表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/94

【第48話 プライド】

 槍を手に入れた詩音は翌朝、真っ先に江差基地へ向かった。


「魔法武器を手に入れたわよ! 早く私をA-Classに戻しなさい! そしてすぐに福島まで飛ぶわよ!」


 応対した若い自衛隊員が宥めるように答えた。


「まあまあ、その槍はLEONさんの槍ですよね? それにアーチャーだった詩音さんが槍の適性があるかを調べてみないと、まだA-Classには戻せませんよ。ご存知のようにC-Classハンターの仕事は戦うことではなく逃げ切ること。直接戦闘は認められていません!」


 顔を真っ赤にして激怒した詩音は持っていた槍を会議室のホワイトボード目掛けて投げつけた。


 貫通槍はホワイトボードと壁を貫いて基地の外まで飛んでいった。


 基地の外では、人知れず姿を消していたLEONが槍を受け止めていた。LEONはそっと立番していた自衛隊員に姿を現して槍を手渡した。


「詩音、怒ってる。落ち着いたら渡せ」


 立番の自衛隊員はLEONに敬礼してから槍を受け取った。


 詩音はカンカンに怒って宿舎へ篭ってしまった。



 ◆



 それから数日後、日本中が騒然となる出来事が起きた。


 福島のトカゲ軍の本拠地から、人間兵以外のトカゲ戦士とクロコダイル兵が全員、冬の前に日本列島を離れてオーストラリア大陸へと移動してしまったのだ。


 南半球に拠点を作ったことで、トカゲ戦士とクロコダイル兵は冬眠をしなくて済むようになった。北半球が冬の間、南半球は夏だ。理屈はシンプルだった。ダラス将軍はとっくの昔に計算していたのだ。


 ただ、それでも。


 日本列島から、人を喰らうトカゲ人類が久しぶりに消えた。


 ただ、それだけのことだった。にもかかわらず、日本国民は春が来るまでの命の保証を手に入れたと知って、声を上げて泣いた。ニュースキャスターが生放送中に泣いた。コンビニの店員が泣きながらレジを打っていた。見知らぬ者同士が街角で抱き合っていた。今夜は安心して眠れる。子供が家の外で遊べる。それだけのことで、日本人は泣いた。ずっと怖かったのだ。


 冬という季節に、国民全員が感謝した。


 そんな歓喜の中、詩音だけは激怒していた。


 宿敵が南半球へ逃げてしまったこと。慣れない槍の扱いにイライラが募ること。適性を認められないままC-Classでいること。怒りが行き場を失ってぐるぐると渦を巻いていた。


 それでも詩音は奥尻の基地で、ゲートをひたすら見つめていた。いつ来るかもわからない敵を待ちながら、ぼんやりと考えていた。


(ワタルと来翔さんがゲートから戻ってこない。LEONの話ではワタルはあちらで勇者だと言っていたわね……。ワタルでも勇者になれるのなら、敵を倒した数では私の方が圧倒的に多いはず。それなら、私こそ真の勇者になれるんじゃ……。それに、あちらへ行けば魔法武器が手に入るかも……新たなる弓が……)


 そう考えると、もう詩音には迷いはなかった。


 詩音は自動迎撃システムにアクセスしてOFFにした。すぐに緊急アラームが鳴り響いたが、詩音は迷わずゲートへ飛び込んだ。


 唖然として見送る自衛隊員たちの中で、クロガネ幕僚長だけが姿を消したLEONへ頭を下げた。


「詩音さんの事、お願いします!」


 LEONが姿を現してクロガネを見た。


「アリャマ……」


 LEONは巨大な銃とリュックサックを背負い、ゲートへ飛び込んだ。



 ◆



 初めての異世界に立った詩音は思い切り深呼吸をした。


(本当に呼吸が出来る)


 何度か深呼吸していると、完全武装のLEONがゲートを越えてきた。


「詩音、ここから離れよう。ここにいると来翔のように逮捕される」


「なんで着いてきたのよ! 気持ち悪い!」


「カスミがお前を守れと言った。だから私は詩音を守る」


「はぁ? トカゲの分際で人間様を守るですって? 本当に気味悪い! とにかくその不気味な顔を見せないでよ! 姿を見せなければ着いてきても良いわよ!」


 詩音は勝手に歩き出した。


「詩音、そちらへ行っても海しかない。街があるのは反対だ」


 気まずそうに詩音が回れ右した。


「トカゲなら来翔さんかワタルがいる場所がわかるでしょ? 早く案内して。まずはこちらのお金が必要なのよ」


「それならば、今の来翔とワタルの居場所を知っている人物の屋敷に行こう」


 LEONはビリーの屋敷まで案内した。ビリーは不在で、使用人から来翔は護衛のためエルフの里へ行ってしまったと教えてもらった。ワタルについては、最近まで首都にいたのに、いつの間にか消えていたという。


