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【第124話 最終決戦!】

 ついに、スペースシャトルの打ち上げ準備が全て完了した。二十年前のスペースシャトルでは有り得なかった、AIによる完全オートパイロットでの無人による金星行きの打ち上げとなる。一度、打ち上げてしまえば、金星に到着するしないはどうでもいい。彼らを宇宙に打ち上げさえすれば、二度と地球には帰ってこられない。帰って来れるはずがないのだ。


 例えカリーナの魔法障壁で宇宙空間で生き残れたとしても、大気圏を突入する事は不可能だ。大気圏というのは綿密な計算の元で進入角度を調整しなければ、大気圏という気圧のバリアに弾かれて宇宙空間を永遠に彷徨うか、真正面に大気圏にぶち当たったとしても、いくら魔法障壁が鉄壁であってもクシャッと潰れてしまう。地球に極端に隕石が少ないのは、そんな理由からなのだ。仮に隕石のようにたまたま侵入角度がドンピシャで大気圏内に入れたとしても、流れ星のように摩擦熱で地上に降りる前に燃え尽きる。それが、この世界の宇宙の常識だった。異世界のように月からパラソルでフワリフワリと降りては来られないのだ。




 ◆




 よく晴れた某日。コレットからカリーナへ「準備OK」と連絡が入った。


 ゾーン団は意気揚々とロスアンゼルスに乗り込んできた。それぞれがシャトルの見学を終えてから、全員で金星までの四ヶ月分の水と食料を積み込んで、期待に胸を膨らませて打ち上げの時を待っていた。


 NASAもスペースZ社の社員たちも、あとは打ち上げるだけになると、さすがに誰もが緊張してしまっていた。あれほど何度もカリーナとは面談していたコレットでさえ、緊張した顔をのぞかせていた。


 そんなコレットに、カリーナが優しく声を掛けた。


「どうしたの? コレット。そんなに緊張しちゃって」


「そ、それは打ち上げですから、誰でも緊張すると思いますが……」


「そうなの? スペースZの皆さんなら慣れっこなのかと思ってたわ? そんなことよりもコレット、本当にたったの四ヶ月でVENUSまで到着できるの? 一応、多めに水や食料を積んだのだけれど、途中でお店なんてあるのかしら?」


 あまりにもバカバカしい質問に、コレットもほんの少しだけ緊張感が薄れてしまった。本当に、ほんの少しだけ。


「あら? コレット。今、アナタ。急に落ち着いたわね? もしかしたら、私の今の質問のせいかしら?」


 図星をつかれたコレットは、再び緊張してしまった。判断力スキルは、その些細なコレットの感情を見抜いてしまうのだ。


「コレット。何か変よ? 本当にアナタ、どうしたの? 明らかに動揺したわよね?」


 カリーナが質問すればするほど、コレットの動揺は大きくなった。コレットは、限界を迎えていた。


 そんなコレットを見て、ついに痺れを切らしたカリーナが、コレットの首を掴んで殺気のこもった目で睨みつけた。


「コレット! 何か隠してるわね!?」


 他のゾーン団の面子も、コレットとカリーナの異変に気づいて立ち上がり、コレットを囲んだ。セオがカリーナへ尋ねる。


「おい。カリーナ。この小娘がどうかしたか?」


 もはや首を掴まれたコレットは、呼吸もままならないまま号泣してしまっていた。


「セオ。この子、何か隠してる! 身体に直接聞いてやってもらえる?」


 すると、セオは舌なめずりをして、カリーナからコレットを託されると、いきなりズボンを脱ぎ出した。


「小娘! まだ喋るなよ! 俺が満足してから白状してくれよ!」


 下衆な笑みを浮かべて、セオはコレットの身体中を撫で回していた。


 その時、虚空から女性の声が、ゾーン団の全員に聴こえた。


「このクズども! さっさと宇宙に行けばいいものを! 本当にあと少しだったのに!」


 その瞬間、セオの頭には世界樹の矢が突き刺さっていて、セオは絶命していた。その刹那、カリーナにも世界樹の矢が飛んできたが、魔法障壁の前では刺さることもなく、ポトリと床に落ちてしまった。


「コレット! 早く逃げて! そして、皆にアポロン失敗と伝えて!」


 コレットは完全に怯えながらも、必死にシャトル打ち上げの前室からヨタヨタと逃げ出した。


 虚空に向かってカリーナが叫んだ。


「こんなふざけた事をして、生きて帰れると思わない事ね! 透明化なんて生意気な事をしてくれてるけど、我々が透明化に対して何も出来ないとでも思ってるの? ロビン! 広範囲魔法よ!」


