【第159話 魚人海賊団襲来】
「葛城! 領内の女子供とカグヤ姫を連れて、鉱山に避難しろ!」
松崎氏が秘書の葛城――凛とした佇まいの女性に命じると、葛城はすぐさま行動に移した。
「カグヤ姫! 私に着いてきて下さい!」
カグヤ姫と睦月、如月、そしてラジコン操作の作業員たちが、葛城のあとに続く。
葛城は領内で見つけた女子供たちを次々と引き連れ、迷いのない足取りで鉱山へと避難していく。
「この坑道の中は迷路です! ここなら、案内無しでは海賊も入れません!」
坑道内を完璧に把握しているのか、葛城は一切迷うことなく歩を進めていく。坑道内にいた戦えそうな戦士タイプの男や魔道士タイプの男には、海岸で戦うよう指示を飛ばしながら、葛城は坑道の奥へ奥へと避難民を導いていった。
◆
その頃、松崎氏は若かりし頃に着けていた鎧兜を身に纏い、海岸線に立っていた。
「魚人共か?」
見守り隊の隊長――赤城が答える。
「はい! 魚人海賊団です。ここには二隻しか来ていないということは、残りは梅田領を襲っているはずです!」
「梅ちゃんのとこなら戦艦もある! アチラは大丈夫だ! よし、奴らに上陸をさせるなよ! 砲撃がやんだら、すぐに奴らは上陸してくるぞ!」
松崎氏の号令のもと、侍姿の見守り隊が、投石器で反撃を続ける。
やがて海賊船の弾が尽きたのか、船はゆっくりと海岸へと近づいてきた。
「来るぞ!」
誰もが槍を構えて海賊船の接岸を待ち構えていたその時――意表を突くように、岸壁に立っていた見守り隊の男たちが、次々と人魚の手によって海の中へと引きずり込まれていった。
「奇襲だ! 海に近づくな!」
見守り隊が岸壁から距離を取ると、一気に海賊船が接岸し、船から半魚人と呼ばれる存在が次々と降りてくる。彼らはモリを見守り隊へと投げつけ、見守り隊も弓で応戦した。しばらくは弓とモリの応酬が続いていたが――海に落ちた矢を人魚が拾い上げ、それを半魚人が撃ち返してくるようになった。
「不味い! もう矢を放つな! 海がある場所では、奴らの方が有利だ! 一度、海岸から離れるぞ! 上陸させてから討ち取るぞ!」
松崎氏の指示で、全員が海岸から徐々に後退を始めた。
それが、完全な悪手だった。
後退した見守り隊をあざ笑うかのように、再び海賊船からの砲撃が始まる。弾切れに見せかけていたのは、大砲の射程圏内へ見守り隊をおびき出すための罠だった。あっという間に見守り隊は半壊し、崩れたところへ半魚人が押し寄せ、残った隊員たちを次々とモリで刺殺していく。
松崎氏も勇猛果敢に戦ったが、歳には勝てず、全身傷だらけのまま半魚人に取り囲まれてしまった。
「半魚のクセに、やるじゃないか」
「石炭ノ島ハ、我ガ貰ウ!」
「ケッ! 相変わらず半魚の訛りは気持ち悪いな!」
松崎氏の挑発に頭に血が上った半魚人たちが、一斉にモリを投げつける。無数のモリを受け、松崎氏はその場に崩れ落ちた。
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一方、梅田領にも海賊船が一隻だけ襲来していた。だが、こちらは貨物船に偽装していたため、検疫役の役人たちが半魚人の存在に気づいた時にはすでに手遅れで、中部の梅田領は無残に荒らされ尽くしていた。
梅田領からの増援を得られなくなった松崎氏の領土は、こうして半魚人の手に落ちた。
半魚人たちが勝ち名乗りを上げて宴会を始めた隙をついて、葛城に連れられた避難民が命からがら梅田領まで逃げ延びると、そこには瓦礫だらけとなった街が広がっていた。
その光景を見て、カグヤは北部――自分の領地のことが心配になり、葛城の制止を振り切って睦月と如月を連れ、北へと駆け出した。
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北部が見え始めた時――カグヤ領は、燃えていた。
田んぼはすでに水が抜かれ、あの黄金色に輝いていた稲穂は、全て灰と化していた。あれほど大切に育てると誓った仔牛たちも、一頭残らず息絶えていた。
「まだ……名前も与えられぬまま、殺させるだなんて……」
死んでしまった仔牛を前に、カグヤは涙を零した。
田んぼの稲が全滅しているのを見て、領民たちもただ、言葉を失くしたまま立ち尽くしていた。
唯一無傷だったのは、トロッコと線路。そして、牡蠣と真珠貝だけだった。半魚人には、それらの価値がまるで理解できなかったらしく、何の被害も受けていなかった。
カグヤは、せっかく来翔がリフォームしてくれた家までもが焼け落ちてしまったことが、来翔に対して申し訳なくて仕方なく、また涙をこぼした。
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そこへ、命からがら逃げ延びてきた梅田氏と、その領民たちが北部へと避難してきた。カグヤも、いつまでも泣いてばかりはいられなかった。気丈に振る舞うしかなかった。
「幸い、牡蠣も真珠も無事です! まずは牡蠣小屋に避難しましょう! 全員は入れませんが、怪我人や病人は牡蠣小屋を使ってください! トロッコも無事ですので、歩けない方はトロッコで移動しましょう!」
気丈に指示を飛ばすカグヤ姫の姿に、集まった月の民たちの気持ちも、ほんの少しだけ楽になった。
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そんなことが起きているとは露知らず――来翔を乗せたゼラーナは、この日もなお、世界の果てを目指し、東へ、東へと進み続けていた。
(第160話へ続く)




