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【第154話 田んぼ】

 日本に帰ってきたネーラは、早速Amazonでパワーショベルのラジコンとダンプカーのラジコンを買っていた。




「こんなラジコンがあったんだね」


「そうだよ! これならゲートを通過できるし、あっちでエリーに巨大化してもらえば良いでしょ? でも、来翔、パワーショベルだけで二万円以上もするよ〜。本当に買っても良いの?」




 実車のパワーショベルやダンプカーを買うことを思えば、遥かに安上がりだ。来翔はあっさりとネーラにOKを出した。ついでに、ラジコン充電用の発電機まで一緒に買い揃えていた。




 ◆




 Amazonでの買い物はネーラに任せ、来翔は八雲のカーコとキーコの航空会社を訪れていた。


「また、君たちにしか頼めない仕事があるんだよ」




 ヘリのパイロットとして、唯一ゲートのリング内を通過できるカーコに、来翔がヘイアン島への定期便の話を持ちかけると、カーコは大喜びで即座に引き受けた。


「また異世界を飛べるならやるよ! でも、そのヘイアンにはヘリ用の燃料タンクを設置してもらわないと往復できないよ? 常時、ドラム缶なら二十缶分の燃料を保管しておいてよ。まあ、どうせその燃料も私らが運ぶんだよね?」




「姉ちゃん! ロマンだけで仕事を引き受けちゃダメっす! ちゃんと輸送費の話もするっす!」




 しっかり者のキーコがそう口を挟むと、来翔はさらに魅力的な提案を切り出し、姉妹のハートをがっちりと掴んでしまった。


「定期便を引き受けてくれたら、僕が南の島オージーからミスリルを仕入れて、知人のドワーフにエアウルフのプロペラを作って貰うよ。ミスリルのプロペラなら、何処にぶつけても壊れないだろ?」




 その一言は、姉妹にとってまさに麻薬同然の誘い文句だった。姉妹の乗るエアウルフはボディこそ完全防弾だが、プロペラだけはどうしても防弾に出来ない。それがミスリル製になるということは、エアウルフ唯一の弱点が消え去ることを意味していた。




 姉妹はすっかり夢見心地になり、定期便の契約書に、あっさりとサインしてしまった。


「まずはヘイアン島で稲作が始まるまでは、日本からの資材運搬だけになるけどね。材木を運びたいから、エアウルフで吊って欲しいんだ」




 カーコとキーコは、夢見心地のまま、材木などの輸送も快く引き受けてくれた。




 ◆




 その後、来翔は八雲町からそのまま函館方面へ南下し、七飯町にある酪農家のもとを訪ねた。


 応対してくれたのは、小澤という中年の酪農家だった。


「仔牛を?」


「はい。淡路島程度の島国で、牛を育てたいと思いまして……」




 来翔は、異世界のヘイアン島の現状を交えながら事情を説明した。


「そうか。アンタは異世界ハンターだったのか……。今はアチラにも日本の大使館があるとは聞いていたけど、アチラには牛は居ないのか?」


「僕も詳しくは知らないのですが、ミノタウロスならいるみたいですが、かなり凶暴みたいで飼えないですからね。それに、ホルスタインだと逃げ出しても野生化しませんよね?」




「よく知ってるな。ホルスタインは野生化どころか、人の手を離れると一週間も生きられない。逆に言えば、毎日ちゃんと世話をしないと、すぐに死んでしまうんだぞ? 異世界人がちゃんと世話を出来るのか?」


「まあ、それくらいはやってもらわないと、いつまで経っても自立できませんからね。そこは僕も心を鬼にして、あえてホルスタインを選ばせて頂きました」




 小澤はニヤリと笑った。


「良いね、その発想。俺も賛成だ。竹藪を放置したままにしてるような領民には、ホルスタインはうってつけだ! よし、オークションの手配をしてやる。軍資金はどれくらいある?」


