【第125話 勇者の剣】
「お前の切断剣も良い剣だよなぁ〜。けどよぉ、斬れ味が良すぎて相手を即死させるじゃんよぉ。斬っててつまらんだろ、それ」
ワタルは、バーンが何を言ってるのかがさっぱりわからなかった。ワタルは問答無用で、チックルの加速も付与された状態で見えない二刀のバスターソードを振るっていたが、全てバーンが刀でいなしてしまっていた。
(この男は、剣術レベルがハンパない!)
ワタルは、剣術ではバーンの方が一枚上なことがわかったので、少し距離を置いた。そして、チックルに囁いた。
「右の剣に加速」
「OK! 速くな〜れ!」
ワタルは右手の剣を真っ直ぐにバーンへ投げつけた。ワタルから放たれたバスターソードは、加速スキルが付与されているために右手を離れた瞬間には見えなくなっていた。だが、バーンはそれすらも刀でバスターソードの軌道を変えて、紙一重でかわしてしまった。
「おいおいおい! 勇者さんよぉ。めちゃくちゃ怖いことしてくるじゃん! せっかくの二刀流なのに一本ブン投げちまってどうするんだよ! まさか、今のがお前の切り札じゃないよな!」
そう言ってバーンは一瞬にして、ワタルではなくワタルの背後で援護射撃をしようと進軍してきていた米軍達を先に斬りつけていた。
「やめろ! その人達を巻き込むな! 兵士の皆さんも俺に構わずに逃げてくれ!」
しかし、勇猛果敢に勇者の援護射撃要員として進軍してきた米兵たちは、バーンに斬られた瞬間に次々と悲鳴をあげていた。斬られた箇所はほんの少しの傷だったのだが、米兵たちは泣き叫んで転げ回っている。
「これが、激痛剣……」
ワタルがトンプソンからの情報で激痛剣の効果を知っていたので、思わず呟いてしまった。
「お? さすがは勇者。俺の剣の効果を見抜いたな? そうさ、コイツは激痛を付与できる激痛剣よ。俺の剣の方が面白いだろ? 切断剣じゃ斬った奴らはすぐに死んじまうからよぉ。やっぱり相手が泣き叫ぶのを聞きたいもんなぁ〜」
そう言ってバーンは、次々とわざと軽傷で済むように米兵達を斬りまくっていた。ワタルはそんな米兵を守るように戦うしかなく、隙だらけにされてしまった。その時、ついにワタルの脇腹にバーンの激痛剣がかすってしまった。
「グッ!」
痛みでワタルが顔を歪めると、チックルが急いでガマの油を塗っていた。
「アハハ!! 勇者さんよぉ。そいつは回復薬か? 無駄無駄! 傷は治るが、激痛は付与魔法なんだぜ? 痛みが取れるわけないだろ!」
バーンの言う通り、ワタルの傷はすぐに治ったが、激痛はそのまま残っていた。
多くの米兵の泣き叫ぶ声を聞いて、ヒーラーである巨大化したデメタと雨森も現場に来てしまった。
「勇者様! 今、あっしが兵隊さんを治しやす! 心置き無く戦ってくだせぇ!」
「ダメだ! 雨森さん! 逃げてくれ!」
ワタルは雨森を守るように、激痛に耐えながらバーンの前に立ち塞がった。
「フフフッ! あの侍のとっつぁんがそちらのヒーラーか! 勇者には悪いが、ヒーラーから倒すのは戦場の常識なんでな。とっつぁんからやらせてもらう!」
バーンはワタルを無視して雨森へダッシュするが、ワタルも加速でそれに追いつき、バーンをバスターソードで斬りつけた。バーンは刀でいなして立ち止まった。そして、ワタルを振り切れないとわかると、他のゾーンの戦士に大声で叫んだ。
「この侍がヒーラーだ! 侍から倒せー!」
米兵の治療をしていた雨森もその声を聞いて治療を辞め、刀を構えて懐から、パチンコ屋の発電所で使用している雷の札を数枚取り出した。
そして、雨森に向かってくる戦士タイプの大男に向かって、「雷の術!」と唱えると、大男には雷がズガンと落ちて、一瞬で黒焦げになった。続いて魔道士タイプも雨森に襲いかかって来たが、雨森は迷わずに「雷の術!」と唱えると、魔道士タイプにも雷は落ちたのだが、魔法防壁が砕け散っただけで終わり、魔道士から反撃の電撃魔法を放たれてしまった。その刹那、デメタが雨森をパクッと食べてしまい、雷を喰らったのはデメタだけで済んだが、デメタが麻痺状態になり動くことが出来なくなってしまった。