 すぐにロビンが部屋全体を風魔法で竜巻を起こし、部屋ごと吹き飛ばしてしまった。


 これには、かくれんぼで姿を消していた詩音も巻き込まれ、風で身体中に切り傷をおってしまい、ゾーン団の前に姿を表した。


 ようやく姿を見せた詩音の持っている魔法弓を見て、カリーナが呟いた。


「まあ、嬉しい。A-Classハンターの詩音じゃないの! 皆! この娘は生け捕りよ! 絶対に殺さないで! この子は私が飼うからね!」


 詩音は魔法弓で世界樹の矢を構えると、連続して二射をカリーナへ放った。だが、やはり魔法障壁の前では何度やっても無意味だった。


「ふん! やっぱり硬いわね! 私じゃダメか! ダーリン! ここは逃げましょう! 私らじゃ戦いにもならないわ!」


 詩音が虚空に叫ぶと、虚空から熊よけスプレーが噴霧された。さすがのゾーン団もそれはたまらないと、一斉に散らばって逃げ出した。その隙に、詩音と田吾作は完全に気配を遮断して、再びかくれんぼで姿を消した。


 完全に頭に来ていたロビンが、先程よりもさらに広範囲の魔法を放ってきた。


「オールトルネード!」


 打ち上げ広場全体が竜巻に巻き込まれた。打ち上げ前のスペースシャトルもそれに巻き込まれ倒れてしまい、燃料が引火して大爆発を引き起こした。


 そんな竜巻と大爆発の中でも、カリーナだけは逃げることもせずに悠々とゆっくり歩いていた。そして、そんなカリーナの前には勇者ワタルが立ち塞がった。が、カリーナの前にはカリーナの相棒、激痛剣を持つバーンが立ち塞がった。


「勇者! 会いたかったぜ! お前を殺して、その切断剣を俺が貰う! お前なんかじゃ魔法剣は使えねぇからな! カリーナ! 勇者は俺にくれよ! カリーナはさっきの詩音が欲しいんだろ? 詩音は譲ってやるから、勇者は俺によこせ!」


「しょうがないねぇ。まあ、私もこんな不完全な勇者には興味が無いから良いよ。好きにしな。私は詩音を探してみるよ!」


 バーンとカリーナの会話をぶった斬るかのように、ワタルは二刀のバスターソードを持って二人に斬りかかったが、バーンには激痛剣で受け流され、カリーナに関しては避けることもなく魔法障壁に阻まれた。どうやら、切断剣でもカリーナの魔法障壁は切れないようだ。


 そんなカリーナは涼しい顔をして、ワタルの前からテクテクと歩いて、詩音を探すために行ってしまった。




 ◆




 シャトルの爆発に巻き込まれないように四方に散ったゾーン団には、LEONとセイレーンのレンカが立ち塞がった。


「アリャマ! 雑魚でも十人のゾーンは大変だ!」


「私が七。LEONは三でお願い」


「アリャマ! 今の私はあの頃よりも強い! 私も五人を引き受けよう」


 そう言ってLEONは、大型の世界樹のブーメランをぶん投げた。賞金稼ぎコンビは、ビリーの敵討ちと、目の前の百億の首の大量発生に奮い立っていた。


「LEON! こうなったら早い者勝ちだよ! これが最後の百億首だ!」


「アリャマ! 早い者勝ちで良い! 私は賞金でダイワの釣具をコンプリートする!」


 LEONは三つ目の大型のブーメランをぶん投げた。LEONの周りには常にブーメランがクルクルと旋回している状況を作り出していて、LEONに近づこうとするだけで世界樹のブーメランが襲いかかってくるという、ブーメランによる絶対領域を展開していた。途中でブーメランが敵にヒットして落下しても、ご自慢のカメレオンの舌ですぐに回収し、舌でそのままブーメランを放てるので、LEONの周りには常に三つのブーメランが飛び続けている。そんな異世界の頃とは全く違う戦い方に、レンカも焦りだしてしまった。


「世界樹のブーメランなんてとんでもない武器を、何処で見つけたのよ!」


「我が主が作ってくれたのだ!」


 レンカはチラッと来翔の事を見た。


「そうなのね……あの人族のオッサンが……ビリーが認めた最強の男……LEON! 見てな! 私も来翔のお陰で、数年ぶりにレベルアップしたのよ!」


 そう言ってセイレーンのレンカは、自分に向かってきた二人のゾーン団にセイレーンの歌を聴かせて混乱させていた。セイレーンの歌を聴いたゾーン団の戦士タイプの男と魔道士タイプの男は、狂ったように同士討ちを始めていた。その隙を、レンカの鳥脚の鋭い爪が二人のゾーン団をズタボロに切り裂いた。




