


 三人はワタルを待つことなくビリーに電報を打ってから港町ガーヤへ向かった。



 ◆



 数日後、ガーヤに着いた三人は雨森の案内で須佐ノ国の大使館を訪ねた。


「お役人、トーンの街にはまだ逃げ遅れた一般人がいるんですよ。輸送船と軍艦を出してもらえませんか?」


「面白い! トカゲに一泡吹かせることができるなら協力しよう! 大使館の巻物を全て使ってでも一般人を助けてやるぞ! ガマの油売りよ、貴様も戦えると思っていいのだな?」


「へい、それなりには刀を使えやすが、あっしよりもこちらの弓使いのお姉さんの方が強いですぜ。この方は既にコモドドラゴン族もワニ族も倒してなさる!」


「なんと!それは誠か!あのコモドドラゴンを人族が倒しただと?有り得ん!」


 詩音が少しだけ気まずそうに答えた。


「あの時は魔法武器で倒したの。魔法武器を持たない今の私が通用するかはわからないわ……」


 詩音は世界樹のクロスボウを撫でながら続けた。


「でも、あの頃の自分よりも今の私は遥かに強い。だから、魔法武器が無くても大丈夫」


 須佐ノ国の輸送船と軍艦はトーン港へと出航した。


 港は閑散としていて、人の気配がなかった。


「誰もいませんぜ?もう全員食われちまいやしたかね?」


「まさか。全員喰ったなら、もうガーヤまで侵略してくるわよ。きっとまた人間牧場を作ってるはずよ。大勢を囲える土地はあるの?」


 バニーガールがいくつか候補地を教えてくれた。


 目立つということで須佐ノ国の侍は港で待機させて、詩音と雨森の二人で候補地を当たっていくことにした。いくつか回ったところで、一般人が囲われている人間牧場を発見した。


「ここね! 私が柵の鍵を開けてくるから、雨森さんは一般人を港まで誘導してください。私が殿で追っ手を蹴散らします!」


「姐さん、鍵を開けるってどうやって? ほら、ワニの見張りがおりますよ?」


 声をかけた時にはもう詩音の姿が消えていた。


「あれ?姐さん?いきなり消えやしたけど、なんかのスキルですかい?」


「スキル? そんなものじゃないわよ」


 どこからともなく詩音の声だけが聞こえてきた。


「ただのかくれんぼ」


 詩音は気配を消して見張りのワニの射程圏内に入り、世界樹のクロスボウの引き金を弾いた。完全に無音で、音速を超える速度で飛ぶ矢だった。見張り中のワニが派手に吹き飛んで絶命した。何が起きたのかわからない他のワニが吹き飛んだ仲間を助けようとすると、また次のワニが吹き飛ぶ。いずれも胸に小さな穴が空いていた。世界樹の矢は魔法武器のような貫通性能を備えていた。見張り兵をあらかた始末した詩音はワニの一人から鍵を奪い、一般人を全員逃がすことに成功した。