「すいません、仔牛の相場が全くわからないのですが、いくらくらい用意すればいいんですか?」


「オスは価値なしだから、安いときは五千円もあれば買える。だが、メスは十万円ってとこだな」




 あまりの安さに、来翔も思わず驚いてしまった。


「オスが五千円!? めっちゃ安いですね! それなら、最初はオスとメスを三頭ずつって所でしょうか?」


「うん、それがいいだろう。アチラに牧場が完成するまでは、ウチの牧場で研修してもいいぜ。うちなら、ちゃんと従業員用のアパートもあるしな」




 来翔と小澤はがっちりと握手を交わした。小澤からは養鶏場を営む鈴木という中年男性も紹介され、鶏まで譲ってもらえることになった。




 ◆




 そうして、エアウルフによる最初の輸送が始まった。


 エアウルフには積荷を積んだままゲートを通過することは出来ない。そのため、先に人力で資材をゲート越しに運び込み、エアウルフがゲートを超えたあとで、ネーラの軽量化スキルで軽くしたコンテナごと、エアウルフで吊り上げてヘイアンまで飛ぶという算段だった。途中、給油をしながらの輸送となる。もちろん、コンテナの中にはドラム缶の燃料も一緒に積み込まれていた。




 エアウルフの特徴でもあるジェット推進は、コンテナを吊り下げている今回は使うことが出来ず、ヘイアンまでは実に三日もかかってしまった。それでも無事にヘイアンへ着陸すると、コンテナからは次々と資材が降ろされていった。




 ◆




 来翔はさっそくカグヤの家の修繕に取りかかった。その傍らでは、ネーラとLEONが、かつてのTOKIOよろしく農地の開拓を進めている。


 そんな二人の勤勉な姿を見てか、カグヤをはじめとする北側の領民たちも、ようやく重い腰を上げ、竹藪を切り開き始めていた。




 やがて、ある程度の広場が出来上がったところで、フェアリー達お待ちかねの――パワーショベルの巨大化が行われることになった。




 エリーが自信満々に、ラジコンのパワーショベルへ向かって唱える。


「大きくな〜れ!」




 すると、パワーショベルはたちまち、通常の実車と変わらない大きさになった。


 LEONがプロポを操作すると、それは本物さながらに、力強く地面を掘り返していく。




 その光景を見たフェアリー達と領民たちが、一斉に歓声を上げた。パワーショベルとダンプカーの働きは凄まじく、あっという間に一区画分の田んぼが完成してしまった。続けて、近くの小川から水を引くための水路作りも、同じくパワーショベルによって進められていく。




 水田にたっぷりと水を張り終えたところで、心配そうにカグヤがネーラへ尋ねた。


「本当に、これだけでもう竹は生えてこないのですか?」


「そうだよ。水田に水をはることで、竹だけじゃなくて雑草も生えなくなるんだよ。発芽するためには空気が必要なんだけど、水を満たしておくことで他の植物は生えられなくなるの。だから、稲は水田で育てるんだよ!」




「それも、鉄腕DASH様というお方からの助言なのですか?」


「うん!」




 水田の形が整うと、さっそく領民たちが苗を植え始めた。今回、日本から持ち込んだ苗は、“ひとめぼれ”という品種だった。素人でも育てやすい品種を、ネーラが懸命に調べ抜いた末に選んだものだった。




 わずか数日のうちに、あっという間に一区画の水田を作り上げてしまったネーラ。その姿を通して、彼女が日頃から信奉する“鉄腕DASH”という農業の神様のことを、領民たちはいつしか本気で神格化し始めていた。




 夕焼けの空が、水田の水面に赤く映り込んでいる。




 まだまだやるべきことが山積みのネーラとLEONは、その完成を喜ぶ様子もなく、すでに明日へ向けて動き出していた。それでも領民とカグヤだけは、夕日で赤く染まった水田を、しばらくの間、黙って見つめ続けていた。




 (第155話へ続く)



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