 ◆




 一方、ガマの油売りの雨森は、刀は得意でもゾーン団相手では勝てそうにもないので逃げ腰だったが、頭の上のデメタが「ゲコゲコ!」と言って逃げることを許さない。


「ゲコ! ゲコ!」


「あっしらはヒーラーなんで戦っちゃダメなんですって! デメタ! あっしらがヒーラーだとバレた瞬間に総攻撃されやす!」


「ゲコゲコゲコ!」


 血の気が多いデメタは突っ込めとしか言わないので、雨森も困り果てていた。


 そんな雨森の前に、ゾーン団のヒーラーであるエルが、か弱い幼女の姿で立ち塞がった。


「カエルのオジサン! オジサンが勇者チームのヒーラーなの?」


「お嬢ちゃん! こんな所で何をしてるんでい? 早く逃げな!」


「うん! カエルのオジサンが死んだ後で逃げさせてもらうね!」


 そう言って幼女は、雨森の日本刀を握っていた右腕を狙って投げナイフを投げてきた。右手にナイフがクリーンヒットして刀を落としてしまった雨森は危機一髪。


「がまの術!」


 一枚の御札を左手でデメタにかざすと、デメタは軽自動車並に巨大化し、前足でエルのことを引っぱたいて吹き飛ばした!


(バチーーン!!)


 数メートル吹き飛ばされた幼女姿のエルは、自ら回復魔法を唱えて自分の身体を治してしまった。デメタも自分の油で、雨森のダメージを回復させた。


「ゲコ!」


「あっしも戦えと?」


「ゲコ! ゲコ!」


「あっしはあんな幼女は斬れませんぜ? デメタ!」


 デメタは呆れたように呟いた。


「ゲコ〜」


「わかりやしたよ! やりゃあ良いんでしょ!」


 そう言って雨森は刀でエルに斬りかかったが、エルはナイフを左右に構えて刀を受け止めてから、最も簡単な初歩の攻撃魔法であるファイアを雨森にヒットさせた。雨森は上半身が火傷状態になったが、すぐにデメタが油で治してしまう。


 ヒーラー対ヒーラーではお互いの決定打に欠けていて千日手になりそうな雰囲気の中、デメタが「ゲコ!」と一声鳴くと、瞬時にエルをパクッと食べてしまったのだ。


「あぁ! デメタ! 幼い女の子を食っちまいやしたか! デメタの倫理はいったいどうなってるんで?」


「ゲコゲコゲコ!」


「ん? 今の幼女はオッサンの味がするって? まあ、それなら良ござんす! さあ、デメタ! あっしらはヒーラーとして一番後方で待機しやしょう! 今の幼女ヒーラーみたいに先に死ぬと、チームに迷惑をかけちまう!」


「ゲコ! ゲコ!」


 大きくなったデメタの上に雨森が乗って、戦線を離脱していった。来翔からもヒーラーは後方待機と命じられていたからだ。


 エルを喰って満腹になったデメタも、素直に後方へと引き下がっていった。




 ◆




 一方、かくれんぼで既に米軍のいる後方へと下がってきていた詩音と田吾作は、遠距離からゾーン団の駆除を行っていた。詩音は貫通の魔法弓で世界樹の矢を放っていた。田吾作は世界樹のクロスボウで的確にゾーン団にヒットさせていく。


 そんな矢を受けていたゾーン団達は、いつの間にか戦場から唯一のヒーラーであるエルが消えていることに気づいた。


「おい! エルはどこだ!」


「世界樹の矢は厄介だぞ! ヒーラーは? ヒーラーは何処へ行った!?」


 ゾーン団の中でパニックになりかけていた。そんな男たちに、カリーナが近づいてきて一喝した。


「狼狽えるんじゃないよ! 矢が当たったくらいで情けない! 今、あの詩音を私が大人しくしてやるから、アンタらはあのクソジジイを殺しな!」


 返事が無いので、カリーナが後ろにいるはずの戦士タイプの男と魔道士タイプの男を確認しようと振り返ると、そこには既に倒された二人の亡骸と、木べらと44オートマグを構えた来翔が銃口を向けて立っていた。


