【第60話 SOUTH】
数日前に南の島へ到着していた勇者パーティーは、港の宿場町の酒場で情報を集めていた。
うさぎ耳のバニーガールが三人の対応をしていた。
「三名様はこのトーンの街は初めてなんですか?」
代表して詩音が答えた。
「えぇ。先日来たばかりで何も知らないの。良かったら色々と教えてもらえる? それと、この店はお触りOKかしら?」
「お触りと言うのは……どういう意味ですか?」
詩音がバニーガールのうさ耳をグニグニと触り始めた。
「こうやってうさ耳を触るのは有料なのかしら?」
バニーガールがワタルに助けを求めるように訴えた。
「お、お触りはダメです! 耳だけはダメなんです!」
「詩音さん、辞めてあげてくださいよ。雨森さんのデメタでも触ってたら良いじゃないですか」
「ゲコゲコ!」
デメタも触れと詩音に言っているようだった。
詩音は気を取り直して改めてバニーガールへ尋ねた。
「まあいいわ。ところでミスリル鉱山にはもう既に発掘団が作業を開始してると聞いたけど、何処の許可を得てやってるのかしら? 私たちでも勝手に掘っていいのかしら?」
ようやく詩音の手から解放されたバニーガールが丁寧に答えてくれた。
「今は無法地帯ですね。許可なんていりませんよ。誰が掘ってもOKです。ただし、大規模な調査団を送り込んできている国もあるので、縄張り争いが熾烈を極めているらしいですよ。個人ではなかなか良い場所を確保するのが難しいみたいですね。まさか、お客さんも一攫千金を狙って来たんですか?」
「まさか、私たちはミスリルには興味が無いのよ。興味があるのは、その縄張り争いの方」
「あ、なるほど。傭兵志望の方でしたか! 傭兵なら今はどこも引っ張りだこですよ! 今は須佐ノ国という極東の国が縄張り争いで一歩有利なんですが、そこにエジントン聖教国が絡んできてる感じですね」
「エジントン聖教国?」
「元々、この島にはトカゲ王国の頃からエジントンの宣教師が教会を建てていたんですよ。だからエジントンでは優先権を主張してるんです。須佐ノ国はトカゲ人類が民族移動で島が空っぽになった頃に侵略してきて、あっという間に鉱山に拠点を置いてしまったんです」
「なるほどね。ありがとう。とても助かったわ」
礼を言いながら詩音はさりげなくバニーガールのまん丸のシッポを撫でていた。
「シッポもダメです!」
◆
三人は実際に鉱山まで見物に来てみた。既に坑道が出来ていて、須佐ノ国の作業員達が鉱石を運び出していた。同郷の雨森が作業員の一人に気軽に声をかけた。
「お疲れさんです! あっしはガマの油売りでさぁ。この辺りでも売れるものかと尋ねてみたんですがね」
「この辺はやめといた方が良いぜ! 今日は静かだが、最近はエジントンの奴らが坑道前でデモをやってるんだよ。こないだもデモ隊と警備員が衝突してヤバかった。そろそろ死人も出るんじゃないかってくらい苛烈な衝突だぜ? 巻き込まれるからやめときな!」
三人は宿屋へ戻って状況を整理した。
「須佐ノ国が既にミスリルを掘り出してたのね……こうなると法的には実効支配した者勝ちなんでしょ?」
「オイラには政治のことはわかりやせんが、早い者勝ちという意味では須佐ノ国が優位ですなぁ。我ながら見境のない故郷でお恥ずかしい」
「でも、エジントン側の主張も正当過ぎて悩むのよね?先住権という概念がこの世界にもあるなら、完全にエジントン側の主張が優位になっちゃうわ。どちらも引くに引けない事態なのは、余所者の私にもわかりやすいわね。ワタルはどう考えてるの? 一応、勇者なんだし、貴方の言うことなら両国も従うんじゃないかしら?」
ワタルは少しだけ考えてから答えた。
「実は俺はここへ来る前に帝国の総督に、ミスリルの事で戦争が起こるようなら鉱山を破壊すると約束してきたんだよ。争いの種はこの世から消しても良いと思ってる。ミスリルがあると、またフェアリーの乱獲も始まるかも知れないしね。鉱山を破壊するだけの爆薬は自衛隊なら用意できるだろ?」
