表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
182/256

【第181話 避難命令】

 サキュバスの飛行魔法で江差の繁次郎浜へ辿り着いた三人は、二手に分かれた。


 女斥候とサキュバスは情報収集のため、かつてゾーン団が根城にしていた一戸建ての空き家へと向かう。オーディーンは勇者をおびき出すために、街を破壊し始めていた。


 自衛隊員や警官が次々とグングニルの餌食となっていく。オーディーンは、つまらないものを切ったとでも言いたげに、欠伸をしながら勇者が来るのを待っていた。


 その時、見えない何かが、オーディーンの腰に突き刺さったままのアンカーピン目掛けて飛んできた。


 見事に命中したことで、さすがのオーディーンも膝をついた。


「誰だ。透明化か? いや違うな。物理攻撃だった……まあ、透明化してても意味は無いがな!」


 オーディーンは槍を適当な方向へぶん投げた。すると槍は縦横無尽に飛び回り、オーディーンの周りを結界のように守り続けている。


 これではブーメランを当てられないと判断したLEONが、保護色を解いて姿を現した。


「私は元賞金稼ぎのLEON」


 LEONは世界樹の大型ブーメランを左右の手で構えた。


「ほう。今のはそれを投擲してきたのか。面白い武器だ。俺のグングニルに似ているな! 貴様のそれも自由自在に宙で操れるのだな?」


 LEONは答えることなく、ブーメランを持ってオーディーンの間合いへ入り、来翔のようにブーメランの面でオーディーンを叩こうとした。だが、グングニルの結界がそれを完全にシャットアウトする。LEONは間合いにすら入れなかった。


「アリャマ! 間合いに入れない」


 そこへ、ネーラがようやく追いついた。


「LEONー! 来たよ! 軽くな〜れ!」


 ネーラがLEONを軽量化する。すると今度はLEONのスピードがグングニルの結界を上回り、オーディーンの間合いへ入って、ブーメランの面でオーディーンの腹を叩いた。


 バチン!!


 その瞬間、オーディーンは笑みをこぼして平然と答えた。


「グワハハハァ! 木べらの戦士とはまるで違う! なんだそのへっぴり腰は!」


「アリャマ! やはり私では無理なのか……」


 LEONとネーラの背中に、冷や汗が流れていた。



 ◆



 一方、来翔の宿屋では、江差町全体に避難命令が出たことで、エレファントノーズフィッシュのアインが全員に的確な指示を飛ばしていた。


「カスミは火の始末を! レフトはカスミの肩の上から離れるな! ラッキーピエロの従業員の皆さんは、鈴子と久乃と共にシェルターへ急げ。ここからシェルターまでは走って五分! リリベットは本部に応援を要請しつつ、ラッキーピエロの従業員達と鈴子と久乃が無事にたどり着けるようサポートしろ! マーガレットは自慢のカルタスで上ノ国基地へこの事を知らせるんだ! 全員急げ! レンカはここに残り、私に街の様子を逐一報告しろ! 飛べるのは貴様だけだ!」


 アインの指示で全員が動き出したその時、運悪く女斥候とサキュバスが、シェルターへ向かおうと来翔の宿屋を出た一同と鉢合わせしてしまった。


 鈴子が二人の姿を見て叫んだ。


「みんな! 逃げて!」


 その声を聞いた女斥候とサキュバスが、鈴子目掛けて突進してきた。


 そこへリリベットが、ミスリル製の折りたたみナイフを女斥候の太もも目掛けて投げつけた。ナイフは見事に太ももへ突き刺さり、女斥候は派手に転倒した。


「うわっ! なんだこれ? ミスリル製?」


 足を封じられた斥候ほど脆いものはない。リリベットは一気に距離を詰め、ミスリル製のサバイバルナイフで襲いかかったが、隣にいたサキュバスが飛行魔法で女斥候を上空へ逃がし、自身もリリベットから距離を取った。


