【第58話 サプライズ】
奥尻島の詰所では来翔が大慌てで自衛隊員に指示を出していた。
「もっと石油ストーブを持ってきてください! 早く部屋の中を温めないとLEONさんが冬眠してしまう!」
詰所の椅子にはLEONが寝ぼけまなこでウトウトし始めていた。
「まさか、トカゲ人類がこんなにも冬に弱いとは……」
ネーラとレフトとメモルが笑い転げている。
「ネーラ、笑い事じゃないよ。冬眠状態に入ったら春まで起きないんだよ? あ、そうだ。フェアリーの中に温めるような能力の子はいないの?」
「温める能力? いたっけ? そんな子」
メモルが恥ずかしそうに答えた。
「いる……。モンローが『ハートフル+30%』を使える」
「それも微妙だなぁ〜。内面をホッコリさせてもLEONさんの体温が上がるとは思えないんだよなぁ」
そんなドタバタ劇を一切無視して、優秀な自衛隊員達はすぐに熱い風呂を沸かしてくれた。LEONを湯船に運ぶとすぐに意識を取り戻して、気持ちよさそうにゆっくりと湯船に浸かり始めた。水浴びが大好きなレフトもLEONから桶にお湯を入れてもらって懸命に水浴びをしている。ネーラとメモルも桶にお湯を入れてもらって、一緒に桶湯に浸かっていた。
「皆はゆっくりお風呂に入っててくれ。僕はクロガネさんに報告してくるから」
◆
会議室で久しぶりの缶コーヒーを飲みながら、来翔はクロガネ幕僚長に報告を始めた。
「こちらは冬季間は安全期間でもあるんですね」
「あぁ、その代わりオーストラリア周辺はもう手をつけられない事になっている。ニューギニアもインドネシアも完全にヤツらの領土になった。それに伴い米露中の三国同盟が確立されたが、決して平和になった訳ではない」
「でしょうね……。アチラ側もまさに世界大戦が起こる寸前なんですよ。なので、皮肉にもアチラ側は今は緊張状態なので、ゲートを越えてくる軍団はいないはずです……と言っても、今日、大量のフェアリーがこちらに来てしまいましたが、皆さんには見えていないので、あまり関係ないとは思いますが」
来翔がそう言っている横で、クロガネ幕僚長の両肩にはニコニコ笑顔のフェアリーが鼻歌を歌っていた。
「とにかく、一旦、江差に帰ります。買い出しをしたらまたゲートを使わせてもらいます」
その後、クロガネから電熱線入りのLEON用Quantum Stealthホットスーツを受け取って、LEONたちのいる大浴場へ戻った。
浴室からはご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
「♪ばばんばばんばんばん♪ ばばんばばんばんばん♪」
来翔が浴室の扉を開けると、いつの間にか大浴場の全ての桶にお湯が入れられて、フェアリー全員がご陽気に桶湯に浸かりながら一斉に鼻歌を歌っていた。
「♪ばばんばばんばんばん♪」
「ちょうど良かった。全員集まってたね。LEONには熱線入りのホットスーツを用意してもらったから、もう大丈夫だよ。カーコキーコが迎えに来たら江差へ帰るよ」
「ハーイ!」
浴室からフェアリー達の明るい返事が一斉に響いた。
LEONがさっそくホットスーツを試すために外へ出た。
「どうだい? 寒くない?」
「素晴らしい。これなら冬でも活動できる」
「モバイルバッテリーで発熱するからね。予備のバッテリーもポケットに入ってるはずだよ」
やがてカーコキーコの乗るベル222ヘリコプターが着陸したので、全員で江差へ向けて飛び立った。初めて乗るヘリコプターにフェアリー達が大はしゃぎだった。
◆
久しぶりの江差の自宅へ帰ると、すぐにカスミがやって来てフェアリー達のためにご馳走を作り始めてくれた。
「ありゃま! 本当にネーラちゃん以外の妖精さんがここにいるのかい? 全然見えないねぇ〜」
「うん! 沢山いるよ! おばあちゃんの肩と頭に十人も乗っかってる!」
「ありゃま! そんなにかい!」
ネーラはカスミがご馳走を作っている間、フェアリーの皆を連れてコンビニに行きたいと駄々をこねた。来翔がKeiワークスに乗り込んで、近所のコンビニへフェアリー全員を連れていった。皆の要望を聞きながらカゴにお菓子をたくさん詰め込んでレジへ向かうと、今度は全員が中華まんを食べたいと言い出した。来翔は店頭に並んでいた中華まんを全て買って、Keiワークスの車内でフェアリー全員に熱々の中華まんをちぎって渡した。
