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【第199話 古き良きゾーン】

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ᕦ( ˘ᴗ˘ )ᕤ

 魔族領の小さな無人島で、序列一位のガウルは、仲間の序列二位の女魔道士ビズからの突き上げが酷かった。


「もうボスは帰ってこないんだよ! これだけ待って帰ってこないなら、もうアンタがゾーンを継ぐしかないだろ?」


 ガウルは渋々、第三十六代のゾーンに就任した。


「ふ〜。今日から俺がゾーンか……。つまらんなぁ〜」


 そして、ビズが途端に笑顔になった。


「ヨシャー! これでアタイが序列一位だ! ラッキー! ザンドスやバーンが消えてくれて良かったよ!」


「あんまりはしゃぐなよ! ビズ、お前が一位と言っても、繰り上げの一位じゃねぇか。そもそものお前の序列は三十八位くらいだったか? まあ、この俺もカリーナや親衛隊が帰らなくなったから、いつの間にか一位になっていただけなんだけどな……」


「そんなのは関係ないよ! 今の私が魔道士の中でいちばん強いのには変わりないんだからさ! アンタも戦士の中では最強だもん、誰も文句は言えないよ!」


 ガウルは、島にあるもう誰も使うことの無い、月まで直行できるゲートを見つめながら呟いた。


「ゾーン団もここまで戦力が落ちると、本当につまらんなぁ〜」







 こうして、ゾーン(坂本)が行方不明となったことで、ゾーンの幹部にも大きな変動があった。


 現在のゾーンの幹部には、今しがた一位になった女魔道士のビズが、幹部の中では最強となっている。が、元々は三十八位の魔道士なので、ゾーン(ガウル)から見ると、小指一本で殺せる実力差があった。


「なあ、ビズ。今後はお前はどうしたい? 先代のゾーンがいなくなって、この俺に何を望む? 知っての通り、俺は先代とは違って大魔法なんて扱えない戦士タイプだ。歴代のゾーンの中でも、戦士タイプがゾーンの名を受け継いだ者はいないはずだ」


 ビズは、当たり前のように即答した。


「そりゃあ、もちろん聖教国への復讐だね!! それ以外、ゾーンの民が考えてることがあるのかい?」


「ビズはホーリーレインの詠唱は何分かかる?」


「最大に放とうとするなら、十五分! 適当でも良いなら十二分。これくらいの時間なら、ボスが時間を稼げるだろ? さあ、行こうよ! 聖教国!」


 ゾーン(ガウル)は溜息を吐いた。


「はぁ、これだから脳筋は困る。俺とお前で乗り込んでも、聖騎士を数百人殺して終わりだ! それに、聖教国の僧侶達もホーリーレインは使えるんだぞ? しかも、お前よりも早く」


 坂本も、その妹のカリーナも得意魔法として使っていたホーリーレイン。天才カリーナは詠唱を三分という速さで放つことが出来ていた。努力の人ゾーン(坂本)でも五分。聖教国の神の祝福を受けた本物の僧侶ならば、一分という早さで魔法詠唱を唱えられるのだ。そんな神の祝福を受けた僧侶がいる聖教国には、先代のゾーン(坂本)でさえ、手を出すことを躊躇っていた。


「ビズ、お前には兄弟が多かったよな? 母親はまだ生きてるのか?」


「うん。生きてるよ? 私以外の兄妹はそんなに強くないから、戦えないよ?」


 ビズには兄が三人、妹が二人いる。ビズ以外はそれほど強くないために、未だ旧コナ国でバーを営んでいたり、パン屋を営んでいた。


「母ちゃんはパン屋で妹達と暮らしてるけど、母ちゃんがどうしたのさ?」


 ゾーン(ガウル)は少しだけ考え込んでから答える。


「お前は妹になりすまし、母親と二人で奥尻に行ってみないか? 旧コナ国民として。アチラで既にパン屋をやってるということは、母親も妹も帝国領コナ国の身分証もあるのだろ? お前は既にお尋ね者だが、妹として行くならバレんだろ?」


「妹には正規の身分証はあるけど、母ちゃんは本当に弱いよ?」


「良いんだ。母親と一緒の方が怪しまれねぇ。とにかく日本へ行ってしばらく大人しく潜伏して、ペットでも飼って『テイマー』のスキルが派生するかを試してこい。その実験を半年間続けたら、ビズを正式に序列一位として認めてやる」


