【第162話 宵越しの祭り】
ゼラーナがヘイアンへ戻ると、カグヤが真っ先に来翔の元へ駆け寄ってきた。
「来翔様! 申し訳ございません!!」
突如、深々と頭を下げられ、意味がわからずに唖然とする来翔たちに代わり、カーコとキーコが順を追って事情を説明してくれた。
海賊団のことを知ったネーラやフェアリー達が怒りをあらわにし、暴走寸前だったが、それを、来翔がまあまあとなだめた。
「皆が怒るのはわかるけどさ。見てごらん、田んぼを。もう二期作に入ってるよ? カグヤ領民達は、もう僕らの助けなんていらないのさ。海賊団には負けたけど、心まで負けてない。それに、僕らがいつまでも守り続けるわけにはいかないだろ? 防衛だって、国家として必ず考えなくちゃならないことなんだ。月の民は長年月に住んでいたから、外敵の脅威なんてゾーンが来るまで無かった。だから仕方ないのかもしれないけど、あの平和な日本でさえ、防衛は真っ先に考えることだろ? この僕もかつては、その防衛の最前線に立っていた異世界ハンターだったんだからね」
その言葉を聞いて、フェアリー達もようやく納得した。カグヤ自身も、その言葉を深く噛み締めていた。
◆
そこへ、キーコから既に防衛改革として、南部のドワーフに銃を提供したことが報告された。
「まだ複雑な銃は作れないっすけど、今はドワーフの鍛冶師がリボルバーの拳銃とショットガンを作り始めてるっす。と言っても、こっちの世界じゃ魔法防壁とかチート持ちもいるんで、気休め程度っすけどね」
「いや、それでも島民の意識改革にはなるよ。稲作を覚えただけで、僕らが留守のうちに見事に復興してるんだもん」
そんな中、カーコが来翔に相談を持ちかけてきた。
「来翔さんなら、銃での武装以外でやれる防衛策はありますか? 一応、月の民って魔法適性はあるようなので、訓練すれば戦えなくもないみたいですよ? 侍たちもやたらと強いしさ」
「僕なら、戦いを教えるよりは――戦わないことを教えるかな?」
「戦わないこと?」
「うん。僕らはC-Classハンターだっただろ? Cの仕事は逃げること。でも、ここは島だからね。逃げることは出来ない。それなら――敵の方が逃げるように仕向けるのさ!」
カーコとキーコは意味がわからず首を傾げていたが、来翔から日本での買い付け品を聞くと、すぐに納得し、エアウルフで日本へ目的の品を買い付けに飛んでいった。
◆
数日後。カーコとキーコが目的の物を大量に買い込んで帰ってきた。
「来翔さん! 買ってきたよ! 意外とPGってグレードの物、高いんだね!」
カーコとキーコが日本から買ってきたのは、PGというグレードのガンプラだった。
「お? ターンエーガンダムのモビルスーツばかりじゃないか!」
「ん? 私らガンダム世代じゃないんで、よくわからないっす! なんか間違ってたっすか? PGコーナーには、このターンエーガンダムが大量に余ってたっすよ?」
「まあ、そうだろうね。このターンエーは、ガンダム史上最も人気のないシリーズだからね。でも、ちゃんとスモーやフラット、紅いカプルまであるじゃないか! あ! ボルジャーノンまである! これは僕も欲しいけど……我慢するよ」
大量に買い付けてきたガンプラを、フェアリー達が大喜びで組み立て始めた。
「やったー、ホワイトドールだ!」
「私なんて、シャア専用カプルだ!」
「やったー! ザクIIだ!」
「あ! ザクIIって言っちゃダメだよ! ボルジャーノン!」
嬉しそうにガンプラを組み立てるフェアリー達を、カグヤも不思議そうに眺めていたが、来翔式の防衛策だと聞かされては、黙って見守るしかなかった。
◆