誰かの分を先にちぎると別の誰かが膨れる。全員に均等にちぎって渡し終わるまでに、来翔は随分と時間がかかった。
自宅へ帰るとカスミのご馳走が並んでいた。全員で囲んで食べた。
素材として産まれてきたフェアリー達が、生まれて初めて知る温かさがそこにあった。姿が見えていないとわかった上で、フェアリー全員がご馳走を作ってくれたカスミに何度もお礼を言った。ネーラが必死でカスミに通訳しながら笑っていた。
◆
ご馳走を食べ終えると、フェアリー全員とレフトとLEONが幸せを噛み締めながらスヤスヤと眠ってしまった。
深夜のリビングには来翔とカスミだけが残って、コーヒーを飲みながら語り合っていた。
「カスミさん、無理言ってすみませんでした。大変だったでしょ?」
「ありゃま! こんな事くらいは大したことないよ。私も好きでやってる事だから」
「わざわざ天狗屋まで行ってくれたんでしょ? 峠は雪が積もってたんじゃないですか?」
「なんもさ! 田吾作が軽トラを出してくれたからね。田吾作は雪道の方が得意なんだよ。それに、田吾作も天狗屋が好きでね。半日は店内で時間潰せるらしいから」
「なんかわかります……僕もホーマックとかイエローグローブで半日潰せますもんね。さて、皆が寝静まってるんでやっちゃいますか!」
「そうだね。私には他のフェアリーが見えないから来翔さんが頼むよ。ネーラちゃんとレフトとLEONちゃんには私がやっとくよ」
クリスマスイブの深夜の江差の家に、来翔サンタとカスミサンタが動き出した。スヤスヤと眠っている皆の枕元に、一人ずつそっとプレゼントを置いていった。
リビングのクリスマスツリーがピカピカとイルミネーションで煌めいていた。
◆
翌朝、最初に目を覚ましたのはLEONだった。
枕元に靴下が置かれていた。中には見覚えのある箱が入っていた。DAIWAの23レグザLT3000-XH。ずっと欲しかったリールだった。
LEONはキッチンで朝食を作っているカスミのところへ行った。
「カスミ、DAIWAのリールがあった」
「ありゃま! きっとサンタクロースが来てくれたんだねぇ〜。いい子の所にはクリスマスイブの夜にサンタクロースがプレゼントを持ってくるのさ〜。良かったねぇ〜」
LEONはリールを手に取りながら考えていた。
(サンタは凄い……。全く気づかなかった。しかも、ちゃんとDAIWAを持ってきた。なぜ、私がDAIWA派だと知っているのか……)
プロの暗殺者である自分が全く気づかないまま枕元まで侵入してきたサンタクロースという謎の人物に、LEONはしばらく思いを馳せていた。
フェアリー達とレフトの靴下の中には、インコ用の小さなスケボーが一人一枚ずつ入っていた。フェアリー達は最初、何なのかわからなくて首をかしげていたが、ネーラから「サンタクロースはちゃんとクリスマスイブに来るんだよ」と真剣な顔で説明された。
さっそくレフトがスケボーに乗ってフローリングの床をゴロゴロと器用に走らせると、次々とフェアリー達もスケボーに乗り始めた。転んでは笑い、また乗っては転ぶ。小さな賑やかな声が江差の朝に溢れていた。
魔法武器の素材として産まれてきたフェアリー全員が、生まれて初めてのクリスマスの朝を迎えていた。
北海道民には「休日を半日消し飛ばす危険地帯」が存在します。
それが、
――ホーマックとイエローグローブです。
本州の方にもわかりやすく説明すると、
「ホームセンター」と聞いて想像する規模の二〜三倍くらいあります。
しかも北海道のホームセンターは、
「木材」「工具」「ネジ」くらいでは終わりません。
除雪用品。 熊対策用品。 業務用ストーブ。 漁具。 農具。 謎にデカい長靴。 そして、なぜか妙に充実しているペットコーナー。
気づけば、 「ちょっと電池だけ買いに行くか」 だったはずなのに、
二時間後――
「この薪ストーブ……ロマンあるな……」 「このLED投光器、絶対いつか使うな……」 「この業務用コンテナ、人生変わるかもしれん……」
などと考え始めます。
そして、イエローグローブに至っては、 北海道民の一部から、 「テーマパーク」 として扱われています。
特に冬。
吹雪の中、
店内に入った瞬間の安心感は異常です。
「生きて帰ってきた……」
みたいな顔で暖房コーナーに集まる道民が発生します。
なお、本作の来翔は、 ホーマックとイエローグローブなら本当に半日潰せるタイプです。
たぶん工具コーナーから動きません。




