【第123話 決戦前】
デビットとコレットは見事、NASAからスペースシャトル・エンデバーをフルセットで譲り受けることが出来た。
なんと、このエンデバーは外部燃料タンクや固体燃料補助ロケットと結合し、全長約六十一メートルの「打ち上げ準備完了」の状態で展示されるという、世界初の試みが行われていたのだった。事情を知ったNASAも全面協力体制で、ロスアンゼルスの展示場を無償でスペースZに貸し与え、ゾーン団を宇宙へ上げる準備に取り掛かっていた。
そんな中、コレットがZONへ「打ち上げ準備をロスで始まりました」と、シャトルの画像とともにメールを送っていた。
ロスの現場では、デビットとトンプソンとコレットがシャトルを見上げている。コレットは前々から不思議に思っていたゾーンの疑問を、トンプソンへぶつけてきた。
「トンプソンさん。ゾーン団はどうして、これから金星へ向かうと言うのに、金星や宇宙について調べないのですか? ネットで検索すれば、私が嘘を言っていたことなんてすぐに気づくと思うのですが?」
それを聞いたトンプソンは、思わず笑ってしまった。
「クックック。コレットよ。お前の学校には、不良という人種はいなかったか?」
「不良ならどの学校にもいますよね? うちにもいましたよ?」
「なら、そいつらが教科書を真剣に眺めてる光景を見たことがあるか?」
「あっ! そう言われるとないです!」
「ゾーンの戦士は、まず字を読める者が少ないのだ。これは日本語や英語だけではなく、異世界にいた頃から文字が読めない者が多いのだ。さすがに魔道士なら字は読めるが、ゾーンの民は勉強する事が苦手というか、罪なこととされていてな……」
「罪? ですか? 何故?」
「例えば、今回の金星の件で言うならば、前もって調べるくらいなら直接乗り込んだ方が早いと考えるのがゾーンの民なのだ。だから、コレットの言うことを信じるしかない。コレットはスペースZの社員だ。会社に不利益なことを言うはずがないと思い込んでいるのだ。そして、カリーナには判断力というスキルがあるにも関わらず、今回のことを見破れないのも、勤勉ではないからこそ見破れなかったのだ。カリーナには異世界の宇宙の常識しか知らん。異世界の宇宙では、人は生きていけるのだ。コチラの宇宙空間とは全く別のものなのだ。だから、異世界の常識での判断しか出来ん。逆に、判断力スキルがコレットの言うことに反応しなかったからこそ、コレットの言うことを百パーセント信じきってしまったのだ」
自分で話してるうちに、カリーナやゾーン団の面々の愚かさに、トンプソンも笑いを堪えながら解説をしていた。コレットはようやく、自分がSFチックな嘘バレバレのことを言っても、カリーナが全力で信じてしまったカラクリを理解できた。
◆
その頃、シアトルの拠点の地下では、ワタルが嫌がる来翔に頼み込んでいた。
「お願いします! 来翔さんしか頼める人がいないんです!」
「そんな事を言われても、僕はこんな所でワタルさんに殺されたくはないですよ!」
「大丈夫! デメタの油もありますし、最悪、リスタオールさんがいるじゃないですか! リスタオールさんの回復魔法が必要になったら、俺が代金を支払いますから!」
そのセリフを聞いたリスタオールが、来翔に冷たく語りかけた。
「来翔さん! いい加減にしなさい! 早く勇者様の剣の相手をして差し上げなさいな! そして、どんどん怪我をして、私に治療させて欲しいのですわ! 勇者様! どんどん来翔さんをお切りくださいまし!」
もはやリスタオールの瞳には、$マークが光り輝いていた。
「仕方ないですね……。ちゃんと手加減してくださいよ。僕はまだレベル1なんですからね!」
ワタルは苦笑して答える。
「ハハ、俺なんてレベル70なのに、ようやく魔法剣の扱い方をマスターしたなんて、笑えないですよね……。さあ、来翔さん。手加減なしでお願いします!」
ワタルがバスターソードを背中から抜こうとした瞬間、来翔は広島カープの江藤智のアッパースイングで、ワタルのがら空きの腹に業務用杓文字六十センチをフルスイングして喰らわせた。
(ビダーーン!!)
面の衝撃は激痛となり、ワタルの肌を痺れさせた。
「痛っ! 手加減なしでとは言ったけど……」
ワタルはバスターソードを抜くこともできずに、続けざまに広島カープの正田耕三の左右往復のスイングを、両方の脇腹にフルスイングされていく。
(ビダーーン!!)
(ビダーーン!!)
(ビダーーン!!)
(ビダーーン!!)