「『テイマー』? あの魔物を飼い慣らすだけのゴミスキルかい? その辺の御者でも持ってるじゃないか?」


「アチラではなるべく危険な動物を飼えよ。アチラで身に付くスキルはコチラとは明らかに違うんだよ。例えばそこいらの御者が持ってる『操車』も、アチラでは『運転』や『操縦』という微妙に違うスキルが派生するんだと、トンプソンからの報告に書かれてんだよ。だから、アチラでは全く別の『テイマー』が派生するかも知れないだろ?」


 頭の悪いビズには、ゾーン(ガウル)の言っている意味の半分も分からなかったが、この任務を半年間続けるだけで序列一位になれるというのなら、選択肢はひとつしかなかった。


「そんな事だけで良いのかい? 正式に序列一位にして貰えんのかい?」


「お前がアチラで特別な『テイマー』を覚えたら、序列一位どころか、お前が新たなゾーンになれるかもしれないぞ? それにアチラからの最後の報告には、アメリカという大国が今では無法地帯となり、ゾーンの生き残りが集結しているそうだぞ? 古き良きコナ国が、アチラ側のアメリカにはあるそうだ。困ったことがあれば、アメリカにいるキャロラインを頼れ。あと、ミスリルのインゴットがアチラでは換金出来るそうだから、好きなだけミスリルを持っていけ。それから、旧コナ国の元ゾーンの民である鍛冶師も頃合いを見てアメリカへ連れて行ってやれ。ミスリルのインゴットと鍛冶師をキャロラインに届けてやると、奴らも喜ぶはずだ。まずは、せっかく帝国領のコナ国民として身分証を持ってるやつらを有効利用しねぇとな」


 現在、旧コナ国に残っている元ゾーンの民は、ごく普通の帝国民として暮らしている。戦闘力も無い者が多く、犯罪にも手を染めていない。堂々とゲートを通過できる。奥尻島にある異世界大使館ではQを円に両替もしてくれる。言葉に関しても、すぐに日本語を覚えられるように『日本語』や『通訳』のスキルがすぐに派生しやすいようなマニュアルも無料で貰えるのだ。ただ、ゾーン団の多くはお尋ね者なので、そういった恩恵を受けられないのだが、ビズには歳の近い妹がいるということで、妹になりすましゲートを通過できるのだ。







 それから、数日後。ビズは母親のベスと共にゲートを通過して、奥尻島の大使館へとやって来ていた。


 移住希望者として二人は、大使館の受付に移住の申請書を提出していた。


「移住ですか? コチラ側に伝手はありますか?」


 受付が尋ねると、


「いないわ。私と母でコチラ側でパン屋さんを開業するつもりです。今のアメリカは土地がタダで貰えると聞いたので」


「あぁ、アメリカですか。確かに土地は無料ですが、危険ですよ?」


「ウフフ、それはコナ国も同じですよ。先日のガーゴイル軍の強襲で、母のパン工房が壊されたのです」


「まあ、確かにそうですね。それでは今のアメリカには定期便が飛んでませんので、ここからまず函館に行ってもらって、そこから移民センターというNPO法人に出向いてもらって、そこでアメリカまでの渡航方法を確認してください。アメリカまでは船で二ヶ月もかかりますが、もうアメリカは国家ではないのでパスポートなども必要ありません。現金も使えないので、鉄などのインゴットや火薬や酒を持ち込めば物々交換が可能なようです」


 ビズとベスはニコッと笑って答える。


「えぇ、旧コナ国の出身ですので、そこは慣れてますよ」


 二人は大使館でスマホを購入して、早速日本語と英語のマニュアルをダウンロードしてから、手持ちのQを円に変えて奥尻港から直接、函館港までの定期便に乗り、奥尻島を難なく出港出来た。


 フェリーの甲板で、ビズがニヤリと笑っていた。


「ハハ、透明化なんてなくても簡単にゲートを通過できるじゃないか!」


 ビズは、妹の名前であるビッケと書かれた身分証を、大切そうに財布の中へとしまい込んだ。その瞬間、ビズには新たなるスキルが派生していた。


『虚偽』


 新たなスキルがいとも簡単に獲得できたことで、ビズはようやく新しいボスであるゾーン(ガウル)の思惑のことが理解し始めていた。







 函館にはおよそ四時間で到着した。二人はその日のうちに移民センターというNPO法人を尋ねてみると、新開拓時代のアメリカへの移民希望者は意外と多くて、二人が受け付けてもらえるまでに四十分も待たされてしまった。


