【第193話 オンライン会議】
愛知県小牧市で活動していたデビットとペックを、カーコとキーコがオスプレイで回収してきて、来翔の宿屋にレベッカ、デビット、ペックが揃っていた。
デビットが坂本についての報告を済ませると、来翔は以前、復興支援のボランティアに来ていた坂本という男の事を思い出していた。
「その坂本という男の写真は、本当に一枚も見つからなかったんですか?」
来翔が復興支援のボランティアに来ていた坂本と同一人物だったのかを確かめたくてデビットに尋ねると、デビットは資料の入った書類ケースから一枚のコピー用紙を出してきた。
「これは坂本の履歴書です。小牧市の派遣会社のデータに残ってました。坂本は孤独死だったので登録解除されないまま、奇跡的に登録データが残ってました。これは坂本が登録した頃の、三十五歳の頃の写真です」
来翔がそれを受け取ると、やはり復興ボランティアで一緒に十日間も活動した坂本と、同一人物だった。
「間違いない。あの人がゾーンだったのか………。俺はあの人を殺したくはないなぁ……」
来翔は、同じ匂いのした坂本という男の気持ちが、痛いほどわかってしまうからだ。
その言葉を聞いて、レベッカが猛烈に抗議した。
「な、何を言ってるんですか! 奴を殺さないと日本各地に核ミサイルを落とすんですよ!! ニューヨークや北京を見てますよね!?」
来翔は、レベッカとデビットに諭すように語り始めた。
「僕と坂本は全く同じなんだ。時代の変化にアップデート出来なかっただけ。そんな事で仕事を失っただけ。傍から見ると、くだらない事に見えるかもしれないけど、僕や坂本にとっては大事なことだったんだ……。今のSONY工場で働く君たちなら、少しは気持ちが分かるんじゃないか?」
レベッカとデビットは顔を見合せて、少し困ったような顔をして呟いた。
「それは分かりますけど、だからと言って日本を壊滅させてどうするんですか!! この江差町にもゾーンは核ミサイルを落とすって言ってるんですよ!」
「それは困る。だから、そんな事はさせない。それだけは約束するよ。でも、それは根本的な解決にはならないよ。だって坂本は月を支配したんだろ? 月では歳を取らない。すなわち、いずれ彼は核兵器よりも破壊力のある大魔法に辿り着く。そうなれば、核兵器なんてなくても、彼はいつの日か必ず日本を壊滅させてしまうのさ。まあ、その頃には僕らは寿命で死んでるかも知れないけどね……」
「だから殺してくれと頼んでるんです!! 木べらの戦士なら出来るでしょ?」
「それはわからない。坂本の実力を知らないからね。君らはあの日、米軍基地で拘束されていて見てなかったから知らないと思うけど、勇者と僕はカリーナ一人に負けてるんだよ。手も足も出なかったからね」
カリーナ戦で木べらの戦士が敗北していた事を知らなかった二人は、驚いてしまった。
「は? でも、カリーナは死んだんですよね?」
「うん。死んだ。そこのインコがカリーナを倒したからね」
来翔が指さした方向には、真っ白な鳥かごに入っている真っ黄色のセキセイインコが「♪ピピピピピ♪」とご機嫌に歌を歌っていた。
「ふざけないで! あんなインコがカリーナを殺せるはずがない!!」
レベッカが激怒してテーブルをバンと叩くと、鳥かごの中のインコが驚いて歌を途中で辞めて「ビービー!」と怒り出した。
レベッカには見えていないが、来翔の周囲で飛び回っていたフェアリー達も、怯えて全員が外へ逃げ出してしまった。
「レベッカさん。落ち着いて。核ミサイルについては僕が責任もって落とさせない。それだけは約束する。だから、核ミサイルについてはもう悩まなくても大丈夫。今は坂本についてのこれからの事を考えよう」
来翔があまりにも無責任に核ミサイルを落とさせないと豪語してきたので、レベッカの怒りはさらにヒートアップしてしまった。
「そんな無責任な事を言わないで!! もう良い! デビット! 帰りましょう! こんなクソオヤジだと思わなかった!! 隣町に勇者がいるわ! マーガレットに頼めば会わせてもらえるわよ! こうなったら勇者にゾーンを倒してもらうしかないわ!!」
レベッカはデビットの腕を掴んで宿屋を出ようと立ち上がると、来翔からさらに絶望的な言葉が飛び出してきた。
「あぁ、ワタルさんなら先日、精神攻撃を喰らいすぎて函館の病院に入院中だよ。マーガレットも付き添ってるから、上ノ国にはいないんだよ」
レベッカとデビットは、真っ青になって唖然としてしまった。唯一、ペックだけが冷静に来翔に尋ねる。
「木べらの戦士よぉ、お前は核ミサイルを落とさないと豪語したな? それは不確定な発言か? それとも確定した発言か?」