その時、ワタルのピンチに、頭にしがみついていたチックルが『加速』スキルをワタル本人に付与すると、ワタルは一時的に加速して来翔から間合いを空けた。だが、その刹那、今度は来翔の胸ポケットに入っていたネーラが来翔に『軽量化』スキルを付与すると、来翔も軽さを利用して一気にワタルの間合いに入り、広島カープの金本知憲の痛烈なスイングをワタルの顎に命中させた。ワタルは失神して動かなくなった。
アッサリと来翔に負けたワタルを心配して、チックルが泣きながらリスタオールに治療を頼んでいる。
「来翔はズルいよ〜! 剣を抜く前に仕掛けてきた〜! わ〜ん!」
もはやチックルは号泣してしまっていた。だが、勝負を見ていたデメタとクノンは深いため息をついて呆れていた。
「ゲコゲコゲコ……」
「本当にそうね……デメタ……」
治療が終わり、リスタオールがホクホク顔でワタルから離れると、すぐにワタルも目が覚めて、立ち上がった。今度は魔法剣を最初から抜いた状態で、クノンのそばにいたフランにシンクロを頼んでいる。
「フラン。頼む!」
「ちちんぷいぷい! 仲良くな〜れ!」
ワタルとチックルがシンクロしたワタルは、魔法剣を二刀流に構えた。
すると、ワタルはすぐさま右手に持った魔法剣をまっすぐ来翔に投げつけた。魔法剣は来翔に向かって刃を向けて飛んできたので、来翔が左に身をかわすと、そこには加速されたワタルが既に飛び込んできていて、来翔の首をバスターソードで切り飛ばそうと振るった。だが、来翔は広島カープの菊池涼介が走塁時にグラブタッチを簡単にかわすように、ワタルの剣筋を完全に見切って紙一重でかわしざまに、ワタルのバスターソードを持っていた右腕へ、広島カープの野間峻祥のようなトリッキーなスイングでバスターソードを叩き落としてしまった。決断スキルは無手になると真っ二つに分裂出来ないので、もうゲームオーバーだった。
来翔は軽めに、ワタルのおデコをピタンと叩いて終わった。
「ワタルさん、剣を投擲するなんて驚きましたよ!」
ワタルは苦笑して答える。
「かわされちゃいましたけどね……結構、自信あったのになぁ〜」
「でも、これを極めると接近戦しか出来なかったワタルさんの弱点が無くなりますね!」
「ハハハ、こうもアッサリかわされると弱点は弱点のままって気もしますよ……」
その時、デメタがワタルの肩へ飛び乗って、何かを訴えかけていた。
「ゲゲコ! ゲコ! ゲーコゲコココ!」
チックルが通訳をしてくれる。
「あのね。相手が来翔じゃなきゃ、今ので決まってたってさ。だから、クヨクヨすんな! だって!」
「ワタルさん。僕も同意見です! これを極めると、ワタルさんにはもう援護射撃要員は必要なくなります!」
かつて、C-Classの来翔は、元々ワタルの援護射撃要員でしか無かった。そんな昔のことを、来翔とワタルが懐かしんでいた。
「ハハハ、そういえば来翔さんと初めての仕事はそんな感じでしたよね? 来翔さんがオートマグで魔道士のバリアを破壊してくれて、俺がトドメを刺した。今ではすっかり立場が逆転してしまいましたね」
「そうですか? 僕は今も昔も変わったつもりは無いんですけどね。むしろワタルさんだけが成長してるので、羨ましいですよ!」
来翔の無自覚な強者としての発言で、ワタルの精神面はもはやズタボロだったが、デメタとクノンがそれを暖かく見守っていた。チックルだけが悔しくてボロボロ泣いていた。
◆
その頃、もはや姿を隠す意味も無くなった田吾作は、モナの部屋でモナとカスミと三人で、五勝手屋羊羹を食べながら世間話に花を咲かせていた。
「やんや、アメリカまで来て、なして、五勝手屋羊羹なのよ! はんかくせぇんでねぇの!」
「ありゃま! アメリカの菓子なんて甘すぎて食えたもんでないんだから、我慢して喰いな! このクソジジイ!」
「アハハ、お二人の喧嘩はコントみたいで面白いですよ!」
「ん? オラたち喧嘩なんてしてねぇあよ! はんかくせぇな!」
「ありゃま! やっぱり道南の言葉は、他県の人からみると喧嘩してるように見えんだねぇ〜」
「えっ!? 今のが日常会話なんですか?」
「当たり前でねぇの! 江差に来れば、もっと何言ってんのかわからねぇじい様もガッパリいんだど! オラでも床屋のじい様の言ってることが半分もわからねぇ」
「ありゃま! 中村理容店のじい様どろ? ありゃあ、町民みんなの謎だもんよ。じい様は何処の方言喋ってだべな?」
最終決戦の緊張感もなく、モナは穏やかな妊婦生活を満喫しつつあった。
ロスアンゼルスのスペースシャトルの準備は、着々と進んでいた。
(第124話へ続く)