「今のうちにシェルターに!!」


 リリベットが避難中のラッキーピエロの従業員や鈴子と久乃に叫んだ。ところが、女斥候が空から鈴子達の前へ強襲し、ラッキーピエロの男性アルバイター達が投石で応戦する。だが女斥候は上空から麻痺毒のあるキノコの粉末をばら撒いた。


「これでも食らって寝ちまいな!」


 麻痺毒にやられた鈴子や久乃、従業員達はその場で動けなくなり、全員がその場に倒れ込んでしまった。


 上空のサキュバスに向けて、リリベットがUZIピストルを連射する。だが、魔法防壁に阻まれて全く届かない。すると、足に刺さったミスリル製の折りたたみナイフを引き抜いた女斥候が、UZIを構えたままのリリベットの背後から忍び寄る。


「リリ! うしろ!!」


 久乃の叫びに、リリベットは間一髪で振り返り、女斥候へUZIを連射した。両腕でガードした女斥候だったが、元々防御力の薄い斥候の体は、戦士タイプのように無傷ではいられない。腹に二発の弾丸を喰らい、その場に蹲った。


 だが、その隙を空のサキュバスが見逃さなかった。風魔法のトルネードで、リリベットと女斥候ごと、数十メートルも吹き飛ばしてしまう。


 女斥候はもはや意識朦朧としていたが、受け身を取ったリリベットは再び立ち上がり、UZIをリロードしながらフラフラの足取りでサキュバスとの距離を詰めた。


「しつこい女だね! これだから女は嫌い!」


 サキュバスはイライラしながらも、冷静な判断力で、麻痺中の鈴子と久乃と従業員達目掛けてトルネードを放った。麻痺したまま数十メートルも吹き飛ばされた鈴子達は、受け身も取れず全員が危険な状態に陥る。


 それを見たリリベットは、思わず鈴子や久乃の元へと駆け出してしまった。


 サキュバスはニヤリと笑い、隙だらけのリリベットへ再びトルネードを放つ。二度目のトルネードには受け身を取る間もなく、リリベットは肩から地面に落ち、右肩を脱臼してしまった。


 それでも、左手にUZIを持ち直し、なんとかサキュバスを狙おうとする。だが、利き腕でない左手では連射の反動に耐えきれず、銃口が定まらない。サキュバスはMPを温存すべく地上に降り、ゆっくりとリリベットへ歩み寄ってきた。


 リリベットも肩を庇いながら立ち上がり、サバイバルナイフを持った左手でファイティングポーズを取る。それを見たサキュバスがドヤ顔で語り出した。


「随分といいナイフを持ってるねぇ。それを私にくれるのかい?」


 サキュバスは一気に間合いを詰め、リリベットの左手を蹴り上げた。ミスリル製のサバイバルナイフが宙を舞い、サキュバスの手元に収まる。


「ウフフ、アンタ、もしかして私のことを魔道士タイプだと思った? 魔道士タイプなら物理戦で勝てると? 残念、私は魔族。全ての魔族は魔法を使えるの。そして私はサキュバス。魔法よりも身体が武器の種族なのよ!」


 サキュバスはリリベットの頬を、平手でピシャリと叩いた。軽くビンタしたように見えたその一撃で、リリベットは数メートルも吹き飛ばされ、地面を転がった。


「ね? サキュバスは身体が資本なの。魔法よりも肉弾戦が得意な種族なのよ? 人族の醜い女!」


 地面で転がるリリベットを嘲笑いながら、サキュバスは蹴り上げた。リリベットはさらに数メートル吹き飛ばされる。サキュバスはまるでサッカーを楽しむように、リリベットを殺さない程度に弄びながら、蹴り続けていた。


