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【第61話 平和な解決策】

 ある日。


 中国の中南海にある勤政殿の門を、ダラス将軍が叩いた。その様子は中国本土全体に生中継されていた。


 今や世界の覇者の突然の来訪に、国家主席の鄭が慌てて出迎えた。


「ダ、ダラス将軍閣下……。何故、突然……?」


 勤政殿に招き入れながら、鄭はテレビカメラに気づいてダラス将軍との握手をカメラの前で見せつけようと愛想笑いを浮かべた。


 それが鄭にとって最後の愛想笑いになった。


 ダラス将軍がガブリと鄭国家主席を一齧りして、鄭国家主席の上半身が消えた。不味そうに食べ終えたダラス将軍はテレビカメラの前でこう述べた。


「ここには俺一人しかいないぞ? さあ、必死に抵抗してみろ! 中国人どもよ! チベット、ウイグル、内モンゴル、台湾については、トカゲ軍は敵対しないことを誓おう! 我がトカゲ軍の敵は中国ただ一つ! さあ、俺一人に全力でかかって来い!」


 即日、中国軍は勤政殿を集中砲火した。空爆もした。寝込みも襲った。冬の中国なのに連日の砲撃のおかげで勤政殿の周辺は常に暖かく、寒さによる冬眠の強制的な睡魔もなかった。ダラス将軍は楽しむように中国軍の猛攻をいなしていた。腹が減ると、餌となるためとしか思えない特攻をかけてくる兵士を喰った。猛攻を受ければ受けるほど、ダラス将軍は経験値とスキルを獲得していった。


 かつて函館山で敗走した日のことを思い出しながら、ダラス将軍は戦い続けた。


(今の俺ならば、あの脂の乗った男に勝てる! あの日の敗走は無駄ではなかった!)


 決死の中国軍の無駄な抵抗は三週間続いた。


 同盟国のはずのアメリカもロシアも、この勤政殿の戦いには一切参加しなかった。


 やがて中国人は全てダラス将軍の人間牧場となっているニュージーランドの南島へ送られ、中国の領土はインドとイランが平等に分配されることになった。台湾、チベット、内モンゴル、ウイグルはすぐにトカゲ軍への併合を決めた。なかでもチベットが世界中から非難されることをしでかした。ダラス将軍こそ正当なるダライ・ラマであると公式発表してしまったのだ。


 各国よりも真っ先に同盟関係を結んでいたインドとイランだけがトカゲ軍の恩恵を受けることができた。中国の国民を餌として確保できたお陰で、トカゲ軍としてはもう人間をこれ以上集めなくても良くなってしまった。


 地球規模でダラス将軍の軍門に降る日は、もうすぐそこまで来ていた。



 ◆



 一方、空の大地でゆっくりと進んでいた来翔とトカゲ人類達は、ようやく南の島へ上陸していた。鉱山の爆破を決意していたワタルと詩音が来翔の到着に唖然としたのもつかの間、すぐに来翔の考えに賛同した。


「まさか、そう来るとは思いませんでしたよ! 本当に来翔さんは大人の判断をしてくれる。やはり、来翔さんのような真面目に選挙に行って投票している年配者のハンターも必要なんですよね。俺たち二十代のハンターでは安保条約なんてものは思いつきませんよ」


「ハハハ、ワタルさん。それは遠回しな悪口になってますよ! あと、もう一つのアイデアを聞くと、そんな意地悪なことは言ってられなくなりますよ!」


「もう一つのアイデア?」


「はい。勇者と総督のお嬢さんとの婚姻です! 新生トカゲ共和国では、帝国の後ろ盾に加えて勇者の後ろ盾も受けることになります。それに、マーガレットさんのお気持ちにはワタルさんも気づいていましたよね?」


「え? でも、俺は異世界人だし、上ノ国在住の田舎者だし、マーガレットさんはお嬢様育ちだから上ノ国なんてきっと飽きると思うし……」


 そんな煮え切らないワタルを見ていたチックルがイライラして、とうとうバフをかけた。


「もう! イライラする! えいや! 『決断!』」


 ワタルから迷いが完全に消えた。


「俺、この戦いが終わったら彼女にプロポーズします!」


「それ、最悪な死亡フラグじゃないですか!? わざと言ってます?」


「あ、本当だ。完全に無意識だったけど、今言った死亡フラグを超えてみせますよ! 勇者なんでね!」



 ◆



 トカゲ人類の生き残り達は早速、勇者を先頭に鉱山へやって来た。


 鉱山の前ではちょうどエジントン側のデモ隊と鉱山労働者達の激しい罵り合いが起きていた。


「俺たち作業員に言われても困るんだよ! デモをするなら須佐ノ国の国会前でやれ!」


「俺たちはお前らに作業を辞めろと言っている! まだ誰のものでもない鉱山を勝手に独占して掘るな! この土地はトカゲ王国時代に我々エジントン聖教国が先に入植していたのだぞ?」


