【第177話 セントラルキッチンで愛を語る】
近頃、来翔には不可解なことが起きていた。
今朝も、なぜかラッキーピエロの同僚である鈴子が、朝食を作りに来てくれたのだ。
「あれ? 今朝も来てくれたんだね、鈴子ちゃん。僕が独身だからって、わざわざ毎朝来てくれなくても良いんだよ? 僕には生活魔法もあるから、料理も嫌いじゃないしね」
鈴子はまるで新妻のような可愛らしいエプロン姿で、ここ数日間、毎日こうして朝食を作ってくれている。しかも毎朝、コロッケを。
(こうも毎日コロッケだと、身体に悪そうだ……。でも、わざわざ作ってくれてるのに、断りにくい……)
中年太り真っ只中の来翔とは違い、毎朝、ネーラや他のフェアリー達は嬉々として鈴子の作るコロッケをムシャムシャと平らげていた。
「今日もコロッケ!」
「明日もコロッケ!」
「これじゃ年がら年中コロッケだ!」
こうして来翔家のブルドッグソースの消費量は、目に見えて増え続けていた。
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鈴子としても、とっくの昔に来翔がセントラルキッチンとしての使用を認めてくれているものだと確信していたので、改めて『ここがウチのセントラルキッチンですよ』と伝えることもないまま、時が過ぎていった。
これも、セントラルキッチン化への打診を来翔家と親しいマーガレットに一任してしまったせいだった。マーガレットには『投げやり』という恐ろしいスキルがある。もともといい加減な性格のマーガレットには、ある意味なんの影響もないスキルなのだが、その本来のいい加減さに拍車がかかっており――こともあろうに、セントラルキッチン化への打診を、来翔家の中で最も許可の取りやすいセキセイインコのレフトに、直接持ちかけてしまったのだ。マーガレットの『翻訳』スキルを用いて。
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数週間前の午後。
マーガレットがセントラルキッチン化のオファーに来翔の宿屋を訪れた時、ロビーにはエレファントノーズフィッシュのアインと、鳥かごの中のレフトしかいなかった。常に常駐しているはずのカスミとリスタオールは、デイサービスへ行っているとアインが教えてくれた。老人二人にくっついてフェアリー達もデイサービスへ行ってしまったという。肝心の来翔はと言えば、ラッキーピエロでバイト中。仕方なくマーガレットは、インコのレフトに鳥語で語りかけた。
「ピヨピヨ(ねぇ。レフト。来翔さんが帰ってきたら、自宅用のキッチンをセントラルキッチンとして貸してちょうだいって伝えてくれる?)」
「ピヨピヨ?(セントラルキッチンってなあに?)」
「ピヨピヨ(毎朝、美味しいコロッケを作るところよ)」
「ピヨピヨ(それなら、どんどん作っても良いよ! みんなが喜ぶから!)」
「ピヨピヨ(あら、そうなの? それじゃ、ありがたくお借りするわね?)」
「ピヨピヨ!(良いよ〜! じゃんじゃんコロッケを作ってね!)」
こうしてマーガレットの『投げやり』スキルと『翻訳』スキルのダブルコンボが炸裂し、来翔本人にはなんの音沙汰もないまま、鈴子が毎朝やって来てはコロッケやフライドポテト、ハンバーガー用のバンズやサンドイッチ用の食パンを仕込み、ついでに来翔の朝食としてコロッケをお裾分けしていく――という日々が始まっていたのだった。
鈴子としても、毎朝なぜか来翔がセントラルキッチンに顔を出してはコロッケをつまみに来てくれるので、喜んでコロッケを揚げて出していたのだった。
(来翔さんは、私のコロッケが気に入ったのかしら? それにしても、毎朝コロッケを食べて身体に悪そうだけど、良いのかな?)
◆
毎朝、鈴子が仕込みをしているということは、つまり商売の方も上手くいっているということだった。
パチンコ屋のハンバーガーショップとして、猫耳や兎耳の可愛らしい獣人を売り子として雇い、店内での注文取りを任せ、食堂では厨房での仕上げ調理を地元の主婦などに任せて回している。店名は『ハッピージョーカー』。どことなくラッキーピエロに寄せた名前を付けていた。
鈴子は異世界の商売がかなり順調だったので、そろそろラッキーピエロの方を辞めようかと悩んでいた。
そんな鈴子は、セントラルキッチンでコロッケを食べていた来翔に、相談を持ちかけてみた。
「来翔さん、私、ラッキーピエロを辞めようかと思ってます……」
「え? 鈴子ちゃんが!? 辞めて、どうするの? 転職?」
「うん。ここが私の新たな職場かな? エヘヘ」
なぜか照れくさそうに微笑んでいる鈴子を見て、来翔に衝撃が走った。
(え? こ、これはもしや……鈴子ちゃんからのプロポーズなのか? 僕の家に永久就職するってことなのか? 鈴子ちゃんって確か……二十二歳だったか? 二十歳差結婚!? 犯罪的だ! これはマズい! せっかくRoyal-Classに復職できたのに、ロリ系犯罪だけはダメだ! またクビになる!)
「す、鈴子ちゃん……焦っちゃダメだ。君にはもっと相応しい仕事場があるよ……。こんな所に永久就職なんてしちゃ、ご両親も悲しむよ」
「そうですか? ウチの両親も喜んでましたけどね?」
来翔は、あの日鈴子を救出した後、確かに鈴子の両親から涙ながらにお礼を言われたことを思い出していた。
(あの時か……。あれは確かに、僕のイメージはご両親には好印象しかないもんなぁ)
来翔が頭を抱えていると、鈴子はすべての作業を終えて、帰り支度を始めていた。
「さてと、終わった。来翔さん、午後からはラッキーピエロで会いましょ!」
そう言って大型のバットに大量のコロッケやフライドポテトやパンを詰め込み、鈴子はマーチスーパーターボのリアトランクルームに積み込んで帰っていった。
結婚の二文字で頭がいっぱいの来翔は、そんな業者のように手際よく動く鈴子の姿には全く気づかないまま、真剣に鈴子との結婚について悩み続けていた。ネーラをはじめとするフェアリー達は、コロッケのあとはフライドポテトをモグモグと食べるのに夢中で、目の前で繰り広げられていた鈴子&来翔劇場を、すっかり見逃していた。
(一応、リリベットさんに、英国での年の差婚の印象について聞いてみよう……)
来翔は午後からのラッキーピエロの出勤が、ますます気重になるのを感じながら、鈴子の淹れてくれたコーヒーを飲んで頭を抱えていた。
そんな来翔を見て、今朝もインコのレフトは、美しい歌声で小鳥の歌を奏でている。
「♪ピピピピピ〜♪」
(第178話へ続く)




