【第122話 切り札】
来翔たちの拠点の地下では、ひたすら剣の素振りを行っていたワタルが、カエルのデメタとフェアリーの女王であるクノンから激しい檄を飛ばされていた。
「ゲコ! ゲコ! ゲコゲコココ!」
「そうそう! デメタの言う通り!」
そんな二人の会話に、首をかしげているのがチックルだった。
「ねぇねぇ。ワタルは凄く強いのに、まだこれでも足りないの?」
「ゲコ! ゲコ! ゲゲゲ!」
「そうそう! デメタの言う通り!」
デメタとクノンの言ってることは、ワタルには意味不明だった。それでも、ワタル自身が来翔やトンプソンを見て、まだレベルが足りない事を理解していた。だから、こうして飽きもせず、素振りを欠かさずに行っていた。
「そろそろデメタもクノンも、俺に何が足りないのかを教えてくれよ。決戦の日は近いんだよ」
デメタが、ワタルの顔面までジャンプしてパチーンと横っ面を引っぱたいた。
「ゲコ! ゲコ! ゲコ! ゲコ!」
それをチックルが通訳した。
「その甘ったれた根性だから、ワタルだけ役たたずなんだってさ!」
ワタルはただ苦笑いをして、再び素振りを再開した。
そんな進歩のないワタルを見かねて、クノンがデメタを説得し始めた。
「このままじゃ、勇者はいつまで経っても役たたずだよ? 人の命は短いんだよ? そろそろ例のこと教えちゃおうよ! 私も勇者の本気を見てみたいもの!」
「ゲーコ? ゲコ?」
その会話を聞いて、チックルが興味津々で問い詰めた。
「なになに!? ワタルの本気って何? そこまで言ったら気になるよ〜! 気になりすぎて死んじゃうんだよ〜!」
「ほら? チックルもこう言ってるしさ。デメタも本気の勇者の力を見たいよね?」
「ゲコ!」
「やったー! デメタのOKが出たよ! チックル! それじゃ、チックル。早速、上からフランを呼んできてよ! 勇者に魔法剣の使い方を教えちゃうよ〜!」
チックルはすぐに二階にいるフェアリー達の部屋から、フランを呼んできた。
「ゲコ! ゲコ! ゲコ!」
チックルが通訳をする。
「ワタル! 素振りをやめろだって!」
ワタルは剣を下ろして、汗を拭いた。
「素振りの邪魔をするなよ、チックル。後でスーパーに連れてくから、それまで我慢しててよ」
「違ーう! デートしたい訳じゃなくて、デメタとクノンが魔法剣の使い方を教えてくれるんだってさ!」
「魔法剣の使い方? 地球人には魔素が無いから使えないんだろ? 俺には魔素なんて無いよ?」
異世界の魔法道具とは、体内に魔素が無いものには本来の力は引き出せないとされていて、以前にもデメタからは魔法剣の扱い方ではなく、剣の基本を習っていただけだった。
「ゲコ! ゲコ! ゲコ!」
「え? 私が? どういう事?」
「ゲコ! ゲコ!」
「そんなことが? 嘘……」
「ゲコ! ゲコ! ゲコ!」
「もし、それが上手く行けば……」
「ゲコ!」
チックルが訳してくれないと、ワタルには両者のやり取りが意味不明過ぎて困り果てていた。
そんなワタルへ、クノンが丁寧に教え始めた。
「ワタル。このフランのスキルは『共鳴20%』なの。ワタルにはチックルがいるでしょ? しかも、この魔法剣とチックルの相性は抜群なの。そこまでは説明しなくてもわかってるのよね?」
「うん……。この剣の由来は知ってるつもりだ……」
「そうでしょ? この剣が私に語りかけてきたもの。ワタルには全てを打ち明けたと。本来なら魔素さえあれば、ここまで心が通じあってるのなら、本当の切断剣の力をフルで発揮できていたはずなのに、今のワタルでは所詮『切れ味up』の付与しか扱えてないのよ。ワタルには魔素が無いからね。でも、ワタルには幸いにもチックルがいるの。これは紛れもなく運命なのよ。だったら、チックルの魔素を借りれば良いの。今からフランがワタルとチックルを共鳴させてあげる。フランの共鳴は二十パーセント。ほんの少しだけでもチックルの魔素を借りる事で、ワタルにも魔法剣の本来の力である切断剣としての能力が使えるはずよ。フラン! さあ! ワタルとチックルを共鳴させて!」
