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【第136話 独身中年男性が好きな物】

 異世界パチンコチェーンのオーナーだったビリーが亡くなった事で、業務を引き継いだセイレーンのレンカは、目の前の建築業者からの請求書を見て戸惑っていた。


「あの〜、この球場建設費と言うのはなんですか? ウチはパチンコ屋ですよ?」


 建築家のマークスが、サラッと不思議な言葉をレンカに告げた。


「亡くなったビリーさんから、生前にプロ野球場を作るように頼まれてまして、地ならしが終わったので、いよいよ球場建設を始めるのですが……」


「いや、そのプロヤキュウというのは何なのですか? 新たなパチンコホールという事なのでしょうか?」


 マークスは、レンカが野球について無知なことをようやく理解したので、丁寧に説明を始めた。


「なるほど。ビリーさんから何も聞いてないのですね? 実は、ビリーさんは新たなビジネスを始めるつもりで、異世界からプロ野球を輸入すると言ってまして、その野球というゲームを行うための球場を作ろうとしていたのです」


「そのヤキュウというのはゲームなのですか?」


「さあ? 私にもわかりません。私はただ、頂いた図面通りの球場を作るだけですので……」


 新米社長のレンカでは全く意味不明だったので、パチンコホールの店長である戸田を呼び出した。


「レンカ姐さん! 突然、どうしたんですか?」


 会議室に、営業中にも関わらず戸田が駆けつけてくれた。


「あ、戸田君! わざわざありがとう。ねぇ! 貴方はビリーからプロヤキュウについて何か聞いてる?」


「プロ野球ですか!? まさか、ビリーさんは異世界でプロ野球を作るつもりだったんですか!?」


 どうやら戸田も初耳なのは態度でわかってしまったが、戸田にはプロ野球という謎の言葉がわかるようなので、ついでにプロ野球とは何なのかを尋ねてみた。


「あぁ、プロ野球ですか? えっと、簡単に説明すると、九人対九人で戦う球技です。試合時間がとても長くて、興行としては芝居やオペラを開催するよりも観客動員数を稼げます。が、女子供には全く好かれません! オッサンだけが喜ぶゲームです」


 レンカはそれを聞いて、ふと、ある人物のことが頭をよぎった。


「オッサンが好む?……もしかして、ビリーにプロ野球を勧めたのは、来翔さん!?」


 それを聞いた戸田も、ニンマリ笑って答えた。


「間違いないです! 来翔さんはプロ野球が死ぬほど好きなんで!」


 ようやくレンカにも、プロ野球の事を勧めた人物が来翔だとわかり、一安心した。何故なら、パチンコも来翔の発案だからだ。


「なるほど。それなら、きっと総督には既に許可を得てるって事よね?」


「そうですね。来翔さんには総督とのコネがありますからね」


「それにしても、プロ野球とは女子供に人気がないのに、興行として儲かるというのは何故かしら?」


「野球自体はオッサンしか見ないんですが、球場全体が楽しいんですよ。なので、オッサンが一人で野球を見に行くと言うよりは、家族全員で行くってイメージですね。球場内では野球以外でもショッピングなんかもできるので、女子供でも退屈しません。なんなら、俺の次の休暇は江差町に行く予定なので、一緒に行って来翔さんから詳しく聞きに行きますか?」




 ◆




 こうして、戸田の次の休暇を待って、二人は江差町の来翔の宿屋に来ていた。


「来翔さん! 今日はレンカ姐さんも連れてきましたよ!」


「おや? レンカさんがコチラに来るなんて珍しいですね」


「レンカ姐さんはビリーさんからプロ野球について何も聞かされてなかったみたいで、来翔さんに詳しいことを聞きたいそうです。なんか、業者が建設が始まるからと請求書を持ってきたみたいなんですよ」


