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【第17話 vsトカゲ人類】

 インコが異世界語を話せるとわかってから、自衛隊の言語解析班は過去の防犯カメラ映像の洗い出しに追われた。


 最もデータが揃っていたのは、江差を半年以上実効支配していた元の異世界人たちの日常会話だった。各所のカメラが拾っていた言葉を解析していくと、いくつかの単語が確定した。


「ありがとう」「はい」「いいえ」「私」「アナタ」「眠い」「腹が減った」「食べ物」「女」「宝石」「酒」


 来翔はネーラに確認した。全て合っていた。


(これだけでは、まだまともに話せないな……)


 来翔の思惑をよそに、政府はインコの量産を始めた。「はい」を覚えたインコ、「いいえ」を覚えたインコ、「食べ物」を覚えたインコ——それぞれが全国の施設で育てられ始めていた。来翔はその動きを黙って見ていた。



 ◆



 春が近づくにつれて、来翔とワタルは覚悟を固めていた。


 トカゲ人類は寒さで来られなかっただけで、いずれ必ず来る。ワタルは各種イベントのオファーを全て断い、いつでも出動できる状態に戻していた。


 そして、ついに今年初の出動要請が来た。


「各自、最寄りの海岸防衛ライン集合」


 来翔は江差港へ向かった。B-Classハンターが五名、C-Classハンターが六名。奥尻島の迎撃システムを掻い潜り、こちらへ向かっているという。ただし泳ぐ速度が尋常ではなく、奥尻側では行方を見失ったという。


 何時間経っても、江差沖に動きはなかった。他の防衛ラインからも異常なしの報告が続き、一時解散となった。


 来翔が自宅に戻り、ニュースを見ていたとき——スマホが鳴った。


「函館市にトカゲ人類数人が襲来中。急行されたし」


(泳いで函館まで来たのか……)


 ワニなら水中の方が動きやすい。津軽海峡を渡ることなど、朝飯前だ。来翔はKeiワークスのエンジンをかけた。



 ◆



 二時間後、赤レンガ倉庫群に設置された防衛本部に着いた。


「江差のC'の来翔です」


 幕僚長のサイトウが状況を伝えた。


「現在、函館山山頂の展望台をワニ型とコモドドラゴン型のトカゲ人類が占拠中。山頂にいた観光客を人質にしています。ロープウェイ駅には詩音班が配置済みです。合流してください」



 ◆



「詩音さん、奴らの姿は確認できていますか」


「来翔さん、早かったわね」と詩音が言った。「防犯カメラで確認済よ。カメレオンより一回り大きい。姿は消せないみたい。ワニ男が四、コモド男が五、カメ男が一。合計十人。山頂カメラの映像は……見ない方がいいわよ」


 そう言いながら、詩音はタブレットを差し出した。


 来翔は受け取って、画面を見た。


 函館山山頂の展望台。昼間なら北海道屈指の絶景が広がる場所に、百人近い観光客が押し込められていた。泣き叫ぶ声は映像越しでも想像できた。


 子供たちが一か所に集められていた。不自然なほど整然と。


 ワニ男たちが、その中から子供を引き出して食べていた。


 逆上した親たちがそれを止めようとすると、コモドドラゴン男が一噛みした。噛まれた大人はその場で顔色を失い、膝から崩れ落ちた。そのまま起き上がれない。倒れた大人を、コモドドラゴン男が大口を開けて丸呑みにしていく。


 コモドドラゴンの毒は血液の凝固を阻害する。噛まれた瞬間から全身の血が止まらなくなる。動けなくなったところを仕留める。これがコモドドラゴンの狩りだ。


 それを地上百メートルの展望台で、観光客たちが見せられていた。


「コモド男には毒があるんですね……」


「えぇ。コモドは毒、ワニは牙。一回でも噛まれたら終わりよ」と詩音が言った。「悪いけど、来翔さんの出番はない。接近できる相手じゃない。杓文字が届く距離に近づいた瞬間、噛まれるわ。この状況では遠距離攻撃しか選択肢がない」


「はい。そのようですね。わかりました。今作戦は後方支援に徹します」


 タコ助とナオミがロープウェイ駅の屋根に登り、スナイパーライフルのスコープを構えた。詩音も屋根の上で弓を手に、山頂を見上げた。


 来翔はバリケードの設置に回った。



 ◆



 バリケードを組みながら、来翔の胸ポケットのネーラが声をかけた。


「長くなりそうだね。レフトのことが心配……」


「ネーラ、一人で江差に戻れるか。レフトの世話を頼みたい」


「うん、スマホがあるから戻れるよ」


「気をつけて帰れよ。ネーラの食事もちゃんと考えること。一度に全部食べるなよ」


「わかってるよ。私も一人でなんでもできるように頑張ってみる。コンビーフくらいは一人で開けられるようになりたいもんね」


「ペットボトルの蓋開けスキルを覚えたんだし、コンビーフの蓋開けスキルも覚えられるかもな」


「うん、頑張ってみる。それじゃ、暗くなる前に行くね」


 ネーラが来翔の胸ポケットから飛び出した。江差の方角へ向けて、小さな羽を羽ばたかせて遠ざかっていった。


 来翔はその後ろ姿を見送ってから、バリケードに向き直った。


(ここからは一人の戦いか)



 ◆



 夕方、日が沈む頃にネーラからLINEが届いた。


「江差に着いた!レフトも元気だよ!」


 来翔は短く「よかった」と返した。


 函館山の夜景が広がり始めていた。光の粒がいくつも海に映って、百万ドルの夜景と呼ばれるにふさわしい美しさだった。


 だが今夜、その夜景を楽しんでいるのはトカゲ人類だけだった。


 山頂展望台。食い尽くしたあとの静けさの中、ワニ男たちが夜景を眺めていた。


 この山を気に入っていた。高くて見晴らしが良く、食料が豊富で、麓には川もある。戦時中に掘られた防空壕がそのまま残っていて、寝床にもなる。


 ただし、山の木々を見ていると、この土地には冬があることがわかった。葉の落ちた枝が、それを物語っていた。トカゲ人類は寒さの前に南へ動かなければならない。


 山頂の餌を食い尽くしたら、もっと南へ。


 津軽海峡を渡れば本州だ。本州ならもっと暖かい。人の数も多い。


(冬のない都市を見つけよう。人を囲って、繁殖させよう。安定した食料基地を作ればいい)


 コモドドラゴン男が大口を開けて夜風を吸った。


 夜景は美しかった。人質をつまみにしながら、トカゲ人類たちは函館の夜を静かに楽しんでいた。




   




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