【第63話 お逃げなさい】
王宮を乗っ取られた首都バルドでは、須佐ノ国とエジントン聖教国が軍を率いて王宮を包囲していた。
「ボレスに告ぐ! カークを解放せよ!」
するとクロコダイル兵が、毒でぐったりしていたカークを王宮の外へ放り出してきた。
「救護班! カーク氏の治療を!」
救護班が懸命に治療を施したが、コモドドラゴン族の毒は強烈で、カークの容態はなかなか改善されなかった。
「ちょいとごめんよ。お医者の皆さん、このガマの油をお使いなさい」
ガマの油売りの雨森が救護班の元へやって来た。傷口にガマの油を塗り込むと、ようやくカークの容態が良くなってきた。
「ほらね、ガマの油ってのは毒にも効くんでさぁ。それにしても、王宮を乗っ取られるなんて、あまりにも平和ボケし過ぎですぜ」
「向こうは戦闘系種族のトカゲ人類五千人ですよ? 人類がかなう相手ではありませんよ」
「そうですかい? 須佐ノ国の役人らはそうは思ってないようですぜ? あのお侍達は死ぬまで戦うのが美徳としてやがる。オイラは巻き込まれねぇうちに逃げた方が良さそうだ! ほらよ、ガマの油はまだまだ御座います。お医者の皆さんはたんまり買っておくんなさい」
ガマの油を売り切ると、雨森はその場を離れて港町へと歩き出した。
(南の島はもう終わりかな……)
◆
王宮では須佐ノ国の侍とクロコダイル兵の衝突が始まっていた。
雷の巻物で広範囲に麻痺を付与してからクロコダイル兵を刀で斬りまくる須佐ノ国の侍の戦い方は理にかなっていたが、クロコダイル兵相手には全く歯が立たない。そこへ高橋と山田が後方から一人ずつ侍を仕留めていく。
一進一退を見ていたボレスが前線に立った。三メートルを超えるコモドドラゴン族の巨体を前にしても侍達は怯まず斬りかかった。しかし核攻撃にも耐えるボレスの皮膚を刀で断つことはできず、一瞬で殺されていった。最後の一人になるまで戦い続けた須佐ノ国の侍だったが、ボレスの前では何もできなかった。エジントン側の魔道士もあっさりと魔法防壁を突破されて次々と倒れた。
そして、須佐ノ国とエジントンは南の島からの撤退を決めた。
残されたのは一般の人族だった。いつ餌にされるかわからない恐怖の中で、人々はただ震えていた。
◆
港町トーンに着いた雨森は、以前、情報をくれたバニーガールに酒場で再会した。
「バニーガールのお姉さんも悪いことは言わねぇ。この島を出た方が良い。また、この島はトカゲ王国に逆戻りって寸法でさぁ」
「せっかく皆が仲良く暮らせる島になったばかりなのに……でも、私には帰る場所も無いんですよ」
「そうですかい。オイラはお先に失礼させてもらいやす。バニーガールのお姉さんもくれぐれも気をつけておくんなさい」
雨森が酒場を立ち去ろうとした時、魔法武器の弓を持った高橋と山田が入ってきた。
「お? 山田! うさ耳だ! めっちゃ可愛いうさ耳の女の子発見!」
「めちゃくちゃ可愛いじゃん! 攫う?」
「当たり前! 俺のペットにしてもいい?」
「それはズルいよ! ジャンケンで決めようぜ!」
高橋と山田がバニーガールの前に立った。バニーガールが怯えて動けなくなっていた。
雨森が割って入った。
「お兄さん、この子はオイラの連れでしてね。ご勘弁して下さいよ」
「また侍かよ! お前らは刀でしか戦わないからさ〜。俺たちには絶対に勝てないってわからないのかなぁ?」
「そうそう。バニーガールを大人しく渡せば、オッサンだけは許してやるよ」
雨森は懐から御札を一枚取り出した。
「ガマの術!」
その瞬間、頭の上のデメタがピョコンと飛んだ。次の瞬間、軽自動車ほどの大きさになったデメタがバニーガールをパクッと咥えた。
「おいおい! バニーガールが食われちゃったじゃないか! なんて勿体ない事をするんだよ、オッサン!」
「アンタらみたいな下衆に渡すくらいなら、デメタの餌にした方が良いでしょう。デメタ。そのままガーヤの街まで泳いでくんなさい」
デメタはバニーガールを咥えたまま酒場を出て、海を目指してビョコン、ビョコンと跳ねて立ち去った。
「オッサン! お前、死んだわ! 山田はカエルを追え! たぶんバニーガールは食われてない。あのまま逃がすつもりだ!」
高橋が貫通弓を雨森へ向けて放った。雨森は飛んできた矢を刀で真っ二つに斬り裂いた。
「お? オッサン、凄いな! でも、いつまでかわし切れるかな?」
高橋が距離を取りながら連射した。雨森は飛んでくる矢を一本一本、刀で斬り落とし続けた。
◆
一方、デメタを追いかけた山田が連射弓を放ち続けた。デメタの背中に矢がどんどん刺さっていく。それでもデメタは止まらなかった。口に咥えられたバニーガールは最初、本当に食われるのではないかと泣き叫んでいた。しかし傷だらけになっても必死で海を目指しているデメタの姿を見て、ようやく気がついた。
「カエルさん、私を守ろうとしてるの?」
背中に矢を受けるたびにデメタが「グエ!」と苦しそうに鳴いた。それでも歩みは止まらなかった。
ようやく船着場に辿り着いたデメタは勢いよく海へ飛び込んでスイスイと泳ぎ出した。山田を振り切った。山田は遠ざかるデメタを眺めながら矢が無くなるまで放ち続けて、それから渋々、酒場へ帰って行った。
酒場では雨森が高橋の矢を全て斬り落としていた。矢を使い切った高橋に残された選択肢は逃げることだけだった。高橋が敗走し、山田もそれに続いた。
雨森はデメタを追うように漁船を手配して港町を後にした。
◆
海を越えてかつての漁師町ガーヤへ辿り着いたデメタは、バニーガールをゆっくりと吐き出すと元の小さなカエルの姿に戻った。身体が小さくなったことで、背中の矢がぽろぽろと全て落ちた。
「カエルさん、ありがとう。背中の傷は大丈夫?」
デメタは自分の背中からガマの油を出して傷に馴染ませ始めた。
「ゲコゲコ!」
「まあ! 自分で傷を治せるのね! 凄いわ!」
デメタが船着場から動かないので、バニーガールも一緒に待っていた。すぐに雨森が漁船に乗ってやって来た。
「バニーガールのお姉さんも無事で良かった! デメタ、よくやりやした!」
「ゲコゲコ!」
「さて、ここもすぐにトカゲ共が攻めてくるに違いねぇ。バニーガールのお姉さんもオイラに着いて来なせぇ。オイラはこのまま旧コナ国へ参りやす!」
「コナ国? あんな所にどうして?」
「オイラよりも強いお人がいるんでさぁ〜」
こうして、雨森とデメタとバニーガールは旧コナ国のゲートを目指して歩き出した。