「来翔さんとワタルは別行動してるってこと? どうして?」


「それは私にもわからん。ただ、来翔は刑務所から出てきたばかりで、ワタルは勇者だったから、最初から接点が無い」


「それ! それよ! 私もワタルみたいに勇者かどうかを調べてもらいたいんだけど、どこで調べてもらえるの?」


「冒険者ギルドなら調べてもらえる。ただし、ワタルのように勇者だとバレると首都まで行かなければならなくなる」


「それで良いのよ! そもそもこの私がC-Classなのがおかしいんだから。この世界で勇者と認められれば、魔法武器も手に入りやすくなるでしょ?」


「詩音は魔法武器が欲しいのか? その槍では不満か?」


「私にはこの槍は使えないのよ! 私は弓が得意なの。この世界で最高の弓を手に入れたいのよ! さあ、早く冒険者ギルドへ案内しなさい!」



 ◆



 冒険者ギルドへ来た詩音は、受付嬢とすぐにもめ始めた。


「冒険者には興味無いのよ。早く私のステータスを見せてくれない?」


「でも、ウチは冒険者ギルドなんですよ。モノリスもタダではないので、冒険者にならないと言うのなら使わせることは出来ません」


「わかったわよ! 冒険者にもなるわよ!」


「それでしたら、こちらのモノリスに手をかざしてください」


 詩音がモノリスへ手をかざした。



┌──────────────────┐

詩音(21歳) Lv.57      

職業:弓使い         

スキル:弓・狙撃       

犯罪歴:無し         

└──────────────────┘



「やっぱり私には弓しかないみたいね……。ねえ、この辺に弓を売っているお店はあるかしら?」


 受付嬢が愛想笑いで地図を手渡してくれた。


 詩音は武器屋へやって来た。まだこちらのお金を持っていないので、どんなものがあるかの下見だった。武器屋には中古の安いものから工芸品のような美しいものまで揃っていた。


「この店に魔法の弓はあるかしら?」


 店主が少し馬鹿にしたように答えた。


「魔法の弓だって? そんなものがあるはずがないだろう。魔法武器は国家レベルのオークションでしか手に入らないぞ。これなんてどうだ? 魔法効果はないけど素材だけなら魔法武器と同じだぞ。中古だし、お嬢さんは可愛らしいから七百万Qに負けておくよ」


 値札には一千万Qと書かれていた。


「ふぅん……この店ではこれが一番良さそうね。お金を稼いでから買いに来るわ」


 帰ろうとした詩音の槍に、店主が気づいた。


「お嬢さん! その槍は魔法武器だろ? なんだよ、貴族様かよ。貴族様なら七百万ってのは無しだ! 定価で買ってくんな!」


「わかったわよ……」


 店を出ると詩音は姿を消したLEONに尋ねた。


「手っ取り早く稼げる方法を教えて。冒険者だとどれくらい稼げるの?」


「初心者冒険者は荷物運びしか仕事が無い。一日五千Qも稼げれば良い方だ」


「それならギャンブルとか?」


「残念ながら帝国になってからギャンブルは違法だ。それから売春も違法だから出来ないぞ」


「私が売春なんてするわけないでしょ!? っていうか、ギャンブルも売春も違法だなんて、帝国は割とまともな国なのね……。そんなまともな国が軍隊を送り込んできたなんて、ギャップが凄いわよ……。魔法武器は国家レベルのオークションって、どういうこと?」


「魔法武器は今は作られていない。過去の遺物がオークションで転売され続けているから価格はどんどん上がっていく。あの槍もオークションに出せば二億Qにはなる」


「それなら、これを売って弓を買えばいいじゃない! 私でもオークションに出品出来る?」


「それはわからん。ただ、私の仲間に頼めば代理で出品してもらえるだろう」


「さっきの屋敷の人? エルフの里まで行ってるって言ってたけど、遠いの?」


「馬車で十日もあれば着く。ただ、今から追いかけても行き違いになる可能性が高い」


「LEONにはまとまったお金はある? 貴方から借りるのは癪だけど、早く弓を手に入れたいのよ」


「弓なら来翔に作ってもらえば良いだろう。来翔は木工職人だ」


「来翔さんが……? そういえば彼は木ベラで戦っていたわよね……。あの木ベラも来翔さんが作ったのかしら……。やっぱりエルフの里へ行こう! LEON、早く案内して!」


 こうして詩音とLEONは、ろくに計画も立てないまま馬車に揺られてエルフの里を目指していた。


 この日も向かい風が西から吹いていた。西の方角はいつでも確かだった。詩音は黙って前を見ていた。LEONは姿を消したまま、詩音の隣に座っていた。



  



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