【第189話 頑張る三悪党】
日本はシルバーウィーク期間に突入していた。ゴールデンウィークほどではないが、期間工や派遣労働者にとっては、貴重な大型連休だ。トンプソン、デビット、レベッカはこの連休に合わせて有給二日(九月二十三日木曜と、二十四日金曜)を申請し、見事、九連休の取得に成功していた。
「主任! 担当さんから、連休の件はOKとLINEがありました!」
社員食堂で、レベッカがスマホを見ながら報告する。
「さすがは担当さんだ。我々、派遣労働者への待遇が素晴らしいな」
トンプソンは、いつも笑顔で有給申請を受け取ってくれるニッケン人財センターの担当、岩井氏を褒め称えながら、B定食の生姜焼き定食を美味そうに食べていた。
A定食の中華飯を食べていたデビットが、行くはずだったニューヨークが爆心地となってしまったことについて、トンプソンに尋ねる。
「でも、トンプソンさん。連休は取れましたけど、ゾーンの残党とはどこで会えるんですか? シアトルの旧ZON社も、今では百パーセント地球人しか残ってませんよ?」
トンプソンは少し嫌な顔をして答えた。
「カナダのトロントに、俺の派閥の生き残りがいる。『模倣』スキルを持っていてな。俺に万が一の事があった時のバックアップ要員として、日頃から目立たない所で生活させていたんだ。奴ならば、ボスについての情報を掴んでいるかもしれん……」
トロントと聞いて、レベッカが少しだけ嫌な顔をした。
「主任! カナダですと、格安チケットが取りにくいです! 正規の料金だと、片道で十万円もしますよ? 往復で二十万円……。我々の月の給料が、シルバーウィークだけで吹き飛びます……」
それにはデビットも苦虫を噛み潰したような顔をした。
困り果てたトンプソンも、同じような顔をしながら答えた。
「わかった。それでは本日、仕事終わりに三人で会社の傍にあるパチンコレイトに行って、軍資金を増やそうではないか!」
◆
トンプソンには『統御』というスキルがある。物や事象の不具合を感知できるスキルで、しかも不具合を修正することまで出来てしまう。シアトルでベンチャー企業を営んでいた頃は、株式市場を見て、その株が上がるか下がるかを『統御』スキルで判断し、一儲けしていたほどの実績がある。株の善し悪しがわかるのなら、当然、パチンコの善し悪しもわかってしまうのだった。ただ、これを使うとパチプロとして目立ってしまうため、日頃はあえて使わずにいた。
仕事を終えた三人は、派遣会社の傍にある、栃木県小山市のパチンコレイトというホールへ赴いた。
店内に入ると、トンプソンは各台のデータカウンターを一台ずつ、じっくりと見回した。そして、おもむろにデビットへ告げる。
「デビットは、この四十八番台の牙狼に座れ。最初の初当たりから単発が三度続くが、続行しろ。千円で十四回しか回らんが、諦めるなよ。四回目の大当たりからは、閉店まで連チャンが続くだろう」
デビットは素直に四十八番台に座った。すぐに千円札を入れて打ち始めるが、本当に釘が渋い。
続いて、レベッカには百二十三番台のエヴァvsカミツキガメに座らせた。
「レベッカよ。これはもうすぐ千回ハマりだが、千二百回転まで回すと、もうエヴァはカミツキガメに閉店まで負けなくなる。貴様の操るエヴァを信じろ。エヴァには魂があるのだからな!」
「はい、主任司令!」
どこか綾波のような口調で答えると、レベッカも百二十三番台に座った。打ち始めは八百八十三回転。千二百回転までは、まだまだ先が長かった。
「主任は死なないわ……わたしが守るもの……」
レベッカと画面の中のエヴァが、完璧にシンクロし始めていた。
トンプソンは三百三十三番台のルパン三世、影の平等院鳳凰堂を狙うという新台に座った。統御スキルでは、閉店までにドル箱が二十箱は積み上がると反応している。打ち始めるとすぐに擬似連からタイプライター予告へと発展し、あっさり初当たりを引いていた。
「うむ。我ながら、統御スキルは使えるな……」
この後も三人は順調にドル箱を積み上げていき、トンプソンは十三万円の勝ち、レベッカは八万円の勝ち、デビットは五万円の勝ちとなった。
換金所で換金を終えると、トンプソンが二人に語りかけた。
「旅費には、まだまだ足りぬ。明日もまた、仕事を終えたあとはパチンコレイトの世話になろう。明日は怪しまれないように、小金井店の方へ行くぞ!」
レベッカとデビットは、勝ったお金を大切に財布へしまいながら、ホクホク顔で頷いていた。
◆
こうして三人は、シルバーウィークまでの間、地元のパチンコ店チェーン、レイトの各店舗をハシゴした。その結果、見事、カナダまでの旅費を稼ぐことに成功した。
無事に旅費を稼げたお祝いに、三人は小山駅の南口にある小さなホルモン屋で祝杯を挙げていた。
「レベッカ、デビット。仕事明けにも関わらず、よくやった。それぞれが閉店まで頑張った甲斐があったな」
レベッカが興奮気味に答える。
「はい! ただ、毎晩、連チャン中に閉店となるので、少々悔しいですね。本当は連チャンが終わるまで打っていたいのだけれど……」
そんなレベッカに、デビットがウンチクを語り始めた。
「レベッカ……。恐ろしいことに、昔はちゃんと閉店保証というものがあったらしい。私の隣に座っていた老人が教えてくれたんだ。なんでも、確変中に閉店を迎えると、ドル箱一箱を無条件でホール側が用意してくれていたそうだ。バトルものでも一箱貰えたというのだから、驚くよな」
それを聞いたレベッカも驚いた。
「え? バトル中に閉店になっても一箱保証? だって、バトルものは確変と言っても、出玉無しで終了することもあるじゃない!」
「ああ、驚くよな? 私もその老人に同じ質問をした。すると、『それが閉店保証のいい所だ!』としか教えてくれなかった。なんなら、地域によっては翌朝まで台をそのままキープしてくれて、朝イチで続きから打たせてくれるホールもあったそうだぞ?」
「翌日も? そ、そんなサービスが?」
三人はパチンコ談義に花を咲かせながら、ホルモンを美味しく焼いて食べ続けていた。
◆
それから三日後。三人は成田空港からカナダ行きの飛行機に乗って、東の空へと飛び立っていった。
連休の計画は、軍資金稼ぎからカナダ行きまで、すべて順調に進んでいた。まだこの時の三人は、自分達のかつてのボスが、日本という国そのものを狙っていることに、気づいてすらいなかった。
(第190話へ続く)




