【第137話 オッサン達の野球とゴルフ】
来翔とレンカは翌日、keiワークスで北広島にあるエスコン球場に視察に来ていた。
「これが球場ですか! こんなとんでもない物をビリーは作ろうとしていたんですか!!」
二人はあえて三階席から見に来ていた。エスコンの三階席は、球場全体を見ることが出来るからだ。エスコンはパチンコホールとは別次元の建築物で、実物を見たレンカは圧倒されていた。
「なぜ、試合がないのにこんなにお客さんが入場しているのですか?」
「それは今から説明します」
そう言って来翔は、七つ星横丁という飲食店が並んでいるエリアまで移動した。
「ここは! 市ですね? しかもこんなにたくさん!」
「そうなんです。球場内で市を開けるんです。球場としては試合のチケットの他に場所代も入ってくるので、この市も大事な資金源になります。こうして市があることで、試合のない日でもエスコンには毎日一万人以上の来場があるんです」
一万人という途方もない入場者数を聞いて、パチンコホールとは比べ物にならない規模の興行なのだと知り、レンカもようやくプロ野球という物に目をつけた来翔とビリーに感服してしまった。
「来翔さん。これはパチンコチェーン等のレベルとは違います!」
◆
続いて二人は、バッティング体験の出来るエリアへとやって来た。
「レンカさんも実際に打ってみますか?」
エスコンはバッティングとピッチングの疑似体験ができるのだ。
レンカは打席に立って、来翔に告げる。
「私は魔族ですよ? 人間の反射神経とは全くの別物です!」
そう言って、ピッチングマシンがボールを投げて来るのだが、バットには中々当たらない。
「おかしいです! これは幻影ですか!?」
「ハハハ、バッティングは三割打てれば天才と呼ばれるくらい当たらないものなんですよ。あと、レンカさんはフォームがバラバラです」
そう言って、今度は来翔が打席に立った。それは広島カープの松山竜平のような、確実に打てそうな雰囲気でゆったりと構えた。
一球目が飛んでくると、しなやかに振り抜いて楽々と外野まで飛ばしていく。そして、二球目、三球目と悠々と外野まで飛ばしてしまう。
そんな来翔のスイングを見て、レンカは驚愕してしまう。
(こ、これが、木べらの戦士のスイング……あの独特な攻撃方法は、この野球のスイングから来ていたのか……)
続いてピッチングの疑似体験をやってみた。当然、レンカはストライクなどは取れないのだが、来翔はビシビシとストライクを取っていく。しかも、球速も魔族であるレンカよりも圧倒的に速いのだ。
(この人は、投擲レベルも凄かったんだ……)
エスコンを見に来て、レンカは来翔の強さの秘密も見ることが出来た。
(これが、世界最強のビリーが認めた人族最強の男か……)
来翔としては普通に野球を楽しんでいただけなのだが、レンカは来翔との実力差をヒシヒシと痛感していた。
(私もまだまだレベルをあげないとな……)
球場運営の他に、新たな目標が見えてきていた。レンカはそのあともエスコンに訪れていた子供たちに譲ることなく、バッティングの疑似体験を続けていた。
そして、最後は実際に観客席へと座ってみた。美しい芝を眺めながら、レンカはパチンコチェーンの経営よりも楽しくなる予感を感じていた。
そんなレンカはと言うと――やはり野球というゲームには、なんの魅力も感じてはいなかった。
◆
その翌日には、北広島にあるゴルフ場に二人で来ていた。初心者のレンカにはまともにスイングすら出来なかったので、午後からはパークゴルフという誰でも出来る簡易的なゴルフ場へと場所を移動した。パークゴルフなら、ゴルフのルールを覚えるには最適だった。
「先程のゴルフは出来る気がしなかったけど、コチラのパークゴルフでしたら、アチラでも流行りそうですね」
「そうですね。パークゴルフは庶民向け。ゴルフは貴族向けと、完全に分けた方が良さそうですね」
レンカは、野球は興行、ゴルフはレジャーとちゃんと認識し、ビジネスの展開はどちらも可能だと判断した。
「でもね、来翔さん。野球もゴルフも私には微塵も楽しくないの……。こんなものが、オッサン達は本当に好きなのかしら?」
と言いつつも、目の前のゴルフ場とパークゴルフ場にはたくさんのクソジジイ達がひたすらクラブを振っていたので、レンカも認めるしか無かった。
「野球とゴルフの他には釣りという沼もありますが、釣りはあちらの世界では海の魔物も釣れる可能性があるので、ビリーさんからは不可能だと言われてます」
レンカは、人類最強の男と言われている来翔も、実はただのオッサンなのだと結論付けていた。
◆
ただし、パークゴルフを終えて来翔に小汚い小さな居酒屋に連れていかれて、そこで飲んだビールの美味さと串揚げの美味さには、椅子から落ちるほど美味すぎた。
「レンカさんは、やっぱり焼き鳥は食べられないよね? 共食いになっちゃいますよね?」
来翔が居酒屋で焼き鳥をオーダーしないように気を使ったが、その言葉を聞いてレンカはムッと膨れて答える。
「私は魔族です! 鳥っぽいけど鳥じゃない!!!」
セイレーンの鳥のような足と鳥のような翼を見て、来翔がやっぱり焼き鳥のオーダーを躊躇してしまっていた。
そんな来翔を見かねて、レンカが元気よく店員さんに「焼き鳥盛り合わせー!」とオーダーしていた。
この日、来翔はセイレーンが鳥ではないことを、初めて学んでいた。
(第138話へ続く)




