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【第18話 トカゲ人類】

 ダラス将軍というワニがいる。


 トカゲ人類の中でも最強と呼ばれるワニ族の将軍で、その名を恐れない者は異世界にいない。知略があり、速く、強く、そして何より——腹が減ることを何よりも嫌う。


 ダラスがXXX国を乗っ取ったのは、その国が空になったという噂を聞いてすぐのことだった。


 XXX国は元々、国と呼べるような代物ではなかった。ならず者と盗賊が寄り集まっただけの無法地帯で、最強の賞金首と名高い盗賊団がそこを仕切っていた。他国の軍隊も手を焼くほどの実力を持つ一味で、周辺諸国にとっては長年の頭痛の種だった。


 その盗賊団が、ある日を境に忽然と消えた。


 ダラス将軍には好機だった。軍を率いてXXX国に侵攻した。あっという間に制圧した。XXX国の国民はトカゲ人類にとって格好の食料だった。


 だが、トカゲ王の食欲は底をつかない。


 XXX国の国民を食い尽くすのに、さほど時間はかからなかった。



 ◆



 一度、人の味を覚えたトカゲというものは、もう小動物を追いかけることをしなくなる。


 これは本能の問題だ。全力で走ってうさぎ一匹獲れない日がある。泥だらけになって草むらを駆け回って、結局空腹で帰る。そんな日を経験したトカゲは、足が遅くて量の多い人間という獲物を知ると、二度とうさぎを追いかけない。


 一度覚えた楽な狩りを手放す者はいない。それがトカゲ人類の性質だった。


 だから、食料の確保が問題になった。


 人の子は一度に一人しか産まれない。成長するまでに十五年以上かかる。牧畜として計算が合わない。トカゲ王は次の人の国を求めた。



 ◆



 ダラス将軍がXXX国の残民から聞いた話に、ゲートのことがあった。


 数年前から、XXX国には異世界に通じる穴があるという。盗賊団が使っていた穴だ。


 ダラスはゲートの前に立った。向こう側が見えた。試しにXXX国の生き残りをゲートから放り込んでみた。すると、向こう側から金属の筒が飛んできて、激しい爆発が起きた。


 何度か実験を繰り返した。爆発のタイミングを測った。


 そこで気づいた。カメ族の一人が、その爆発の中で平然としているのだ。むしろ爆発のたびに暖かいと言って喜んでいる。カメ族は甲羅が厚い。爆発の衝撃をことごとく受け止める。


 ダラスはシミュレーションを重ねた。カメ族の男が爆発に耐えられる時間は約三十秒。三十秒ごとに迎撃は息継ぎをする。その隙間に、十人前後がゲートを通過できる。


 泳ぎが得意な戦士を選んだ。水中で戦えるものを選んだ。ワニ族とコモドドラゴン族を合わせて九名。そこにカメ族の一名。計十名の先発部隊が選ばれた。


 トカゲ王は命令した。異世界を人の牧場にしてこい、と。


 ダラスはその命令を最高の栄誉と受け取った。



 ◆



 作戦当日、カメ族の男は爆発を耐え抜いた。


 その隙間に九名が海へ飛び込んだ。ダラスが最後に続き、カメ族の男が合流した。十名が海底を進んだ。海藻の流れ、潮の向き——どちらが南かは一目でわかった。


 迷わず南へ。


 やがて、陸地が見えてきた。左手に続いていた陸の端が、ここで切れている。上陸した。


 赤レンガの建物が立ち並ぶ場所だった。人が密集していた。


 ダラスは戦士たちに告げた。


「好きなだけ喰え」


 戦士たちはその言葉に従った。


 観光客がパニックになって散り散りに逃げ出した。足の速い者は逃げられた。だが女と子供は腰が抜けて動けない者が多かった。コモドドラゴン族の戦士たちはそこから喰い始めた。噛みつき、毒を入れ、動けなくさせてから仕留める。喉越しが命のコモドドラゴンにとって、小柄な体は格別だった。何匹でも喰えると感じた。


 ワニ族とカメ族は噛みちぎることを好む。硬くて筋張った男の方が好みだ。女子供を助けに来る男たちをワニとカメが迎え撃った。


 辺りに血の海が広がった。


 十人の戦士たちは満腹になるまで喰い続けた。「ここはいい所だ」という声が、全員から上がった。ダラスも同じ気持ちだった。



 ◆



 食事を終えて、ダラスは周囲を見渡した。


 身を隠すのにちょうどいい小高い山がそびえていた。函館山だ。


 登ってみると——赤レンガ倉庫の前より、はるかに人が密集していた。逃げ道は一本しかない。百人以上の人間が展望台に立っていた。


 ダラスは即座に決めた。山頂の人間を食い尽くすまで、ここに潜伏する。


 コモドドラゴン族は女と子供を好む。まず選別した。


 それから気づいた。人間は防護力のほぼない薄い布を身に纏っている。トカゲ人類のような硬い皮を持たない代わりに、なぜかその布を大切にしているようだ。試しに剥ぎ取った。


 すると、人間たちはうずくまって逆らわなくなった。


(なんと簡単なことだ)


 衣服を取るだけで戦意を失う。これは使える。ダラスは笑みを零した。


 夜になると、山頂から見事な夜景が広がった。無数の光が海に映っている。戦士たちも見惚れていた。


 ただし、山の植物と地面の蛇の穴を見ると、この場所には長い冬があることがわかった。蛇の穴の深さと土の状態から、何ヶ月もの冬眠を示している。それだけの期間、動けなくなるわけにはいかない。トカゲ王が待っている。人の牧場を一日も早く作って、美味い人間を届けなければならない。


 この異世界の人間は旨い。贅沢な食事で育っているからだ。トカゲ王が知ればきっと気に入る。


 ダラス将軍は山頂からの夜景を眺めながら、手元の獲物にかぶりついた。


 悪気は、一切なかった。


 人間は餌だ。ただそれだけのことだった。


 ライオンが草原でシマウマを仕留めるのと同じように。タカが空から獲物を狙うのと同じように。


 それがダラスの世界における、当たり前の常識だった。




 

  




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