「ほう。アンタが木べらの戦士かい。中々、いい男じゃないか!」


「そうかな? 良い男なんて初めて言われたよ。アナタがカリーナさんで良いのかな?」


「そうよ。ゾーン団最強の魔道士。カリーナよ。アナタは地球人最強なんでしょ?」


「ハハハ! 僕が最強? それはないよ。僕はごく普通の広島生まれのオッサンさ」


「ウフフ、その余裕な態度が何時まで取っていられるかしらね!」


 そう言ってカリーナは、一番得意な即死魔法「インターナルボム」の詠唱を唱えた。インターナルボムとは、身体の内部が爆発するという、人族が食らうと即死レベルのカリーナが最も得意な魔法だ。遠距離では使用不可の魔法で、カリーナの視界に目標となるターゲットが常に見えていないと成立しない魔法なのだが、目の前に立つ来翔の事がハッキリと見えているので、カリーナは迷わずインターナルボムの詠唱を始めた。


 インターナルボムの魔法詠唱は六秒。勝負は一瞬で決まるかと思いきや、カリーナが詠唱を唱えた刹那、来翔は木べらを広島カープの衣笠祥雄のような豪快なフルスイングでカリーナの顔面を振り抜いた。カリーナの魔法障壁の前では何のダメージも与えられなかったが、その衝撃音の凄さに、カリーナも魔法詠唱を失敗してしまったのだった。


(ビダーーン!!!!)


「な、な、何を! こ、これがただの木べらの衝撃なの!?」


 魔法詠唱とは、途中で解除するとクールタイムが発生してしまう。ちなみに、インターナルボムのクールタイムは五十秒。来翔はこの五十秒で、広島カープの正田耕三のような左右のスイングで、カリーナの顔面を往復でフルスイングした。


(ビダーン!!!)

(ビダーン!!!)

(ビダーン!!!)

(ビダーン!!!)

(ビダーン!!!)

(ビダーン!!!)


 それでもやはり、魔法障壁の前では全ての攻撃は無意味だった。


 そんな来翔は、胸ポケットのネーラに指示を出した。


「敵に軽量化!」


「OK!」


 ネーラはカリーナに軽量化を付与した。ネーラの軽量化は、レベルアップの胡麻のお陰で、今は『軽量化70%』まで進化していたのだ。


 体重が七十パーセントも軽くなったカリーナに対して、来翔は広島カープの山本浩二のような芸術的なフルスイングをすると、軽くなったカリーナは遥か彼方へ吹き飛ばされてしまった。


「キャア!!」


 これには、さすがのカリーナも動揺して思わず叫んでいた。約百二十メートルも吹き飛ばされたカリーナは、来翔の間合いに入る事を辞めて、飛行魔法で宙に浮いて来翔の上空に戻ってきた。


「さすがだねぇ〜。木べらの戦士! この私を吹き飛ばしたのは、アンタが初めてだねぇ。あんな無様な悲鳴を聞かれちゃ、アンタを殺すしかないよ?」


「それじゃ、殺されないように頑張るよ! ネーラ、僕に軽量化! そして、並航!」


「OK!」


 ネーラの軽量化と並航のスキルで、来翔はカリーナと同じ高さまで舞い上がり、再び山本浩二のフルスイングをカリーナに叩き込んだ。完全に宙に浮いていたカリーナは、先程よりも倍の距離まで吹き飛んで行ったが、地面に落ちることなく空中に浮いたまま、来翔の間合いまで戻ってきた。来翔は既に地面に降りていて、カリーナは地面の来翔を見てニヤリと笑った。


「そうかい。木べらの戦士はMPの問題で長くは飛べないんだね? フフフ。木べらの戦士まで飛べるとは知らなかったから驚いたけど、そっちはMPに限界があるんだね! それなら、MPが無尽蔵な私が勝つよ! 喰らえ! トルネード!」


 カリーナは、広範囲魔法のオールトルネードではなく、単体指定の簡素なトルネードという風魔法を唱えた。これは一番簡素な魔法で、詠唱時間が四秒と少ないからだ。ただし、魔法防壁や魔法障壁を持たない来翔には、確実にダメージを与えることが出来た。来翔の身体には、トルネードのかまいたちで無数の切り傷が出来ていた。苦し紛れに来翔がオートマグを放つが、魔法障壁の前では何のダメージにもならなかった。もちろん、何度も詩音と田吾作が援護射撃を放っていたが、魔法障壁に阻まれて矢は地面に落ちるだけだった。


「ダメだ! 本当に硬いや! 仕方ない。これを使うか……」


 来翔は今まで使っていた樫の木の杓文字を腰に戻して、背中から業務用杓文字八十センチを引き抜いた。


「これは世界樹の杓文字。これが効かなかったら、僕にはカリーナは倒せない! ネーラ! 軽量化と並航!」


「OK! あんなやつ! 吹っ飛ばしちゃえ! 軽〜くな〜れ!!!」




 こうして、地球最強の男とゾーン最強の魔道士の、最期の戦いが始まっていた。




 (第125話へ続く)



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