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【第138話 技術のNISSAN E-EK10】

 上ノ国町に住んでいる勇者ワタルの妻であるマーガレットには、日課があった。ヒクイドリのファルコの散歩がてら、隣町の江差町にあるラッキーピエロまでママチャリで走ることだ。


 この日もママチャリとヒクイドリのファルコは、江差町に向けて国道228号線を海を見ながら走っていた。


 このコースを走り始めた頃はマーガレットもファルコもヘトヘトになっていたのだが、半年も経つ頃には片道四十分で江差町のラッキーピエロまで走れるようになり、マーガレットには『爆走』という謎のスキルも派生していた。


 ラッキーピエロに着くと、マーガレットはカウンターにいた笑顔の鈴子に挨拶をした。


「鈴子! おはよう」


「マーガレット! 今朝も早いね!」


 同世代の二人は、いつの間にか親友となっていた。


 鈴子は外の駐輪スペースで大人しく待っているファルコを見つめながら、マーガレットに告げる。


「いつものでいいの?」


「うん」


 鈴子は厨房の来翔へオーダーを伝えると、料理ができるまでカウンターで待つマーガレットとたわいもない会話を楽しんでいた。


「そういえば、マーガレットは免許を取らないの?」


「免許か〜。欲しいけど、運転が怖いのよ」


「今の季節は自転車でも良いけど、真冬は自転車ではここまで来れないよ?」


「そうよね〜。この辺の人は免許証は函館まで行って取るのよね?」


「そうだよ。免許証取得の日は朝が早いから、泊まりで行くんだよ。あ! そうだ! 免許を取るなら、その日は私も付き合うよ! 函館でお泊まり会をしよう!」


「うふふ。それも良いかも! 良し! それじゃ免許を取ってみるよ!」


 等と会話をしているうちに料理が出来たので、マーガレットはテイクアウトして自転車に乗って、江差町のかもめ島という絶景ポイントへ行き、ファルコとともにテイクアウトした料理を食べていた。マーガレットはテリヤキバーガーを頬張り、ファルコはキウイフルーツを狂ったように頭を振って食べていた。かもめ島は、マーガレットとファルコにとって最高の早めのランチタイムの聖地となっていた。




 ◆




 そして、この日の夜。マーガレットはワタルに免許取得の事を相談してみた。


「うん。いいと思うよ。上ノ国町は雪が積もるからね。絶対に免許を取るべきさ」


 こうして、マーガレットは免許取得に向けて学校へ通うことになった。


 それから約一ヶ月後、夏休みが始まる前にマーガレットは仮免に合格して、函館の免許センターへ行くことが決まった。前日から鈴子と共に函館へ行く約束をしていたので、鈴子が自らの車のマーチスーパーターボでマーガレットを函館まで乗せてくれた。その道中で、マーガレットが鈴子に尋ねた。


「鈴子の車は小さくて可愛いわね。日産のマーチって言うのね?」


「そうだよ。私も車に詳しくないから、車の好きな来翔さんに選んでもらったんだ。コロンとしたこの形をハッチバックって言うんだってさ。積荷が広いから、買い物に便利だよ」


「へぇ〜。私もハッチバックが良いなぁ。自動車学校の車って大きくて怖かったのよね」


「そうそう! 私も大きな車は苦手かな?」


 約二時間のドライブは、上ノ国町から函館までにちょうどいい距離だった。


 二人は函館の湯の川温泉という温泉街にある啄木亭という、客室露天風呂が名物の宿に泊まり、函館の夜を満喫していた。


 そして、翌朝。マーガレットは早々に試験場へ行き、見事一発で普通自動車免許を取得できた。


「マーガレット! おめでとう! 今日から運転できるんだね! 私のマーチを運転してみる? マーガレットの運転で上ノ国町まで帰ってみようよ!」


 マーガレットは遠慮することなく、マーチスーパーターボの運転席に座った。


「あぁ、マニュアルはやっぱり緊張するわね」


 そう言って、マーガレットはゆっくりと車を走らせていた。ロー、セカンド、サード、トップ……そして、トップギア! マーチスーパーターボのタービンがヒューンと鳴った瞬間、マーガレットの『爆走』スキルが咆哮し、マーガレットも咆哮した。


「ウォォォォォォォォ! 唸れ!! スーパーターボ!!」


 ターボタービンとスーパーチャージャーが咆哮を上げた。初めて聞いた自分の愛車の咆哮に、鈴子自身も驚いてしまった。


「なに? この加速とエンジン音!?」


 マーチスーパーターボは、国道228号線をいきなり百八十キロというスピードで走り出した。


「マ、マ、マ、マ、マーガレット!! や〜め〜て〜〜〜!!!」


 スピードメーターを見た鈴子は、百八十キロの所を超えて、もう何も書かれていない黒い部分を針が指していて、現在何キロ出ているのかわからなかった。


 国道228号線は直線が少ない。海岸線をそのまま道路にしているため、海岸の地形通りのコーナーが続くのだ。


 そんなクネクネした道路を器用にタックインを駆使して、マーガレットは減速することなくコーナーリングスピードを保ちながら爆走を続けている。もはや、鈴子の知っているマーガレットは何処にもいなかった。


 鈴子は半分気を失っていたが、なんと上ノ国町にはたったの三十分で着いてしまった。本来なら2時間はかかるのに…。


 マーガレットの自宅前に到着した瞬間、マーガレットはいつもの温和なマーガレットに戻り、笑顔で車から降りて鈴子に告げた。


「今日はありがとうね。初めての運転は凄く緊張しちゃった!」


「あれで!?」


 鈴子は思わずツッコんでしまったが、マーガレットには二度と車を貸さないことを決めた。




 ◆




 鈴子はマーガレットと別れたあと、来翔の家に行って確認をした。


「来翔さん! 私の車なんですが! レーシングカーみたいに早いんですけどどうなってるんですか!!!」


 来翔はガレージでkeiワークスを整備中だったので、手を拭きながら答えた。


「そりゃあそうさ。日本で唯一のターボとスーチャーだよ? 最強のマーチを選んだつもりだけど……」


「バカーー!」


 とだけ告げて、鈴子はプンプンに怒って帰っていってしまった。


 ネーラが胸ポケットから来翔に告げた。


「ねぇ。鈴子になんかした?」


「いや、してないよ? 腹でも減ってるんだよ、きっと」


 怒って帰る鈴子のマーチスーパーターボからは、独特のエンジン音が咆哮を唸っていた。




 (第139話へ続く)














(あとがき)


日産・マーチ スーパーターボ (E-EK10型)

車両型式: E-EK10

エンジン型式: MA09ERT

エンジン形式: 直列4気筒 OHC

過給機: ツインチャージャー(スーパーチャージャー+ターボチャージャー)

総排気量: 930 cc

最高出力: 110 ps / 6,400 rpm

最大トルク: 13.3 kgm / 4,800 rpm

変速機: 5速MT / 3速AT

車両重量: 810 kg(5速MT車)


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