【第148話 黄金の家】
アメリカでガマの油を売り、一発当てたデメタと雨森は、故郷である須佐ノ国に、新居を建てるために帰ってきていた。
デメタの目の前では、須佐ノ国随一の建築家である実篤が、日本の建築パンフレットを睨みつけながら唸っていた。
「本当に、こんな家を作っても良いんだな? 雨森の旦那」
「ゲコゲコ!」
「へい。デメタがどうしてもって言ってやす」
「ゲコゲコゲコ!」
「侘び寂びが大事だから、周りの風景も壊すなよ――と言ってやすぜ、実篤さん」
実篤は、デメタから渡されたパンフレットを元に、図面を描き始めた。その様子を、デメタは金歯をニコッと見せつけながら、上機嫌に眺めていた。
◆
それから数ヶ月後。
デメタが望んだ、日本の金閣寺を模したガマ油御殿が完成した。
実篤は本家のパンフレットよりもさらに派手に金を使い込んでしまい、晴れた日には眩しくてまともに直視できないほどの輝きを放つ屋敷となっていた。
「ゲコゲコ!」
「デメタの油で儲けた金なんで、あっしは文句はねぇけどもよぉ〜。こりゃあ、目が痛てぇなぁ〜」
こんな派手な建物は、須佐ノ国には今まで一軒も無かった。おかげでデメタと雨森の屋敷は、あっという間に須佐ノ国きっての観光スポットとなってしまった。もちろん商魂逞しい雨森は、屋敷にデメタの油の土産物屋を併設し、自宅でも堂々とガマの油を販売するようになっていた。
さらに雨森は、地球で仕入れていた龍角散まで一緒に並べて売り始めた。すると、これが異世界でも思いがけずバカ売れしてしまい、あっという間に在庫が底をついてしまった。
「デメタ。こりゃあ、来翔さんに手紙を出して龍角散を届けてもらいやしょ」
「ゲコゲコ?」
「たぶん、コナ国のパチンコ屋に送ると、来翔さんへ転送してくれると思うんでさぁ〜」
「ゲコゲコゲコ!」
「でしょ? 我ながら良い方法だと思いやす!」
こうして雨森は、パチンコ屋のレンカと戸田宛に、来翔への手紙をしたためた。
◆
須佐ノ国民から旧コナ国までは、およそ三週間かけて手紙が届いた。手紙を受け取った戸田が、わざわざ来翔の家まで届けてくれた。
「来翔さん! 須佐ノ国から手紙が来てましたよ!」
来翔が雨森からの手紙を開くと、そこには――
・御殿が完成したので見に来い。
・その時には龍角散を箱で買ってこい。
・土産物屋を経営してるから、売りたい木工製品があるなら持ってこい。
という内容が、雨森らしい豪快な字で綴られていた。
来翔は、以前ゲートを越えて須佐ノ国まで行った時のことを思い出していた。
(あの時はフェアリーの国ごと、空を飛んで行ったんだよなぁ。クノンに、また頼んでみるか〜)
クノンに声をかけると、彼女は二つ返事でOKを出した。
「また須佐ノ国まで乗っけてあげれば良いんだよね? そんなの簡単! 簡単! カンタン酢!」
「君たちも、そろそろ異世界に帰りたいんじゃないのかい?」
「え〜! 嫌だよ〜。このまま来翔の家に住み着くって、皆で決めたのに!」
「は? 僕は何も聞いてないよ?」
「ネーラとレフトがOKしてくれたもん!」
来翔がネーラとレフトへ視線を向けると、二人は何故か、揃ってドヤ顔で胸を張っていた。
「まあ、良いか……」
こうして来翔は、フェアリー達がなぜ異世界へ帰らずにいるのか、この時初めて知らされたのだった。
◆
それから数日後。律儀に龍角散と浅田飴を箱買いした来翔は、荷物を担いで異世界へとやって来た。
すると、クノンは持ち込んだ荷物をゴソゴソと漁り出し、LEONが背負っていたリュックの中から、クリスマスプレゼントとして誰かに貰ったオーラ戦艦・ゼラーナのプラモデル――一/二十スケール――を取り出した。
「エリー! このゼラーナに巨大化をお願い!」
エリーはニコッと笑って、プラモデルに巨大化スキルを付与した。
すると、ゼラーナはたちまち本物の大きさになった。
「こ、これが……本物の大きさ……」
唖然とする来翔とLEONに、クノンが元気よく号令を掛けた。
「全員! 艦に乗り込め!」
フェアリー達が真っ先に、我先にとゼラーナへ乗り込んでいく。来翔もLEONも恐る恐るあとに続くと、クノンの浮上スキルでゼラーナはフワリと宙に浮かび上がった。例によって巨大化したネーラが並航スキルで牽引役を務め、須佐ノ国目掛けて出発する。
「おいおいおい、クノン! ただのプラモデルで飛ぶのは危険だぞ! プラモデルなんて、ちょっとした事ですぐにパーツがポロッと取れちゃうだろ?」
クノンはニヤニヤと笑って答えた。
「イッシシシ、それがそうでもないんだなぁ。ほら? この子。普段は地味だけど、こんな時にはこの子のスキルが役に立つの! ね、キャンディ!」
紹介されたキャンディは、少し照れくさそうに答えた。
「本当は、こんな事に使うためのスキルじゃないんだけどなぁ〜。まあいいわ。仕方ない! いっくよ〜!」
キャンディはゼラーナの床に向かって、そっとスキルを唱えた。
「仲良くな〜れ!」
特に目に見える変化は何も無かったので、来翔がクノンに尋ねる。
「ん? 今のは、どういうこと?」
「あのね。キャンディのスキルは『結束力』なの! これさえあれば、パーツがポロッと落っこちることもないよ! ボンドが無くてもくっ付くくらい、凄い結束力なの!」
キャンディがドヤ顔で補足した。
「本来の使い方は、人と人を繋ぐスキルなのになぁ。でも、私の結束力スキルなら、このプラモデルの接続箇所は、もう絶対に外れることはないよ!」
それを聞いた来翔は、唖然としながらも思わず呟いた。
「なんてアホなことに、チートスキルを無駄遣いするんだ……」
その呟きに、フェアリー達は腹を抱えて笑い転げていた。
◆
(きっと、とんでもないチートスキルを持ってる子が、他にもいるはずだ)
来翔は、いつか改めてフェアリー達のスキルを一人一人、きちんと把握しておかなくてはと、心に強く刻んだ。ある意味では、フェアリー族は敵に回せば、ゾーン団よりも遥かに厄介な相手になるかもしれない――そう思うと、来翔は少しだけ背筋が寒くなった。
プラモデルの戦艦ゼラーナは、フェアリー達の笑い声を乗せたまま、静かに異世界の空を渡っていく。
見上げた夜空には、地球のものとはどこか違う色をした夕月が、淡く、それでいてどこか意味深に輝いていた。
まだ誰も知らない。
その月の彼方に、何が――否、誰が、静かに待ち構えているのかを。
(第149話へ続く)