 やがてリリベットの意識が途絶えると、サキュバスはニヤニヤしながら鈴子達の方へ歩き出した。


「そこの男。私の目を見ろ!」


 ラッキーピエロの従業員の男性三人が、言われるまま目を見てしまう。一瞬で魅了され、サキュバスの傀儡と化した。


「さすがの私も疲れたから、アンタ達の精気を貰うわよ」


 サキュバスはニヤリと笑うと、男性従業員達の性巣から精気を抜き取っていった。三人の男性従業員は昇天して、あっけなく命を落とした。それと同時に、サキュバスの体力とMPは完全に回復していた。


 サキュバスは女斥候の元へ行き、回復薬を飲ませる。体力だけは次第に戻ってきたものの、リリベットに撃ち抜かれた腹の傷はまだ癒えていなかった。


「クソッ、あのアマにやられた傷が治らない!」


「安い回復薬しか持ってきてないのよ。我慢なさい。弾は貫通してるから、止血だけしておけば何とかなるわよ」


 サキュバスが回復薬を傷口にぶっかけると、傷口が塞がっていく。


「さあ、早くゾーンの拠点に行きましょう。我々の仕事は情報収集でしょ?」


 サキュバスが手を貸しながら語りかけると、女斥候は腹の傷の痛みに顔を歪めながらも立ち上がって答えた。


「ダメだ! この傷の恨みを、アイツらで解消するわ!」


 女斥候は、鈴子と久乃の元へ歩き出した。


「こいつらが死ねば、さっきのナイフ使いの女が悲しむでしょ?」


 サキュバスはやれやれと呆れながらも、女斥候を止めることなく黙って見ていた。


 鈴子が久乃を庇うように前へ出た。


「鈴子さん?」


「本当なら、私はあの時に死んでいたはずだから……もう良いの」


 久乃は、鈴子から聞いていた江差侵略の頃の記憶――鈴子自身が、あの日死んでいたかもしれない一人だったことを思い出していた。


 久乃も鈴子を庇うように前へ出たかったが、恐怖で身体が動かない。そんな久乃を見て、鈴子がニッコリと笑って囁いた。


「プリメ。私の声が聞こえてる? 私からはプリメが見えないの。聞こえてるなら、久乃に教えてあげて」


 プリメが久乃へ「聞こえるよ」と告げると、久乃も「聞こえてるそうです」と答えた。


「それじゃよく聞いて。プリメは久乃に『冷静』スキルを唱えてあげて。久乃は冷静になったら、私が時間を稼いでるうちにシェルターまで走って逃げてね。もうそろそろ麻痺も抜けてきたよね? 走れるよね? 必ず逃げ延びてね!」


 鈴子の覚悟を聞いて、プリメが久乃へ『冷静』スキルを付与する。ほんの少しだけ冷静さを取り戻した久乃に、鈴子の覚悟がまっすぐ伝わった。


「鈴子さん、私……」


「久乃……」


 女斥候のニヤニヤした顔が、はっきりとわかる距離まで近づいてきた。



 ◆



 その時――ツインカムエンジンの甲高い高回転音が鳴り響いた。


 次の瞬間、SUZUKIカルタスGT-iが時速百八十キロで、女斥候に激突した。


 わずか七百キログラムの車体に、エアバッグも無いカルタスは、女斥候にぶつかっただけでフロント部分が大破していた。


「マ、マーガレット……なの?」


 見間違えるはずもない、あのハッチバックのじゃじゃ馬――カルタスが、女斥候にぶち当たったまま大破していた。


 カルタスの助手席のドアが派手に蹴り破られ、中からゆっくりと勇者ワタルが降りてくる。そのままハッチバックを開けて決断剣を取り出し、跳ね飛ばされて意識朦朧としている女斥候の首を切り落とした。


「鈴子ちゃん! 無事?」


 鈴子と久乃の目から、涙が溢れた。同時に鈴子は運転席へ駆け寄り、気を失っているマーガレットを介抱し始める。


「マーガレットのことは任せたよ、鈴子ちゃん」


 ワタルはサキュバスを睨みつけた。


 サキュバスの口元には、ニヤリと笑みがこぼれていた。



(第182話へ続く)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