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【第204話 デニッシュが食べたくなったビズ】

 敗走の連続で、ビズの無鉄砲さにはベスも呆れてしまっていた。が、その後も嫌がるビズに何度も偵察に行かせたことで、一つだけ、敵のレールガンについて致命的な弱点を見出していた。


「良くやったよ、ビズ。アンタの『無鉄砲』のおかげで、ようやくレールガンの致命的な弱点が見えてきたよ!」


 ベスはスマホの画面を指でスライドさせながら、してやったりといった顔でニヤリと笑った。


「え? 弱点……? マジかい、母ちゃん!」


 毎度毎度、偵察のたびに我慢できず手を出してはレールガンで撃ち落とされ、命からがら逃げ帰っていたビズが目を丸くする。


「そうさ。アンタが馬鹿の一つ覚えみたいに何度も撃たれに行ってくれたおかげでねぇ。モニカが撮った動画をじっくり見比べたら、はっきりと分かったんだよ。……レールガンってのはね、『連射が効かない』んだ」


「連射が効かない……?」


「そうさ。現在、大学の周りには五機のレールガンが鎮座してる。アンタが顔を出すと、一番から五番までのレールガンが順番に放たれるだろ? だけどね、五発目を撃ち尽くしたあと……見てごらん」


 ベスが動画を停止させて、画面をビズに見せる。そこには、撃ち終わった巨大な筒に冷水をぶっかけたり、ブロワーで風を送り込んだりして、必死になって冷却作業に追われる学生たちの姿が映っていた。


「熱を持ちすぎるんだねぇ。一度撃ち尽くしたら、次の充電と冷却が終わるまで、奴らの大砲はただの鉄くずになる。……いいかい、ここからが本番だよ。パン作りと一緒さ。『デニッシュ生地作戦』と行こうかね!」


「デニッシュ……生地?」


 突然のパン作りの例えに、ビズもモニカも首を傾げる。ベスは自信満々に、指を一本ずつ立てて説明を始めた。


「デニッシュってのはね、生地とバターを何度も何度も重ねて、隙間なく完璧な層を作るんだよ。今回の作戦も同じさ。工程を一つも欠かさず、畳み掛けるように層を重ねて、奴らを叩き潰す!」


 ベスは力強くテーブルを叩き、具体的な手順を言い渡した。


「【第一工程】は、ビズ、アンタが囮になる。空を飛んで五機のレールガンを誘い込み、全機一斉に撃ち尽くさせな!」


「任せな! 避けるだけならお手の物……」


「甘く見んじゃないよ! 【第二工程】、大砲を撃ち尽くさせた後が一番の山場だ。大砲が使えないとなれば、奴らは必ずあの嫌な音響兵器で、アンタの三半規管を狂わせに来る。発射冷却の隙をついて、アンタはこの攻撃を気合でかわし続けなきゃならない。ここが一番苦しい踏ん張りどころだよ!」


 ビズは前回の激しい目眩と吐き気を思い出して、思わずウッ、と唾を飲み込んだ。


「そして、アンタが空中でのたうち回りながら音響兵器を引きつけている間に【第三工程】だ。あらかじめ身を潜めていたボブルの若手兵隊どもに、射程圏外から敵の音響部隊を片っ端から狙撃させる!」


「なるほど! 銃で撃ち返させるんだね!」


「そうさ。で、【第四工程】。狙撃で敵の部隊が全滅するか混乱に陥ったその瞬間から、ビズ、アンタは空中で十五分間の詠唱に入る。邪魔が入らなきゃ唱えられるだろ? 十五分経ったら、空から『ホーリーレイン』をドカンと叩き込んで、地上に残った連中を文字通り一網打尽に焼き払うんだ!」


 ビズの目がギラリと光る。


「最高じゃないか! 地上の連中は皆殺しだね!」


「まだだよ! 【第五工程】を忘れるんじゃないよ。奴らはホーリーレインを察知したら、必ず地下シェルターへ逃げ込む。地上を光の雨で吹っ飛ばしたらすぐに降下して、地下への出入口という出入口を全部アンタの『フローズン』でカチコチに凍結させな! 鼠を穴ぐらに閉じ込めるんだ」


「逃げ道を塞ぐんだね!」


「そして仕上げの【第六工程】! 逃げ場を失って地下に閉じこもった学生どもめがけて、ボブルの若手連中が突入して一気に制圧する! ――これで、焼き立てサクサクのデニッシュ生地の完成さ!! どうだい?」


 完璧すぎる畳み掛けの作戦に、ビズは不敵な笑みを浮かべ、バシッと自分の拳を叩いた。


「へっ……いいねぇ母ちゃん! サクサクにして、あの生意気な学生どもを一口で平らげてやるよ!!」







 そして、数日後。入念にボブルの若手達とリハーサルを重ねて、作戦決行日となった。


 もはや、毎朝ビズが凝りもせずやってくるので、学生連中も慣れた感じで対応に迫られていた。


「おい、また異世界人が六時の方角に飛んでるぞ! 今日こそ、引き付けて撃ち落とせよ! 昨日よりも精度を高めたと、メンテの奴らも言ってたからよ」


 見張り組のリーダー格の男が、砲撃手達に伝えていた。


 そして、いつものように学生連中からの砲撃が始まった。まずは射程の長いライフル銃による砲撃から始まり、ビズが近づくにつれ、レールガンの砲撃手達が狙いを定めていく。


 そして、十分ビズを引き付けた三番のレールガンの砲撃手から砲撃された。が、それは華麗にビズにかわされてしまい、そのかわしたビズへ二番のレールガンが火を吹いた。が、それもまた華麗にかわされていく。三番と二番のレールガンのメンテ部隊が、懸命にクーリングと再充電を急いでいる。