「その王国も滅んだんだから関係ない!」


「いや、関係ある! 掘るな! 奪うな! 持ち出すな!」


 そんな白熱した罵り合いの間に、ワタルが悠々と歩いて双方の目の前に立ちはだかった。


「まあまあ、双方落ち着いて下さい。ほら、あちらをご覧下さいよ。この島の正当なる権利者である、トカゲ人類の皆さんですよ」


 須佐ノ国の労働者とエジントンのデモ隊が一斉にトカゲ人類の集団を見た。


「ば、馬鹿な……。トカゲ人類は滅亡したはずだぞ?」


 エジントン側から声が漏れた。須佐ノ国の労働者達も唖然として立ち尽くした。そこへ侍姿の役人が作業員に命令した。


「作業員は持ち場に帰れ! 手を休めるな! よく見ろ、トカゲと言っても非戦闘種族しかいない!こんなひ弱なトカゲにビビるな!人を喰うのは戦闘系のトカゲだけだ!コイツらは虫しか喰えん!さあ、作業を再開させろ!」


 突然、LEONが保護色を解いて役人の前に姿を現した。


「戦うと言うなら、私が相手になろう」


 一言だけ言うと、LEONはまた姿を消した。


 しかし侍姿の役人達は見えないLEONを恐れることなく、全員が刀を抜いて構えた。その中の一人が懐から巻物を取り出して読み始めた。


 その瞬間、辺り一面に雷が落ちてきた。一瞬ではなく三十秒ほど続いた。


 さすがのLEONも全てかわしきることはできなかった。雷を食らって麻痺状態になり、動けなくなった状態で姿を現してしまった。


 役人達が刀で斬りかかった。


 その時、トッケイヤモリ族の小柄な男が大声で鳴いた。


「ケケケケケケケケケッコーー!!!」


 その鳴き声は人族の耳では耐えきれない程の爆音だった。侍達が全員刀を落として耳を塞いだ。耳を塞いでも尚、トッケイヤモリの鳴き声は鼓膜を揺さぶり続けて、その場にいる人族が軒並みうずくまって動けなくなった。


 唯一、耳栓をしていたワタルと詩音と来翔と雨森だけは立っていられた。


「もう大丈夫ですよ。辞めてあげて下さい」来翔がトッケイヤモリ族の男を制した。


 侍達が落とした刀を、足の速いエリマキトカゲ族の男たちが素早く回収した。刀を取られた侍達は牙を抜かれた猛獣のように大人しくなった。


「無念……作業員は撤収しろ……」


 そこへイグアナ族の新生トカゲ人類のまとめ役、カークが侍へ語りかけた。


「私は新生トカゲ人類の長のカークです。我々、武器を扱えないトカゲ人類にミスリルは無価値です。なので、新生トカゲ共和国としては、須佐ノ国やエジントン聖教国に誘致という形で共同運営してもらいたい。トカゲ共和国には雇用という形で貢献して頂けると双方が丸く収まると思います。トカゲ人類の中には穴掘りが人族よりも上手い種族もおりますので」


 須佐ノ国の役人とエジントンのデモ隊がしばらく呆気に取られて立ち尽くした。やがて、双方がカークと握手を交わした。



 ◆



 数日後、帝国の大使立ち会いのもとでトカゲ共和国と須佐ノ国とエジントン聖教国の同盟関係が結ばれた。それと同時に勇者と帝国の総督の娘の婚姻の発表も行われ、トカゲ共和国の後ろ盾は完璧なものに仕立てられた。


 ゲートの管理は引き続き帝国が責任を持って行うことになり、異世界ハンターの敵はいよいよダラス率いるトカゲ軍と、原子力潜水艦と共に忽然と姿を消した百三十人のゾーン団のみとなった。どちらも個人のハンターが手に負える存在ではなくなっていた。考え出すと憂鬱になるが、今はまだ新生トカゲ共和国の祝賀パレードを楽しむことにした。


 非戦闘系のトカゲ人類達が誇らしく大通りを行進していた。その光景を、来翔とワタルと詩音と雨森とフェアリー達が揃って眺めていた。


 お茶ボーイが来翔の隣に立って、静かに言った。


「来翔さん、ありがとうございます」


「お礼はカークに言ってあげてよ。本当に頑張ったのはトカゲ人類の皆さんなんだから」


 お茶ボーイは前を向いて、また静かに行進を見つめていた。



   



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