さすがのフェアリー達もPGシリーズには苦戦したらしく、全てのガンプラが完成するまで五日もかかってしまった。完成したガンプラは、島の海岸線に沿ってランダムに並べられていく。
そのガンプラにエリーが『巨大化二十倍』を、キャンディが『結束力』を付与すると――まるでイースター島のモアイ像のように、巨像が島をぐるりと取り囲んだ。どの像もきちんと海の方を向き、ライフルを構え、ビシッと格好良くポーズを決めて立っている。沖の船から見れば、まるで巨人だけが住む島のように見えるはずだった。
そんなターンエーガンダムのモビルスーツたちがぐるりと囲んだ島には、もう誰も攻めてこない。
「これが、来翔様の秘策ですか?」
「そうです、姫様。これらはただの玩具ですが、事情を知らない者から見れば、恐ろしい巨人にしか見えないのです。それに、奇遇なことに――このターンエーガンダムは、本来、月の女神を守るための兵器なんですよ」
そう言って、来翔は笑った。
フェアリー達も、ホワイトドールの歌を歌いながら笑っていた。
「ワーイ! 宵越しの祭りだー!」
「♪ホワイトドールのご加護の元に〜♪」
◆
防衛策が整ったところで、カグヤは再び仔牛を買い求めることを決意し、エアウルフに乗って日本へと飛んだ。
前回譲ってもらった仔牛を全滅させてしまったことを、小澤に深く頭を下げて詫びると――カーコとキーコから海賊団の事情を聞いていた小澤は、カグヤを責めることなく、快く迎え入れてくれた。
そうして、オークションで再びオスメス三頭ずつを落札し、ヘイアンへと連れて帰った。今度こそ必ず繁殖させると固く決意しながら、カグヤは仔牛の入った厩舎をじっと見つめていた。
◆
一方、梅田氏による須佐ノ国での真珠の売り込みは、大成功に終わっていた。次の米の収穫まで領民が飢えずに済むだけの食料を買い付け、無事に帰ってきたのだ。
「姫様! 真珠はイケますよ! 魔石のような輝きなのに、大量生産出来るんですからね!」
「良かった……。これ以上、来翔様から施しを受けるわけにはいきませんからね」
それを聞いて、来翔が横から口を挟んだ。
「僕は施しなんてしてませんよ。ちゃんと割り箸で返してもらいますからね。それに、これからヘイアン島は豊かになります。そうなれば割り箸ではなく、現金で返せるようになるはずです。だから姫様、これを恩に感じるのではなく、正当なビジネスだと思ってください。ガンプラに関しても、フェアリー達は好きで作っただけですから」
カグヤはそれを聞いて、初めて――対等なビジネスパートナーとして、来翔と握手を交わした。
◆
こうして月の民は、鉄腕DASHという農業と漁業の神と、ホワイトドールという戦の神の御加護を、深く信奉することとなった。
黄金の月明かりが、ホワイトドールと、二期作目の青々とした水田を、優しく照らしていた。
(第163話へ続く)
(良い子のみんなへのあとがき)
ターンエーガンダムとは。
一言で言うなら、「月で引きこもっていた親戚たちが、地球へ強引に里帰りしてくる大ドタバタ劇」です!
月の人々(ムーンレイス)は、「地球環境も戻ったし、そろそろ実家(地球)に帰るわ!」と、超ハイテク技術を引っさげて大挙帰省してきます。
主人公のロランは、月出身の先遣隊だったはずなのに、地球の暮らし(と令嬢)が快適すぎて、いつの間にか完全にあちら側へ寝返ってしまいます。
そして∀ガンダムは、月の科学技術の結晶――本来は文明壊滅兵器のはずなのに、地球では「おヒゲの神様」として崇められ、洗濯物を干されたり、牛を運ばされたりする羽目になります。
要するに、「実家に馴染みすぎた裏切り者の息子」対「月からの強硬派な帰省組」という、スケールがとにかくデカすぎる親族トラブルの物語なのです。