 そして、立て続けに一番のレールガンと四番のレールガンがビズに砲撃したのだが、やはりこれらも華麗にかわされていく。そして、いよいよラストの五番のレールガンが放たれたが、今日のビズは全ての砲撃をかわしてしまった。


 すると、学生連中がお得意の音響兵器で弾幕を張った。見えない弾幕はさすがに勘でかわすしかなく、ビズもかなり苦戦する。魔法詠唱等は唱える暇もなく、必死に敵の銃口を見て勘でかわしていく。


 すると、今日に限って学生連中がいつもと違う動きを見せてきた。なんと、六番目の小型のレールガンを、空のビズに向けて狙いを定めていたのだ。


「ま、まさか、あれもレールガンかい!?」


 ビズは焦って魔法防壁の重ねがけを展開する素振りを見せたが、間に合わず――無情にも、小型レールガンの引き金は引かれてしまった。


(ズドォンッ!!)


 そして、音速を遥かに超える弾丸が、ビズの胸を綺麗に貫いてしまった。


 それを見ていた学生連中は歓喜している。


「ヤッター! 異世界人を倒したぞ!!!」


 と、その時、胸を貫かれたビズがニヤリと笑って答える。


「フッ! 馬鹿な奴ら! それは残像だ!!」


 歓喜する学生連中は、すっかり隙だらけになっていた。その隙を見逃さなかったボブルの若手が、次々と音響兵器の部隊を狙撃していく。その間にビズは『虚偽』スキルを利用して、この時期のネバダ州の早朝によく起こる自然現象――蜃気楼に、自分の姿を投影させていたのだ。その投影を解除すると、全く別の場所にいたビズは威風堂々と魔法詠唱を終わらせていた。


 カリフォルニア大学の上空まで飛んできたビズは、


「ホーリーレイン!」


 と唱えると、大学も学生連中も無数の穴が空いて、勝負が決まってしまった。ビズは作戦通りに地下への通路前に降りて、


「フローズン!」


 と入り口を凍結させると、続々とボブルの若手たちが乱入してきて、あっという間にカリフォルニア大学を制圧してしまった。


「さすが母ちゃん! 久しぶりに母ちゃんのデニッシュが食いたくなったよ!」


 ビズはその場をボブルの若手たちに任せて、ベスとモニカの待つローラの家に飛び去っていった。







 それから、数日後。発電所に呼び出されたビズ、ベス、モニカは、ボブルから礼と孤児たちについて語られた。


「さすがはゾーン団最強の大魔道士。アンタはリノの街の恩人だ! 孤児の件は俺が責任もって畑仕事をさせるから、来年の今頃には畑を見に来れば良い」


 ベスがバーボンの木箱を確認しながら答える。


「小麦なんてものは誰でも作れるんだ。食いきれないくらい作りなよ! 私はパン職人だ。いい小麦なら正規の値段で買ってやるよ」


 ボブルはニッコリと笑って答える。


「任せな」


 三人はバーボンの入った木箱を車に積み込んで、ローラの家に帰ってきた。そして、トランクルームにギッシリと入っていた現金を、ローラに全て差し出した。


「悪いけどゴールドはあげられないよ。でも、現金はどうやらリノでしか使えないようだから、アンタにあげるよ。いずれこの現金も使えなくなるのかも知れないけど、これだけあれば孤児たちを護衛として雇えるだろ?」


 ローラは大量の紙幣を見て唖然としながらも答える。


「孤児たちをボディガードに? それ、良いですね!」


「アンタらも早くゾーンの暮らし方を覚えなよ。この国はもうゾーン団が好む無秩序世界になっちまったんだからさ……」


 ローラは決意を固めたように、ベスへ誓った。


「このお金で私も一日も早く、ゾーンの民のようにどんな環境でも生き抜く力を身につけます! ベスさんが戦闘不可なのに、ゾーンの街で生き残れたように!」


 ベスはニコッと笑って、ローラを全身でハグをしてから別れを告げる。


「来年の収穫の時期にはまた来るからね。ちゃんと生きてなよ!」


 続いてビズも別れを告げる。


「ゾーンの暮らしは好きになれそう?」


「もう大好きです!」


 最後に、モニカも別れを告げた。


「今度会う時は、私は立派な戦士になってるからね! じゃあね!」


 三人はクライスラー300Cに乗り込むと、ホワイトハウスを目指して東へと走り出した。


(ブロロロロ……!)


 ローラは早速、水汲みに来た孤児たちに声をかける。


「ねぇ。君たち。私のボディガードをしてみない? 月に千ドルでどうかな?」


 孤児たちが途端に笑顔になっていた。


 ネバダ州の砂漠には、この日も幻想的な蜃気楼が、ハッキリとクライスラー300Cのフロントガラスに映し出されていた。無秩序と暴力の街に、一つだけ、確かな秩序と温もりの種が蒔かれた。三人が去ったあとのリノには、揺らめく地平線の向こうへ続く、ほんの小さな希望の道が残されていた。




 (第205話へ続く)



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