「もちろん確定。核ミサイルから日本の事は必ず守るよ。その時にはペックの『模倣』スキルを借りることになるけどね。僕とペックなら、坂本が落とす核ミサイルから日本を完璧に守れんだよ」
水槽の中のアインだけが、ニヤリと笑っていた。
ペックはもちろん、レベッカとデビットは首を傾げることしか出来なかった。
「まずはレベッカさんとデビットさんのシルバーウイークの連休中にカタをつけたいから、ホワイトハウスのトンプソンとオンライン会議をしたい。坂本に聞かれたくないからってトンプソンに伝えてくれるかな?」
デビットがすぐにトンプソンと連絡を取り合って、オンライン会議の準備が整っていく。
◆
数時間後。レベッカがノートパソコンを開くと、モニター越しにトンプソンが、何処かのパブでバーボンを片手に映し出された。
「良い店だね。トンプソン」
「あぁ。俺の行きつけだ。遮音の魔法も展開済みだ。さっさと計画を話せ。俺は何をすれば良い?」
「トンプソンは連休中に終わらせたいだろ? だったら早めに坂本に日本へ核ミサイルを落とさせてよ。九州から順に落とす計画なんだろ? トンプソンはそれを坂本に進言しなよ。早く落とせと。今なら木べらの戦士は復興支援でコナ国にいるし、勇者は精神汚染で入院中だから今が落とすチャンスだとけしかけてくれれば良いよ。そして、坂本が日本に核ミサイルを落としてる間に、君は今残されてる核ミサイルを、トンプソンの無限収納でプエルトリコ海溝へ放棄して欲しい」
「プエルトリコ海溝だと? なんだそれは?」
「深さ八千メートルもある、とてつもなく深い海溝のことさ。あそこまで沈めば、海そのものの圧力と質量が全部を静かに飲み込んで、二度と誰の手にも届かなくなる。爆発したところで、あの深さなら地上には何の影響も出ない。核ミサイルを消すには、うってつけの場所さ」
「なるほど。理解した。俺の統御スキルでも本題なしと反応している。さすがは木べらの戦士だ。だが、貴様はまだ肝心な事を言ってないぞ!? ボスが落とす核ミサイルについてだ! それをあんな木べら一つで弾き返すとでも言うのか! そこまで貴様は自惚れておるのか!!」
来翔はまるで夕飯のメニューを発表するかのように、落ち着き払って説明を話し始めていく。その作戦内容を、オンラインのトンプソンや自分の周りにいるレベッカ、デビット、そして来翔から直々に指名のあったペックが、驚愕しながら黙って聞いて深く頷いていた。
オンラインの向こうにいるトンプソンの統御スキルにも、問題無しと反応が出たことで、作戦は開始された。三悪党のシルバーウイークの連休も、残り三日となっていた。
◆
そして、その日のうちにトンプソンは作戦通りに、ホワイトハウスにて、ゾーンに聞こえるようにわざとレベッカとオンライン会議を行っている。
「主任! 大変です! 今、日本には勇者も木べらの戦士もいません! 隙だらけです!」
「うむ。そうか。だが、今はアメリカ本土の無法地帯化に向けて俺も忙しい身でな。早々に動けんのだ」
「しかし、このチャンスを逃す手はありませんよ! 江差は元々、ゾーンが勝ち取った土地でしょう! 今なら簡単に占領できるのですよ!!」
「いや、アメリカ本土の方が重要なのだ。江差などもう良い」
そのオンライン会議を聞いていたゾーンが、まんまと反応してきた。
「そうそう。木べらの戦士は復興支援とかでコナ国に泊まり込んでたよ。俺もコチラへ来る時にそれは確認してる。それに勇者までいないから好都合! トンプソン! 俺、明日から日本に核ミサイルを落としてくるわ! んで、江差にも落とすからさ、そうなるとしばらく核汚染でゲートも使えなくなるから、俺は江差に核ミサイルを落としたら、爆発前にそのままゲートを通過して月に帰るわ! 定期連絡は汚染が収まってからで良いからね! 放射能汚染はよく二週間とか二ヶ月とか言うけど、日本さえ壊滅させたら、しばらくはアメリカ本土の無法地帯化の整備を頑張ってくれよ」
トンプソンは内心でニヤリと笑っていたが、真面目な顔をして答える。
「わかりました。明日、日本壊滅を楽しみにしています!」
ゾーンは、明日の日本壊滅を想像して、しばらくの間ニタニタと笑っていた。
その傍らで、トンプソンも内心でニヤニヤと笑みを零していた。
(坂本……いや、ボス。あんたの言葉には、これっぽっちも噓が無かった。だからこそ、俺は確信した。あんたは本気で日本を壊す気だ。ならば――俺も、本気で止める)
カウンターの向こうで、老バーテンが黙って新しいバーボンを差し出した。トンプソンはそれを受け取り、一気に呷った。
残された猶予は、あと三日。
明日、坂本が日本へ核ミサイルを落とした瞬間から、木べらの戦士と、裏切り者となったトンプソンの、静かな戦争が始まる。
(第194話へ続く)