詩音も少しだけ考えてから答えた。
「案外、それが一番良い解決策かもね。勇者が破壊したとなれば、他国も無理やり納得するしかないもんね」
「ゲコゲコ!」
「お?デメタもナイスアイデアと言ってますぜ」
こうして勇者パーティーは鉱山の爆破に向けて動き出す決意を固めた。
◆
一方、冬の間はオーストラリアへ拠点を移していたダラス将軍は、広大な大陸に想定外の苦労をしていた。
頼みの人間兵がこの大陸では全く役に立たなかった。砂漠の規模が違いすぎた。日本の人間兵は砂漠で簡単に死ぬ。戦闘も何もないのに、育て上げた忠実な人間兵が砂漠を調査するだけで死んでいくのだ。忠誠心が高ければ高いほど、餌を探して砂漠に踏み込んで戻ってこない。移動にも苦労した。日本では全ての道路が整えられていたが、この大陸には道路のない土地が多すぎる。百戦錬磨のダラス将軍でも、大自然には敵わなかった。
人間兵が次々と失われていく反面、クロコダイル兵は順調に増え続けていた。それだけが唯一の救いだった。
そんな中、秘密裏にダラス将軍の元へ人間の訪問者が来た。インドとイランの大使だった。
佐々木参謀が二人を紹介した。
「将軍様、こちらがインド大使のバジール、そしてこちらがイラン大使のアジモフです。将軍様にお話があるそうです」
先に口を開いたのはバジールだった。
「この度はお時間を作って頂きありがとうございます。陛下におきましては……」
「バジールよ、堅苦しい挨拶は不要だ。要件から話せ。俺たちトカゲ人類にお世辞を言うのは辞めておいた方が良いぞ。お前らだって豚や牛から世辞を言われてもピンと来ないだろ?」
バジールとアジモフの額から冷や汗が流れた。
「は! 申し訳ありません。それでは要件から申します。先日の米露中同盟に対抗するために、貴国との三国同盟を結びたくお願いに参りました。我が国には人間兵をどの国よりも提供できますし、イランからは石油を提供できるのです!」
「そちらへのメリットは?」
「ただ一つ。インドとイランの国民の非食料の確約です。その保証さえ頂けるなら、人材も燃料も援助し続けます!」
ダラス将軍は溜息をついた。
「侮るなよ、人間。俺はメリットを聞いたのだぞ?非食料だと?俺を含めて人間を喰うトカゲ戦士はたったの五人だぞ?クロコダイル兵達も人間を食おうと思えば食えるのだが、今は羊や牛を喰っておる。食人に関しては幹部の五人だけだ。お前らの国民を食い尽くすのに何年かかると思ってるのだ?もっと正直に言え。非食料は建前だな?」
バジールとアジモフの冷や汗が止まらなくなった。本当に下心があったからだ。それを見抜かれたとわかって、二人は今日は生きて帰れないと覚悟した。ダラス将軍が助け舟を出した。
「米露中同盟が気に食わないのだろ?あわよくばトカゲ軍と米露中同盟をぶつけて、どちらかが滅びてほしいと考えたのだろう?いや、どちらも相打ちしてくれるのを期待したのか?」
ズバリ当てられてバジールが素直に答えるしかなかった。
「その通りでございます……おみそれしました!」
ダラス将軍は応接室の地球儀をくるりと回しながら答えた。
「確かに米露中同盟はインドにもイランにも厄介だな。よし、貴様らには選ばせてやろう。アメリカ、ロシア、中国のトップの中で誰が一番、目障りなのだ?」
二人はダラスの言葉の真意がわからないまま、適当に答えてしまった。
「インドとしては中国です」
「イランも中国が目障りです」
「だろうな。俺から見ても中国はちっとやり過ぎてる。たぶん、トカゲ軍がこの世界に来るまでは、この中国とやらがバランスを崩している張本人だったのだろ? よし! わかった! インドとイランとの同盟を認めよう。佐々木参謀、書類の手配をしろ。インドとイランは数日間、このオーストラリアでバカンスでも楽しんでおれ。数日後には両国へ手土産を献上しよう」
そう言ってダラス将軍は笑いながら地球儀を回し続けた。
バジールとアジモフの冷や汗はますます止まらなくなっていた。




