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【第184話 後始末】

 江差に流出したガーゴイルと魔族サキュバスとオーディーンを一掃した来翔は、ゲートを駆け抜けた。ゲート前で小隊長を務めていた高橋を含め、十五名の自衛隊員達も、来翔について旧コナ国側へと通過した。


 ゲート前の草原には、来翔が屠ったガーゴイルの残骸が石片となって大量に転がっていた。


 その光景を見て、来翔は自衛隊員達へ頭を下げた。


「皆さん! 本当に申し訳ない! アンカーピンを回収してもらえますか? この辺のガーゴイルは全て先程片付けたので、比較的安全です! 僕は先に南区まで走ります! アンカーピンを回収したら、南区のパチンコ屋で落ち合いましょう!」


 高橋が小隊にアンカーピンの捜索を指示すると、自衛隊員達は一斉に石片の欠片を探し始めた。


 回収作業をしながら、若い隊員が呟いた。


「まさか、これ全部……来翔さんが一人で……?」


 高橋が作業の手を止めずに答える。


「そうだ。あの人こそ地球人最強なんだからな……。さあ、俺たちのアンカーピンの回収こそが、この戦争を終わらせる鍵となる! 急げ!」


 自衛隊員達は必死で石片を片付けていった。



 ◆



 ネーラの軽量化スキルのおかげで、来翔はあっという間にパチンコ屋のある南区へ辿り着いた。街は枯れ木の山のように荒れ果てていたが、なぜかパチンコ屋だけは綺麗なまま残されていた。


 中に入ると怪我人が大量に溢れていた。リスタオールはMPを使い果たし、今にも倒れそうになっている。来翔はその治療を一旦止めさせた。


「リスタオールさんはしばらく控え室で眠ってください。リスタオールさんの回復魔法だけが、今のコナ国には必要なんです」


 フラつくリスタオールに、ネーラが軽量化を付与する。身体は軽くなったものの、疲労は蓄積したままで、いつもの「治療費は高いですわよ」の決まり文句も口にせず、リスタオールは控え室へと消えていった。


 そんな来翔に、パチンコ屋の店長を任されていた元C-Classハンターの戸田が話しかけてきた。


「来翔さん! 来てくれたんすね!」


 戸田は敵と交戦したあとのようで、傷だらけだった。


「おぉ、戸田くん! 生きてたか! 良かった」


「はい。血だらけなんで弱ってるように見えますが、俺はリスタオールさんの回復魔法で治してもらった後なんで、まだまだ戦えますよ! なんでも指示してください!」


「うん。戸田くんには大切な仕事があるよ。もうすぐ自衛隊員達も合流するから、ここに避難してる人達を日本に連れて行ってもらえるかい?」


「俺は残らなくて良いんですか?」


「うん。相手はガーゴイルだからね。戸田くんのスリングショットでは、相性が悪すぎるだろ?」


「正直言うと、その通りです。俺のスリングショットでは援護射撃程度しか出来ませんでした!」


 戸田は少し躊躇いがちに続けた。


「わかりました! 街の人達を連れて奥尻まで逃げます! へへへッ、そういえば、本来のC-Classの役割は『逃げること』でしたっけね!」


 来翔もC-Class時代を思い出し、ニコッと笑って答えた。


「そうそう! 俺たちCは逃げ帰って報告することが唯一の仕事。戸田くん、初心に帰れたよ! ありがとう」


 やがてアンカーピンを回収してきた自衛隊員が五名ほど加わり、戸田と共に避難民を連れて奥尻へと向かっていった。



 ◆



 避難民を見送ったあと、現地の冒険者達からの情報を高橋が纏めた。


「今、混戦になっているのは北門付近。恐らく奴らは魔族領まで退却するつもりですね。来翔さん、このまま放置しておけば、勝手に奴らは帰るんじゃないですか?」


「うん、そうかもしれない。けれど、北門から北上する時にはまた首都を越えなくちゃならないよね? その時にはまた混戦になるよ。それなら、今のうちにガーゴイルの生き残りを、僕が全部倒しておくよ」


 高橋が苦い顔をしながら答える。


「でも、残党が約三十体ですよ? 来翔さん、オーディーン戦で怪我してるじゃないですか!!」


「あぁ、怪我のことなら大丈夫。広島県民は全員が衣笠祥雄だからね!」


「な、何を馬鹿なことを言ってるんですか!! それなら、北海道民は全員が『北の国から』の草太にいちゃんだとでも思ってるんですか!!」


「え? 違うの? 高橋さんは草太にいちゃんだとばかり思ってましたよ! それじゃ、高橋さんは中ちゃんなんですね?」


「違いますよ! そんなわけ無いでしょ! 俺は笠松正吉です」


「あ、そうなんだ……。自衛隊員だもんね……」


「そうですよ。ここにいる隊員は全員、笠松正吉です!」


「とにかく、僕は今から北門まで走るよ。高橋さん達は、僕が取りこぼしてこちらへ逃げてきたガーゴイルの足止めをお願いします! バズーカならダメージは与えられますよね?」


