【第191話 転生者?転移者?】
ホワイトハウスでトンプソンは、ゾーンから大歓迎を受けていた。
「やったー! よく来たね! トンプソン!! 俺は絶対に君なら生きてると思ってたよ!! あの網膜スキャンもよく考えられてるね!! 俺の変化魔法や『偽装』や『模倣』スキルを持ってる人なら、誰でも起爆出来るようにしてくれたんだね!! 君はゾーンなのに知恵が回るから、俺はトンプソンだけが頼りなんだよ!!!」
すぐにゾーンはキャロラインやソフィアの目を気にして応接室から出て、トンプソンを連れて自室へと籠り、これからについての相談を始めた。
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自室に入ると、ゾーンはすぐに部屋内を魔法防壁で囲ってしまった。
「これで良し! 一応、防音効果を付与した俺のオリジナル魔法さ!」
いきなり部屋内を防音にしたので、トンプソンも少しだけ身構えている。
「ボス、音を遮断してまで話すことがあるのですか?」
「うん。俺は前々から君のことを見ていたんだよ。まだ序列が下位だった頃の君をね。まず先に君に頼みたいことがある。このホワイトハウスでアメリカ本土を君がおさめてくれ。俺はアチラの月に帰るからさ。あちら側のゾーンの民はアメリカ本土へ移住させるつもりだ。だから、実質、君が今後のゾーンのトップになる」
トンプソンはボスが突拍子もない事を言ってきたので、かなり困惑してしまった。もちろん『統御』スキルにはビシビシ不具合を感じている。
「ボスはどうするんですか?」
「俺は月でまだまだ魔法の研究をしたいんだよね。それに月はほとんど時が止まってるからさ。老いることも無いからね。数百年かけて、核兵器よりも凄い魔法を作ってみたいのさ」
今の発言には『統御』スキルは不具合を感じなかった。
「なぜ、そこまでして核兵器のような大魔法が必要なんですか?」
「核兵器は使い捨てだろ? あんな何億ドルもかけて作ったのに、使い捨てなんてアホのやることだからね」
この発言は『統御』スキルが無くても、明らかにおかしい事にトンプソンもハッキリとわかってしまった。
「ボス……何故、貴方は核兵器に何億ドルもかかる事を知っているのですか?」
ゾーンはほんの少しだけ狼狽えた顔をしたあと、真面目な顔になって真相を語り始めた。
「そのことについて君だけに話したいことがあって、この部屋を防音にしたのさ。ぶっちゃけて言うけど、君も転生者なんだろ?」
――転生者。
トンプソンにとって、初めて聞く言葉だった。
「転生者? ですか? ボス、それはどんなジョブなんでしょうか?」
「またァ〜。しらばっくれなくても良いよ。実は俺も君と同じ転生者なんだからさ! 君はゾーンの民にしては勤勉すぎた! 転生者である俺から見ると、君だけが異質なのがハッキリとわかったんだ! 君には俺と同じ匂いがした。戦士タイプであるのに魔法も極めようとしてる姿は、周りからはバカにされていたけど、俺だけは君の恐ろしさに震えたよ! 俺は二刀流という発想は無かったからね。俺は単純に魔法を極めようと必死でオリジナル魔法の開発に取り組んだんだ。二千年前のゲートを作ったヘブライのように、誰も真似出来ないオリジナル魔法をね」
トンプソンの『統御』スキルには、何の反応も無かった。つまり、ボスの言っていることは本当の事なのだ。ただ、トンプソンには『転生者』という言葉の意味が、未だに分からなかった。
「すいません。ボス。そこまで聞いても、まだ俺には転生者という言葉の意味が分かりません」
するとゾーンは少しだけ困った顔をして呟いた。
「なるほど、記憶を失ったパターンか……そんな漫画もあったなぁ〜。トンプソン。少しだけ精神干渉しても良いかい? 君の記憶を探りたい」
トンプソンは逃亡者になるまでの報告は全てボスに報告済みであるので、見られて困る記憶もない。素直にボスの精神干渉を受け入れることにした。
