【第158話 この後は世界の果てまで】
カグヤ領の“鉄腕DASH化”によって、領民たちの働き方改革をひとまず完了させた来翔たちは、稲刈り前に、いよいよ世界の果てまで行ってみようという話にまとまっていた。
「世界の果てまでどれほどの距離があるのかわからないので、何日後に帰ってこれるかは正直わかりませんが……何とか稲刈りの時期までには帰ってくるつもりです」
旅程を説明する来翔に、カグヤは笑顔で答えた。
「稲刈りは我らにお任せください。それくらいは自分たちでも出来ますわ」
こうして来翔たちはゼラーナに乗り込み、世界の果てが見えるという東の彼方を目指して飛び立った。
◆
ゼラーナが飛び立ってから半日が過ぎると、並航スキルでゼラーナを牽引していたネーラが早くも限界を迎えた。ゼラーナはその場で浮いたまま静止し、ネーラは船内でスヤスヤと眠りについてしまう。
ただじっと待つのも辛いので、来翔はクノンに頼んだ。
「クノン。ゼラーナを海面近くまで降ろしてくれ!」
クノンの操作でゼラーナが低空飛行に移ると、来翔とLEONはさっそくルアー竿を取り出し、釣りを始めた。フェアリー達も固唾を飲んで、ルアーの様子を見守っている。
「なあ、クノン、異世界の海はどんな魚がいるんだい?」
「え? そんなの知らない。海の魔物ならリバイアサンとかいるけどね」
「そうか。海にも魔物が出るんだね〜」
そんな会話をしている間に、竿にぐっと手応えが伝わった。
「来た!」
来翔がリールを巻き上げると、日本でもお馴染みの銀ピカの鮭が姿を現した。
「え? 鮭じゃん! 日本の鮭と全く同じだ!」
江差で漁師をしているLEONも、異世界での釣りは初めてらしく、日本と全く見分けのつかない鮭が釣れたことに驚いていた。
「主! これは鮭。江差にもいる鮭だ! しかもオスだ。これを主と私とフェアリー達で食べても、半身は余る」
このゼラーナに乗っているのは来翔とLEONとフェアリー達だけ。冷蔵庫も冷凍庫も無い船内では、鮭一匹でも食べきれずに余ってしまう。
「それじゃ、今日の釣りはこれで終わりにしようか」
来翔は生活魔法を駆使して、鮮やかに鮭を捌いていった。LEONの分は刺身に、自分の分は焼いてほぐし、炊いた米と混ぜておにぎりにする。フェアリー達には、さらに細かくほぐした鮭フレークを分けてやると、皆が喜んで頬張っていた。それでも半身が余ったので、保存が利くようにスモークサーモンに仕上げておいた。
ネーラの体力回復を待ちながら、一同は海の上でぷかぷかと浮かぶゼラーナの上で、静かに夜を明かした。
◆
翌朝。すっかり体力を取り戻したネーラが再び巨大化し、並航スキルでゼラーナを牽引しながら東を目指す。
二日目の景色は、初日とはガラリと変わり、小さな無人島がいくつも見え始めた。その中の一つに上陸し、水や果物が無いか期待して着陸することにした。
島の大きさは、奥尻島ほどの小さなものだった。着陸してすぐに、ヤシの実のような木の実が見つかる。それはLEONにとってお馴染みのものらしく、
「南国あたりではよく見かける、ヤロンの実だ。硬いが、割ると中には甘い果肉が詰まっている」
LEONが鉤爪で割ると、オレンジ色の果肉から芳醇な香りが漂った。フェアリー達が我先にと食べ始める。
島にはヤロンの実がたくさん落ちていたので、十個ほどゼラーナに積み込み、再び世界の果てを目指して飛び立った。
夕暮れが近づく頃、再びネーラの限界が訪れ、昨夜同様、海の上で夜を明かすことになった。近くには手頃な無人島があったので、クノンが尋ねてきた。
「ねぇ、あの島に泊まった方がいいんじゃない?」
「未開の地には、どんな危険な生物や病原菌がいるかわからないからね。こうして海の上に浮いている方が安全なのさ。逆に言えば、僕らの方が、その島にとっての病原菌になる可能性だってあるんだよ」
クノンも、その説明に納得していた。
ゼラーナは二日目の夜を迎えたが、世界の果ては、まだ肉眼では確認できずにいた。
◆
その頃、カグヤ領では、島横断トロッコ線に向けて、レールが大量に作られていた。ランドの指揮のもと、領民総出での作業が続いている。
「ランドさん、鉄は足りますか?」
カグヤが心配そうに尋ねると、ランドはニヤッと笑った。
「いずれ島横断線を作ることになるだろうって、来翔の奴が鉄鋼を過剰に仕入れてくれてたんだよ! 松崎氏の炭鉱までの距離まで、ちゃんと計算してやがったんだぜ? 来翔って男はよ!」
それを聞いて、カグヤも来翔の商才というものを、改めて実感していた。
(小澤さんも、我が領地にホルスタインを選んだ来翔様のことを凄いと仰っていたのは……こういうところなのですね)
「そんなことより、姫様。梅田氏と松崎氏の領地の整地は、どんな感じですかい? アチラには有能な魔道士もいると聞いてますが、いくら優秀な魔道士といえど、そう簡単に整地なんて出来ませんぜ? 俺たちドワーフの土魔法でも、何ヶ月もかかります。こうなったらカグヤ領からも、例のブルドーザーのラジコンを使えるやつを貸し出したらどうですか?」
松崎氏と梅田氏の領地には腕利きの魔道士がいて、現在はその魔道士たちがレール敷設のための整地を進めている。だが、魔道士もMPが尽きれば、回復するまでは何も出来ない。その回復待ちの時間がまるまるロスタイムになっており、無駄が多いのだ。その空白の時間にラジコンのブルドーザーを扱える人員を派遣すれば、より早くトロッコ線が開通できると、ランドは提案していた。
少し悩んでから、カグヤはブルドーザーを扱える人員を派遣することを決めた。
◆
その決断からは、カグヤの行動も早かった。翌日には、睦月と如月を引き連れて松崎氏の館へと乗り込んだ。
ラジコン用の発電機まで自ら持参してきたその姿に、松崎氏はリーダーとしての風格が芽生えつつあるカグヤ姫を見て、感心せずにはいられなかった。
「ほう! これで整地をすると?」
「そうです。これは日本から持ち込まれた、ラジコンという機械なのです。これを使えば、魔道士さんがお休みの間も、普通の作業員だけで整地が出来ますのよ」
ラジコン担当のカグヤ領民が、ブルドーザーやパワーショベルを華麗に操ってみせる。
「なるほど。これを俺たちにも使わせて貰えると?」
「そうですわ。早くトロッコ線を開通していただかないと、そろそろ我が領地のお米が刈り入れの時期を迎えますので……出荷が出来ませんわ」
「よし! これを使えば整地なんてあっという間だ!」
◆
――その時だった。
(ドガーン! ドガーン! ドガーン!)
突如、いくつもの爆発音が響き渡った。
松崎氏の秘書が、血相を変えて駆け込んでくる。
「か、海賊船が! 沖から大砲を撃ってます!」
松崎氏の領地の沖合には――幽霊船を思わせる、不気味な影を纏った海賊船が、何発もの砲弾を絶え間なく撃ち込んでいた。
海面が黒煙と水柱に覆われ、館の窓ガラスまでもがビリビリと震えている。
今この場に――地球最強の男は、いない。
(第159話へ続く)