フランはにっこり笑って、ワタルとチックルをシンクロさせた。
すると、ワタルが持っている魔法剣からの魂の声が、以前よりハッキリと聞こえてきた。
『ようやくお話が出来るのね。勇者ワタル!』
『あぁ。前よりもハッキリと君の声が聴こえるよ。そして、この剣の能力に関する知識も、全て頭の中に入ってきたよ!』
『そう。私のスキルは決断。どんなものでも真っ二つ! だから、もう今のワタルなら出来るよね?』
『うん。やってみたい』
ワタルは、魔法剣を両手で構えた。その刹那、魔法剣は二つになって、二本の魔法剣になっていた。
『カッコイイね、勇者ワタル! バスターソードの二刀流なんて、どんな敵も真っ二つ!』
ワタルは、二本のバスターソードを軽々と振ってみせた。
『重さを感じない。これなら二刀流でも大丈夫だ!』
ワタルは試しに、左手の方のバスターソードを放り投げた。残った右手のバスターソードをもう一度、両手で構えると、再び二本に増えた。
『そうだよ。決断すると何度でも真っ二つ! 使い方はわかったよね?』
『あぁ。全部わかるよ。これさえあれば、俺の弱点は無くなった!』
『それから、もうひとつ。今のチックルには新たなスキルの加速があるよね? それも混ぜこぜにすると面白いよ!』
すると、胸ポケットにいた今代のチックルが、魔法剣に加速を付与した。それをワタルが振るうと、二本のバスターソードは目にも止まらぬ速さで振るうことができた。
『これが昔のチックルと今のチックルの融合なのか……』
『そうだよ! これが本来の私の力。そして、今の私の力……』
ワタルが魔法剣の扱い方を完全マスターしたのを見て、クノンがフランにシンクロを解くように合図すると、魔法剣からの声は聴こえなくなっていた。
「す、すごいよ! クノン! デメタ! フラン!」
「ゲコ! ゲコ! ゲコ!」
「わかってるってば、デメタ! 焦っちゃダメよ!」
クノンが、何やら懸命に訴えかけているデメタをなだめていた。
「あのね、ワタル。デメタがいい事を教えたんだから、ミルワームを買って来いって怒ってるの。早くミルワームを買ってきてあげてよ! 私にはべちゃべちゃしてないヨーグルト! フランにはキスチョコ!」
ワタルは魔法剣を背中に背負ってから、和やかに笑ってチックルと共に買い出しに出ていった。
「チックルは何が食べたいんだい?」
「上ノ国のパン屋さんのパン!」
「そうだね。早く全てを終わらせてお家に帰ろう」
◆
そんなバトル脳な勇者とは全く別の戦いが、一階では始まっていた。
実質の社長であるトンプソンと現社長のデビットの前に、コレットが報告している。
「ついに、ZONの社員三十名から正式に予約が入りました! しかも、全額前払いでです! 既に我が社の銀行に入金済みです。今はロケットの仕上がり次第で、こちらから予定日を先方に伝えるという段階です!」
三十名という人数を聞いて、トンプソンとデビットが急に焦りだしていた。
「トンプソンさん! これは想定外ですよ! スペースZのロケットにはそんな人数は乗れませんよ!」
「うむ、カリーナの奴、本格的に金星を侵略するつもりなのだろうな。奴なりの本気が垣間見えるな……。こうなったら、三便に分けるという事がスペースZに可能かどうかを問い合わせてみないとならないな」
そのトンプソンの言葉に、コレットが申し訳なさそうに伝える。
「すいません、トンプソンさん。実は既にスペースZからは、三機同時は不可能だと言われてます。二便でも不可能だそうで、一度の打ち上げでは十名以下じゃないと、打ち上げは出来ないそうです……」
それを聞いたトンプソンとデビットが、困り顔で天を仰いだ。
そんな二人を見て、来翔だけは真面目な顔をしてコレットに指示を出した。
「大丈夫。三十人同時に宇宙に上げられるから、ZONには準備は順調だとだけ伝えておいてよ。あまり待たせると蛮族の奴らだから、すぐにイライラして変な行動を取りかねないからさ。モンスタークレーマーとか、奴らならなりかねないでしょ?」
