【第126話 強者】
フェアリーたちがいる最後方へと、雨森を乗せたデメタがフラフラになって帰ってきた。
そんなデメタを見て、クノンが心配そうに声をかける。
「デメタ! そんなにフラフラになるなんて、ダメよ! 前に出ちゃ! 来翔からもここにいろって言われてたのに……」
「ゲコ! ゲコ!」
「そうよ! もう休んでていいの! ガマの油はたくさんあるんだから! あとは私たちが怪我人に塗り塗りするから、もう前に出ちゃダメよ!」
「ゲコ! ゲコ!」
デメタはその場で、戦闘の行方を見守ることにした。そんな巨大化したデメタの鼻先に、レフトがとまった。
「ピヨピヨピヨ!」
「ゲコゲコゲコ!」
レフトとデメタは、宙に浮いているカリーナをじっと眺めていた。フェアリーたちも、カリーナと来翔との最終決戦の様子を黙って見つめていた。
◆
宙に浮くカリーナを睨みつけ、世界樹の杓文字を握りしめた来翔が叫んだ。
「ネーラ! 軽量化と並航!」
来翔がジャンプして、カリーナ目掛けてネーラと共に突き進んだ。そして、世界樹の杓文字を江藤智のアッパースイングで振り抜くと、ようやくカリーナの魔法障壁に僅かなヒビが入った。
その僅かなヒビを見て、カリーナの判断力がフル回転を始めた。
(今度の木べらは、先程のものとはレベルが違う! 魔法障壁にヒビが入るほどの攻撃力なら、あれをまともに喰らうと私の肉体なんて木っ端微塵になる!)
カリーナは攻撃魔法を諦めて、魔法障壁の重ねがけをして二重のバリアを展開すると、近くにいた魔道士のロビンに指示を出した。
「ロビン! 私が盾役をやるから、アンタは攻撃をやりな! 木べらの戦士は紙装甲だから、簡単な攻撃魔法を連発するだけで良いよ!」
ロビンはカリーナよりもさらに高く飛んで、来翔のいる地上へとトルネードを連続して放ち始めた。トルネードの連射は確実に来翔の肉体を切り刻んでいくが、その都度、ネーラがガマの油で傷を治していく。その間も何度も来翔とネーラが空へ並航で飛び、魔法障壁にヒビをいれるのだが、カリーナもすぐに新たな魔法障壁を展開してしまい、完全に千日手となっていた。
そんな中、数十人の雑魚を片付けたLEONとレンカが、来翔の元へと駆けつけた。
「主! 雑魚どもはほぼ片付けた! あとはカリーナとその魔道士だけだ!」
空を飛べるレンカは、カリーナよりも高い場所で浮いているロビンに狙いをつけて、空へと舞い上がった。
「あのアタッカーは私に任せて!」
レンカとロビンが相対した。まず、レンカが先制のセイレーンの歌を歌ったが、セイレーンの歌は男に効果の強いスキルで、女魔道士であるロビンには効果が薄かった。ロビンはレンカの歌を聴いても、詠唱をミスったくらいでダメージには至らなかった。
地上では、世界樹のブーメランをLEONがカリーナへぶん投げたのだが、同じ世界樹で作られているにも関わらず、LEONのブーメランではカリーナの魔法障壁に傷一つつけられなかった。
「アリャマ! 主の杓文字と同じ素材なのに!」
「LEONさんは一応、保護色で隠れてて下さい! カリーナは盾役ですがカリーナも攻撃してくるので、姿を消しておいた方がいい!」
LEONは保護色を展開して姿を消した。ロビンがレンカに気を取られてるので、来翔への攻撃も無くなった瞬間に、来翔とネーラは並航でカリーナへと再び突き進んだ。来翔も魔法障壁を何度も正田耕三の左右のスイングでヒビを入れているのだが、その都度、カリーナも必死で魔法障壁を展開する。カリーナもひたすらに、魔法障壁の詠唱を唱え続けている。
そこへ、ようやく勇者ワタルが駆けつけて、地上からワタルがバスターソードを投げつけた。
(バリリ〜ン!!!)