 雨森がその一般人を誘導して港へ連れ帰り、殿を詩音が務めたが追っ手は来なかった。


 港で一般人から他にも牧場があると聞かされて、二人は再び向かった。



 ◆



 遠くから様子を伺うと、クロコダイル兵が数人で監視している。そこへ二人の少年が見張りのクロコダイル兵に声をかけているのが見えた。


 その少年たちが持っているのは、見覚えのある貫通弓と連射弓だった。


「あれは!」


「どうしたんですかい、姐さん?」


「あの二人の武器は魔法武器なのよ」


「あぁ、どうりでクソ生意気な少年でしたよ。奴らがバニーガールのお姉さんを攫おうとしていたんでさぁ」


 詩音が激怒した。


「バニーちゃんを? 魔法武器だけじゃなく、バニーちゃんまで! ぶっ殺す!」


「いや、バニーガールのお姉さんは詩音さんのものではないですぜ?」


 詩音はかくれんぼで姿を消すと彼らの射程圏内に入り引き金を弾いた。一番手前にいたクロコダイル兵が吹き飛んだ。その瞬間、高橋が叫んだ。


「敵襲!」


 山田が連射弓を広範囲にばら撒いた。さすがに詩音も連射弓の弾幕の前では容易に近づけない。そんな様子を見ていた雨森が山田の注意を引くために射程圏内に姿を現した。


「そこの少年、お久しぶりでござんすねぇ」


 酒場の事を思い出した高橋と山田が雨森へ向けて弓を引いた。しかし相変わらず、雨森は矢を全て刀で斬ってしまう。連射弓で何発放とうとも全て斬り落とされた。


「クソっ!なんなんだよ!矢がどんどん無くなるぞ!」


「クロコダイル兵!矢を持ってこい!」


 二人の少年がクロコダイル兵に命じたが、誰も来ない。高橋が振り返るとクロコダイル兵は全て倒れていた。


「え? や、山田! 皆死んでる!」


「なんで? クソオヤジはあそこから動いてないよ!」


 そこへ詩音が姿を現した。


「貴方達はトカゲ軍の人間兵よね? どうやってゲートを通過したの? その魔法武器は日本にあったはずよね?」


 詩音の姿を見た二人が悪どい笑みを浮かべた。


「これはラッキーだ! 山田! A-Classハンターの詩音ちゃんだぜ!」


「本物、テレビで見るよりめちゃくちゃ可愛いじゃん!」


「なるべく傷つけないように捕らえようか! 俺、詩音ちゃんと先にやらせてくれるよな?」


「お前は本当に詩音推しなんだな。まあ、高橋が先でも良いよ」


 二人が詩音に向けて弓を構えた。


「さあ、詩音ちゃん。そのクロスボウを捨てな。そのオッサンと違って俺たちの矢はかわせないだろ?なるべく傷つけたくないからさ」


 詩音は呆れた顔をして呟いた。


「この状況を見ても勝てる気でいるのが不思議よね……でも、魔法武器を持つと、かつての私もこんな風にクソ生意気だったんだろうなぁ。なんか自己嫌悪。魔法武器って本当にもううんざり。貴方達を見て我が振り直せそうよ。ありがとう、クソ生意気な少年」


「ん? 何をわけのわからない事を言ってるの? 詩音ちゃん。まあ、抵抗する気は無さそうだね。さあ、早くクロスボウを捨てなよ!俺、もう我慢できないんだよ!」


「ダメね。そんな盛りのついた状態ではゲートの秘密を聞くことも出来なそうね。仕方ない。もういいわよ、デメタ」


 二人の少年は詩音の言葉の意味がわからなかった。お互いに顔を見合わせてゲスな笑みを浮かべたその瞬間、背後に軽自動車ほどの大きさのカエルが現れていることに気づいた。


「は?」


 デメタは高橋をパクッと丸呑みにした。


 高橋は抵抗することも出来なかった。隣で見ていた山田が腰を抜かした。


「あわわ……喰われた! 高橋が喰われた!」


「何言ってんのよ。貴方の親分も人を大勢喰ってたでしょ? 今更!」


 デメタは魔法武器だけを「グエッ」と綺麗に吐き出した。詩音がそれを拾い上げた。


「うふふ、魔法武器が戻ってきたのは良いんだけど……デメタ、これ汚すぎよ。でも、ありがとう」


「ゲコゲコ!」


 デメタが山田も食っていいかと詩音に目で訴えた。


「ごめんね、デメタ。コイツからまだ聞かなくちゃならない事があるから、少しだけ我慢して。あとで美味しいハンバーガーをあげるからね」


「ゲコゲコ!」


 デメタは山田へ前足で(バチーーン!)と張り手を一発食らわせて、山田を気絶させた。



 ◆



 詩音と雨森は残りの一般人を全員解放してトーンの港へ帰ってきた。気絶した山田を須佐ノ国の役人へ突き出して、拷問を頼んだ。


「須佐ノ国式の拷問を受けて白状しねぇ奴はいませんぜ。すぐにゲートの秘密を吐かせますぜ」


「奥尻以外にもゲートがあるなら、本当に不味いことになるわね……早く勇者が来てくれないと」


 詩音は貫通弓と世界樹のクロスボウを両手に持ちながら、ガーヤの港を眺めていた。



 ◆



 一方、旧コナ国南区のビリーの屋敷では、ワタルと来翔が詩音の先走りを聞いていた。


「本当に詩音は見境ないよね……」


「まあ、そこが詩音さんらしいじゃないですか。それに、田吾作さんが太鼓判を押したくらいなので、きっと無事ですよ!」


 ワタルと来翔とネーラはガーヤを目指して馬車に揺られていた。



   



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