ゾーン団のモンスタークレーマーっぷりを想像して、コレットも震え上がってしまった。
「それはそれで、かなり怖いんですが……三十名同時がダメになった時には、私、殺されませんか?」
「大丈夫! 必ず三十名を打ち上げられるからさ! デビットさん! 中古でスペースシャトルをNASAから買いましょう! 難色を示すようなら勇者の権力パワーを使ってください! スペースシャトルなら三十名くらいは楽勝で乗れますからね!」
「あぁ! その手があった! さすが来翔さん! 伊達に年をとってませんね! そうか! スペースシャトルって手があったか!」
スペースシャトルなんて言葉すら知らないトンプソンと、まだ二十代のコレットが困惑していたので、デビットがシャトルについて解説をした。すると、シャトルの説明を聞いて、トンプソンも納得せざるを得なかった。
「そうか。そんな便利な宇宙船が、昔のアメリカにはあったのだな。そんな便利な物を、二十年前に引退させていたとは……」
まだ二十代のコレットも、初めて聞いたスペースシャトルの有用性に興奮気味に語っていた。
「それをNASAから買い付ける仕事には、私にも絡ませて下さい! 貨物室に座席を八十席も並べられるなんて凄いです! なぜ、こんな素晴らしい宇宙船を人類は放棄したのでしょう! なんだか、シャトルってサンダーバード2号みたいでカッコイイですね!」
トンプソンとコレットは、過去のスペースシャトルの映像をYouTubeでしばらくの間、眺めていた。
デビットは早速、NASAへ問い合わせを始めていた。
◆
魔法剣の使い方をマスターした勇者ワタルと、三十名のゾーン団を輸送できるスペースシャトルは、人類最後の希望となっていた。
(第123話へ続く)
(あとがき)
第122話をお読みいただきありがとうございました!
作中で来翔が「スペースシャトルをNASAから買おう!」と言い出して、
トンプソンや20代のコレットがポカンとするシーンがありましたが……
実はこれ、
**今の20代以下の若い読者さんも同じリアクション**だったんじゃないでしょうか?(笑)
今の宇宙船って、SpaceXさんみたいに「細長いロケットのてっぺんに、数人が乗る小さなカプセルが乗っている」のが普通ですよね。
車でいうと軽自動車とかスポーツカーみたいなサイズ感です。
ですが!
昔アメリカが飛ばしていた「スペースシャトル」は、形からして全く違います。
一言でいうと、**「ジャンボ旅客機にロケットのブースターをくっつけて、そのまま宇宙まで力技でカッ飛んでいく」**という、
今考えると浪漫の塊みたいな乗り物でした。
「いや、飛行機みたいな宇宙船って言われてもピンとこないよ!」という若い方に一番わかりやすい例えが、往年の名作特撮『サンダーバード』に登場する**【サンダーバード2号】**です!
あのでっかい緑色のボディの真ん中には、おもちゃや戦車をゴソッと入れられる巨大な「コンテナ」がありますよね。
スペースシャトルも全く同じ構造なんです。
シャトルの背中には「ペイロードベイ(貨物室)」という、
**家が丸ごと一軒入るレベルのバカデカい空洞**が開きます。
本来はここに、宇宙ステーションの巨大な部品や人工衛星を詰め込んで宇宙に運んでいました。
つまり、
* 今のロケット = **定員4〜7人のコンパクトカー**
* スペースシャトル = **巨大なコンテナを背負った10トントラック**
これくらいスケールが違います。
だからこそ、来翔は「あのコンテナ部分にイスを30席……いや、すし詰めにすれば80席くらい並べられるべさ!そしたらゾーン団全員をいっぺんに金星に送れる!」と思いついたわけですね。さすが地球最強の男、発想の規模が違います(笑)。
ちなみにこのスペースシャトル、2011年に全機引退して、今はアメリカの博物館にピカピカの状態で眠っています。