「はい。足止めなら何とか……」


 来翔は高橋達に見送られ、北門まで走り出した。


 そんな来翔に、心配そうに胸ポケットからネーラが泣きながら呟いた。


「来翔、ごめんね。私がもっといいスキルを身につけていれば……」


「ん? ネーラのスキルは凄いじゃないか。出会った頃は軽量化五パーセントだったのに、今は七十パーセントだもん。これは本当に凄いことなんだよ」


「そうなの?」


「そうだよ」


 来翔は胸ポケットを優しく撫でた。



 ◆



 やがて北門が見えるところまで走ってくると、ガーゴイル軍と帝国軍が激しく戦っていた。その中に、ガーゴイル軍を指揮している人族の男の姿が見えた。


「アイツが指揮官だ!」


 来翔は走りながら、宙に浮いている魔道士タイプの男へ44オートマグを発砲した。


 ダン! ダン! ダン!


 相手は魔道士タイプだったので、当然、魔法防壁で弾丸を防いでしまう。オートマグを弾切れまで撃ち尽くすと、来翔を煩わしく思った魔道士が電撃魔法を連発してきた。来翔は空にアンカーピンを放り投げ、それを避雷針代わりにして、全ての電撃をかわしてしまった。


 焦った魔道士は、来翔から逃げるように高く飛び上がり、見えなくなってしまった。


 残るはガーゴイル軍だけだと思った矢先、ミスリル製のランスを構えた戦士タイプの男が、来翔の前に立ち塞がった。


「アンタが例の木べらの戦士だな? アンタがここにいるということは、オーディーン様を倒したのか……。ボスからは逃げろと言われているが、俺の憧れの人を倒した仇が目の前にいる以上、俺は引けなくなった。悪いが、俺の相手をしてもらうぜ? 俺は序列五位のジャックス。見ての通り、槍使いだ! いざ、尋常に!!」


 ジャックスは無数の突きを繰り出してきた。来翔は全てをかわすのは難しいと判断し、連続する突きの隙だらけの足元へ、アンカーピンを広島カープの鈴木健矢のような、しなやかなアンダースローで投擲した。


 アンカーピンがジャックスの膝へ見事に突き刺さり、バランスを崩す。片膝をついたジャックスへ、来翔は世界樹の杓文字で、広島カープの江藤智のようなアッパースイングを叩き込んだ。


 ジャックスは綺麗に宙へ舞い、そのまま気を失った。


 一部始終を見ていたガーゴイル軍の残党は、散り散りになってどこかへ飛んで逃げていった。



 ◆



 魔族の侵略劇は、こうして呆気なく幕を閉じた。


 ジャックスはミスリル製の手錠をかけられ、留置所へ運ばれていった。空へ逃げた魔道士については、行方を帝国軍も把握できず、逃亡と判断された。


 攻防戦を終えて休憩中の兵士に、来翔が声をかけた。


「総督は無事なんですか?」


 若い兵士が水筒の水を飲み干してから答える。


「はい! 総督はちゃんと避難してます。奴ら、首都の城壁を壊したあとはすぐに南区へ進軍してしまったので、首都は比較的、被害は少ないです」


「今の槍使いはゾーン団の序列五位だって言ってたけど、今回の侵略はゾーンが絡んでるのかもしれません。槍使いは殺してないので、ちゃんと取り調べをお願いします。日本側にはオーディーンも拘束済みなので、必要があればすぐに引き渡せますので、南区にいる自衛隊員に声をかけてください。僕は南区のパチンコ屋に戻りますので、あとはお願いします」


 若い兵士は、賞金額百億Qの序列五位ジャックスを倒したとして、来翔に賞金について尋ねてきた。


「槍使いには賞金がかかってましたが、賞金の受け取りは首都で行いますので、後日、首都まで来ていただけますか?」


 来翔はニコッと笑って答えた。


「賞金はいらないよ。街の復興に使ってほしいな」


 そう言うと来翔は、南区のパチンコ屋に向けて歩き出した。


 そんな来翔を、帝国の兵士達が羨望の眼差しで見つめていた。



(第185話へ続く)







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