「あぁ! バタバタしてて忘れてたよ! もう整地は終わったんだね! レンカさん、それじゃ説明するんで、テレビのある部屋に行きましょうか」


 そう言って来翔は、テレビのある部屋に移動した。ちょうど日ハム戦がテレビ中継されていたので、テレビをつけてレンカに見せた。


「これがプロ野球です。今はオープン戦と言って、本番ではなくリハーサルみたいなものですが、観客席を見てください。ここはエスコンと言って、観客席は二万五千人以上も入ります。リハーサルとはいえ、観客席がほぼ満員でしょ? これが本番になると、チケットを買えないほど客席が埋まります。しかも、春から秋までずっとです。ただ、野球というゲームを見せるだけで、パチンコチェーン並の売上を見込めるのです!」


 レンカはテレビに齧り付いて、日ハムのオープン戦を見つめていた。


「こ、これがただのリハーサルなの? 物凄い迫力なんだけど?」


「リハーサルなんですが、このリハーサルで結果を残せない選手は、二軍という雑魚扱いされてしまうので、選手にしてみれば本番よりも緊張感はあるんですよ」


 試合の流れを見ながら、簡単にルールについて来翔がレンカに教えていく。


「ねぇ。これって獣人の方が圧倒的に有利じゃないの! どのチームも獣人だらけになるわよ?」


「まあ、そこはコチラのルールでも助っ人外国人には枠があり、使える人数に制限をかけてます。ただし、レンカさんは今、獣人が有利だと言いましたよね? たぶん、獣人は足が早いし運動神経も良い、動体視力も良いですからね。でも、この野球というのは、身体的なスペック差はあまり関係ないんです。だから、さっきコチラにも助っ人枠があると言いましたよね? その助っ人外国人が必ず活躍するとは言えないんです。むしろ、活躍できない方が多いんです。分かりやすく言うと、先程、この背番号が53番の選手が盗塁しましたよね? 彼はチーム内で最も足が早いんですが、盗塁はめちゃくちゃ下手くそです! 盗塁は単純に足が早くても失敗するんです。盗塁要員に最速の人を置いていないチームは沢山あります。それから、投手も獣人なら豪速球を投げられるでしょう。でも、ご自慢の豪速球も、打者は少なくても四巡するんです。目が四巡もすると慣れるんです。あと、この公式のボールも限界速度ってのが百八十キロだと言われてます。二百キロを投げられる獣人がいたとしても、二百キロで投げると真っ直ぐ飛びません! なので、投手に必要なのは力ではなく、知恵なんです! 獣人の動体視力でバッティングをしたとしても、スイングを開始した後で変化する変化球もあるんです。逆に動体視力が良すぎると、予測で振ることが出来なくなるので、個人的には獣人こそ打てない可能性の方が強いと思ってます」


 来翔からテレビを見ながら野球について習ったレンカは、戸田から聞いた『女子供には人気が無い』という言葉が、よく理解できた。


「もういいわ。訳が分からないから。このゲームは、本当にオッサンにしか好かれないわね……。でも、このキツネダンスや応援歌はアチラでも流行る! これは間違いないわ! 娯楽のない帝国の傘下の国では、プロ野球は間違いなく流行る! さすがね、来翔さん! 一応、まだビリーと進めていた事業があるなら、全部教えてちょうだい。他にもあるのでしょう?」


 来翔はニコッと笑って答える。


「さすがレンカさん。実はビリーさんは、プロ野球を立ち上げたあとはゴルフ場の経営も考えてましたよ。でも、このゴルフの方は完全にオッサンしか楽しめません! 興行も不可能なので、個人個人が楽しむゲームです。ビリーさんは貴族向けにやろうと考えていたようです」


 レンカはプロ野球に引き続き、ゴルフについてもゴルフ中継を見ながら説明を受けていた。


 異世界に野球とゴルフ。様々な人種がいる異世界だからこそ成り立つスポーツだった。


 亡きビリーの跡を継いだレンカの苦労は、まだまだ続く。


「ねぇ、来翔さん。女子供向けに何かないのかしら? 来翔さんとビリーはオッサンしかターゲットにしてないのが、私には少しだけ不満なの」


 来翔は苦笑いしながら答えた。


「すいません……僕もビリーさんも独身中年男性なので、女心がまるでわからないんですよ……トホホ」


 レンカは呆れ果てて、溜息を吐いていた。




 (第137話へ続く)



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