魔道士はそんなデメタにトドメを刺そうと氷魔法の詠唱を唱えだしたところで、ワタルがバスターソードを分裂させて加速を付与し、魔道士に投げつけた。すると、魔道士の身体を真っ二つに切り裂いて、投げられたバスターソードは遥か彼方へと飛んで行った。
デメタの口の中から無理矢理こじ開けて雨森が出てきて、麻痺している巨大化したデメタの全身にガマの油を塗りたくっていた。
ラスト一本のバスターソードを投げつけたはずなのに、まだ手元にバスターソードを握っているのを見て、バーンが何かに気づいた。
「お前。これで二度、剣を投げたよなぁ? なんでまだ剣を握ってる? 最初から三本持ってた? いや、こんなバカでかい剣を隠し持てるはずがない!」
ワタルはバーンの見てる前で、堂々と剣を一刀から二刀に真っ二つに分裂させて見せた。
「バーン! これが俺の魔法剣。決断剣だ!」
そう言って、再びバーン目掛けてバスターソードを見えない速度で投げつけた。今度は終わることなく、何度も分裂させて投げつけた。さすがに数が多すぎて、バーンも刀一本ではいなせなくなり、近くにいた魔道士タイプの男に応援を求めた。
「俺に魔法防壁!」
魔道士タイプの男はすぐにバーンに魔法防壁を展開した。
「クックックッ、さすが勇者の剣! 気に入ったぜ! やっぱりそれ、俺が貰うわ!」
そう言ってバーンは、魔法防壁の効果でもはやワタルからの攻撃をかわす必要も無くなったので、真っ直ぐに飛び込んできた。そして、今度はお互いに超接近戦で、刀と二刀流のバスターソードで斬り合いが始まった。かたや、かすっただけで激痛がともなう刀。かたや、かすっただけで切断されるバスターソード。どちらもかすっただけで勝負が決まる。
と、思われた直後、剣術スキルで上回っていたバーンの刀が、ワタルの肩を掠めてしまった。
バーンがニヤリと笑った。
「勝った!」
バーンはワタルが激痛で動けなくなると予測して、上段の構えからワタルの脳天へと刀を振り下ろした。だが、ワタルは二本のバスターソードを袈裟斬りにクロスさせて、バーンを鮮やかに魔法防壁ごと切断してしまった。
バーンはニヤリと笑ったまま、絶命していた。
そんなワタルに、チックルが心配そうに声をかけた。
「肩痛くないの? ガマの油を塗るから待っててね」
「ありがとう。でも、激痛は割と平気だったんだ。だって来翔さんの杓文字の方が百倍も痛かったもん」
チックルもニコッと笑って答えた。
「そうなの? そっか〜。そう言えば、来翔に叩かれた時はワタルは気絶したもんね!」
「そういうこと! 来翔と模擬戦をやっておいて良かったよ!」
チックルが肩の傷をガマの油で治し終えると、ワタルはデメタの治療をしていた雨森に声をかける。
「デメタは大丈夫ですか?」
「へい。痺れて動けねぇだけだって本人も言っておりやす。如何せん巨大化しちまったから、油を塗るのに手間がかかっていけねぇ」
「雨森さんとデメタはフェアリーたちのいる後方まで下がっていて下さい! 怪我人は田吾作さんが後方まで運んで貰うように頼んで下さい。ゾーン団はやはり全員が手強いです!」
それだけ言い残すと、ワタルは来翔とカリーナの戦場へと走り出していた。
雨森は巨大化したデメタに油を塗り終えると、ようやくデメタがのっそりと動き出して、雨森をデメタの背中に乗せてフェアリー達がいる最後方へとのっそりのっそりと歩き出した。まだ完全に麻痺が取れないのか、いつものようにビョコン! ビョコン! とは飛べないデメタを、背中の上から雨森が心配そうに頭を撫でていた。
ワタルの視線の先には、宙に浮いているカリーナと、いつもよりも大きな杓文字を構えている来翔の姿が映っていた。
(第126話へ続く)