「どうぞ」
トンプソンは頭をボスの前に差し出した。ゾーンはトンプソンの頭に手をかざし、精神をリンクさせていく。
すると、報告書が来なくなってからの記憶が、次々とゾーンの頭の中にも流れ込んできた。
「ん? 君、よく木べらの戦士から逃げきれたね!」
米軍基地からの脱走のことをボスが言ってきたので、トンプソンも答える。
「はい。鍵開けスキルは序盤で獲得していたので……」
その後の、偽の戸籍ではなく先住民を使った正々堂々の本物の身分証を獲得した手腕にも、ボスは興味津々に尋ねてきた。
「この先住民を使うのは、以前からこうするつもりで支援をしていたんだね?」
「そうです。地球の先住民はゾーンの思想ともかなり近いので、お互いを相入れることが出来るのだと思ってます」
そして、日本に出稼ぎ労働者として、栃木県下野市にあるSONY栃木工場で働く記憶までたどり着いていた。奇しくも、前世のゾーン――坂本の記憶と、見事にリンクしてしまった。
その一致が呼び水となったのか、トンプソンの精神にもちらっとだけ、ゾーンが坂本だった頃の僅かな記憶が流入してきた。
「こ、これは……ボス?」
ゾーンはトンプソンにも自身の記憶が見えたことがわかったので、改めて今の記憶の解説を始めた。
「そうそのしなびたオヤジが前世の俺さ。俺も今の君と同じように工場勤務の底辺労働者だったんだ。僕が働いていた頃、中国の物価は非常識なほど安くてね。日本のメーカーは次々と中国に工場を作ってね。僕らみたいな底辺は、あっという間に職を失った。ゴミクズのように簡単に捨てられたんだ」
トンプソンの頭の中には、生前の坂本が一人寂しく餓死する所まで、見せつけられてしまった。
「どうだい? これが俺の生前の死に様さ。この日、死んだ俺は、次に目を覚ました時にゾーンの民として生まれ変わっていたってわけ。俺は君も前世は地球人だと思ってるんだ。どう? 思い出せそうかい?」
ところが、トンプソンにはそんな記憶は無かった。ゾーンもひたすらトンプソンの記憶の片隅を覗き回ったが、そんな記憶は無かった。
「あれ? おかしいなぁ〜。前世の記憶が無い……。ってことは異世界転移……じゃないよね?」
「いえ、違います……」
「そうか、君は本当にゾーンの民の中で産まれたニュータイプなんだろうね……。それはそれで凄いことだよ! やはり君が新たなゾーンのトップになるべきだ! 序列一位は今日から君だ。現在一位のガウルには俺から降格を告げるよ」
トンプソンとしては断る理由もないので、素直にそれを了承した。
「わかりました……」
この時、『統御』スキルではなく、トンプソン自身の直感がボスの違和感を感じ取っていた。
(転生者だから地球の知識を知っていた……中国に恨みがあったこともわかった。しかし……聖教国と帝国のことは何も語らなかった……と言うよりも、ボスの中ではもう聖教国にも帝国にも興味が無いんだ! 最初からボスは中国を滅ぼす為だけに核兵器が欲しかったのか? いや、中国はもうダラスが滅ぼしてる。そのことをボスが知らない訳が無い。それなら、何故、ボスは核兵器を望んだんだ? それがさっぱり分からん)
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その後、トンプソンはホワイトハウスの一室を用意され、その部屋でデビットにこれらの事を全て報告をしていると、トンプソンの部屋にキャロラインがやって来た。
「トンプソン、少し良いかしら?」
「あぁ、まず、入れ」
トンプソンはキャロラインが部屋に入ると、先程ゾーンが展開させた防音効果のある魔法防壁を、見様見真似でアッサリと再現させた。
それを見てキャロラインが驚いている。
「え? こ、これってボスのオリジナル魔法?」
「あぁ、理論がわかれば再現は出来る。ただ、俺のMPではボスのように何時間も展開は出来ん。せいぜい十分だ。手短に話せ」