来翔が付けたヒビに見事にバスターソードが当たると、二重の魔法障壁の一枚が完全に砕け散った。その瞬間、ワタルのバスターソードとLEONのブーメランがカリーナを襲うが、カリーナは冷静にすぐに魔法障壁の重ねがけをしてしまう。
ただ、こうしていてもカリーナも攻撃が出来ないので、再びロビンに叫んだ。
「ロビン! 盾役交代よ! 五分だけ稼いで!」
すると、ロビンもカリーナの真似をして魔法防壁の重ねがけで二重のバリアを展開した。魔法防壁は、カリーナが使う魔法障壁の下位互換で物理攻撃しか耐えられないのだが、来翔もワタルもLEONも魔法攻撃が出来ないので、ロビンは燃費の良い防壁を選んだ。
そして、カリーナはさらに高く飛んで、長い詠唱を唱えだした。ワタルはそれをかつてオーストラリアで見たことがあるので、来翔とLEONに急いで告げた。
「来翔さん! LEONさん! カリーナの唱えてる詠唱はホーリーレインという回避不可の範囲魔法です! 五分後にここら一帯に光の雨が降ります! なので、五分以内にカリーナの詠唱を辞めさせましょう!」
ワタルはバスターソードを投げつけるが、カリーナの元までは届かない。今度は来翔がネーラと並航でカリーナの元へ突き進んで、再び魔法障壁を壊そうと試みるが、ロビンが来翔の前に立ち塞がって、カリーナの元までは行けなかった。
そんなロビンに向かって、LEONとワタルがバスターソードとブーメランを投げつけると、(パリン!)と言って二重のバリアのうちの一枚を完全破壊してしまった。
「良し! 防壁なら俺の魔法剣でも壊せる! LEONさん、もう一度!」
二人が再びバスターソードとブーメランを投げつける前に、ロビンもまた、燃費の悪い魔法障壁を展開してしまった。
「クソッ! アイツも使えるのか!」
ただし、魔法障壁を展開しているロビンの顔色は、だんだんと悪くなっていた。
「アリャマ! 敵のMP切れが近い! もう一度、攻撃する!」
ワタルとLEONは再びバスターソードとブーメランを投げつけるが、やはり魔法障壁には通用しなかったので、来翔が江藤智のアッパースイングでロビンの魔法障壁にヒビを入れた。
「今です! ワタルさん!」
ワタルは正確にヒビへとバスターソードを投げつけると、(バリリーン!!)という音とともに、ロビンの魔法障壁は砕け散った。そこへ来翔が山本浩二の痛烈なフルスイングで、ロビンの魔法防壁を完全に破壊すると、来翔の後方から音速の世界樹の矢が飛んできた。
後方支援をしていた詩音が放った、貫通の魔法弓の必殺の矢が、ロビンの心臓を的確に貫いていた。
そして、残るは魔法詠唱中のカリーナただ一人になったと思われた瞬間――心臓を貫かれたはずのロビンが、墜落寸前に来翔へ抱きついて、そのまま二人とも地面に叩きつけられてしまった。
さすがの来翔も、十メートルの高さから真っ逆さまに地面に叩きつけられると、そのまま失神して動かなくなってしまった。
「主ー!!」
「来翔さん!!」
ネーラが急いで来翔の元へ飛んできてガマの油を塗りまくるが、意識は戻らなかった。ワタルは何とかしてカリーナの詠唱を止めるためにひたすらバスターソードを投げつけているが、三十メートルの高さにいるカリーナの元へバスターソードが届く頃には失速し、魔法障壁を傷つけることなど出来なかった。
「LEONさん! 来翔さんを後方まで担いで逃げてくれ! このままじゃホーリーレインを全身で受けてしまう!」
LEONは来翔の元へ駆け寄ると、来翔を担ぎ上げて後方へと走り出した。だが、時既に遅し。
カリーナの口から「ホーリーレイン!」という言葉が聴こえた瞬間、辺り一帯が眩い光の雨が降り注いだ。ワタルもLEONも無数の穴が身体中に空いてしまい、全身から血が吹き出した。
◆
一番後方からその様子を眺めていたレフトとデメタが、カリーナを睨みつけて叫んでいる。
「ビャオ! ビャオ! ピー!」
「ゲゴン! ゲゴン! ゲコ!」
デメタの声に反応して、フェアリーのエリーが叫んだ。
「わかった! デメタ。レフト! やってみる!」
それを見ていたクノンが、必死でレフトとデメタとエリーを引き止めている。
「何言ってるの! 絶対にダメ! 今は逃げることを優先! 我々は負けたの! 負けを認めて逃げ切ることも大切なの!」
「ピヨピヨピヨ!」
「ゲコゲコゲコ!」
レフトとデメタが必死で頼んでいるので、エリーがそれに答える。
「クノンのバカー! 行こう! レフト! デメタ!」
三人は、倒れている来翔とLEONの元へ急いだ。
雨森にはフェアリーの姿も声も全く聞こえないので、この場で何が起きてるのかがわからないのだが、デメタが決死の覚悟を決めたことを理解できた。
「デメタ。任せやしたよ!」
巨大化したガマガエルのデメタと、黄色いセキセイインコのレフトに付き従うように、フェアリーのエリーが戦場へと突き進んでいる。
インコの声もカエルの声も全て聞こえていたクノンだけが、心配そうに彼らの無謀な行動を、唇を噛み締めて見つめていた。
(第127話へ続く)