 二人の目の前には、移民センターの担当官が簡単な面談を行っている。


「何故、アメリカへ? 知り合いでも?」


「まあ、いないこともないけど、会えるかどうかわかりません」


「その知り合いはアメリカの何処に?」


「ワシントンDCです」


「あぁ、最も危険地帯です。あまり女性二人で行くことをオススメしませんよ?」


 担当官は、年老いた母親のベスのことを見ながら言ってきた。


「はい。わかりました。気をつけます」


「アチラではパン屋を開業するのですか?」


「はい。母はコナ国でもパン屋を営んでましたから。先日のガーゴイル軍の強襲で工房が無くなったものですから……」


 等と、『虚偽』スキルのおかげでかなりスムーズに面談は終わり、二人はアッサリと移民を認められ、翌週にはアメリカ行きの貨物船に乗っていた。







 そして、二ヶ月後。二人はサンフランシスコ港に降り立つと、目の前には古き良きコナ国のような無法地帯が広がっていた。


 貨物船から降りた二人の周りには、孤児らしき子供たちに囲まれている。


「宿まで案内するよ!」


「アルミ缶を買ってくれない?」


「安全な水があるよ!」


 そんな懐かしい光景を見て、母親のベスがビズに語りかける。


「懐かしいねェ。私も子供の頃はこうして乞食をしていたもんさ。ゾーンの民の戦えない奴らは皆、こうして生き延びたんだよ」


「ふ〜ん。これが本来のコナ国なんだね。なんだか懐かしくてホッコリするよ」


 その中の物乞いのボロボロの少女に、ベスが声をかける。


「そこの女の子、こっちへおいで。パンをあげるから」


 と言ってベスが大きなバゲットを手渡すと、その女の子は独り占めすること無く、物乞いの子供たちへとバゲットをちぎって分けていた。


「これがゾーンの民の本来の姿なんだよ」


 とベスがビズに説明をした。


 そして、女の子が改めてベスに礼を述べた。


「おばさん、ありがとう。何か私らで出来ることはあるかい?」


 ベスは今度は、小さなロールパンを一つだけ手渡して答える。


「これはアンタにあげたもんだから、分けなくていいよ。アンタがお食べ。そして、食べたらアンタには頼みたい事があるよ。そのロールパンはその契約料さ」


 それを聞いた女の子は、ロールパンを躊躇うことなく食べてしまった。目を輝かせながら頬張るその姿には、この街で生き抜いてきた逞しさと、まだ幼さの残る屈託の無さが同居していた。


「うん。何でもする。あたいはモニカ」


「私はベス。こっちは娘のビズ。船の中で一生懸命、英語は練習したんだけど、ちゃんと伝わってるかい?」


「うん。発音も完璧だよ?」


「それじゃ、モニカ。私とビズをホワイトハウスまで連れて行ってくれるかい? そこで友達が待ってるのさ」


 モニカは驚いてしまった。


「ホワイトハウスだって!? めっちゃ危険地帯だよ? ゾーン団という悪党がそこに暮らしてるって噂があるんだよ?」


「そのゾーン団に会いに行くんだよ。モニカは車に乗れるのかい?」


「オートマなら乗れる。その辺の車を盗んでくるから、ここで待っててよ!」


 と言って、まだ十二歳程度の少女が、たくましく車を盗みに走り出した。


(タタタタッ……!)


 小さな背中が、瓦礫だらけの路地の向こうへ消えていく。母娘は顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。


「ビズ、あの子、良い目をしてるね」


「うん。まだ十二だってのに、私らよりよっぽど肝が据わってるよ、あの子」


 しばらくして、けたたましいエンジン音と共に、モニカが古びたセダンを転がしてやって来た。


(ブロロロロ……!)


「お待たせ! 乗って乗って!」


 運転席から得意げに顔を出すモニカを見て、ビズは大きな声で笑った。


「アハハ! こりゃ愉快な街だよ、母ちゃん!」


「そうだねぇ。ここには奪う自由も、生きる工夫も、ちゃんとある。ゾーンの民には、案外お似合いの国さ」


 これが、今のアメリカだった。


 そして、生粋のゾーンの民であるビズとベスの母娘には、その光景がとても懐かしく見えていた。助手席に乗り込んだビズの隣で、後部座席のベスが、優しくモニカへ声をかける。


「モニカ、道中でお腹が空いたら言うんだよ。パンならまだ荷物にたんまりあるからね」


「……うん」


 運転席のモニカの声が、ほんの少しだけ柔らかくなった。誰かに気にかけてもらうことに、この街で生まれ育った少女は、まだ慣れていないようだった。


 錆びついたセダンは、瓦礫の中の道を、ホワイトハウスを目指して走り出した。




 (第200話へ続く)



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