「いや、防音にしなくてもいいよ」
トンプソンは防音効果のある魔法防壁を解除した。すると今度は、キャロラインが『偽装』スキルでキャロライン自身とトンプソンにゾーンが知らない言語能力を付与し、フランス人に偽装してフランス語で会話し始めた。
「なるほど、『偽装』スキルにはこんな使い方も出来るのか」
「こっちの方が怪しまれないでしょう? 防音にしちゃうと、聞かれたくない会話をしてるのがバレバレですもの」
キャロラインの深刻な顔を見て、トンプソンは自分と同じ違和感を彼女も感じているのだと瞬時にわかった。
「ボスの事で話があるのか?」
「うん……核兵器を何故か日本に何発も落とすんだって……しかも、私が言うまで聖教国と帝国に落とす分をすっかりと忘れてた……日本なんてあんな小さな邦なのに八発も落とすなんておかしいよ……それなのに聖教国には一つ。帝国にも一つなんですって……」
日本に八発と聞いて、トンプソンの脳裏には栃木県下野市の社員寮や、派遣会社の担当・岩井氏の顔がまっさきによぎった。
「そうか……そういうことか……真の目的は聖教国でも帝国でも中国でもなく、日本……」
全てが繋がった瞬間だった。元々何者かに封印されていた奥尻ゲートの封印を解いた理由。奥尻ゲートに迎撃システムが完備されると、今度はオーストラリアのロンドンアーチにゲート魔法を開発して強引に繋げてしまったこと。それら全てのボスの行動は、最初から日本壊滅のため。自分が孤独死した日本への怨恨。そこにあるのは、ゾーンの民の思想を利用した復讐劇だった。
「だが、それを知ってどうする? 俺ではボスを止められない。俺は所詮、単純な強さでの序列は二十位程度の男だ。ボスがその気になれば、俺たち全員でかかっても止められないぞ……とはいえ、実は今の俺は日本に住んでいてな……日本に八発も落とされては困るのだ!」
「トンプソンの無限収納で核兵器を盗めない? 残りは十八発もあれば聖教国は潰せるよね? 私の両親は聖教国に殺されてるの! トンプソン! お願い。貴方がボスの代わりに聖教国を滅ぼしてよ! 日本なんて潰しても、ゾーンの民は誰も喜ばないのよ!!」
トンプソンの両親も、聖教国に殺されている。キャロラインの嘆きは理解できた。多くのゾーンの民は聖教国には怨みしかない。今のボスが日本に抱いてる怨念と、同等の因縁を聖教国には抱いているのだ。
トンプソンは覚悟を決めた。
「うむ。わかった。俺の方から説得はしてみよう。だが、説得しか出来ん。俺ではボスには勝てん。それだけは確定事項なのだ。カリーナさえ生きていれば、まだ戦力的にはこちらにも勝ち目はあったのかも知れないが、カリーナというチートも失った今では、本気になったボスに勝てるものなど…………………」
突然、会話を中断して顔を青ざめているトンプソンを見て、心配そうにキャロラインが尋ねる。
「どうしたの? トンプソン?」
「いた……! ボスを止められる唯一の男が!!」
「まさか……! そ、それは完全に裏切り行為になるよ? それにその男に頼るということは、私たちも捕まるんだよ? その男だけはダメ! ボスよりも危険だもの……」
二人の脳裏に浮かんだのは、全てのゾーンが恐れている地球人最強の男。木べらの戦士――来翔。
ゾーン団の誰もが、格上の力として恐れてきたその名を、今この瞬間だけは、二人はまるで違う響きで捉えていた。誰にも止められない絶対王者に、ただ一人、正面から槍を叩き折り、拳一つで渡り合ってきた男。ゾーンにとっての天敵は、トンプソンとキャロラインにとって、この状況を覆せる唯一の希望でもあったのだ。
「奴を頼るしかないのか……」
トンプソンの声は震えていた。裏切りの重さも、捕縛される恐怖も、わかっている。それでも、日本の、あの慎ましい派遣生活の日々を守るためになら――迷っている暇はなかった。
トンプソンとキャロラインの額からは、静かに冷や汗が流れ落ちていた。
(第192話へ続く)




